痛みを識るもの   作:デスイーター

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B級ランク戦/ROUND3
Third round


「今回は基本的に合流を目指すわ。玲一は私と、くまちゃんは茜ちゃんと合流するように動きましょう」

 

 『那須隊』作戦室で、隊長の那須が皆の前でそう告げた。

 

 大方の作戦は那須邸で練って来ており、今しているのはその確認である。

 

「玲と七海が合流するのに異存はないわ。あたしと茜が合流を目指すと、ROUND2みたいに狙撃手を狩りに行く事は出来なくなるけど……」

「前回のあれで、くまちゃんの狙撃手狩りに関しては向こうも警戒してると思う。東さんは勿論、絵馬くんも一筋縄で行く相手じゃないわ」

「ま、そうだよね」

 

 言外に熊谷では実力不足だと言われているに等しいが、熊谷はそれを否定しなかった。

 

 攻撃手との斬り合いならそこそこ自信のある熊谷だが、相手が熟練の狙撃手と天才肌の狙撃手となると少々分が悪い。

 

 熊谷はトリオン能力はあまり高い方ではなく、機動力もそこまで高いワケではない。

 

 東と絵馬の相手をするのは、少々キツイものがあるだろう。

 

「それに、狙撃手狩りなら玲一がやれるわ。だからくまちゃんは無理をせず、茜ちゃんの護衛をして頂戴」

「了解。任された仕事はやり遂げるわ」

 

 那須の言葉に、熊谷は複雑な表情をしながらもそう頷いた。

 

 熊谷とて、分かっている。

 

 今回の試合、相手チームはほぼ全員が格上だ。

 

 唯一『東隊』の奥寺と小荒井は単独であればなんとか出来なくもないが、彼等はランク戦だと常に連携して動く。

 

 連携した二人の実力は、上位の攻撃手さえ食いかねない。

 

 七海も小荒井相手に個人ランク戦で10:0を決めた事はあるものの、当時はまだ小荒井はB級に上がったばかりであり、興味本位で挑んで来たのを一蹴しただけだ。

 

 あの時より確実に強くなっているだろうし、そもそも彼等の本領はその連携にある。

 

 個人技で上回っているからと言って、決して油断出来る相手ではないのだ。

 

 今回熊谷が相手をするとすれば、その小荒井・奥寺のコンビか、『二宮隊』の攻撃手、辻新之助(つじしんのすけ)だ。

 

 影浦の相手をするという選択もなくはないが、圧倒的な攻撃能力を持つ影浦に対し守備重視の熊谷はどうしたって不利になる。

 

 ()()()()()()()()くらいの気概を持てなければ、影浦には勝てない。

 

 それに、影浦の相手は七海が務める事になっている。

 

 実力や相性的にもそれが妥当であるし、何より七海本人が影浦と戦う事を強く希望している。

 

 七海にとっては、目標の一つであった影浦と大舞台で戦り合う初めての機会なのだ。

 

 その機会を奪うような無粋は、出来ればしたくなかったというのも本音である。

 

「茜ちゃんは今回も、援護に徹して貰うわ。狙撃タイミングはこっちで指示するから、その時はお願い」

 

 ただし、と那須は付け加える。

 

「影浦先輩だけは、狙撃しちゃ駄目よ。玲一と同じく、サイドエフェクトで狙撃を察知出来ちゃうから」

「はい、分かってます。問題ありませんっ!」

 

 茜の色良い返事に、那須は安堵の息を漏らす。

 

 影浦のサイドエフェクト、『感情受信体質』はその名の通り自分に向けられた相手の感情を察知する能力だ。

 

 当然、その感情の中には敵意────つまり()()()()も含まれる為、七海と同じく狙撃も不意打ちも通用しない。

 

 彼に狙撃をしたところで、当然の如く避けられて狙撃手を狩られるだけだ。

 

「影浦先輩のサイドエフェクトは、玲一のそれとかなり似てるわ。だから、強みや弱点も殆ど一緒よ。その点を考慮して動いてね」

「ええ」

「了解ですっ!」

 

 那須の確認に熊谷と茜の二人が同意し、七海もこくりと頷いた。

 

 七海と影浦のサイドエフェクトは、戦闘に用いる場合の利点や欠点は非常に似通っている。

 

 その為、七海への対策はそのまま影浦の対策に繋がる事が多い。

 

 もっとも、七海に言わせて貰えば影浦のサイドエフェクトと自分のそれとはかなりの違いがあるのだが。

 

「付け加えるなら、カゲさんは俺と違って攻撃しようか迷った段階でもそれを察知しかねないから、迂闊にカゲさんに注意を向けない方が良い。細かい所で、俺のサイドエフェクトとは違うからな」

「ええ、分かったわ。茜ちゃん、出来る?」

「はいっ、気を付けますっ!」

 

 茜は元気良くそう返答し、七海と那須はこくりと頷いた。

 

「あとは、『東隊』がどのMAPを選んで来るかね。過去のログだと、あまり凝ったMAPは選ばないみたいだけど……」

 

 

 

 

「MAPは『市街地B』。これでいいんだな?」

「はい、それで行きたいと思います」

 

 『東隊』作戦室で、東は奥寺に選択MAPを確認した。

 

 奥寺と小荒井が話し合って決めたのは、『市街地B』。

 

 高い建物と低い建物が混在し、場所によっては射線が通り難いMAPである。

 

「最初は、東さんが得意な『展示場』ステージにしようかとも思ったんですが……」

「『展示場』ステージは障害物が多くて構造が複雑な分、那須先輩や七海先輩にとっても有利なステージですからね」

 

 そう、東が得意とする『展示場』ステージは、同時に『那須隊』が得意とするステージでもある。

 

 『那須隊』は七海と那須という、三次元機動を得意とする隊員が二人いる。

 

 障害物だらけの『展示場』ステージでは、二人に縦横無尽に跳び回られてまともに戦えるかどうかも怪しい。

 

 特に、小荒井は個人戦で七海と戦った経験がある。

 

 あの三次元機動を直に体験した身からすれば、()()の多い場所で彼と戦り合うのは勘弁願いたかった。

 

「実際、前期までの『那須隊』は『河川敷』ステージと『展示場』ステージを選ぶ事が多かったからね。その懸念は間違っていないと思うよ」

 

 二人の意見を肯定したのは、『東隊』オペレーターの人見摩子(ひとみまこ)

 

 東の指導の下成長していく二人を温かく見守る、姉のような存在である。

 

 摩子に褒められた奥寺は若干頬を赤く染めるが、本当に一瞬だった為他の者が気付く様子はない。

 

 気付いたら真っ先に口に出しそうな小荒井が気付いてないのも、僥倖と言える。

 

「…………はい、ですからなるべく二人に足場を与えたくないので、『市街地』MAPを選ぶ事にしました。相手が『那須隊』だけなら、『市街地A』でも良かったんですが……」

「『二宮隊』や『影浦隊』相手に、地力勝負の『市街地A』じゃきついと思って『市街地B』の方にしたんす」

「ふむ、成る程」

 

 確かに二人の言う通り、単純に『那須隊』の対策をするだけであれば特徴のないオーソドックスなMAPである『市街地A』を選ぶ事は間違いではない。

 

 だが、今回の相手には『二宮隊』や『影浦隊』もいるのだ。

 

 完全な地力勝負になると、東はともかく奥寺と小荒井は各個撃破の可能性が出て来てしまう。

 

 彼等二人は連携すれば上位の攻撃手さえ食いかねないが、逆に言えば単独だと上位陣の相手は荷が重い。

 

 連携特化の立ち回りであるが故に、七海や那須のように単独で相手を圧倒出来るタイプではないのだ。

 

 それを考えると、地力勝負になり易い『市街地A』は危険である。

 

 二人は、そう判断を下したのだ。

 

「二人の意見は分かった。MAPの天候設定も弄れるが、それはどうする?」

「俺は別に、そのままでもいいと思うんですが……」

「でも、折角弄れるんだし弄りたいっすよねー。『那須隊』もROUND1じゃ地形戦仕掛けて圧勝してますし、俺等もなんかやりたいなーって」

 

 小荒井は以前に見たROUND1の『那須隊』の戦いを思い出しながら、そうぼやいた。

 

 それに厳しい視線を向けるのは、当然奥寺である。

 

「お前なー、やりたいからってだけで天候条件弄るのはどうなんだ? それで不利になったらどうする?」

「でもよー、今まだって中々『二宮隊』や『影浦隊』相手に良い戦績取れてないだろー? それだったらここらで一発、天候設定で仕掛けてみるのもアリじゃねえか?」

 

 慎重派の奥寺とノリ重視の小荒井の意見が、俄かに衝突する。

 

 摩子がすかさず仲裁に入ろうとするが、そこで東が口を出した。

 

「ふむ、何か考えがあるのなら弄ってみてもいいぞ。ただ、ちゃんと理由は考えろよ」

「はいっ!」

「ったく、ちゃんとした理由はあるんだろうな?」

 

 東の言葉に我が意を得たりとばかりに小荒井は顔を輝かせ、奥寺はそんな彼を見て溜め息をついた。

 

 小荒井はえっとですね、と前置きして話し始めた。

 

「ROUND1の『那須隊』が仕掛けた天候を見た時に、ちらっと思いついた事なんすけど……」

 

 そして彼は、希望する『天候』を告げた。

 

 

 

 

「やって参りましたB級ランク戦ROUND3。今回の実況は私、『嵐山隊』オペレーター綾辻遥(あやつじはるか)が担当させて頂きます」

 

 ランク戦ROUND3の当日、ランク戦の会場に元気の良い声を響かせたのは容姿端麗な落ち着いた雰囲気の少女、綾辻。

 

 子供番組のお姉さんのような親しみ易い雰囲気の少女であり、『ボーダー』内での人気を那須と二分する存在でもある。

 

「解説には『加古隊』の加古隊長と、『冬島隊』の当真隊員にお越し頂きました」

「よろしくね」

「おう、よろしくな」

 

 解説席に座るのは加古と、リーゼント頭が特徴的な男性、当真勇(とうまいさみ)

 

 どちらも個性豊かな隊員であり、加古はそのモデルのような美貌と自由奔放な振る舞いで、当真はNO1狙撃手という肩書きで有名である。

 

 双方共に規律や常識より自分の考えを優先させる自由人であり、取り扱いを間違うとカオスな事になるだろう。

 

 まあ、芸術以外はそつなくこなす綾辻であれば大丈夫ではありそうだが。

 

「では、前回の結果を踏まえた現時点での暫定順位はこちらになります」

 

 綾辻は機器を操作し、画面に前回からの得点と順位の移り変わりを表示する。

 

 1位:『二宮隊』19Pt→23Pt

 2位:『影浦隊』17Pt→21Pt

 3位:『生駒隊』16Pt→19Pt

 4位:『弓場隊』15Pt→18Pt

 5位:『那須隊』10Pt→18Pt 

 6位:『王子隊』13Pt→15Pt

 7位:『東隊』13Pt→15Pt

 

「見ての通り、ROUND2で8得点という大量得点を挙げた『那須隊』がB級上位へと繰り上がり、『香取隊』が入れ替わりで中位へ落ちています。矢張り、ROUND1から快進撃を続ける『那須隊』の存在が目立ちますね」

「そうね。七海くんが加入した以上、当然の結果ではあるけれど。彼の相手は、中位の子達には荷が重いわ」

 

 奇しくも以前二宮が告げたのと同じ評価を口にする加古に、当真も口を出した。

 

「そうだなー。七海にゃ狙撃は効果が薄いっつー話だし、あの機動はやべーからな。動きの質だけ見りゃ、A級クラスっつっても問題ねーだろーぜ」

「判断も的確で、相手の弱点を容赦なく突くクレバーさもあるしね。戦闘員としての意識に関しても、相当高いと思うわよ」

 

 当真と加古は、そう言って口々に七海を称賛する。

 

 それを聞いていた綾辻は、ふむ、と頬に手を当てた。

 

「では、今回もまた七海隊員が台風の目になるという事ですか?」

「いや、それはどーだろーな。これまでと今回とじゃ、色々と状況が違えからな」

 

 当真はそう言いつつ、口元に笑みを浮かべた。

 

「幾ら七海でも、二宮の相手はきちーだろ。あの雨のような弾幕は、避ける隙間なんかねーからな」

「二宮くんが好きなゴリ押し戦法は、七海とは相性が良いからねえ。馬鹿の一つ覚えみたいに力押しで来るだけで、七海くんとしては相当辛いと思うわ」

 

 今回の相手には、NO1射手の二宮がいる。

 

 彼の豊富なトリオンから放たれる絨毯爆撃は、七海にとっては脅威そのものだ。

 

 幾ら回避に特化しているとはいえ、そもそも()()()()()()()()()がなければどうしようもない。

 

 トリオン量でも七海を上回っている以上、シールドの強度も過信出来ない。

 

 あらゆる意味で、七海にとって戦い難い相手と言える。

 

「それに、今回はユズルと東さんもいるからな。幾ら七海に狙撃が()()()()とはいえ、あの二人相手じゃ安心なんか出来ねーぞ。特に、東さんはな」

 

 勿論ユズルもだけどよ、と当真は付け加える。

 

「東さんは単純な経験値と戦術眼がやべーし、ユズルもなんだかんだ立ち回りがうめーからな。自分の回避能力を過信してっと、痛い目見る事になるだろーぜ」

「成る程、矢張りB級上位陣の壁は厚いという事ですか」

「まあ、それでも抵抗の余地がないってワケじゃないけど…………厳しい戦いである事は、変わりないわね」

 

 それに、と加古は続ける。

 

「今回は影浦くんもいるから、茜も迂闊に狙撃は出来ないと思うしね。下手に狙撃すれば、彼に察知されちゃうから」

「影浦隊長も、狙撃が効きませんからね。そういう意味では、各々の狙撃手な慎重な立ち回りを求められるという事ですね」

 

 さて、と綾辻は話を切り上げ、己が職務を遂行する。

 

「では、B級ランク戦ROUND3。各部隊、転送開始です」

 

 綾辻の宣言と共に、四つの部隊が仮想空間へ転送されていく。

 

 B級ランク戦、その三回戦目。

 

 誰にとっても転機となる一戦が、開始された。

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