痛みを識るもの   作:デスイーター

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Signs and anxiety

「照屋隊員、柿崎隊長、続けて緊急脱出……っ! 此処で決着……っ! 戦績は8:0:0……っ! ROUND1に続き、『那須隊』の完全勝利です……っ!」

 

 三上が盛大に『那須隊』の勝利宣言を行い、会場は歓声で包まれた。

 

 ROUND1に引き続き、一点も逃さない完全勝利(パーフェクト・ゲーム)

 

 途中経過は違ったとはいえ、結果としては『那須隊』の独走状態となったワケだ。

 

 これで、盛り上がらない方がどうかしている。

 

「綺麗に決めたなー。まさか、七海の奴が茜ちゃんの護衛に付いてたとは。てっきり、那須さんの方に向かってるモンだと思ってたぜ」

「それは、『柿崎隊』も同じように考えていた筈だ。だからこそ、あの奇襲が完璧に決まったと言える」

 

 確かに、奈良坂の言う通り『柿崎隊』は、いや、この試合を見ていた殆どの人間が七海は那須との合流を目指していると考えていた筈だ。

 

 ROUND1で見せた那須と七海の連携による圧倒的な制圧力は、記憶に新しい。

 

 だからこそ、誰もが騙された。

 

 七海は、那須との合流を優先すると、思い込ませた。

 

「恐らく、七海は荒船さんを倒した後バッグワームを起動。即座に日浦のフォローに入れる位置に、身を隠していたワケだ。そして、日浦は逃げる振りをしながら照屋を()()に誘い込んだ」

「あれはびっくりしたよなー。まさか、日浦ちゃんが『テレポーター』を装備してたなんて。あれ、お前の仕込みか?」

「『テレポーター』は、俺が教えたワケじゃない。狙撃手としての『テレポーター』の扱い方については、多少聞かれたがな」

 

 『テレポーター』は瞬間移動という性質を持つ特殊なオプショントリガーであり、その使い手の数は限られる。

 

 A級では『嵐山隊』の嵐山と、『加古隊』の加古が使い手としては有名だ。

 

 『那須隊』と交流があるのは後者の方なので、恐らく加古が使い方を叩き込んだのだろう。

 

「狙撃手が『テレポーター』を使う事についてはどうなんでしょう? 奈良坂さん」

「正直、『グラスホッパー』の方が汎用性が高いのは確かだ。逃走や狙撃位置の変更時にも利便性は高い上に、『テレポーター』のような再使用までの時間遅延(タイム・ラグ)もない」

 

 だが、と奈良坂は続けた。

 

「『グラスホッパー』を使いこなすには、ある程度のバランス感覚、運動神経が必須だ。日浦は残念ながらと言うべきか、そちらについての適性は皆無だった」

「それで『テレポーター』か。じゃあ、『グラスホッパー』を使えないから仕方なく使ってる感じか?」

「確かにそういう面もあるが、『テレポーター』には『テレポーター』で利点はある。それは、日浦がその身で証明して見せた筈だ」

 

 奈良坂は僅かに口元を綻ばせながら、説明を続ける。

 

「『テレポーター』は『グラスホッパー』と違い、相手の身体や攻撃を無視して指定の場所まで移動する事が出来る。先程の日浦のように、相手に接近された時の逃走手段としては悪くない選択肢だ」

「加えて言や、日浦ちゃんが『テレポーター』を使うとは考えてなかったから照屋ちゃんに隙も出来たしなー。だから『テレポーター』からの狙撃で、右腕は撃ち抜けたワケだし」

 

 そう、照屋はあの一瞬、完全に虚を突かれた事で思考に空白が生じ、背後のビルへ転移した茜の狙撃によって右腕を失っている。

 

 茜の『テレポーター』使用は、初見殺しという点も加味して充分以上の効果を発揮したと言えるだろう。

 

「日浦は相手の動きが一瞬でも止まれば、正確に狙った場所を撃ち抜く事が可能だ。そういう意味で、今回は『テレポーター』の使用が致命打に繋がったと言える」

「照屋ちゃんも『テレポーター』を使われた事で、早いトコ日浦ちゃんを仕留めなきゃ逃げられる、と考えただろーからな。結果として背後への警戒が疎かになって、七海に斬られちまったワケだ」

 

 そうだな、と奈良坂は出水の言葉に頷く。

 

「予想外の事態が重なった時には、思考の硬直が発生し易い。目先の事だけを考えてしまいがちになり、ミスを誘発し易くなる。日浦の『テレポーター』使用は、あの局面で最善の選択だったと言えるだろう」

「何処まで計算づくかは分からねーけど、結果としちゃ大戦果に繋がったのは確かだな。七海の奇襲を、照屋ちゃんが想定してなかった事を含めてもな」

 

 …………実際には、照屋は七海の奇襲を想定していなかったワケではない。

 

 但し、日浦の『テレポーター』使用という予想外の一手で完全に虚を突かれた結果、警戒を疎かにしてしまった。

 

 完全に、茜の一手にしてやられた形になる。

 

「それから、柿崎さんを倒した時に那須さんが『変化炸裂弾(トマホーク)』使ったのには驚いたなー。那須さん、合成弾今まで使った事なかったし」

 

 そう告げる出水の顔は、何処か嬉しそうだ。

 

 射手トリガーを二つ合成し、強力な弾丸を精製する技術、『合成弾』を開発したのは、他ならぬこの出水である。

 

 自分の技術を見事に使いこなした者がいるとなれば、先達として興奮を覚えずにはいられなかった。

 

 技術は、広めてこそ意味がある。

 

 有用な技術は、どんどん広め全体の戦力の質を上げるべき。

 

 それが、射手ランキング二位、出水公平の持論であった。

 

「だからこそ、初見殺しが成立し得たワケだ。柿崎さんも、那須が単独で自分を仕留めようとするとは考えていなかった筈だからな」

「それまで、完全に攪乱に徹してたからなー。それに、柿崎さんも那須さんが『合成弾』を使うとは考えてなかった筈だから、読み切れなくても無理はねーわな」

 

 B級中位には、『合成弾』を扱うチームは今まで存在していなかった。

 

 『合成弾』は誰もがおいそれと簡単に扱える技術ではなく、それ故にその技術の使い手はB級上位陣からちらほら見られる程度だ。

 

 今までB級上位と戦った事のなかった柿崎からして見れば、『合成弾』を見分ける事は難しかっただろう。

 

 加えて言えば、那須は柿崎を相手にしている最中、弾速や射程を繰り返しチューニングしながら弾幕を張っていた。

 

 那須の『変化炸裂弾』は通常の『変化弾(バイパー)』より弾速が遅いという特徴があるのだが、それまでにも那須は弾速を繰り返し変えていた為、弾速で『合成弾』を判別する事が出来なかった。

 

 それもまた、那須の技巧と戦術の組み立ての勝利と言える。

 

「しかし、それなら何故すぐに『変化炸裂弾』を使わなかったのでしょうか?」

「そりゃ、防がれる可能性があるからだろーな」

 

 三上の疑問提示に、出水は即答で答える。

 

「『合成弾』はその性質上、弾丸の合成を終えるまで完全に無防備になる。その隙を狙われちゃ幾ら那須さんでも簡単に落とされるから、照屋ちゃんの居場所が判明するまでは使えなかったのさ」

 

 それに、と出水は付け加える。

 

「『変化炸裂弾』は、『バイパー』と『メテオラ』の二つの性質を持った弾丸だ。つまり、その()()()()で相手を落とす弾ってワケだ」

 

 つまりだな、と出水は告げる。

 

「『柿崎隊』が三人揃っていた状況じゃ、『変化炸裂弾』を使っても『固定シールド』の重ね掛けをされちまえば防がれる。一人くらいの『固定シールド』だったらどうにかなる可能性はあるが、流石に三人分の『固定シールド』をどうにかするのは難しいからな」

「つまり、柿崎隊長が一人になってしまったが為に『変化炸裂弾』を使う隙を与えてしまったという事ですか」

「結果としちゃそうなるが、それもまた結果論だな。結局駄目だったからって即作戦が失敗だったとはならねーぞ」

 

 太刀川さんの受け売りだけどな、と出水はからからと笑う。

 

 なんだかんだ言いながらも、彼は自分の隊長をリスペクトしているのだ。

 

 太刀川は個人技も然る事ながら、隊長としての立ち回り方も充分以上に心得ている。

 

 たとえ私生活がだらしなかろうが、出水にとっては尊敬すべき隊長である事に違いはないのだ。

 

「さて、総評総評っと。まずは『柿崎隊』から行くか」

 

 出水は気を取り直し、解説から総評に移った。

 

 三上は背筋を正し、奈良坂も顔を上げる。

 

「『柿崎隊』は、奈良坂が言ったみてーに判断の遅れが悔やまれるな。どうせ隊を別けるなら、最初から別けるべきだった。合流優先の戦術が悪いとは言わねーが、それだけだと限界があるからなー」

「一つの戦術に拘る事なく、様々な戦術を逐次選べるようになれば、『柿崎隊』は上に上がれるだけの地力はある。もう少し、視野を広く持つべきだろうな」

 

 

 

 

「…………すまなかった。出水の言う通り、合流優先の方針を捨ててお前達を最初から先行させていれば勝てたかもしれない。俺の判断ミスだ」

 

 『柿崎隊』の作戦室で、柿崎はそう言って照屋と虎太郎に頭を下げた。

 

 そんな柿崎を見て、照屋ははぁ、と溜め息をつく。

 

「何言ってるんですか、柿崎先輩。出水先輩も、柿崎隊長の合流優先の戦術自体は否定してません。だから、簡単に捨てるだなんて言わないで下さい」

「そうですよ。それに、今回で新しい戦術も開拓出来たじゃないですか。『ダミービーコン』を使った奇襲も、柿崎先輩が合流優先の戦術を捨てなかったからこそ出来た事なんです。あの調子で、どんどん選択肢を増やしていきましょうよ」

「合流したと見せかけて一人別れて背後から奇襲するとか、そう思わせておいて三人で叩くとか、色々バリエーションはある筈です。これから、全員で色々考えていきましょう」

 

 そう言って照屋と虎太郎は今後の戦術について、あーでもないこーでもないと、様々な意見を交わし始めた。

 

 そんな二人の様子を見て、柿崎は苦笑いを浮かべる。

 

 人の成長とは、早いものだ。

 

 柿崎は心の何処かで、年下の二人を()()()()()()と強く意識するあまり、彼等に責任を負わせる事を、無意識の内に忌避していたのかもしれない。

 

 けれど、彼等は単なる雛鳥ではなく、自分の意志を持ち、分別を持った一人の人間だ。

 

 何もかもをやってあげていては、若者の成長は望めない。

 

 互いの意見を交わし、重荷があれば負担を分散し、無理のない成長を促す。

 

 それが、自分達の本当のあるべき姿だった。

 

 柿崎は過去の経験から、他人に重荷を背負わせる事を恐れ過ぎていた。

 

 だが、彼等ならば共に重荷を背負い前に進む事が出来る。

 

 意見を交わし合う二人を見ながら、柿崎はそう強く感じていた。

 

 

 

 

「次は『荒船隊』だなー。作戦としちゃ悪くなかったが、七海の機転で上を行かれちまった感じだよな」

 

 出水は『荒船隊』の総評に移り、そう所見を述べた。

 

 それに対し、奈良坂がいや、と反論する。

 

「それもあるが、個人的に言わせて貰えば七海を仕留める事に固執し過ぎた印象が強い。『鉛弾』で負わせた枷を『スコーピオン』で補填された時点で半崎と穂刈を離脱させ、那須や『柿崎隊』を狙いに行かせればまた別の結果もあった筈だ」

「そうでしょうか? 荒船隊長は、七海隊員を倒そうといつになく気持ちの籠った戦いを見せていました。そのあたりはどうお考えですか?」

「関係ないな」

 

 三上の言葉を、奈良坂はそうバッサリと言い捨てた。

 

 キョトンとする三上に対し、奈良坂は言葉を重ねる。

 

()()()()()()()()()()()()()()。前に、太刀川さんが言っていた事だ。隊長であるならば、自分の気持ちよりも隊の勝利を優先すべきだった」

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とも言ってたなー。その点でいや、荒船さんは割といい線行ってたんじゃないか?」

 

 出水の指摘に、奈良坂は首を振って否定する。

 

「いや、攻撃手の頃だったならともかく、今の荒船さんの本領は狙撃手だ。狙撃手に転向した以上、純粋な攻撃手と接近戦でやり合えば不利は否めない。善戦していたのは確かだが、あの作戦は賭けの要素もまた大きかったように思う」

 

 だが、と奈良坂は表情を緩めた。

 

「作戦自体は、悪くはなかった。『荒船隊』は最初に言ったように有利不利が極端なコンセプトチームだが、自分達との相性が最悪な七海に対し具体的な対策を以て臨んだ事は評価すべきだろう」

「へー、奈良坂、色々厳しい事言ってたけど、なんかかんだで荒船さんの事認めてるじゃねーか」

「さっきのは俺の所感だ。言った筈だ、()()()()()()()()()()()、と。確かに博打要素の強い戦法だったが、評価すべき所があるのは事実だからな」

 

 奈良坂はそれに、と付け加えた。

 

「聞いた話では、荒船さんはレイジさんと同じ『完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)』を目指しているという事だ。本当にそれが実現するのなら、『荒船隊』の戦術は更なる進化を遂げる筈だ。そういう意味でも、注目のチームと言えるだろう」

 

 

 

 

「ハッ、言ってくれるじゃねえか。上等だよ」

 

 『荒船隊』の作戦室で、奈良坂の総評を聞いていた荒船は不敵な笑みを浮かべて見せた。

 

 その顔に、敗北の悲嘆は欠片も見られない。

 

 あるのは、上を目指すという、確固たる決意だけだ。

 

「今回は、俺の我儘に付き合わせて悪かったな────だが、約束する。俺は『完璧万能手』になって、お前達をB級上位へ、いや、A級まで連れて行く」

「期待しているぞ、荒船」

「はいっ、隊長ならきっと出来るっす……っ!」

 

 荒船の宣言に、穂刈と半崎は晴れやかな顔でそう答えた。

 

 そんな二人を眩し気に見詰めながら、荒船は笑みを深くした。

 

「その暁にゃあ、お前等を『完璧万能手』に育ててみるのも悪くねえかもな。そん時ゃ覚悟しとけよ」

「藪蛇だったか、これは」

「でも、それはそれで面白そうっすね」

 

 『荒船隊』の三人は、そう言って笑い合った。

 

 そんな三人を、『荒船隊』のオペレーターである加賀美は笑みを浮かべて見守っていた。

 

 

 

 

「『那須隊』は、今回も大暴れだったなー。七海の奴が『鉛弾』撃ち込まれた時はどうなる事かと思ったが、結果としちゃROUND1に引き続き完全勝利を決めたんだから大したモンだよ」

「そうだな。作戦も上手く嵌っていたし、レベルの高い試合運びだったと言えるだろう」

 

 総評は遂に、完全勝利を決めた『那須隊』へと移る。

 

 出水も奈良坂も、笑みを浮かべながら『那須隊』を讃えた。

 

「七海は荒船さんの対策を機転で乗り切って、心理誘導まで仕掛けて『荒船隊』を全滅に追い込んだからなー。本当に、我が弟子ながらえげつねえったらありゃしねえ」

「戦上手、とは彼のような者の事を言うのだろうな。俺から見ても、七海の対応は完璧に近い。自分の役割を完璧に心得ている、そういう動きだ」

「そういう意味じゃ、日浦ちゃんも中々のモンだったんじゃねーの?」

 

 出水は七海を褒める傍ら、奈良坂が茜を褒めたがっている事を察し、露骨な話題振りを行った。

 

 彼自身、弟子の七海を公的な場で褒めるのは大変気分が良かったので、気持ちは充分分かるのだ。

 

 その配慮を察したのかは分からないが、奈良坂は常ならぬ饒舌さで話を始めた。

 

「そうだな。日浦は己の役割をしっかりと理解し、無理のない立ち回りを行っていた。自分の強みを活かし、部隊全体に貢献を果たす。狙撃手として、模範的な立ち回りであったと言っても過言じゃない」

 

 奈良坂は知らず頬を緩めながら、茜への称賛を続ける。

 

「基本は、全ての動きに通じるものだ。日浦は基礎の鍛錬を怠らず、結果として狙撃手として理想的な立ち回りが出来るようになった。チームで求められた己の役目を果たし、部隊の援護を十全に務める。今後も鍛錬を怠らず、更に精進して欲しいと思っている」

 

 

 

 

「聞きましたっ!? 聞きましたっ!? 奈良坂先輩が、私の事あんなに褒めてくれてますよお~……っ!」

 

 『那須隊』作戦室で奈良坂の称賛の言葉を聞いた茜は、小躍りせんばかりに喜んでいた。

 

 そんな彼女を、『那須隊』の面々は暖かく見守っている。

 

 解説中の奈良坂のべた褒め具合を聞けば、更に狂喜乱舞するであろう事は間違いない。

 

「私、これからも頑張りますっ! 師匠の弟子として恥ずかしくない狙撃手になれるよう、精進しますっ!」

 

 

 

 

「あと、熊谷さんも上手い事やったなー。彼女が単騎で狙撃手狩りに行くとか、前期までじゃ考えられなかったもんなー」

「そうだな。前期までの熊谷は、那須の護衛に付かざるを得なかった。七海の加入で那須の護衛をしなくて良くなった分、動きに自由度が出て来たという事だ」

 

 熊谷は彼等の言う通り、前期までは那須の護衛として立ち回る他なく、結果として動きに多大な制限がかかっていた。

 

 だが、七海の加入で護衛の必要性がなくなった事で、熊谷を単独で動かすという選択肢も出て来たのだ。

 

 この点は、臨機応変な対応が求められるランク戦では明確なプラス要素と言えるだろう。

 

「那須さんも、前より伸び伸び動けるようになった感じだもんなー。七海が加入するだけで此処まで化けるとか、ホント恐れ入ったよ」

「それだけ、七海の加入は『那須隊』にとって大きな転機だったという事だ。現に、ROUND1と違って那須は七海と合流せずとも充分な働きが出来ていたしな」

「そうだなー。結局、最後まで合流しなかったもんな」

 

 けど、と出水は他の誰にも分からないように、一人怪訝な顔をした。

 

(合流する必要がなかったって言うより、まるで()()()()()()()()()()みたいに見えたんだよなー。気の所為か、もしくは……)

 

 

 

 

(…………結局、この判断は間違っていなかったんでしょうか……)

 

 『那須隊』の作戦室で、小夜子は一人俯いていた。

 

 この試合、那須に七海と合流せずに柿崎を仕留めるよう進言したのは、他ならぬ小夜子である。

 

『照屋さんの居場所が掴めたら、『合成弾』で柿崎隊長を狙って下さい。七海先輩は少なからず負傷しているようですから、此処は安全策で行きましょう』

 

 小夜子はあの時、こう言って那須に七海と合流前に試合を終わらせるよう促した。

 

 嘘を言っているワケではないが、小夜子の真意は他にあった。

 

 ────眼の前で七海くんの腕を吹き飛ばされでもしたら、彼女…………冷静でいられるかしら?────

 

 それは、ROUND1の後、小夜子が加古から告げられた()()

 

 小夜子は、この言葉が脳裏から消えず、結果として那須と七海が合流しないよう取り計らった。

 

 今日の試合で、七海は片脚を失い、それを『スコーピオン』で補填していた。

 

 部位欠損の瞬間を目にしたワケではないが、その姿は少なからず那須の心的外傷(トラウマ)を刺激する可能性があった。

 

 だからこそ、小夜子はリスクを嫌って那須と七海を合流させなかったのだ。

 

(いずれ出て来る問題なら、無理に眼を背けるような真似は…………でも、一体どうするのが正解なの……?)

 

 小夜子は一人自問し、煩悶する。

 

 答えは未だ、出そうにはなかった。

 

 

 

 

「ともあれ、『那須隊』がその強みを十全に見せつけた結果となった。そして、これは……」

「はい、これで『那須隊』はB級上位入りが確定しました」

 

 奈良坂の言葉を、三上がそう補足する。

 

 三上は画面を操作し、各隊の順位を表示する。

 

「今回のROUND2の結果により、『那須隊』は8Pt獲得によりランク戦のポイントは18Ptとなりました。その結果順位が繰り上がり、一気にB級5位まで上り詰めた事になります」

 

 その結果、『香取隊』が中位落ちとなりました、と三上は付け加えた。

 

「そして今、ROUND2夜の部の結果により、ROUND3の組み合わせも決定しました」

 

 そして三上は画面に四つの隊の名前を表示し、告げる。

 

「次回のB級ランク戦ROUND3の『那須隊』の対戦相手は、『二宮隊』『東隊』『影浦隊』の3チーム。4チームによる、四つ巴の対戦となります」

 

 B級一位部隊、『二宮隊』

 

 B級二位部隊、『影浦隊』

 

 そのトップ2チームにベテラン狙撃手東春秋が率いる『東隊』を加えた、合計3チーム。

 

 それが、次なる『那須隊』の対戦相手だった。


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