痛みを識るもの   作:デスイーター

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ラービット②

 

「あれが新型か。菊地原、どうだ?」

「かなり装甲が厚いですね。特に厚いのは両腕で、次いで頭蓋(アタマ)と背中も堅そうです。あと、頭部に弾丸が当たった時に反響音が変だったので、窪みかなんかありますね。多分、何か武器仕込まれてます」

 

 風間に促され、菊地原は流暢に自身の副作用(サイドエフェクト)で得た情報を開示していく。

 

 菊地原の副作用(サイドエフェクト)、強化聴覚は効果範囲はそこまで広いワケではないが、その聴き分けの精度は非常に高い。

 

 今の情報も、風間隊の戦闘の最中でラービットに弾丸が当たった時の反響音等を測定し、得られたものだろう。

 

「おい待て風間、テメェ俺等が戦うのを近くで見てやがったな」

 

 だがそれは、菊地原が近くで聞き耳を立てていた事に他ならない。

 

 その事に気付いた諏訪は風間を問い詰めるが、腐れ縁の青年は特に悪びれる様子もなく肩を竦めた。

 

「人聞きが悪いな。俺は単に、効率的に新型を仕留める為に動いているだけだ。万が一が起きないよう、いつでも飛び出せるようにはしていたしな」

「やっぱ近くにいたんじゃねぇかよ。ったく、性格悪ィなマジで」

 

 諏訪は風間の予想通りの返答に悪態をつくが、本気で怒っているワケではない。

 

 新型トリオン兵は存在自体は知っていても、その戦力や能力については未知だ。

 

 故に、効率的に撃破する為には情報収集は必須。

 

 そして、菊地原程その手の情報収集に長けた人材はいない。

 

 ならばまずは諏訪隊に戦わせ、最低限の情報を得てから戦うのは戦術上なんらおかしな事ではない。

 

 何せ、相手はA級ですら数人がかりでなければ厳しいと言われている未知のトリオン兵。

 

 慎重を期するのは、当然の事と言える。

 

 それに、あくまで斥候を務めて貰っただけで見捨てる気は欠片もなかった事くらい腐れ縁の諏訪はとうの昔に気付いている。

 

 ある程度様子見をしたのは確かだろうが、それでも彼等を見捨てるつもりであるならば他にやりようがあった筈だ。

 

 それをしなかった以上、リスクヘッジはしっかりやっていたのだろう。

 

 風間はそのあたりの計算は出来る男である事を、諏訪は知っていた。

 

「それから、距離を詰めずに旋空を選ぼうとしたのは良い判断だったぞ笹森。恐らく、取り付いていれば頭部の仕込み武器でやられていただろうからな」

「は、はい。ありがとうございます」

 

 加えて、風間は見た目通りの冷血人間ではない。

 

 歯に衣を着せない為冷たい人間に見られがちだが、フォロー出来る場面があればしっかり行う。

 

 叱るべき時は叱り、褒めるべき時は褒める。

 

 そういう配慮が出来るからこそ多くの人間に慕われているのであり、諏訪自身も口では悪態を吐きつつも風間の事は嫌いではない。

 

 憎まれ口を叩きつつも、互いの事は信頼している。

 

 それが、悪友というものなのだから。

 

(ROUND1の時の経験があって良かった。あれがなきゃ、突っ込んでたかも)

 

 称賛された笹森は、ROUND1で那須隊と戦った時に熊谷に落とされた時の事を思い返していた。

 

 あの時、狙撃手である茜を狙っていた笹森は彼女の近くに潜んでいた熊谷によって虚を突かれ、敗退した。

 

 その経験が笹森に慎重さを学ばせる結果となり、接近して取りつくのではなく距離を保っての旋空での攻撃を選択させた。

 

 結果的に攻撃は失敗に終わったものの、迂闊に踏み込まなかった事で風間の救援が間に合ったと思えば悪くはない。

 

 力不足なりに風間隊に貢献出来たのであれば、それで良しとするべきだと笹森は自分を納得させた。

 

 それを見て、風間は満足そうに頷く。

 

 こういう物わかりの良い相手は、嫌いではない。

 

 諏訪や菊地原といった口の悪い相手と話すのも刺激があって悪くはないが、こういう素直さは一種の清涼剤となるので良いものなのだ。

 

 まあ、それを口に出さないあたりが風間が風間たる所以ではあるのだが。

 

「諏訪、ここは俺達が引き受ける。お前達は他のトリオン兵の駆除を続行しろ。理由は言わなくても分かるな?」

「はいはい、適材適所ってやつだろ。わーってるよ」

 

 確かにショットガンによる面制圧がメインである諏訪隊では、装甲の厚いラービットの相手は適さない。

 

 それならば、他所へ向かい通常のトリオン兵の駆除に当たった方が効率的だ。

 

 言うまでもなくそれは理解しているので、諏訪の側に文句はない。

 

 諏訪は笹森達に号令をかけ、すぐさま移動を始めた。

 

 そして、風間の横を通り過ぎる刹那。

 

 諏訪は足を止め、振り返らずに告げた。

 

「風間、しくじんなよ」

「心配ない。誰に言っているつもりだ」

「ならいい。じゃあ、俺等は行くからな」

「さっさと行け。自分の仕事をしろ」

 

 短いやり取り。

 

 それだけで互いへの激励(エール)を済ませ、二人は別れた。

 

 風間は改めてラービットに向き直り、スコーピオンを構える。

 

「さて、始めるか。あの耳がセンサーになっている以上、カメレオンは効果が薄い。隠密(ステルス)は無しでいくぞ。突進には注意しろ」

「了解しました」

「了解」

 

 三人はそれぞれ距離を取り、刃を構えた。

 

 風間は注意深くラービットの動向を見据えながら、告げる。

 

新型(ウサギ)退治は、A級部隊(おれたち)の仕事だ。早々に、任務を果たさせて貰おう」

 

 

 

 

「やべぇやべぇ、あいつ早過ぎる…………っ!」

「無駄口叩くな、撃ち続けろ…………っ!」

 

 小荒井と奥寺は、突如現れたラービット相手に距離を取って防戦を続けていた。

 

 様子見で撃ったハウンドが一切のダメージを与える事なく弾かれた時点で、これは自分達だけで勝てる相手ではないと判断し完全な防戦へ切り替えたのだ。

 

 グラスホッパーで逃げ回りつつ、ハウンドで弾幕を張り時として旋空を撃つ。

 

 この繰り返しである程度の距離を保ちつつラービット相手に時間稼ぎを行う事に成功していたが、それも限界が見えつつあった。

 

 まず、ラービットのスピードそれ自体がとんでもなく速い。

 

 奥寺も一度その速度を振り切れず、ラービットの剛腕で吹き飛ばされている。

 

 小荒井はその際即座に奥寺との合流を優先し、単独でラービットに立ち向かう愚は冒さなかった。

 

 その甲斐あってなんとかこれまで防戦出来てはいるものの、その成果は極限の集中状態あっての代物だ。

 

 トリオンと精神力は無限ではない以上、いずれ何処かでガタが来る。

 

 それを実感していた、その刹那。

 

「────────アステロイド」

 

 突如飛来した無数の弾丸が、ラービットに叩き込まれた。

 

 その弾丸は、傷一つ付ける事なく弾かれた奥寺達のハウンドとは異なりラービットの装甲に凹みを作る事に成功していた。

 

 流石に、その攻撃をまともに食らうワケにはいかないと判断したのだろう。

 

 ラービットは両腕で頭部をガードして動きを止め、その隙に奥寺達は距離を取る事に成功した。

 

「す、すみません。これが限界でした」

「構わん。充分データは取れた。風間隊からの情報共有もある。お前達は予定通り、他のトリオン兵の駆除に向かえ」

「はいっ!」

 

 その弾丸を撃った人間────────────────二宮はそう言って彼なりに二人を労うと、奥寺達を送り出し、改めてラービットに向き直った。

 

「アステロイドだけでは装甲の突破は難しそうだな。犬飼、辻、合成弾で仕留める。時間を稼げ」

「犬飼了解」

「辻了解」

 

 二宮の指令を受けた犬飼と辻はそれぞれアサルトライフルと弧月を構え、ラービットに対峙した。

 

 その佇まいに、不安はない。

 

 射手の王は新型トリオン兵(ラービット)と向き合い、傲岸にその姿を睨みつけた。

 

「二宮隊、現着した。新型トリオン兵の駆除を開始する」

 

 

 

 

「嵐山隊、現着した。この場を弓場隊より引き継ぎ、新型トリオン兵の駆除を開始する」

 

 東の戦場。

 

 そこでは現場に到着した嵐山隊が、弓場隊からこの場のラービットの対処を引き継いでいた。

 

 風間のように様子見を経る事なく救援に訪れた嵐山は、即座に弓場隊に代わりこの場を引き受ける事を申し出た。

 

 思う所がないでもなかった弓場ではあるが、「油断す(ミス)んなよ嵐山ァ!」と激励してこの場を彼等に任せた。

 

 神田を欠いた弓場隊(かれら)では、ラービットの相手は荷が重いと見た事もあるのだろう。

 

 だがそれ以上に、弓場達にはこの場での戦闘に拘泥するよりも他の戦場に赴きトリオン兵を一匹でも多く駆除した方が全体の貢献になるという冷静な判断もあった。

 

 1対1(タイマン)好きな弓場ではあるが、本物の戦場で自分の意地を優先する程愚かではない。

 

 これがもう後が無い背水の陣であったのならばともかく、他にやるべき事があるのであれば意地を張る理由はない。

 

 嵐山達なら大丈夫だろうという信頼もあり、弓場は即座にこの場を後にしたのだ。

 

 友人(ダチ)を信じられない程、弓場は狭量な人間ではないのだから。

 

 嵐山は強面の友人の背を見送ると、隊員と共にラービットと対峙した。

 

「木虎、俺達が隙を作るからそこを叩け。けれど、無理をする必要はない。堅実にいこう」

「了解しました。焦りは禁物、ですね」

 

 木虎の返答に嵐山は頷き、改めてラービットに向き直る。

 

 そして、鋭い視線でその敵影を射抜いた。

 

「時間をかけ過ぎるワケにはいかないが、落ち着いていこう。まずは、確実にこいつを倒す事が肝要だからね」

 

 

 

 

「来てくれたか、カゲ」

「おう、来てやったぜ」

 

 南の戦場。

 

 そこへ到着した援軍は、影浦隊だった。

 

 来馬を守りながらラービットと戦っていた村上だったが、銃撃が一切効かない相手というのは中々に厄介だった。

 

 ランク戦では来馬の両攻撃(フルアタック)解禁で中距離戦に対応出来るようになった鈴鳴第一であるが、この陣形(フォーメーション)は銃撃が相手にとっての脅威になる事が大前提だ。

 

 どんな銃撃も構わず突撃して来るラービット相手では、有効とは言い難い。

 

 来馬に犬飼レベルの技術があれば話は別だろうが、技術面において彼はそう突出したものは持たない。

 

 トリオンも6と並程度の来馬では、ラービットにとっての脅威となる事は難しかった。

 

 実質一人で来馬を庇いながら戦うのは幾ら村上といえども困難であり、その窮地に駆けつけたのが好敵手にして親友の影浦だ。

 

 影浦は連れて来た北添と共に威風堂々ラービットの前に立ち塞がりながら、ニヤリと凶悪な笑みを浮かべた。

 

「こいつは俺等が狩る。おめーはさっさと、他の雑魚共ぶった斬って来やがれ」

「ああ、此処は任せたぞ。カゲ」

 

 村上の返答にフン、と鼻を鳴らす影浦だが、その頬は僅かに紅潮している。

 

 他人の好意に慣れていない影浦にとって、村上から刺さる純粋な感謝と信頼の感情が照れ臭いのだろう。

 

 口は悪いが、根は善良で世話焼きなのが影浦という少年なのだ。

 

 悪意への対処は慣れたものだが、こういった善意には弱いのである。

 

『カゲ、照れてんのかー?』

「うっせ。さっさと情報寄越せ、ヒカリ」

『はいはいっと。おめーらはホントーにアタシがいねーと駄目だかんなー』

 

 茶々を入れて来る(オペレーター)をあしらいつつ、影浦はラービットへ向き直る。

 

 初めて見る未知のトリオン兵ではあるが、恐れはない。

 

 既に菊地原の得た情報は風間を通して全部隊に通知済みであり、狙いどころは分かっている。

 

 トリオン兵は感情を持たない為影浦の副作用(サイドエフェクト)は使えないが、その程度で臆する彼ではない。

 

 好戦的な笑みを浮かべ、影浦は一歩前へと出た。

 

「オラ、かかって来いウサギ野郎。まずはテメーを、ズタズタにしてやっからよ」

 

 

 

 

「A級部隊、及びA級相当の部隊、新型の出現場所に到着。交戦を開始しました」

「よし、作戦通り新型の対処は彼等に任せてB級部隊は通常のトリオン兵の駆除に向かわせろ。再び新型が現れた折には、適宜指示を下す」

「了解しました」

 

 現場の状況を沢村から報告され、忍田は再び指示を飛ばす。

 

 その様子に、焦りや恐れはない。

 

 最初から、これが作戦だったのだ。

 

 まずはB級部隊を現場に向かわせ、通常のトリオン兵の駆除に当たらせる。

 

 そして、新型が出て来た場合は待機させていたA級部隊及びA級相当の扱いの部隊を投入し、その対処に当たらせる。

 

 こうする事でB級部隊は通常のトリオン兵の排除に専念する事が出来る為、前線に穴が空く事もない。

 

 ラービットの存在を予め知っていたからこそ出来た作戦であり、遊真とレプリカには感謝してもしきれない。

 

 ともあれ、彼等ならばラービット相手でも充分戦り合えるだろう。

 

 レプリカの情報によればA級単独でも厳しいとの話だったが、それならばそれでA級()()で相手をすれば良いだけの話だ。

 

(ここまでは順調。だが、まだ例の特殊個体や人型近界民(ネイバー)は出て来ていない。まだまだ、油断は出来ないな)

 

 忍田は改めてモニターを睨み、頷く。

 

 戦争は、まだ序盤。

 

 激しくなるのは、まだこれからだ。

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