『二宮、お前は撃ち続けろ。防御は気にしなくて良い』
「了解」
東の指示を受けた二宮は、ハウンドを
無数の弾丸が降り注ぎ、ハイレインの周囲を旋回する魚弾の群れを削っていく。
弾丸コントロール自体は出水の方が上だが、二宮は単純に弾数が多く、そして弾の密度が高い。
「────────」
無論、それでただやられるがままのハイレインではない。
別途に鳥弾を生成し、それを四方八方に散らせて二宮へと放つ。
「やらせねーぜ」
その弾丸を、出水はバイパーで撃ち落とす。
百発百中。
二宮以上の高精度で放たれた弾幕は、一発の漏れもなくハイレインの弾丸を迎撃していく。
全力に
単純明快だが、それ故に強力なごり押し戦法。
それが、二宮と出水が組む事で成立していた。
『敵の弾丸は確かにトリオン体、トリガーに対する特攻という凶悪な性能だが、反面弾速や展開スピードは風刃ほど理不尽なものじゃない。一時的に撃ち合うだけならば、トリオンの多い二宮や出水ならやってやれない事はないだろう』
東が、自らの仮説を語る。
敵の黒トリガー、
だが、黒トリガーとしての能力をその特殊性に注ぎ込んでいる為か、弾速自体は風刃のような反応が困難なレベルには至っていない。
加えて、こちらの弾丸とぶつかればその時点で弾をキューブ化して生物弾自体は霧散する為、弾幕で迎撃という芸当が可能になる。
あくまでも出水の超絶技巧を前提とした対策ではあるが、それが可能な駒がある以上使わない手はない。
実際に出水は、
「────────」
そして、烏丸は弧月を構え旋空の発射態勢に移る。
敵の生物弾は、二宮の斉射によって着々と減って来ている。
今ならば、旋空の一撃がハイレインの元まで届くだろう。
『加えて、敵はワープを出来る事なら多用したくない筈だ。さっき旋空を撃った時、敵は人型だけを転移で退避させ新型は回収しなかった────────────────つまり、新型を転移させるだけのサイズの
先程、烏丸が旋空を撃った時。
敵は転移でハイレインを逃がしはしたが、ラービットは回収せずに見捨てていた。
単純に間に合わなかった、という可能性はある。
だが。
ハイレインとラービットでは、潜る為に必要な窓の
それを考えれば、ラービットを無暗に転移させる事を控えたという可能性は高い。
『通常の門ならばまだしも、黒トリガーを使った転移となると開いた門の大きさによって相応のトリオンを消費する筈だ。さっきの砲撃のみの転移攻撃も、不意打ち以上に消耗を抑えたが為とも取れる』
そうなると、先程の砲撃のみを窓から撃ち出した攻撃も、消耗を抑える意味が含まれているように思える。
つまり。
『敵の転移は、無尽蔵じゃない。幾ら黒トリガーとはいえ、トリオン切れは必ず発生し得る。トリガー
少なくとも、転移は使わせ続ければいずれ使用不能になる。
そしてこれまでの挙動から、それはそう遠くないように思われる。
故に。
時間は、こちらに有利に働く。
敵の最高戦力であるヴィザが乱入して来るとなると話は全く変わって来るが、そちらは今防戦を得意とする七海が相手をしているしいざとなれば忍田をそちらに割く事も出来る。
彼を向かわせるのはリスクが大きいが、下手に焦って隙を見せればハイレインは必ずそこを突いて来る。
だからこそ、消耗戦を狙う。
敵の
それが、この場で最も有効な戦術なのだから。
『────────────────畳みかけろ。消耗戦を仕掛けて、相手に転移を使わせるんだ。焦る必要はない。じっくり、堅実にいこう』
(攻めっ気が薄いな。どうやら、長期戦狙いのようだが────────────────ミラの
ハイレインは敵の挙動を見て、こちらの弱みが看破された事に気が付いた。
彼等は警戒を怠らず、いつでも退避が可能な状態で弾を撃ち続けている。
傍目から見れば力任せにこちらの防護を破ろうとしているように見えるが、実態はその逆。
ハイレインがいつ反撃に出ても対応出来るように、相応の距離を保ったまま持久戦を仕掛けて来ているのだ。
その証拠に、伸びる斬撃の使い手と拳銃使いの少年は一向に距離を詰めようとはしていない。
射手の女は金の雛鳥から離れようとしないし、新たにやって来た金髪の射手も弾を撃ち続けながらも警戒を怠ってはいない。
これは、
(先程、ラービットを大窓で回収しなかった事で看破されたか。まあいい。それよりも、此処からどう動くかだ)
見破られた原因は恐らく、先程ラービット二機を大窓で退避させなかった事だ。
あの局面でラービットを使い捨てる理由など、大窓を開く事を厭うた以外にないからだ。
ミラは先程から、大窓を繰り返し用いてラービットを送り込んでいる。
これまでの大窓の使用は必要な事だったとはいえ、些か無理をさせた事は否定出来ない。
彼女自身を直接戦場に出していないのも、余計な戦闘でトリオンを消費する事を惜しんだからだ。
ミラの黒トリガー、
何せ、この遠征には黒トリガーを合計4つも注ぎ込んでいる。
もしも一つでも黒トリガーを失うような事態になれば、ハイレインの立場は相当悪いものになる。
それを防ぐ為に、黒トリガーの回収役であるミラは絶対に失えない。
加えて、国宝の使い手であるヴィザと四大領主の一角であるハイレインは何が何でも生きて国に戻らなければならない。
ヴィザが負けるような事はまず有り得ないのでそちらは心配してはいないが、ハイレインは自分が無敵でもなんでもない事を知っている。
確かに
幾らでも穴はあり、加えて敵の練度が想像以上に高い。
ヒュースは生存能力が高く早々落とされる事はないと考えていたのだが、敵は真っ先にその彼を落としてみせた。
それ故に想定外に早くヒュースを切り捨てる決断をせざるを得なくなった事は、正直遺憾ではあった。
ハイレインとて、優秀な次世代を担う駒の重要性は理解している。
ヒュースの能力は高く、向上心も申し分ない。
金の雛鳥を捕らえ損ねた時のサブプランの存在がなければ、手放すという選択は有り得なかっただろう。
だからこそヒュースを切り捨てる決断はギリギリまで保留したかったのだが、早期に落とされてしまった以上選択肢はなかったのだ。
あの時点では金の雛鳥を捕捉出来ておらず、失敗に終わる可能性も高かった以上下手にヒュースを回収するワケにはいかなかったが故に。
加えて、ランバネインとエネドラが落とされる前に挙げた戦果も想定以上に少なかった。
ランバネインは殲滅力に特化したトリガーを用いているし、エネドラは曲がりなりにも黒トリガーの使い手だ。
順当に暴れれば相当数の敵兵を落とせた筈であり、エネドラの場合は最終的に始末する事は決まっていたがそれまでに相応の使い手を落としてくれるだろうと期待していた。
だが、蓋を開ければランバネインの撃破数は僅かに三名、エネドラに至っては0という有り様だ。
無論、彼等が失態を演じたとは思っていない。
ランバネインはその豪放な人柄とは裏腹に戦闘では決して手を抜かないし、計算高く動く術を知っている。
エネドラも暴走していたとはいえ戦闘論理は衰えてはおらず、トリガーの初見殺し性能も併せて相応の戦果を挙げるだろうと思っていた。
単純に、敵の練度が高く戦術レベルも高かった。
つまりは、そういう事だろう。
(ヴィザ翁の言う通り、
数年前、この世界にとある国が侵攻した際には
少数のトリガー使いの奮戦で撃退は出来たようだが、それまでにかなりの数の戦果を得たと聞いている。
それから、僅か数年。
今の
認めなければならないだろう。
この
以前のような、好き放題に搾取出来る
他の国への侵攻と同じように、準備を整え戦力を揃えなければ必要な戦果は得られない。
そういった場所へと、この
(だが、金の雛鳥の確保は何としてでも達成する。最悪の場合はヴィザ翁に頼む事も考えるが、それはあくまでも最後の手段だ。最良は、基地に逃げられる前にこの場で確保する事だからな)
この場にヴィザ翁を呼ぶ事も選択肢の一つだが、そうなるとこちらのトリガー使いが一ヵ所に固まる事になってしまう。
ヴィザ翁が来れば確実に金の雛鳥は基地へと逃がされるだろうし、そうなれば基地を破壊して確保する以外に道はない。
エネドラが落とされていなければ配管から侵入させるという手も使えたが、今更それを言っても仕方がない。
今、金の雛鳥がこの場から逃がされていないのは恐らく孤立した所をミラの転移で追撃される可能性を警戒されているからだ。
窓の影でトリガー使いを送り込む手法は、既にヴィザによって見せてしまっている。
一度見せた以上は、警戒される。
初見殺しが通用するのは、あくまで最初のみ。
二度目からは、相手にとって既知の戦術でしかないのだから。
(ミラを単独で送り込むのは、下策だ。彼女を落とされる事態は、何が何でも避けなければならない。それに、ミラのサポートなしでこの相手と戦り合うのは骨が折れる。今でさえ、余裕を持てる状況ではないのだから)
今は卵の冠から随時生物弾を追加して防壁を再展開しているが、これが破られればあの伸びる斬撃が再び襲って来るだろう。
雛鳥をキューブ化させていれば色々やりようもあったが、現在雛鳥の群れは市街地に固まっている。
今更そちらに兵力を割く余裕はないし、金の雛鳥が目の前にいる以上そもそも戦場を移すという選択肢は有り得ない。
金の雛鳥の確保こそ、ハイレインの至上目的。
今更脇道に入る余裕は、存在しない。
本来予定に入れていたサブターゲットは、最早取得を考慮しない。
金の雛鳥を確保出来なかった場合のサブプランの発動は、あくまでも
確かにやるとなれば躊躇はしないが、その場合領地でゴタゴタが起きる上にエリン家という戦力を切り捨てる事になる。
要は身を削る策なのだから、出来る事ならば実行しないに越した事はないのだ。
だからこそ、何としてでも金の雛鳥は手に入れる。
ヒュースとエネドラという貴重な戦力を切り捨てた以上、最低限の戦果だけは達成しなければならない。
それがハイレインなりのケジメの付け方であり、情より利を取らざるを得ない彼なりの誠意でもある。
無論侵攻される側にとってそんな理屈は関係ないが、ハイレインにとって優先すべきは自国の国益である事は明白だ。
恨みを買い過ぎれば面倒な事になりかねないが、場合によっては躊躇はしない。
現時点で
今はとにかく、金の雛鳥の確保に全力を注ぐ。
それだけだ。
「ミラ、残るラービットは何体だ?」
ハイレインは近くに空いた小窓からミラに通信を繋ぎ、ラービットの残数を確認する。
かなりの数撃破されたが、まだ幾らかは残っている筈だからだ。
『プレーン体が6体、モッド体が4体ですね』
「そうか。ヴィザ翁は?」
『現在、敵兵と戦闘中です。お呼び致しますか?』
いや、とハイレインはミラの提案を否定し、指示を下す。
「そちらは良い。ミラ、窓はあとどのくらい使える?」
『恐らく、小窓であればまだ余裕がありますが大窓は二度か三度が限度だと思われます。小窓の使用回数によっては、それ以下になる事も予想されますが』
成る程、とハイレインはミラの残りのトリオン量と使用可能な支援の回数を脳内で計算する。
戦術立案は、一瞬で終わる。
元々、考案していた幾つかの戦術案。
それらを元に現在の状況を鑑みた最適な策を選別、決定。
即座に
「作戦も大詰めだ。手を惜しむ余裕はない。俺の言う通りに動け」
「了解しました」
ミラはハイレインの指示を受諾し、「窓」から外を垣間見る。
その視線の先。
ハイレインと二宮が対峙している、その後方。
背の高い女性と共に戦況を見守っている小柄な少女を。
金の雛鳥の姿を見据え。
ハイレインの作戦を実行すべく、動き出した。