「さて、行くか」
出水から指示を受けた烏丸は、手にしていたアサルトライフルに付いているレバーを押し、弾丸の種別を変更。
バイパーからアステロイドへと切り替え、エネドラに向かって斉射する。
応用性を
「効くか、雑魚がぁ…………っ!」
エネドラはそれに対し、刃の津波にて応戦。
圧倒的質量の前に、烏丸のアステロイドは弾かれる。
分かっていた事だ。
たとえ、
故に、これは相手にダメージを与える事を目的とした選択ではない。
これは。
相手に、
今一番やられて困るのは、遅滞戦闘に移行され時間を稼がれる事だ。
エネドラのトリガー、
彼本人の性格とは裏腹に、どちらかといえば耐久戦闘に向いたトリガーでもあるのだ。
無論、戦闘が長時間に及べば及ぶ程泥の王の
タネの割れた手品に意味はないように、泥の王を初見殺したらしめている特性を看破されればそれを用いた暗殺は成功しなくなる。
故に、攻撃に限って言えば
攻撃を捨て、ひたすらに遅滞戦闘を徹底すればこれ程脅威となるトリガーはないだろう。
無理な攻撃さえしなければ、泥の王の核を射抜くのは容易ではない。
逃げに徹されてしまえば、撃破目標の達成は困難を極める。
そして当然、長期戦になって息切れするのはノーマルトリガーである太刀川達の方が早いだろう。
それだけ黒トリガーの出力というのは圧倒的であり、しかもエネドラはトリガー
まともに撃ち合いを続ければ、どちらが先に限界が訪れるかは明らかだ。
だからこそ、敢えてアステロイドで挑発を仕掛け、攻撃に移させた。
遅滞戦闘という選択肢を、封じる為に。
もし、ヒュースやランバネインといった自身を兵士として定義し個ではなく大局を見据えて視野を見る事の出来る人間ならばこんな分かり易い挑発には乗らなかっただろう。
誘いであると断じて黙殺するか、様子を伺う為に敢えて乗った振りをするか。
いずれにせよ、こちらの意図を読んだ上で行動に移る筈である。
しかし、エネドラに限って言えばその心配はない。
今の彼に連携行動など望むべくもなく、大局的な視点など存在しない。
トリガー
立場や力の差は理解している為表立ってハイレインやヴィザに反抗する事はないが、進んで命令を聞くようなタチでもない。
何かしら口実が出来れば、喜んで命令違反に手を染めるだろう。
だからこそ、彼は烏丸の挑発を無視出来ない。
先程まで欠片も盾にダメージを入れる事のなかった敵が、力任せにそれを突破しようとしている。
己の力に酔い痴れているエネドラにとって、格下と見た相手に牙を突き立てられるのは我慢ならない。
故に当然、エネドラは攻撃に移る。
己の力を、見せつける為に。
自身の優位性を、証明する為に。
その様子を見て、烏丸は巧くいった、と薄く笑みを浮かべる。
普段は表情筋が殆ど動かない彼であるが、柄にもなく昂揚しているのはきっと。
大好きな昔のチームメイトと、再び肩を並べて戦えているからだろう。
ボーダーに入ったのは、お金の為だった。
迅や小南のように重い過去を背負ってはいないし、近界民に対してどうこう思う事もない。
街を守りたいとは思うがそんな広範の事よりもまずは自分の身内の安全が最優先だし、滅私奉公なんて柄でもない。
ただ、自分がやれそうである程度以上の見入りが期待出来そうな仕事だった。
要は、それだけの話だ。
勿論、それを公言するだけの度胸は自分には無い。
少なくとも漆間のように、「自分は金儲けの事しか考えてない」なんて言う気にはなれなかった。
確かに、家が貧乏だからお金を稼ぎたいというのは人から見れば美談の類に入るのかもしれない。
けれど、自分に言わせればお金を稼ぐ目的に貴賤などない。
旅行に行く為にお金を貯めるのも、生活の為に節約しながらお金を稼ぐのも。
いずれにせよ、お金を稼ぐという目的自体は変わらない。
その理由が如何なるものであるにしろ、労働と言う対価を支払っている事に変わりはないのだから。
でも、外聞が悪いという事もまた事実。
烏丸は内心で開き直りながらも、心の何処かで自分の戦う理由を卑下していた。
冷めていた、と言っても良い。
それは、金の為に戦うと言って憚らない漆間が嫌われているのを目にしていたからかもしれない。
ああいう風に嫌われるのは嫌だと、烏丸は感じていたのだ。
もっとも、彼が嫌われていたのは誰憚る事なく振舞う漆間の人間性それ自体にあったのだが、人の心の機微に疎い烏丸にそんな事は分からない。
だから、嬉しかったのだ。
あの時。
自分を隊に誘ってくれた、太刀川の言葉が。
────────────────戦う理由なんか、どうでも良いだろ。難しい事考えずに、ちょいと一緒に戦ってみようぜ────────────────
太刀川は自分の人間性など、戦う理由など、気にしていなかった。
それが烏丸にとってはありがたくて、妙に嬉しくて。
彼は、太刀川の手を取ったのだ。
一緒の隊になって太刀川の駄目人間ぶりを目にして色々幻滅はしたものの、その強さとある種の高みにいる精神性は尊敬に値する。
出水はなにくれと世話を焼いてくれた頼れる先輩だし、国近もいつもゆるやかな笑顔で自分を迎えてくれていた。
自分の都合でそんな太刀川隊の皆に背を向けるのは正直辛かったが、事情を話すと彼等は笑顔で送り出してくれた。
だから。
再び、彼等の力になれる機会を得た今。
全力を尽くさない理由は、何処にも無い。
「エスクード」
短く、起動の為の言葉を告げる。
烏丸の決意を表すかのように、地面からせり上がった無数の壁が刃の津波を堰き止めた。
「うざってぇ…………っ!」
だが、
自然の波のように一定の間隔で動くのではなく、エネドラ本人の意思で操作している為本質的には
壁にぶつかったところで、一旦液状化してからそれを乗り越えれば良いだけの話。
エネドラは硬質化を解除した泥でエスクードを透過し、その先にいる烏丸へ攻撃を仕掛ける。
「んだと…………っ!?」
されど。
既に、烏丸はそこにはいない。
烏丸はエスクードの展開と同時に、その場から離脱していた。
何故ならば。
この一瞬を稼いだ時点で。
彼の果たすべき役割は、終わっていたのだから。
「────────
放たれる、無数の弾丸。
撃ったのは、出水。
彼は烏丸が稼いだ一瞬の隙を使って合成弾を生成し、攻撃準備を整えていた。
攻撃に全力を注いでいたエネドラが、それを避けられる筈もなし。
エスクードの向こう側へとトマホークが着弾し、連鎖的に爆発が発生。
爆破により、エネドラの身体が空中へと押し上げられる。
エネドラのトリガー、
三種の形態の切り替えによる変幻自在な攻撃が持ち味であり、奇襲・暗殺に特化している上に耐久力も高い厄介極まりないトリガーである。
だが。
その性質は、時に弱点と成り得る。
トリオン体を液体や気体に変質させるという事は、それらの持つ特性を正確に
たとえば、気体の場合。
この形態では敵の体内に入り込み内側から刺し殺すという暗殺が行えるが、気体の性質を持つ以上
要するに気体化させたトリオン体はゆっくりとしか移動させられず、風の影響をモロに受けてしまうのだ。
今、エネドラは刃の津波が防がれた時の為の次善策として即座に気体化を行い敵を内側から殺すつもりでいた。
そこに
決まっている。
漂わせていた気体諸共、爆風で
半ば液体化していたエネドラのトリオン体、それ諸共。
爆風によって、空中に
エネドラは泥の王によって自在に形を変える為、通常のトリオン体のように四肢で動く必要が薄い。
しかし当然、液体化しての移動にはトリオンを消費する。
常時そんな事をしていればトリオンの無駄遣いでしかない為、エネドラはある程度自身の足で移動を行う。
トリオン体の作り出すヒトガタ、核を収納する外殻を用いて。
即ち。
そこに、
エネドラは自身の変質したトリオン体を分離・操作する事で、遠隔攻撃を行う事が出来る。
しかし、その攻撃の
何故ならば、エネドラは攻撃を行う瞬間だけは必ず
泥の王の性質上、ヒトガタの形成などせずに不定形のままでいた方が効率的に攻撃を行えるであろう事は間違いない。
ヒトガタを作る
それをしない、というよりエネドラがヒトガタを作る事に拘っているのは、そこに意味があるからだ。
ヒトガタを作る、意味。
そんなもの、
エネドラの液状化させた身体は、あくまでもトリオン体を変化させたもの。
生身の身体を忠実にトレースするトリオン体の性質そのものはなくなっておらず、
音を聞く為には耳が、ものを見る為には眼球が必要になる、というワケだ。
だからこそ、エネドラの核は間違いなくヒトガタの中に存在する。
本体を覆う外殻でしかなくとも、トリオン体としての主機能はあの中にこそあるのだから。
「────────」
エネドラが宙に飛ばされた事を確認し、烏丸は腰の弧月を引き抜いた。
同時に、太刀川もまた弧月を二振りその手に携える。
現在、エネドラの身体は地面から離れている。
つまり、逃げを打たれる心配はほぼない。
しかし、弾トリガーの威力では硬質化の盾に阻まれる恐れがある。
この千載一遇の好機を逃せば、
エネドラ本人の性格には付け入る隙は多くとも、
この機に仕留める、それ以外にない。
「「旋空弧月」」
故に、二人は放った。
太刀川の二刀と、烏丸の一刀。
三本の弧月から放たれる、旋空を。
本来、烏丸のトリガーセットに旋空は含まれていない。
玉狛への移籍により手にした特殊なトリガー、ガイストを用いる関係でトリガーセットを調整した時、けじめの意味も込めて外していたのだから。
しかし、今回は別だ。
烏丸は迅から、太刀川と共に自分が戦う可能性がある事を告げられていた。
ならば。
それならば。
今も尚敬愛する、チームメイトと戦う機会が訪れるのであれば。
当時使っていた、太刀川隊の象徴たる旋空を。
使わずにいるという、選択肢はない。
だからこそ烏丸は大規模侵攻が起きる前にトリガーセットを調整し、旋空を組み込んでいた。
全ては、今この時。
太刀川と共に、
ブランクはある。
かつてのそれよりは、精度は低い。
けれど。
それを
気持ちの強さは関係ない。
されど、無意味ではない。
想いの力、それそのものが戦局を変える事はなくとも。
その原動力には、充分成り得る。
どんな攻撃も、どんな防御も、どんな戦術でさえも。
根底には、「勝ちたい」という想いがあるのだから。
それは無論、太刀川も認めている。
彼は「想い
想いを込めた、三本の旋空。
それが、空中に投げ出されたエネドラへと放たれた。
原作の烏丸トリガーセット
メイントリガー
弧月 アステロイド(突撃銃) バイパー(突撃銃) シールド
サブトリガー
エスクード ガイスト FREE TRIGGER バッグワーム
今回のハッスル烏丸トリガーセット
メイントリガー
弧月 旋空 ガイスト シールド
サブトリガー
エスクード アステロイド(突撃銃) バイパー(突撃銃) バッグワーム