痛みを識るもの   作:デスイーター

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現在(いま)を識るもの

 

「まず、どの部隊の試合を見るかも結構重要だと思うんですよね」

 

 那須隊、作戦室。

 

 そこで小夜子は、那須隊の皆にそう告げた。

 

 議題は、最終試験について。

 

 果たして、どの部隊の試合の観戦券を使用するか。

 

 その、相談だった。

 

 最終試験は王子隊から始まり、ポイントが低い順に試合を行っていく。

 

 そして、どの部隊も二試合まで他のチームの試験を見る権利が与えられている。

 

 今は、それをどこで使うかを話し合っているワケだ。

 

「まず、影浦隊は確定で良いよね。カゲさんと迅さんの戦いは、きっと見ていた方が良いと思うし」

「私も同感ね。影浦隊なら、七海と同じく回避に適した副作用(サイドエフェクト)を持つ影浦先輩の戦いが見れるし、チーム自体の戦術も参考になるもの」

「メテオラも、狙撃も使いますからね。私も異論ありません」

「同じく」

 

 七海の提案を受け、満場一致で影浦隊の試合でチケットの一つを使う事は確定した。

 

 彼等の言う通り、影浦隊が迅とどう戦うかは非常に参考になるだろう。

 

 何せ、七海と同じく回避能力に優れた影浦がいるのだ。

 

 武器も同じスコーピオンという事もあり、その戦いから得られるものは多いだろう。

 

 加えて言えば、炸裂弾(メテオラ)での攪乱やここぞという時の狙撃等、那須隊と似通った戦術を使う部隊でもある。

 

 部隊全体として見ても、影浦隊の試合は外せないというのが那須隊全員の見解だった。

 

「ええ、私もそれは同意見です。では、一つ目は影浦隊で決まりですね」

「問題は、もう一試合ね。何処を見るべきかしら」

「生駒隊はどうですか? 狙撃手がどう動くか気になりますし」

 

 茜は、そう提案する。

 

 確かに、今回の参加部隊の中で狙撃手がいるのは那須隊を除けば影浦隊と生駒隊、弓場隊だ。

 

 そして、生駒隊にはグラスホッパーを用いる隠岐がいる。

 

 狙撃を感知出来る迅相手に、狙撃手をどう運用するのか。

 

 加えて、グラスホッパーを用いる隠岐がどう動くのか。

 

 茜としては、そこに興味があったのだ。

 

「生駒隊か。悪くはないが、あそこは弧月使いの生駒さんを中心に戦術を組み立てるだろうな。というより、生駒旋空を中心にしない理由がない」

「確かに。あの射程と速度は厄介よね」

 

 那須は以前の試合で生駒旋空に斬られた事を思い出し、無意識にお腹をさすった。

 

 あの時は、何が起こったのか斬られて初めて理解した。

 

 それだけ、生駒旋空の速度は驚異的だったのだ。

 

 生駒自身は二試合とも七海が仕留めているが、それはそれとして真っ二つにされた事自体は忘れていない。

 

 影浦の時と同じく、那須は割と根に持つタイプであった。

 

 というより、根に持たない理由がない。

 

 七海は敗北も結果は結果として受け入れるが、那須はそこまで武人気質ではない。

 

 負ければ悔しいし、当然の如くリベンジにも燃える。

 

 とは言っても、私情で隊をどうこうする気はもうないので、後で個人戦でも挑もうか、と考える那須であった。

 

「生駒隊は、十中八九生駒旋空を中心に戦術を組み立てる。旋空使いが熊谷しかいない那須隊(うち)から見ると、参考に出来るかどうかは微妙だな」

「けど、そこまで悪い選択じゃないとも思うわ。茜の言う通り、狙撃手の動向は気になるし」

「隠岐先輩は、グラスホッパーを使いますしね。迅さん相手にどう動くのかは、やっぱり気になります」

「まあ、不正解と言い切る程じゃないかしらね」

 

 生駒隊に関しては、少々意見が割れているようだ。

 

 七海はそこまで賛成というワケではないが、熊谷と茜は乗り気。

 

 那須に関しては、私情を抜きにすれば消極的な賛成、といった具合のようだ。

 

 矢張り、ポジションの違いもあって個々人で見方が異なるらしい。

 

 生駒隊、という選択自体はそう悪いものではない。

 

 生駒旋空中心の戦略を取る可能性が高いとはいえ、生駒隊は隊全体の地力が高い。

 

 加えて、生駒は迅の友人だ。

 

 その思考傾向や癖も、ある程度分かっているだろう。

 

 流石に風刃を使用したところを見たのは先日の那須隊との戦闘が初めてだろうが、ノーマルトリガーを使う迅と戦った事くらいはある筈だ。

 

 そういう意味でも、生駒隊という選択は悪くはない。

 

 迅の友人というなら弓場も同じだが、弓場隊の場合は主力となるのが銃手二人だ。

 

 帯島はサポーターとしての側面が強く、主戦力になるのは弓場と神田の二名。

 

 銃手が一人もいない那須隊としては、参考に出来るかどうかは微妙と言わざるを得ない。

 

「あと、二宮隊はどうかしら? 練度の高い部隊だし、参考になる部分もあると思うけれど」

「確かにそうだが、恐らく二宮隊は二宮さんを戦術の中心にする筈だ。そうなると、トリオン量でごり押す展開が予想される。悪いとは言わないが、参考になるかは分からないな」

 

 二宮隊の場合、まず間違いなく二宮を中心に戦術を組んで来る。

 

 というか、それが一番勝率が高いのだからやらない理由がない。

 

 二宮隊は、二宮という大駒を如何に巧く動かせるかで展開が大きく異なって来る。

 

 高いトリオンを持つ二宮が十全に暴れられれば大抵の相手には勝てるのだから、むしろやらない理由がないのだ。

 

 トリオン量に関しては今回は迅の37という数値が圧倒的ではあるが、二宮のように弾幕を張れるワケではないのだからやりようはある。

 

 というよりも、正攻法で最も勝率が高いのが二宮隊と言えるだろう。

 

 その戦術は参考にはなるだろうが、他の隊ほど参考になるかと言われれば不安が残る。

 

 無論選択として間違いとは言えないだろうが、即断する程ではないのだ。

 

「意見を纏めましょう。候補に挙がっているのは、生駒隊と二宮隊の二部隊。それぞれの理由としては、前者は隠岐先輩の存在。後者は、隊全体の地力と練度の高さ。あと、他に意見はありませんか?」

 

 小夜子はそう告げ、皆に意見を求めた。

 

 このまま何も意見がなければ、この二部隊で多数決を取るつもりだ。

 

 だが。

 

「ちょっといいかな。俺としては一つ、推しておきたい部隊があるんだが」

 

 七海は、そう話して。

 

 ある一つの部隊の名と、その理由を告げた。

 

 

 

 

「迅、聞きましたよ。あなたが最後の試験の試験官をするそうですね」

 

 玉狛支部。

 

 その、客間。

 

 部屋に備え付けられたソファーに優雅に腰かける忍田瑠花は、迅に向かってそう告げた。

 

 普段は本部で(マザー)トリガーを動かしている瑠花であるが、週に一度くらいのペースで弟の陽太郎に会いにこの玉狛支部にやって来る。

 

 今日は丁度その訪問日であり、林道が用事で遅れているので迅が出迎えをしていたワケだ。

 

 とは言っても、彼女の目的は陽太郎と会う事だ。

 

 なので陽太郎と引き合わせたらそのまま引っ込もう、と考えていた迅であったが、瑠花は彼をこの場に引き留めた。

 

 他ならぬ瑠花の頼みなので、迅も無碍にはし難い。

 

 それに、迅もまた瑠花には言っておきたい事があったのだ。

 

 良い機会だ、と考え迅は瑠花と向き合った。

 

「ああ、耳が早いね。確かに、俺が最終試験の試験官になったよ」

「それだけではありません。風刃を持ち出した事も、当然耳に入っていますよ」

 

 忍田が教えてくれましたからね、と瑠花は告げる。

 

 情報源は忍田さんか、とぼやく迅だが、そうおかしな事ではない。

 

 元より、迅が最終試験の試験官を務める事は告知済みだ。

 

 都合により他者との交流が制限されている瑠花ではあるが、ボーダー上層部に深いコネがある。

 

 忍田経由で情報を聞き出すくらい、ワケはないだろう。

 

「これでも、あなたの事は気にかけていたのです。この四年間、見れたものではない姿を晒していましたからね」

「耳が痛いな。返す言葉もないよ」

「ええ、反論していたら捻り上げるところでした」

 

 些か本気のトーンで告げた瑠花は、居住まいを正して迅を見た。

 

 そして、迅の眼をしっかりと見つめて口を開いた。

 

「どうやら、あのふざけた笑顔は止めたようですね。今のあなたは、きちんと笑えています」

「ああ、七海のお陰でね。少し長くなるけど、聞いてくれるかな?」

「ええ、構いません。話しなさい」

 

 迅は瑠花に促されるまま、これまでの経緯を話した。

 

 玲奈の死を受け入れられず、彼女の望みに縋る事で現実から目を背け続けていた事を。

 

 七海から玲奈の遺言を聞き、自分の間違いに知った事を。

 

 今は本当の意味で、自分を心配する者達の声が聞こえた事を。

 

 弱音を吐く事は、他人を頼る事は、悪い事ではないと、気付いた事を。

 

 その全てを、瑠花に話した。

 

 瑠花は最後まで迅の話を傾聴し、そして。

 

 にこりと、笑みを浮かべた。

 

「よく話してくれました。迅もようやく、強がりは止めたのですね」

「ああ、強がりだけじゃ先へは進めない事は、分かったからね。今まで散々皆に心配かけちゃったし、反省してるよ」

「まったくです。それに気付くのに四年もかかるあたり、あなたも相当ですね」

 

 そうだね、と迅は苦笑する。

 

 瑠花の言う通り、本当に今更だ。

 

 昔から、迅の周りには。

 

 彼を心配する人が、たくさんいたというのに。

 

 迅は、その全てに背を向けていた。

 

 罪悪感に苛まれ、如何なる言葉も彼には届かず。

 

 四年間。

 

 己の殻に、閉じ籠もり続けていた。

 

 だが、今の迅はきちんと前を、現実を直視出来ている。

 

 これまで届かなかった声も、今の彼には届いている。

 

 瑠花は、それを確認したかったからこそ。

 

 今この時、迅と向き合ったのだから。

 

「遅くなったけど、あの時はありがとう。そして、ごめん。瑠花ちゃんが心配してくれたのに、何も答えられなくて」

「ええ、猛省しなさい。この私の言葉を蔑ろにしたのですから、本来なら極刑ものです。今後は同じ事がないよう、気を付けるように」

「勿論。もう、約束は違えませんよ」

 

 よろしい、と瑠花は満足気に頷いた。

 

 そして、ソファーから立ち上がってつかつかと歩み寄り、迅の腕をがしっ、と掴んだ。

 

「良いですか。これからは、きちんと他人を頼るのですよ。あなたはこれまで、充分ボーダーに、そして私たちに貢献してくれました。だから、弱音を吐くのはあなたの正当な権利です」

 

 瑠花はそう言って、迅の腕を握る力を強めた。

 

 痕が、残るくらいに。

 

 その温もりを、刻み付けるように。

 

「今の私は、亡国の王女に過ぎません。過去のような権力も、身を守る術もない、ただの小娘です」

 

 ですが、と瑠花は告げた。

 

「この身に出来る事であれば、力になりましょう。少なくとも、弱音を聞いてあげる事くらいは出来ます。それを、忘れないように」

 

 瑠花は一息にそう告げ、迅は深く頷いた。

 

 彼女の声は、確かな決意に満ちていた。

 

 この四年間、迅の姿を見て遣る瀬無い想いを抱えていたのは。

 

 彼女も、同じなのだ。

 

 滅んだ同盟国の王女であった彼女にとって、迅は数少ないかつての自分を知る仲間。

 

 その仲間を案じる事は、彼女にとって当然の事。

 

 そんな事も気付いていなかったんだな、と迅は改めて彼女に謝意を告げた。

 

「ああ、いざという時は、頼らせて貰うよ」

「ええ、そうしなさい。あなたは、ボーダーの柱。何かあって困るのは、私だけではないのですから」

 

 瑠花はそう告げるとぷいっとそっぽを向き、それを見て迅は笑った。

 

 その後すぐに陽太郎がやって来て、部屋の中は喧騒に包まれる。

 

 こういう時間も、悪くない。

 

 迅はそう思いながら、瑠花とじゃれる陽太郎を眺めていた。

 

 

 

 

「迅。最終試験、あたしも観戦するからね」

 

 小南は開口一番、迅に向かってそう告げた。

 

 此処は玉狛支部の迅の部屋。

 

 彼がこの部屋に帰って来た時、部屋の中で待ち構えていた小南がいたという寸法だ。

 

 特に鍵をかけているワケでもなかったので、中に入る事自体は難しくない。

 

 小南もまた、今の迅相手に遠慮なんてする筈もない。

 

 そんな小南に、迅はやれやれ、と溜め息を吐いた。

 

「…………まあ、そう言うと思って席は確保しておいたよ。今回は、小南も見る権利があるからね」

「そこでサイドエフェクトで視たからじゃなくて、あんたの判断だったって言った事に免じて許してあげるわ。感謝しなさい」

「はいはい、感謝してますよっと」

 

 分かればよろしい、と小南は満足気にふんすっ、と胸を張る。

 

 迅は返答こそ適当ではあったが、そこに嘘の色はない。

 

 騙されやすいと定評のある小南だが、色々あって迅の言葉の真偽に関しては割と敏感だ。

 

 日常の中の些細な嘘であればともかく、ここぞという時は外さない。

 

 それは、単に直感云々の話ではない。

 

 この四年間、迅は嘘をつき過ぎた。

 

 正確に言えば、自分を誤魔化し続けて来たあまり、虚勢(うそ)が常態化してしまっていた。

 

 そんな迅を、小南は四年もの間見続けて来たのだ。

 

 彼が本当の事を言っているかどうかは、すぐに分かる。

 

 迅が真実を告げる時は、張り付けたような笑みではなく。

 

 昔と同じ、優しい目をしていたのだから。

 

「それで、あんたは七海達をどうしたいの? A級になって欲しい?」

「可能なら、なって欲しいな。けど、だからと言って手を抜く気はないよ。ここで俺が全力を以て立ち塞がらなきゃ、最善の未来へは進めない。俺のサイドエフェクトが、そう言っているから」

 

 けど、と迅は続ける。

 

「これは、俺自身の意思だ。他の誰でもない、俺が自分で決めた未来だ。だからこそ、最上さんの力を借りてまで、七海達の前に立ち塞がる事を選んだんだから」

 

 迅はそう告げ、腰の風刃に手を当てる。

 

 黒い棺は、沈黙したまま。

 

 けれど。

 

 その感触は、何処か暖かな気がした。

 

「だから、見ていて欲しい。七海達の、そして────────俺と最上さんの、戦いを」

 

 迅は、真摯な眼で小南を見据えそう告げた。

 

 小南は、その言葉を噛み砕き。

 

 笑みを、浮かべた。

 

「あったり前じゃない。ちゃんと、見ててあげるわよ。だから、しっかりやりなさいよね。後悔だけは、するんじゃないわよ」

「ああ、勿論だ。誓うよ。どんな結果になっても、後悔だけはしないってさ」

 

 二人の誓いが、告げられる。

 

 機は熟した。

 

 少年は、ようやく現実(まえ)を向き。

 

 少女の忘れ形見は、今も未来(まえ)を見据えている。

 

 故に少年は、彼の障害となる事を選んだ。

 

 七海の、最大最後の壁。

 

 迅悠一。

 

 未来視を持つ、黒トリガーの所有者。

 

 二人が戦う日が今、遂に訪れた。

 

 11月30日。

 

 最終試験が、幕を開ける。





 今回は那須さんに関するアンケートのイフとなります。

 那須を一緒に行きたいと書いた人

 王子一彰
 対応力が高く、色々と面白いから。

 出水公平
 技術力が高いから。


 那須を一緒に行きたくないと書いた人

 香取葉子
 うざいから。

 木虎藍
 あまり一緒にいたい相手ではないから。

 別役太一
 那須さんおっかないから。

 若村麓郎
 空気が重くなりそう。

 辻新之助
 色々と目に毒だし、正直苦手。

 諏訪洸太郎
 七海がいると空気がピンク色になりそうだから。

 二宮匡貴
 精神が安定しているとは言い難い。マシにはなったが、不安要素が多い。

 以上。
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