「そろそろ目標地点に着く。そちらの準備は出来たかい?」
『こちら王子隊、配置に着きました』
『同じく香取隊、配置に着いたわ』
『荒船隊。いつでもいけます』
嵐山の号令に、各隊の隊長が応答する。
現在、嵐山達はランバネインの追撃を躱しながら作戦地点へ向かっていた。
これまで、彼等は荒船隊の狙撃援護もあって何とか敵の猛攻を凌いで来たが、流石にそろそろ限界だ。
狙撃による牽制も、一撃離脱をしなければ即死する以上そこまでアテにし続けるワケにはいかない。
なればこそ、彼等はこの先にある旧三門市立大学で勝負をかけるつもりだった。
既に、必要な人員には声をかけてある。
集められた人員は嵐山隊を除き全員がB級部隊だが、人選は迅に助言を受けたのでこの判断が間違っているとは思っていない。
(今までに得た情報なら、この作戦で行けるだろう。だが、敵の戦力の上限があれだけとは思えない。場合によっては、中途の作戦変更も考慮に入れなければならないな)
無論、だからといってこれで全部巧くいく、などという思考停止に陥ってはいない。
迅の助言を受けたからには、現在この場に集められるメンバーはこれが最善の筈だ。
だからといって、人員を集めただけで勝てるような容易い敵では断じて無い。
迅の未来視はあくまでも可能性の高い未来を視るものであり、
未来視が可能とするのは、あくまでも
思考停止に陥って雑に戦うようでは、望んだ
この戦いは、迅にとって重要な戦いであると聞いている。
彼の求める、最善の未来。
そこに辿り着く為の、最大の分岐点。
それが、この第二次大規模侵攻であるのだと。
勿論、そうでなくとも街を守るのは
全力で戦う事に否はないし、元より手を抜くつもりなど一切ない。
だが、普段よりモチベーションが高まっているのは事実である。
嵐山はどんな仕事であれ自分の正義に則るものであれば実行に躊躇はなく、大抵の事で動揺する事はない。
どんな状況でも、如何なるコンディションでも、安定して
それが、嵐山准という駒の持つ性質である。
彼に近しい柿崎等はその突き抜けた精神性に異様なものを感じてはいたが、だからといって嵐山が友達想いの
嵐山は普段から全力で頑張れる人間だが、大切な友人の為となれば限界を超えて奮起出来る勇士でもあるのだ。
特に今回は、これまで人を頼る事のなかった迅から頼られたという事実があり、その為彼のやる気は天元突破の域に達している。
そしてそれは、隊の仲間からすれば瞭然だった。
普段通りの爽やかな笑みを浮かべているように見えるがその眼は闘志で爛々と輝いているし、銃を握る腕にもいつもより力が籠もっている。
やる気になって空回りしている、のではない。
逆だ。
燃え上がる意思を身体全体にフィードバックさせて、思考はこれ以上なく効率的に、怜悧なものに組み上げている。
彼は熱くなったからといって、冷静さを失う事はない。
嵐山は熱くなれば成る程思考は冴え渡り、些細な変化も見逃さずに頭を回転させる。
言うなれば、全ての
そんな嵐山だからこそ、嵐山隊の面々は迷いなく彼に従うのだ。
どれだけ熱くなっても、どれだけ困難な状況にあっても。
彼ならば、最善の道を選び取れると。
そう、信じているからだ。
無論、今回の敵の脅威度は充分に身を以て思い知っている。
イーグレットを超える威力の弾丸を全方位に連射する、飛行能力すら持った人型
これまで戦ったどんな相手よりも強敵である事は、確かだ。
だがそれは、勝ち目がないという事とイコールしない。
どんな相手であっても、
如何なる強者であろうとも全てが完璧である筈はなく、どれだけ隙がないように見えてもそれは同じだ。
隙がないなら、作れば良い。
簡単な、そして困難な話だ。
しかし、関係ない。
やると決めたからには、完遂する。
それが。
この戦場に赴いた、嵐山の確たる意思なのだから。
「作戦開始だ。敵が動くのを待って、仕掛けるぞ」
(さて、敵の目論見に乗ってやったが────────────────果たして、如何なる罠を仕掛けているのか)
ランバネインは建物の敷地内に入る赤い制服の敵を見据え、油断なく周囲に警戒を張り巡らせた。
これが彼等の誘導である事は、百も承知。
報告にあった転移をすれば逃げ切れるかもしれないにも関わらず此処まで戦闘を継続させつつ移動して来たという事は、向こうは自分をこの場へ誘き寄せたかったに違いない。
事実、この場所は先程までの住宅街よりはやり難い環境だ。
あの大きな建物────────────────造形からして、恐らく教育施設の類なのだろうが、あれが射線を遮っている。
無論、破壊する事は可能だ。
勿論、そんな非効率的な真似はしない。
可能である事と、実行に移せるか否かは別の話だ。
成る程、確かに雷の羽を連射し続ければ建造物を吹き飛ばす事は可能だろう。
しかし、トリガー
いざとなれば剣による近接戦闘が可能なヴィザの星の杖と異なり、ランバネインの攻撃手段はあくまでも
射撃も、そして飛行能力もトリオンを用いるものである。
建物の破壊に拘って無駄にトリオンを浪費するのは、効率が悪過ぎる。
そも、ランバネインは此処を死地とするつもりもない。
彼等を撃破し次第、次の戦場に赴いて暴れるつもりなのだ。
自分の役割は、敵の兵士を一人でも多く殲滅する事。
その為に、此処で無用な浪費をするワケにはいかない。
取得情報から敵の策を読み、自分の持ち得る手札で隙をなくし地力で押し潰す。
それが、ランバネインの戦い方。
見た目とは裏腹の、理詰めの戦闘方式。
高い地力を押し付ける為の戦術を組み上げる、アフトクラトルの知将にして猛将。
砲兵ランバネインの、
(さて、まずはあの女から狙うか────────────────恐らく、単騎での戦闘能力はあいつが一番高い)
ランバネインは敷地内に入る少女、木虎を見据え獰猛な笑みを浮かべる。
これまでの動きを見る限り、最もキレがあるのがあの少女だ。
恐らく、現在相対しているチームのエースとして間違いない。
指揮官はあの面貌の整った男だろうが、チームの中心戦力は間違いなく彼女。
ならばまず、そこから崩す。
突出した戦力が敵部隊にいる場合、そこから狙うのがランバネインの常道だ。
最精鋭を欠いたチームは、隙が生まれ易い。
エースを擁するチームというのは、基本的にそのエースを中心に戦術を組み上げるものだ。
それが最も効率的な戦闘方法であり、ランバネインが部隊を率いるとしても条件が同一なら同じ方法を取るだろう。
だが、そのエースが突出して強ければ強い程、それが失われた時の
エースを中心とした戦術というのは、極論そのエースの為に他の隊員が露払いの為のパーツとなるという事だ。
何を犠牲にしてでも、エースの暴れる環境を作りそれを支援する。
それが強力なエースを擁するチームの最適な戦闘方法であり、効率的なやり方だ。
しかし、エースの存在を前提とする以上それが敗れた時は一気に崩れ易くなるのである。
何せ、エースの為に積み上げたものが撃破と共に全て無為となるのだ。
失われるリソースは、文字通り補填が効かない。
だからこそ、エースから狙う。
無論それはエースを仕留められるだけの実力あっての話であり、実際はそこまで巧く行く事は稀だ。
ランバネインが、尋常な兵士であったのであれば。
アフトクラトルの強化トリガーで武装したランバネインは、文字通りの一騎当千の猛者だ。
大抵の相手は地力で圧倒出来るし、頭も充分以上に回る。
故にこそ、彼はエースを最優先で狙い撃つ。
敵の要を崩し、散り散りになった残敵を容赦なく蹂躙する。
これまで数多の戦場で殲滅を行ってきた、ランバネインの脅威。
それを、最大限発揮出来る方法であるが故に。
見たところ彼女と他の隊員の差はそこまで突出しているワケではないが、少女を中心として戦術を組み上げる部隊である事に違いはない筈だ。
とはいえ、少女の機動力・回避能力は高い。
建物を利用した三次元機動で、これまで幾度もランバネインの射撃から逃げ果せているのがその証拠だ。
ランバネインの射撃は威力は高いが直進しか出来ず、発射角度を変える事は出来ても敵を自動的に追尾するような機能は存在しない。
少なくとも、ランバネインが照準していない場所に弾丸が飛ぶ事はない。
だからこそ、少女は建物を利用した三次元機動で辛くもランバネインの射撃を避け続けていた。
「だが、これならどうかな」
そこで、ランバネインが取った行動は。
上空への、
これまで避け続けて来た、飛行能力を用いた制空権の奪取である。
確かに、これならば多少避けようが関係は無い。
標的のいる近辺を掃射すれば、それでカタがつく。
だがそれは。
「飛んだ。チャンス」
狙撃手にとって、絶好の獲物として躍り出る事と同義だ。
近くで待機していた半崎は、スイッチボックスを用いて狙撃ポイントまで転移。
正確無比な弾丸を撃ち放つその技巧を以て、標的を見据え────────────────。
「え…………?」
────────────────その刹那、まるで彼の位置が分かっていたかのように飛んできた弾丸の雨を受け、半崎は引き金を引く前に吹き飛ばされた。
『戦闘体活動限界、
機械音声と共に、半崎の緊急脱出システムが作動。
トリオン体の崩壊と共に、彼は基地へ向かって転送された。
「どうやら、当たりだったようだな。これでまずは一人、か」
ランバネインは狙撃手の潜んでいた建物から光の柱が上った事を確認し、笑みを浮かべた。
何故、狙撃を行う前にランバネインが半崎の場所を知る事が出来たのか。
ただ彼は、狙撃手の
ランバネインは砲兵であるが故に、戦場に置ける
だからこそ、分かるのだ。
今、自分のいる場所を狙うのであれば
上空に飛んだのは、エースの少女を狙う為ではない。
そう見せかけ、自分を狙う狙撃手を狙撃位置へと出て来させる為だ。
確かに、エースを欠いたチームは脆い。
これまでもランバネインは真っ先にエースを潰す戦法で幾度となく死線を潜り抜けて来たし、それが彼の基本戦術である事は変わらない。
しかしそれは、エースを狩る上で何の障害も無かった場合の話だ。
足止め、露払い程度のサポートであればランバネインは意にも介さない。
だが、撃つと同時に転移し居場所が分かった矢先に逃走する狙撃手というのは、決して無視出来る脅威ではない。
これまで一度も有効打を受けていないランバネインであるが、幾人もの狙撃手に狙われ続けるという環境は処理能力への負担が大きい。
だからこそ、まずは厄介な狙撃手から潰していく。
それがランバネインの脳が導き出した最適解であり、事実その選択によって敵の狙撃手を一人落とす事に成功した。
ランバネインの見立てでは、残る狙撃手は二名。
だが、こうして一人狙撃手を屠ってみせた事で現段階で姿を晒す事は避ける筈だ。
「さて、次はお前だ」
故に、此処で妨害を受ける可能性は低いとランバネインは判断した。
高度は維持したまま、砲門を少女のいる方角へ向ける。
此処で我慢しきれず狙撃手が出て来るようなら、そちらから狙う。
見過ごすようなら、このまま斉射によって少女を仕留める。
どちらを選んだとしても、一人は落とせる。
ランバネインとしては、そのどちらでも良い。
狙撃手を一人減らせるならこの先が楽になるし、少女を落とせるならそれに越した事はない。
「────────!」
少女は狙撃手が落ちた事に動揺しているのか、眼を見開いている。
才能は溢れているようだが、まだ若い為か。
この程度で隙を晒すようでは、話にならない。
僅かな失望と共に、ランバネインは狙いを定めた。