「く…………っ!」
置き
それによって生じた爆発が、周囲を席捲する。
風間は止むなくカメレオンを解除し、シールドを展開。
同時に上方へ跳躍し、周囲を油断なく見回した。
(間違いなく、迅はこの機に仕掛けて来る。俺がこの爆煙から飛び出したところを遠隔斬撃で狙うつもりだろうが、地面から離れればその心配はない)
風刃の遠隔斬撃は物体を伝うものである為、空中にいる相手には無力。
それは試験で、香取が身を以て実証している。
風間にはグラスホッパーがない為香取のように空中を駆け回る事は出来ないが、要はこの視界が効かない状態さえ脱すれば良い。
爆発で生じた煙から出れば迅の未来視で居場所を特定されるだろうが、視界さえ効いていれば遠隔斬撃は回避可能だ。
だから、後はこの場で太刀川と再度連携し詰め直せば良い。
(あの置きメテオラは、戦闘前に七海か那須が設置しておいたものだろう。遠くでも爆発があったから他にも仕掛けている可能性が高いが、少なくともこの爆破の圏内にはない筈。なら後は、
他に幾つ置きメテオラを仕掛けているかは予想出来ないが、少なくともこの近辺にもう無い事は確定である。
範囲内にあったメテオラは、今の爆発で一斉に誘爆した。
だからこそ大規模な爆発となったのであり、その爆破の範囲内にもうメテオラはない。
だから、正真正銘障害物のなくなったこの場所で、改めて太刀川と共に詰みに追い込めば良い。
そう考えて、風間は跳躍を選んだ。
「────────ッ!」
だが。
次の瞬間、風間の背筋が凍り付いた。
自分の後方。
そこに、風刃のブレードを振り下ろす迅の姿がある。
どうやったかは分からないが、迅はこの煙の中で正確に風間の居場所を掴み直接斬り込んで来たらしい。
(だが、好都合だ。空中なら、遠隔斬撃を仕込む場所はない…………っ!)
こうまで接近された以上風間に逃げ場はないが、それは迅も同じ事だ。
空中では、風刃はただのブレードに過ぎない。
ならば、ブレードの威力にさえ気を付ければ応用力のあるスコーピオンを持つ風間の方に分がある。
まさか迅が空中に来るとは思っていなかったが、それならそれでこの場で仕留めれば問題ない。
風間はスコーピオンを構え、迅の斬撃を受け止めた。
そして、その隙にブレードを生やした右足で蹴りを放つ。
風刃に、防御の為の機能はない。
自分のように足からブレードを生やす事が出来ない以上、本体のブレードさえ止めてしまえば迅は無防備になる。
そこを、叩く。
この一撃で致命打を叩き込み、それが出来ずとも足の一本は落としておく。
風間は、必殺の意思を込めて右足を振り抜いた。
「な────────っ!?」
だが。
振り抜いた右足は、根本から切断されていた。
迅の放った、風の刃によって。
「馬鹿な、空中では遠隔斬撃は使えない筈…………っ!」
「伝播させる為のモノならあるじゃない。俺の身体がさ」
「…………っ!」
そう、確かに風刃の遠隔斬撃は伝播させる物体がなければ使えない。
だからこそ対空能力は皆無なのだが、それはあくまで
此処まで接近しているのであれば、やりようはある。
迅自身の身体を伝播させる事で、地面の代わりとする。
そんな予想外の方法で、迅は風間を迎撃してのけた。
「はい、予測確定」
「が…………っ!」
そして、最後まで油断はしない。
迅の足を伝って放たれた遠隔斬撃が、風間の心臓を刺し貫く。
確実に、致命傷。
風間の命運は、此処で尽きた。
「太刀川…………っ!」
「おう」
だが。
それは、チームの敗北を意味しない。
既に、同じように跳躍した太刀川は旋空の発射態勢に入っている。
此処は空中。
グラスホッパーを持たない迅に、この一撃を回避する手段はない。
風間は自分ごと斬るよう太刀川に命じ、最強の剣士は即座にその指令を実行した。
「旋空弧月」
旋空弧月、二連。
十字の拡張斬撃が、空中の迅へと牙を剥く。
周囲に障害物はなく、迅にシールドを用いた防御は不可能。
これで、詰み。
太刀川は、そう確信した。
「…………っ!?」
されど。
迅は。
本物の死線踏破者は。
洒落にならない窮地など、幾らでも超えて来ている。
だからこそ、迅はその攻撃も冷静に対処した。
風間の身体を蹴り飛ばし、その勢いを用いて跳躍する事によって。
固定された足場ではない為移動出来た距離は僅かだが、それで充分。
迅は紙一重で旋空の斬撃を回避し、そのまま地面に降り立った。
『戦闘体活動限界。
機械音声と共に、風間の身体が崩壊し光となって飛んでいく。
それを横目で見ながら。
太刀川は/迅は。
笑みを浮かべて、斬り合いを続行した。
「ち…………っ!」
米屋は間一髪でシールド展開を間に合わせ、爆発から身を守った。
完全に、不意を突かれた。
置きメテオラ起爆による、盤面の攪乱。
それは。
那須隊が、ランク戦で何度も使った手だというのに…………!
(必ず、今仕掛けて来やがるな。来るとすりゃあ────────後ろか…………っ!)
視界の利かない中、米屋は直感を信じて弧月を振り抜いた。
音もなく背後に忍び寄っていた七海はそれをひらりと跳んで回避し、米屋の側面に着地する。
槍の間合いの、内側。
彼の、至近へと。
米屋の槍弧月はリーチが長くなっているが、その分懐に入られれば刃が届かなくなるという欠点がある。
彼の弧月には槍を縮める機能もあるが、それには多少のタイムラグがある。
七海ならば、その隙に一撃を叩き込む事は容易だ。
だが。
「────────!」
米屋は幻踊により、刃の穂先を両刃の
そのまま槍を引き戻す動きで、七海を刃に巻き込む形で攻撃する。
(相打ち上等…………っ! 後ろに逃げればブレードに当たるし、横に逃げるならそのまま槍のリーチで斬るだけだ…………っ!)
これは、防御を考えない捨て身の一撃だ。
爆破で三輪と分断された以上、此処から生存する芽はない。
間違いなく自分は落とされるだろうが、それで七海を相打ちに出来れば問題はない。
そう考え、米屋は勢い良く槍を引き戻し────────。
「え…………?」
ガキンと、その刃が何かに阻まれる音を聞いた。
「が…………っ!」
同時に、米屋の胸部に七海のブレードが叩き込まれる。
そして、米屋は。
背中から、蓮の花のような形に展開されたスコーピオンが彼の刃を受け止めている光景を、目視した。
米屋の幻踊の性質上、極限まで圧縮したスコーピオンでは防御をすり抜けられる恐れがある。
だからこそ、七海はある程度刃を伸ばした状態でスコーピオンを展開した。
スコーピオンは、伸ばせば伸ばすほどその強度が落ちる。
だが、逆に言えば凝縮すればする程その硬度は向上する。
更に、ブレードを形作るのがトリオンである以上トリオン強者である七海のブレードが相応に硬い事はむしろ当然。
ピンポイントで刃に当たる位置に、しかも後ろを振り返りもせずにブレードを展開してのけたのは七海の
しかし、切断力の高い弧月のブレードをある程度刃を伸ばした状態で難なく受け止められたのは、七海のトリオンあっての結果である。
ブレードを受け止められるように相応に圧縮はしているが、トリオンが低ければ一合も保たずに砕け散っていたに違いない。
その皮肉な事実を理解し、米屋はため息を吐いた。
「秀次…………っ!」
「────────」
だが、
米屋は自分に致命傷を与えた七海の腕をがしりと掴み、その動きを止める。
すぐに掴んだ腕から展開されたスコーピオンによって米屋の手は斬り飛ばされるが、一瞬でも動きを止めた事に変わりはない。
そこに、三輪が弾丸を叩き込む。
サイドエフェクトが反応しなかった為一瞬回避が遅れ、七海の右腕に弾丸が命中。
その腕に、黒い重石が出現する。
重石を付与する特殊弾頭が、七海の動きを封じ込める。
「…………!」
しかし七海は即座に脇腹から生やしたスコーピオンで右腕を切断し、跳躍。
続けて放たれた弾丸を回避し、離れた場所に着地した。
「ま、最低限仕事はしたかな。あとよろしくー」
『戦闘体活動限界。
その視線の先で、米屋は薄笑いを浮かべながら光となって消え失せる。
「────────」
「────────」
七海と三輪。
二人が、爆心地で向かい合う。
七海は、右腕の断面からスコーピオンを展開。
三輪は、弧月を構え身体を沈める。
七海と三輪は同時に駆け出し、そして。
互いの刃を、至近で交わした。
「あらら、風間さんと槍バカもやられたか。やるねー」
「貴方も、そろそろ落ちてくれていいのよ?」
「残念だけど、そういうワケにはいかないな」
出水と那須。
二人は依然
戦況は、互角と言って良い。
那須は常に足を止めず、縦横無尽に戦場を駆け回りながらバイパーの雨を降らせ。
出水は、彼女の弾丸を一発たりとも漏らす事なくバイパーで撃ち落とし続けている。
本物の天才同士だからこそ成立する、曲芸のような弾幕戦闘。
それが世闇を彩り、今も尚膠着状態を継続していた。
二人の技量に、大きな優劣の差はない。
個人戦力としての価値は機動力の分那須が上であろうが、元より二人はサポート型の戦闘員だ。
決定打は基本的に他者に任せた方が安定する以上、個人での決定力というものに欠ける面がある。
どちらかが守りをシールドに頼って固められればそのまま決着が付いたのだろうが、二人はお互いの弾幕を全て相殺するという頭のおかしい防御手段を用いている為一方が固められて押し込まれる、という事態にも至っていない。
技量が拮抗しているが故に、戦況が停滞している。
二人の戦いは、外部の横槍がない限りはこのまま膠着を継続するだろう。
(逆に言えば、どっかから横槍が入れば間違いなくケリがつく。問題は、それが高確率であちらからの横槍っつう事だな)
現在、自分たちの側に自由に動ける隊員はいない。
奈良坂に那須を狙わせるという手もあるが、そうなると嵐山と佐鳥の二人を
テレポーターを持つ二人は、一瞬で別の場所に移動出来る。
それに合わせて奈良坂もスイッチボックスで転移させるという手もあるが、先のダミービーコンの事を考えれば居場所を誤魔化される可能性がありリスクが高過ぎる。
スイッチボックスを用いた戦闘に慣れた当真が残っていればまた違ったのだが、それは今更だ。
(奈良坂は嵐山さん達の抑えで手一杯だし、それも完璧に抑えられるワケじゃない。射線の通らない場所をテレポーターを用いて転移し続ければ、時間はかかるだろうが目的の場所までの移動自体は可能だ)
問題は、彼らが何処に向かうか。
先ほどまでは高確率で三輪と七海の戦っている場所であると考えていたが、米屋が落ちた現状そうも言っていられなくなった。
三輪は確かに七海に対する有効な手札である鉛弾を所持しているが、時間稼ぎに置いて七海より優れた者はそうはいない。
七海が遅延戦術に徹すれば、援軍が到着するまで耐えきる事は可能だろうし────────なんなら、他の戦場の試合の決着が着くまで耐久するという選択肢さえある。
三輪を七海に任せて嵐山達を出水の所に送り込み、彼を片付けて那須を
(このまま撃ち合ってりゃあトリオンの差で俺が勝つけど、横槍が来る前にそうなるかは懸けだな。どーにも那須さんはトリオンを節約して戦ってるみたいだし、
トリオン量で言えば、出水は那須の二倍近く。
普通に撃ち合い続ければトリオン量の差で那須がトリオン切れで脱落するが、それを彼女が承知していない筈がない。
那須はこの戦闘では弾丸を普段より細かく分割し、威力を捨てて弾数を確保している。
トリオンの弾丸同士は、その威力に関係なく互いにぶつかれば弾体のカバーが外れ対消滅する。
その為、威力を切り捨てても相手の弾に当たりさえすれば相殺は可能。
那須はそれを利用して、トリオンキューブを極限まで細かく分割し、複数回に分けて撃つ事でトリオンを節約しているのだ。
無論倍程のトリオン差がある以上先にトリオン切れに陥るのは那須の方だが、この調子ではその前に横槍が入る可能性の方が高い。
(と言っても、那須さんを放置するなんざありえねーし。他を信じて、このまま撃ち合うしかねーのが辛いトコだな)
かといって、此処で那須との戦闘を放棄すれば確実に彼女は他の戦場を荒らしに行く。
どの場所であっても、那須の介入があった時点で詰みに近い。
彼女のバイパーは、盤面の操作においてこの上ない脅威と成り得るのだから。
(今更言ってもしゃーねーか。後は太刀川さん達に任せて、俺は那須さんが万が一にも
出水は改めて覚悟を決め、トリオンキューブを生成。
空を舞う少女と、弾幕戦を続行した。
戦いは、佳境。
決着の時は、近い。