痛みを識るもの   作:デスイーター

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雷の羽④

 

「────────!」

 

 校舎内の戦闘。

 

 最初に動いたのは、王子だった。

 

 王子は、近くにあった消火器を蹴り飛ばし、弧月で両断。

 

 破砕された消火器から、内容物が煙のように噴出する。

 

「煙幕か…………!」

 

 消火器は密閉された閉所で使えば、視界を遮ってしまう。

 

 それを知識として知っていた王子は、消火器を煙幕発生装置として使用した。

 

 白い煙で満たされ、視界が覆われる。

 

 その、瞬間。

 

「────────!」

 

 煙の向こう側から、王子のハウンドが炸裂した。

 

 それを直前に気付いたランバネインは、シールドを用いて防御。

 

 王子の弾丸は、その全てがシールドによって防がれた。

 

「────────」

「む…………!」

 

 だが。

 

 ランバネインがシールドを展開した、その刹那。

 

 後方から駆け抜けた小柄な影が、ランバネインの右足を両断した。

 

 それを成したの少女の名は、木虎藍。

 

 嵐山隊の万能手であり、エース。

 

 自らをエリートと呼称する事で鼓舞して戦う、一人の戦士である。

 

 彼女はその機動力を用いて、王子が接敵した段階で攻撃の隙を狙うべく待ち構えていた。

 

 木虎の真価は開けた場所よりも、こういった閉所でこそ発揮される。

 

 だからこそ、ランバネインをこの校舎内に誘い込む事は作戦の第一条件だった。

 

 足を斬った以上、敵の機動力は死んだも同然────────────────但し。

 

 ランバネインの場合は、トリガーに付与された飛行能力がある。

 

 故に、足を切断したところで向こうの機動力は削ぎ切れない。

 

(足をやられたか。この場所では不利だな)

 

 されど、無意味ではない。

 

 ランバネインの得意とする戦場は、木虎とは真逆。

 

 開けた場所での屋外戦でこそ、その真価を発揮する。

 

 遮蔽物のない荒野のような場所は、ランバネインの独壇場だ。

 

 そういった場所での戦闘では、彼の一方的な蹂躙となる。

 

 それに、市街地での戦闘も不得手ではない。

 

 確かに遮蔽物はあるものの、邪魔なら壊せば良い。

 

 それが出来るだけの火力をランバネインは有しているし、多少の障害物ではさしたる意味はない。

 

 翻って、この場所ではどうか。

 

 此処は大学の校舎内であり、廊下はそこまで広いワケではない。

 

 雷の羽(ケリードーン)の火力ならば壁をぶち抜く事など容易だが、近接戦闘を得意とする相手と至近で接敵している今それをやれば隙を晒す事と同義だ。

 

 幾ら高い強度のシールドがあるからといって、それにかまけて油断するような迂闊さはランバネインとは無縁である。

 

 自身の強み、弱みを理解し徹底して(よわみ)を潰すよう立ち回り戦う。

 

 それがランバネインの基本方針であり、それは如何なる時でも変わる事はない。

 

 単純に、それが一番強いと彼自身が理解しているからだ。

 

 ヒュースのように大局を見てサポートに回る立ち回りも、エネドラのようにトリガーの性能に任せて暴れ回るような暴勇も、ランバネインの性能

を鑑みれば最適解とは言えない。

 

 彼の強みである火力と飛行能力、それらを最大限に活かしつつリスクを排除するには、堅実な立ち回りをこそ求められる。

 

 確かに雷の羽(ケリードーン)はヒュースの蝶の盾(ランビリス)のような高い応用性はないし、エネドラの泥の王(ボルボロス)のような一種の無敵性もない。

 

 しかし、ヒュースにはない火力があり、エネドラにはない高い機動力がある。

 

 故に、自身の持つ処理能力を適切に割り振った警戒を行い、高い機動力を用いて火砲をばら撒く運用こそが、雷の羽(ケリードーン)を扱う上での最適解。

 

 ランバネイン自身が繰り返し戦場を踏破する事によって培った、彼の最良戦術(スタイル)である。

 

 だからこそ、此処で取る行動は決まっていた。

 

 即ち、校舎外への脱出。

 

 この閉所で近接戦闘者二人と戦うのは、幾らランバネインでも万が一が有り得る。

 

 元より、彼は砲兵。

 

 近接戦闘に付き合う義理はなく、飛行能力を十全に活かせる屋外での戦闘こそが真骨頂。

 

 故に、ランバネインは迷いなく自身がぶち破り入って来た壁の穴から外へ出ようと目論見────────────────。

 

「…………!」

 

 ────────────────外に飛び出たランバネインに迫る、二発の弾丸を見た。

 

 最初から、彼が外へ出ようとする事は想定内。

 

 だからこそ、このタイミングでの狙撃を準備していた。

 

 足を削り、外に出たばかりで加速の付いていない状態であれば回避する余裕はないと考えて。

 

「やるな」

 

 しかし、それでも彼を仕留めるには至らない。

 

 ランバネインは迫り来る二発の弾丸を、シールドで防御。

 

 致死の狙撃を、難なく凌いで見せた。

 

「────────旋空弧月」

 

 されど、それこそ想定内。

 

 此処までの戦闘で、彼がこの程度で仕留められる筈がないと、誰もが知っていた。

 

 故にこそ、校舎に残っていた王子は旋空を放つ。

 

 防御の為、足を止めたランバネインを仕留める為に。

 

「惜しいな」

 

 だが、ランバネインはこれも凌ぐ。

 

 肩のバーニアを噴射し、ランバネインは下の階の窓へと突貫。

 

 王子の旋空、そして続け様に放たれたハウンドを振り切り、再び校舎内へと侵入した。

 

「ほぅ」

「────────!」

 

 そこで待ち構えていたのは、弧月を構えた樫尾。

 

 樫尾は無言で旋空を起動し、王子と同じようにハウンドと共に撃ち放った。

 

 ランバネインを相手取る上で重要なのは、相手を()()()()()()()()()()()()である。

 

 雷の羽(ケリードーン)の火力は並大抵の防御や回避で凌げるものではなく、彼が攻撃に回った時点で大幅な不利を余儀なくされる。

 

 これまで彼等が生き残れていたのは、狙撃による牽制によってランバネインの全力の攻撃体勢への移行を封じていたからだ。

 

 間断なく攻撃し、全力攻撃の隙を与えない。

 

 それが、ランバネインを相手取る上での最適解。

 

 その事を看破したのは、誰あろう嵐山である。

 

 樫尾は、先の嵐山の通信を思い返していた。

 

 

 

 

『重要なのは、間断なく攻撃を仕掛け続ける事だ。敵が攻勢に回っている間は、万が一にも勝ち目はない。徹底して波状攻撃を行い、敵を守勢に回らせるんだ』

 

 嵐山は合同で作戦に参加している部隊の全員に、そう通達した。

 

 隊長陣の全員が頷き、その作戦を了承する。

 

 ランバネインの火力の高さと飛行能力の厄介さは、これまでの戦闘で充分以上に思い知っている。

 

 だからこそ、攻撃を行い続けて守勢に回らせる、という方針に異論はなかった。

 

「ですが、先程のように攻撃位置を推測されて先制攻撃される可能性は残るのでは?」

『それはない。先程は屋外だったからそれも出来たが、敵はこの校舎内の構造を良く知らない。近界(ネイバーフッド)に学校という文化があるかどうかは分からないが、少なくとも詳細な内部構造までは知られてはいないだろう』

 

 樫尾の疑問に、嵐山は多少危険なニュアンスを交えつつそう返答した。

 

 自分たちの敵が人間である事は、人型近界民(ネイバー)という見た目からは完全に人にしか見えない相手を目にした事でこの場にいる誰もが薄々気付いている。

 

 近界民(ネイバー)というものが近界という別世界に住まう人間でしかないという情報は、一般は勿論ボーダー内でも公開はされていない。

 

 しかし、ボーダーの訓練の中心が対人戦である以上気付いている者は薄々ながら察しているのだ。

 

 自分達の敵が、何なのかという事を。

 

 無論、それを知ったからと言って切っ先が鈍るような人間はこの場にはいない。

 

 意図して意識していない者もいるが、大半は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事を理解しているが故、藪を突くような真似はしない。

 

 重要なのは、今この場で何が最適解であるか。

 

 それだけである。

 

『構造を理解していない以上、地の利はこちらにある。だから、攻撃の種類を逐次厳選する事で相手を巧く校舎内に留まるよう誘導して欲しい。その個々の判断はこの場に集った面々ならば十分に出来ると、俺は思っている』

 

 その場の判断は各々に任せるというある意味丸投げな指示ではあるが、この場合に置いてはこれが正しい。

 

 彼等は先の合同戦闘訓練によって、互いの戦闘方式、得意戦術等を理解している。

 

 だからこそ言われなくともどの隊員がどのように行動するのが最適かは理解しているし、それが実行出来ない者はこの場にはいないと考えている。

 

 あの合同戦闘訓練がなければこの意思疎通は不可能だっただろうが、既に前提条件は整っている。

 

『『『了解』』』

 

 それを証明するかのうように、各部隊の隊長から命令受諾の返答が成された。

 

 嵐山は不敵な笑みを浮かべながら、改めて各部隊に指示を送る。

 

『作戦開始だ。健闘を祈る』

 

 

 

 

 旋空とハウンド、二重の攻撃。

 

 両攻撃(フルアタック)である為シールドは張れず、今の樫尾は無防備だ。

 

 だが、問題は無い。

 

 このタイミングであれば、カウンターで攻撃を食らう事はまずない。

 

 ランバネインはこの階に突入した直後であり、飛行による加速の慣性が抜けきっていない。

 

「成る程」

 

 故にこそ、彼に取れる行動は限られる。

 

 即ち、飛行能力を用いた敵の射程からの離脱。

 

 ランバネインはバーニアを噴射し、樫尾とは逆方向に飛行。

 

 狭い廊下の中を、ランバネインの巨体が押し進む。

 

 だが。

 

「────────!」

 

 その先の、階段。

 

 上方から、無数の弾丸が放たれていた。

 

 ランバネインが飛行能力を用いた逃走を図る事は、承知の上。

 

 だからこそ、王子は上の階から階段越しのハウンドを放つ用意を怠らなかった。

 

 上の階からランバネインの姿は見えないが、この階には樫尾がいる。

 

 自部隊の隊員がいれば、その観測情報は共有可能。

 

 樫尾の眼を用いて、王子は上階からの射撃を敢行したというワケだ。

 

「だが、まだだな」

 

 しかし、その弾幕を見たランバネインは予想とは異なる行動を取った。

 

 即ち、弾幕の斉射によるハウンドの撃墜。

 

 ランバネインは無数の弾丸を撃ち放ち、階段越しに自分を狙っていたハウンドを全て撃ち落とした。

 

「建物の狭さが災いしたな。単純な撃ち合いであれば、俺が負ける通りはない」

 

 そして、それだけでは終わらない。

 

 ランバネインは天井に向かって、弾幕を射出。

 

 無数の弾丸が、天井を貫通し上の階へと放たれた。

 

 上の階にいた王子と木虎は、間一髪でその攻撃を回避。

 

 だが同時に、すかさずランバネインは床を撃ち抜き下の階へと移動。

 

 砲撃を準備し、狙いを上階の三者に定めた。

 

「────────」

 

 その彼を、下で待ち構えていた嵐山が銃撃する。

 

 彼もまた、校舎に入りこの時に備えていたのだ。

 

 作戦の肝は、波状攻撃。

 

 敵に主導権を握られてしまえば、そのまま押し切られる。

 

 だからこそ、間断ない攻撃こそが肝要。

 

「────────────────そう来ると、思っていたぞ」

「────────!」

 

 ────────────────その思考は、既にランバネインに読まれていた。

 

 これまでの戦闘で敵は、こちらの狙いを看破していた。

 

 ランバネインが移動する方向に兵を配置し、間断ない攻撃を仕掛けて攻撃体勢に移らせる事なく封殺する。

 

 故に、ランバネインは下の階にも敵はいるであろう事を推測していた。

 

 彼が取った行動は、単純明快。

 

 即ち、位置が判明している敵に対する()()()()

 

 視界の先にいる嵐山、上階にいる樫尾。

 

 そして3階にいる、木虎と王子。

 

 それぞれに狙いを定め、雷の羽(ケリードーン)の全力射撃を敢行した。

 

「────────!」

 

 荒れ狂う弾幕、破砕される壁や天井。

 

 轟音と共に、ランバネインの全力射撃が実行された。

 

「仕留められては、いないな」

 

 無論、その場に留まるような愚は冒さない。

 

 どう考えても、この校舎内はランバネインに不利な戦場である。

 

 今までは処理能力を限界まで用いて迎撃して来たが、このまま建物の中に留まればどうなるかは分からない。

 

 万が一にも建物の崩落などに巻き込まれてしまえば、身動きの取れなくなったところで詰みだ。

 

 此処は、敵地なのだ。

 

 事前に爆薬を仕掛けて置く程度、造作もない筈である。

 

 これまでの戦闘で、敵がこちらの侵攻を予期していたのは理解出来た。

 

 どう考えても、玄界(ミデン)側の準備が()()()()のだ。

 

 何処から情報が漏れたかは、彼が考えるべき事ではない。

 

 重要なのは、こちらが不利になる仕掛けを何処に施されていてもおかしくはない、という事。

 

 だからこそ、ランバネインは迷いなく今の砲撃で空いた穴から屋外へと離脱した。

 

 屋外での戦闘では、未だにランバネインに分がある。

 

 あらかたの敵の位置が分かった以上、躊躇う必要はない。

 

 高高度からの絨毯爆撃で、敵を纏めて薙ぎ払う。

 

 狙撃手を警戒する必要がある為時間はかかるだろうが、ランバネインはこの場の敵を確実に殲滅する事が他所に行って暴れるよりも優先度が高いと判断した。

 

 それは、ランバネインはこの戦闘を指揮する指揮官の技量を認めた証でもあり────────────────処理能力を限界まで、この場の人員の警戒に割り振った結果でもあった。

 

「「────────!」」

 

 ────────────────故に、詰めの一手がこの場この時にて投入される。

 

 校舎外へ飛び出したランバネインの側面に、空気から染み出すように二つの影が現れた。

 

 躍り出たのは、隠密トリガー(カメレオン)を解除した三浦・若村の両名。

 

 二人はそれぞれ剣と銃を構え、至近距離からランバネインに攻撃を敢行した。

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