痛みを識るもの   作:デスイーター

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Confusion

「二宮隊長の攻撃により、北添隊員が『緊急脱出』……っ! 辻隊員から逃げた先には、二宮隊長が待っていた……っ!」

 

 綾辻が北添が脱落した事を告げ、会場がどよめく。

 

 これで、『二宮隊』は早くも二得点獲得。

 

 他のチームが未だに一点も取れていない中、B級一位部隊の貫録を見せつける戦績である。

 

「今のは運がないのもそうだけど、上手く追い込まれた感じね。辻くんと犬飼くんが、良い感じに二宮くんを動かしてるわね」

「そうだなー。今回二宮と犬飼は、バッグワームを着て動いてたからな。多分、辻からの情報を元にゾエの逃走ルートを予測して待ち構えてたんだろ。逃げたつもりが、先にあったのはライオンの檻だったワケだ」

 

 でもよ、と当真は続ける。

 

「なんか今日の『二宮隊』…………つーか、二宮さんか。なんだか、やる気がいつもと違くねえか? 普段より動きが細けえっつーか、ガチで相手を潰すっつー気合いが見えんな」

「そうね。二宮くんなりに、今の『那須隊』を評価した結果なのかしら?」

 

 加古はそれにしても、と思う。

 

(二宮くんが此処まで七海くん達相手にムキになるなんて、珍しいわね。余程、琴線に触れる何かがあったのかしら?)

 

 確かに、今回の『二宮隊』の動きには隙らしい隙がまるでない。

 

 念入りに隙間を埋めるような、詰め将棋のような戦術だ。

 

 犬飼と辻が二宮をサポートし、相手にぶつけるという戦法はいつもの『二宮隊』のものだが、今日の彼等はより能動的(アクティブ)な感じがしてならない。

 

 それだけのものを七海から感じたのか、或いは……。

 

(……二宮くんのちょっとズレた()()()が出たか、よね)

 

 その可能性を思い描き、加古は溜め息を吐いた。

 

 二宮はどうにも天然の気があり、常人とは少し思考回路がズレている部分がある。

 

 本人は良かれと思ってやっている事でも、傍目からはどういう意図なのか理解し難い事が多い。

 

 今回もまた、七海と直に接した結果何らかの()を抱いて気遣いという名の斜め上からの干渉を行っている可能性は否定出来なかった。

 

「しっかし、七海も折角逃がしたゾエが倒されるなんて予想外だったろ。流石に」

「確かにそうかもしれないけど、北添くんも最低限の仕事はしたわ。最後、防御を捨てて爆撃を敢行したからね」

 

 加古は笑みを浮かべ、告げる。

 

「動くわよ。これから」

 

 

 

 

『辻ちゃんごめーん、ゾエの最後っ屁がそっちに行くよー』

「辻了解」

 

 犬飼からの通信を受け、辻は上方に目を向ける。

 

 空から飛来するのは、メテオラの爆撃。

 

 辻はメテオラの弾を視認するとその場から飛び退き、一瞬遅れて着弾。

 

 メテオラの弾が爆発し、爆風で家屋を吹き飛ばす。

 

「……っ!」

 

 そこに、爆風など意に介さぬとばかりに七海がスコーピオンを構えて突っ込んで来る。

 

「────旋空弧月」

 

 辻は即座に『旋空』を起動し、拡張斬撃を飛ばす。

 

 すると七海はそれが分かっていたかのように爆風で吹き飛ぶ瓦礫を足場とし、跳躍。

 

 飛ぶ瓦礫を足場とした三次元機動を展開し、爆風の中を燕の如く跳び回る。

 

「…………そこ……っ!」

 

 辻は七海の着地点を読み切り、振り向きざまに再び旋空弧月を放つ。

 

「うわ……っ!」

「え……っ!?」

 

 ────だが、そこにいたのは七海ではなかった。

 

 辻の放った旋空弧月を驚きの声と共にグラスホッパーで飛び退き、回避した小柄な影。

 

 それは白いバッグワームを着た、『東隊』の攻撃手。

 

 弧月を構えた、小荒井の姿だった。

 

「なら当然……っ!」

 

 辻は即座に周囲を見回し、後方から迫る小柄な影を視認。

 

 その人影に向かって、弧月を振り下ろす。

 

「……っ!」

 

 人影────奥寺は弧月を用いて、辻を迎撃。

 

 斬撃を受け止められた辻は、その場でバックステップ。

 

 背後から斬りかかって来た小荒井の斬撃を、跳んで交わす。

 

「…………やられたな」

 

 爆煙が晴れ、周囲の景色が色を取り戻す。

 

 周囲には七海の姿も那須の姿も見当たらず、此処にいるのは辻と小荒井、奥寺のみ。

 

「…………逃がしたか」

「くっそ、上手く利用されちまったかー」

 

 奥寺と小荒井も自分達の動きが利用された事に気付き、顔を曇らせる。

 

 七海は『東隊』の二人の奇襲を利用する事で、まんまとこの場からの離脱に成功していた。

 

 

 

 

「おーっと、此処で奥寺隊員と小荒井隊員が奇襲……っ! しかしその隙に、七海隊員と那須隊長は離脱を図った模様……っ!」

「相変わらず、状況判断が巧えな。七海は」

 

 当真は七海達の鮮やかな離脱を見て、感嘆の息を漏らした。

 

「そうね。奥寺くん達が奇襲して来た事を察して、爆風による視界封鎖を利用して辻くんの相手を彼等に押し付けた。状況を弁えた、良い判断よ」

「あのままあそこに留まってりゃ、二宮さん達がやって来ただろーからな。七海としちゃ、二宮さんと正面から戦り合う展開はなんとしてでも回避してー筈だかんな」

 

 そう、七海は先程の二宮との攻防により、二宮と正面から当たればまず勝てない、という判断を下した。

 

 二宮が自分達を視認した後で動いたのでは、抵抗の余地すら与えられない。

 

 七海達が二宮を倒すには、力勝負の土俵に上がっては駄目だ。

 

 不意打ちで、反撃の暇もない撃破を狙わなければ戦いにすらならない。

 

 それが、実際に二宮と戦って得た、七海の考えであった。

 

「案の定、七海も那須もバッグワームを使ってやがる。こりゃ、隙を見て二宮を奇襲するハラかね」

「多分、二宮くんが他の誰かと戦っている隙を待つ構えじゃないかしらね。実際、あまり離れていない場所で機を伺っているように見えるわ」

 

 確かに加古の言う通り、七海と那須の反応は辻、奥寺、小荒井の三人が戦っている地点からそう遠くない場所にあった。

 

 このまま彼等の戦いに二宮が参戦するのを待ち、隙を見て奇襲する構えだろう。

 

「けど、どうやらそれは読んでいたみたいね。二宮くんの癖に、生意気だわ」

 

 

 

 

「────メテオラ」

 

 二宮はトリオンキューブを四つに分割し、建物に向けてメテオラを射出。

 

 その標的は辻と交戦している小荒井達────では、ない。

 

 狙いは、周囲の建物。

 

 建物に着弾したメテオラは大爆発を起こし、建造物を薙ぎ払った。

 

「────メテオラ」

 

 瓦礫の崩れる音を聞きながら、二宮は第二射を放つ。

 

 連続して放たれたメテオラが、更なる家屋を吹き飛ばした。

 

 

 

 

「此処で二宮隊長、辻隊員を援護するのではなく建物の破壊活動を始めた……っ! これは、隠れている七海隊員を炙り出す狙いか……っ!?」

「十中八九、そうでしょうね」

 

 綾辻の言葉を、そう言って加古は肯定した。

 

「二宮くんは七海くんの狙いを察して、七海くんの()()()()を物理的に排除する事にしたみたい。多分、周辺の建物はあらかた吹き飛ばすつもりじゃないかしら?」

「しかし、それでは射線が通って狙撃に身を晒す結果になるのでは……?」

「東さんが相手なら、多少の障害物の有無は関係ないわ。そもそも、今回のMAPは『東隊』が選んだものだしね。ほんの少しでも射線が通っていれば、東さんにとっては充分過ぎるわ」

 

 東は、『ボーダー』最初の狙撃手として数々の弟子を持ち、これまでも第一線で若手を牽引して来たベテランだ。

 

 その技術の高さは言うに及ばず、戦略眼も並外れている。

 

 二宮は、そんな東が隊長を務めていた旧『東隊』の隊員だった。

 

 だからこそ、東の事を良く知る二宮は多少射線が通り易くなった所でそう変わりはしないと判断し、建物の破壊に踏み切ったのだ。

 

「さて、こうなると隠れ続けるワケには行かなくなったわね。七海くん、どうするつもりかしら?」

 

 

 

 

「く……っ! まさかこんな力技で来るなんて……っ!」

 

 破壊されていく建物を見ながら、七海は思わず仰天する。

 

 まさか、此処までの力技で仕掛けて来るとは想像していなかった。

 

 大量のトリオンを消費する方法ではあるが、二宮程の多量のトリオンを持っているならばそう関係はない。

 

 自分の強みを理解した、割り切った戦法と言える。

 

『どうしますか? このままだと、焼き出されるのも時間の問題ですよ?』

 

 通信越しに、小夜子がそう尋ねて来る。

 

 那須は今、この場にはいない。

 

 色々と言い含めながら、少し離れた場所に待機して貰っているのだ。

 

 今は熊谷が通信越しに、那須を宥めている所である。

 

 …………熊谷が落とされた事で、那須は完全に頭に血が登っている。

 

 今期のランク戦での初失点だった事もあり、動揺も大きかったらしい。

 

 先程の二宮への襲撃も、那須を抑え切れないと判断した七海が同行した形である。

 

 そうでもしなければ、那須は一人でも二宮に突貫していた可能性があった。

 

 那須の頑固さを知っていた七海は、早々に説得を諦めて彼女と共に戦う事を選んだのである。

 

 …………どうにも那須は、()()()()()()()()()()()()()()という想いが、先行しているように思う。

 

 確かに、七海が加入した事で『那須隊』は大幅に強化された。

 

 ROUND2までの快進撃を見ての通り、前期とはまるで別物となっている。

 

 しかし、今の『那須隊』は別に無敵というワケでも最強というワケでもない。

 

 きちんと作戦を立てなければ勝てはしないし、当然思うように動けない事もある。

 

 その事を分かっていない筈はないのだが、ROUND2までの快勝が那須の()()()()()()()()()という悪癖を、助長している可能性は否定出来ない。

 

 那須は交友関係がそう広い方ではないが、その反動なのか一端身内と認めた者にはトコトンまで情深くなる性質がある。

 

 相手を信用するのは、まだ良い。

 

 だが、それは翻れば身内を害されればすぐさま頭に血が登ってしまう、という事をも意味している。

 

 今の那須の頭にあるのは、どうやって熊谷の仇を取るかどうかだけだ。

 

 熊谷がなんとか説得に当たってくれているが、どうやら成果は芳しくないらしい。

 

 早めに動かなければ、暴走の可能性も充分に考えられた。

 

 そもそも今現在、二宮の手で刻一刻と建物が破壊され、隠れ場所が潰され続けている。

 

 このまま動かなければ、ジリ貧になって終わりだ。

 

「…………よし。志岐、周辺MAPの解析頼む。それから、那須には────と、伝えてくれ」

『了解しました』

 

 

 

 

「…………来たか」

 

 二宮は空を見上げ、無数の弾丸が飛来して来るのを視認した。

 

 その軌道から、間違いなく『変化弾』の系統。

 

 そして先程の事を考えれば、恐らくは合成弾(トマホーク)

 

「犬飼」

「了解」

 

 二宮と犬飼は一塊となり、二重の『固定シールド』を展開。

 

 その一瞬後、『トマホーク』が着弾。

 

 大爆発が、周囲を呑み込んだ。

 

「ふー、怖い怖い。油断すると一気に持っていかれそうですね」

「無駄口を叩くな。追い立てるぞ」

「犬飼了解」

 

 今の『変化炸裂弾』で、那須が近くにいる事は分かった。

 

 那須は『バイパー』のリアルタイム弾道制御という得難い武器を持っているが、火力はそう高いワケではない。

 

 二宮であれば、トリオンの暴力で強引に叩き潰せる。

 

 多少弾幕を張ろうが、滅多な事では二宮のシールドは破れない。

 

 ただ前に進み、障害を退け、敵を薙ぎ払う。

 

 そのシンプルなゴリ押し戦法(ノースサウスゲーム)を易々と実行出来るのが、二宮の強みである。

 

「────メテオラ」

 

 だが、それを分かっていて二宮の好きにさせる程七海は甘くはない。

 

 七海は建物の屋上から、メテオラを射出。

 

 二宮と犬飼に向け、無数の『炸裂弾』が降り注ぐ。

 

「────メテオラ」

 

 それに対し、二宮は『固定シールド』────ではなく、メテオラで応戦。

 

 近場の障害物に着弾させ、メテオラを爆破。

 

 七海のメテオラは、その爆破に巻き込まれ次々に誘爆。

 

 その爆発は、二宮にまでは届かなかった。

 

「……っ!」

 

 それを見た七海は、即座に撤退を選択。

 

 グラスホッパーを起動し、ジャンプ台トリガーを踏み込む。

 

 同時に再びメテオラを精製し、地面に向けて射出。

 

 無数の爆発が、二宮の視界を塞いだ。

 

 七海はメテオラの爆発を隠れ蓑とし、素早く二宮と距離を取る。

 

 二宮の射程内にいたままでは、ハウンドの絨毯爆撃に捕まって終わりだ。

 

 一度あの弾幕の檻に捕らわれてしまえば、脱出はほぼ不可能。

 

 故に七海はあれから、一度でも攻撃が失敗すれば即座に撤退するよう心掛けていた。

 

 一瞬の判断の遅れが、致命的な情報を生む。

 

 その想いが、七海に逃走を急がせた。

 

「……っ!」

 

 …………だが、そこで七海の『感知痛覚体質(サイドエフェクト)』に反応があった。

 

 七海はすぐさまグラスホッパーを踏み込み、その場から飛び退く。

 

 一瞬後に()()()()()()()が、七海のいた場所を掠めた。

 

 七海は、その斬撃の主を見る。

 

「────よお、七海。遊ぼうぜ」

 

 その斬撃を、スコーピオンの発展形────『マンティス』を使う、七海の師匠にして敬愛する兄貴分。

 

 『影浦隊』隊長、影浦雅人がそこにいた。

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