痛みを識るもの   作:デスイーター

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未来永劫

 

(此処が正念場ですね。私にも、出来る事がありそうで何よりです)

 

 那須隊、作戦室。

 

 一人自部隊のオペレートを担っていた小夜子は、直感的に感じ取った七海との()()()を意識して微笑む。

 

 その手に輝く、純白のリングを見据えて。

 

 七海の黒トリガー、群体王(レギオン)は彼自身が「共に戦う仲間」として認識した相手との間に接続回路(リンク)を形成する。

 

 その効果対象はあくまでも七海個人の認識に左右され、彼が共闘する相手としてこの場に存在する者達としてイメージした相手が効果圏内となる。

 

 ランク戦で切磋琢磨し、共に成長して来た者達。

 

 或いは、師弟関係等を通じて友誼を結んで来た者達。

 

 そして、ずっと共に戦って来た仲間達。

 

 それらとの間にリンクを形成し、力を共有・増幅させるのが群体王の能力だ。

 

 その性質上彼が「共闘相手」として認識する必要があり、直接の関わりが薄いオペレーターは本来であれば効果対象にはならない。

 

 だが。

 

 ずっと同じ隊の仲間として戦って来た小夜子に関しては戦友としてのイメージが強かった為、例外的にリンクを結ぶ事が出来たのだ。

 

 無論、小夜子は戦闘用のトリガーなどセットしていないし自ら武器を持って戦う事は出来ない。

 

 だが、共闘相手(なかま)の一人として共有トリオンの一助にはなるし、副次効果としてリンクを結んだ相手との漠然なイメージの共有もある。

 

 有り体に言えば、リンクを結んだ者同士は互いの状況が()()()()()分かるのだ。

 

 言語化する事は難しいが、ただそう()()()()

 

 漠然とした感覚ではあるが、確かな繋がりを感じる。

 

 それは、戦闘員にとっては共同作戦の効率化を進める一助となる。

 

 そして、オペレーターである小夜子にとってはまた別の意味を持っていた。

 

(作戦は、東さんや迅さん(格上の指揮者達)に任せましょう。私がやるべきなのは、その作戦の徹底した効率化と穴埋め────────────────これまで培って来た能力の全てを以て、この大一番を乗り切る助けとなりましょう)

 

 ですから、と小夜子は黒トリガーを通じた繋がりを意識して映像に移る七海の姿を見据える。

 

 出来る事ならば、傍に行って励ましてあげたい。

 

 だけどそれは自分の役目ではないし、適役でもない。

 

 だったら、自分に出来る事をやるだけだ。

 

 この身は戦闘員ではなく、戦闘補助要員(オペレーター)

 

 ならば、この作戦室こそが自らの戦場だ。

 

 共に戦うのではなく、彼等が安心して動く為の後方支援(バックアップ)を最後まで、最高の形でやり遂げる。

 

 それこそが、これまでの集大成であるこの局面に置ける小夜子の果たすべき責務であり────────────────そして、惚れた男に対する意地の見せ所でもあった。

 

 小夜子は不敵な笑みを浮かべ、拳を握り締める。

 

 強い意思を込めた瞳で、七海の姿を見据えて。

 

(後ろは任されました。ですから、存分にやって下さい────────────────その手で、未来を掴む為に)

 

 

 

 

「意気は結構。ですが、それだけで勝てる程戦いは甘くはありませんぞ」

 

 ヴィザは自らと対峙する七海を見据え、そう宣告すると同時に不可視の斬撃を放つ。

 

 先程より激しさを増した、二宮と出水の弾幕。

 

 それを、いとも容易く薙ぎ払ってみせる。

 

 通常、これ程の弾幕は撃たれた時点でほぼ詰みだ。

 

 トリオン強者から放たれる、数えきれない程の追尾弾(ハウンド)

 

 避け切れる攻撃範囲ではない以上、シールドでの防御が必須となる。

 

 だが、シールドもいつまでも保つワケではない。

 

 一度捕まったが最後、削り殺されて終わりだろう。

 

 されど。

 

 ヴィザは、その弾幕をあろう事か斬撃だけで凌ぎ切っている。

 

 射撃を斬撃で防ぐという、理不尽。

 

 それが当然の如く出来るからこそ彼は剣聖と呼ばれるのであり、その名に相応しい実力を持っている事もまた確かだ。

 

 そして、彼は攻撃を凌ぐだけではない。

 

 弾幕を凌ぐ為に不可視の斬撃を用いているが、彼の()は一つだけではないのだ。

 

 防御と同時に攻撃を行う事など、造作もない。

 

「さて、避けられますかな」

「────────!」

 

 ヴィザは七海の隣に立つ影浦を標的に見据え、致死の斬撃を放つ。

 

 先程の動きを見る限り、彼もまた七海と同様に回避能力を高める力を持っていると推察出来る。

 

 されど、彼のそれはどちらかといえば乱戦の中を潜り抜ける為の攻撃に特化した動きであり────────────────攪乱に特化した七海よりは、攻撃を当て易い。

 

 それに、能力の精度も彼よりは低そうだというのがヴィザの見立てである。

 

 彼は知る由もないが、七海と影浦は共に回避に関する副作用(サイドエフェクト)を持っているが、その性質は異なる。

 

 七海は単純に攻撃範囲を近くするのに対し、影浦は相手の殺気に反応して攻撃を回避する。

 

 ヴィザは常の戦闘であれば、殺気を放つ事なく攻撃を行える。

 

 今は常ならぬ状況によって昂揚し、殺気が漏れ出ているからこそ辛うじて影浦にも攻撃を察知する事が出来ているが────────────────その精度は、普段よりも低いと言わざるを得ない。

 

 極限まで集中して辛うじて斬線が分かるといった程度であり、全ての攻撃に完璧に対応するのは難しい。

 

 加えて、影浦は七海が回避に用いるサブウェポンであるグラスホッパーを持たない。

 

 それ故一度跳躍してしまえば着地するまでの刹那が無防備となってしまい、ヴィザは決してその隙を見逃さない。

 

 故に一度目の攻撃を跳躍し回避した時点で、影浦の命数は尽きる筈だった。

 

 ()()()、影浦であれば。

 

「ほぅ」

 

 影浦は、()()()()()()()()()()

 

 跳躍した所を狙って放たれた攻撃を、ジャンプ台を踏んで回避する。

 

 これが、七海の黒トリガー群体王(レギオン)の能力。

 

 リンクを繋いだ者同士の、トリガーの()()

 

 群体王によってリンクを繋がれた者同士は、互いのトリガーを自由に扱える。

 

 流石に規格の違う黒トリガーまで共有する事は出来ないが、リンクを繋いだ者のトリガーホルダーにセットされているノーマルトリガーであれば、誰か一人でもセットした状態で生存していれば全員がそれを用いる事が出来る。

 

 一度に使えるトリガーの数は通常通りであるが、文字通り手札が無数に増えた状態なのだ。

 

 影浦はこの特性を用いて、七海からグラスホッパーを借り受けたに過ぎない。

 

 グラスホッパーは使いこなすには相応のセンスが必要なトリガーだが、元より優れた体捌きを持つ影浦にとっては問題にならない。

 

 初めて使うのが嘘のように、影浦はグラスホッパーを使いこなしてみせた。

 

 

 

 

「今です。那須先輩、熊谷先輩」

『ええ』

『分かったわ』

 

 その光景を映像越しに見ていた、作戦室の小夜子。

 

 彼女は東からの指示を受け予め作戦内容を説明していたチームメイトに号令をかけ、那須と熊谷は通信越しに要請を受諾。

 

 状況が、動いた。

 

「作戦、開始です」

 

 

 

 

「ほぅ、これは」

 

 決戦場で、ヴィザが西の空を見て目を細める。

 

 そこには、無数の弾幕の群れがあった。

 

 二宮達、ではない。

 

 彼等がいる方角からは今も絶えず射撃が継続しており、彼等が移動したワケではない事を示している。

 

 ならば、これは何か。

 

 考えるまでもない。

 

 彼等以外の、射手の支援射撃。

 

 それ以外、有り得ない。

 

 だが、周囲に敵影も気配もない。

 

 少なくとも、この弾幕はヴィザの射程圏外から放たれた事になる。

 

 それだけの事をする為には、少なくとも出水クラスのトリオンが必要な筈だ。

 

 そんな相手はボーダー内では殆どおらず、実行は不可能の筈だ。

 

 ()()()()()()

 

 今は、状況が違う。

 

 七海の黒トリガー、群体王(レギオン)

 

 その一つ目の能力、トリオンの共有。

 

 リンクを繋いだ者同士でトリオンのネットワークを形成し、それを増幅した上で一つの巨大なリソースとする。

 

 そして、一つに纏めた大量のトリオンを自由に個々人で出力可能となる能力。

 

 あくまでも共有である為、リンクを繋いだ者全員が高出力の攻撃が出来るワケではない。

 

 リンクを繋いだ者の数が多ければ多い程貯蔵(プール)されたトリオンを増やす効果はあるものの、これによって増えたトリオンは有限である。

 

 黒トリガーのブーストもあってその最大量はかなりのものとなってはいるが、いつまでも使い続ける事は出来ないし長期戦に向いているワケでもない。

 

 加えて、トリオンの出力はリンクを繋いだ個々人の意思で自由に調節出来る為、一人でも足並みを乱して勝手にトリオンを使うような者がいれば全体の足を引っ張るハメになる。

 

 七海が信頼し、共に戦う相手と認めた相手にのみ使えるトリオンの使用権。

 

 それは彼がこれまでに紡いだ絆の証でもあり、足並みを乱す者が出る心配がない事は言うまでもない。

 

 そのような浅慮をする者はこの場にはおらず、誰しもが勝利の為に全霊を尽くしている。

 

 この弾幕は、それが結実したものだ。

 

 普段の那須と熊谷のトリオンであれば、このような超遠距離射撃は実行出来ない。

 

 だからこそ、群体王で繋いだリンクから供給されたトリオンを用いてそれを実現させたのだ。

 

 加えて、通常はハウンドを一つしかセットしていない熊谷が両攻撃(フルアタック)でそれを使えているのも、黒トリガーの恩恵に依るものだ。

 

 今の熊谷は片手分の追尾弾(ハウンド)を王子から借り受ける事により、両攻撃を実現している。

 

 誰が自分のトリガーを借りているかは、本来の持ち主が感知する事が出来る。

 

 トリガーを()()()いる間持ち主はそれを使用する事は出来なくなるが、同じトリガーを他の者から借り受ければ問題なく使う事が出来る。

 

 たとえば、今影浦にグラスホッパーを貸している七海は緑川からグラスホッパーを借り受けており、回避に隙を見せるような真似はしていない。

 

 影浦が直接緑川から借りればその手間は必要ではなかったが、彼と緑川の間に直接の接点はない。

 

 トリガーを借り受けるには当人同士の間での合意が不可欠であり、無意識にでも持ち主が拒否すればトリガーを借りる事は出来なくなる。

 

 加えて、このトリガーの借用は関係が深い者ほどタイムラグを省いて行える。

 

 加えてある程度以上親しい者から借り受けたトリガーはその使い方も感覚として借り受ける事が出来る為、影浦が初使用ながらグラスホッパーを使いこなせたのもこの機能の補助あっての事だ。

 

 そういう意味で、この手間は必要なものだったと言える。

 

 七海は緑川とはそれなりに慕われているくらいで影浦や村上といった面々のような気安い関係ではないものの、グラスホッパーの使い方は今更習うまでもなく彼自身が知っている。

 

 その意味で許可さえ貰えれば構わず、緑川も自身がグラスホッパーを使う局面はとうに過ぎ去った事を理解している為に拒否などあろう筈もない。

 

 斯くして、射撃は実行された。

 

 三方向、同時の弾幕の大量展開。

 

 さしものヴィザも、この弾幕は凌ぎ切れない。

 

「派手にやりますな。ですが、届かなければ意味はありません」

 

 否。

 

 この()()では、剣聖(ヴィザ)の喉元には届かない。

 

 ヴィザは焦る事もなく、不可視の斬撃を放つ。

 

 目に映る事すら許さないスピードで、剣聖の斬撃が振るわれる。

 

 結果、三方向の弾幕は全てが撃墜。

 

 これまでと同じように、全ての攻撃を難なく凌ぎ切ってみせた。

 

 最早戦略兵器もかくやという有り様の光弾の雨すら、剣聖の前では問題にすらならない。

 

 至極当然の結果として、全ての弾丸は迎撃された。

 

 黒トリガーを起動しても、ボーダーの総力を結集しても。

 

 ヴィザには。

 

 神の国の剣聖には、届かない。

 

「む…………!」

 

 否だ。

 

 無駄に終わったと思われた、三方向からの射撃。

 

 それは、ヴィザに迎撃させる事にこそ意味があった。

 

 瞬間。

 

 ヴィザの周囲に、()()は姿を見せた。

 

 杖から伸びる円状の広大なラインと、それに連なる鋭利な刃の群れ。

 

 惑星の星間図の如きその威容に、無視出来ない()()が入り込んでいた。

 

 それは、連なる刃に撃ち込まれた無数の楔。

 

 黒い、重石。

 

 対象に強力な重量付加を齎すそれが、ヴィザの不可視の刃の刀身を遂に白日の元へ曝け出させていた。

 

 

 

 

『命中した。良い腕だな』

「作戦が良かっただけだよ。()()のお陰でもあるけどさ」

 

 遊真は東からの作戦成功の報告を受け、不敵な笑みを浮かべた。

 

 彼の右腕には、他の者と同じ純白のリングが出現している。

 

 七海とは出会って日が浅い遊真ではあるが、迅を通じた繋がりを通して彼もまた共闘相手として認知されていたのだ。

 

 遊真の黒トリガー自体は、他の者に貸し出す事は出来ない。

 

 黒トリガーは通常のトリガーと違い、トリガー自身が適合者を選ぶ。

 

 群体王(レギオン)のトリガー借用に必須である()()()()()()が、黒トリガーそのものにも適用されてしまうのだ。

 

 黒トリガーは作成者の命を変換して作り出されるものだが、作った者本人というワケではない。

 

 そういう意味で黒トリガーの明確な意思というものはなく、許可などは出しようがない。

 

 加えて、彼の黒トリガーはいわば彼専用の命綱(シェルター)として作成された特殊なものだ。

 

 その意味で適合者は遊真以外にいる筈もなく、貸し出す事は当然出来ない。

 

 故に、遊真が行ったのは共有された大量のトリオンを用いた『錨』印(アンカー)『射』印(ボルト)の長距離射撃だ。

 

 彼は那須の弾幕に追随する形で射撃を敢行し、その光弾の群れを隠れ蓑にする形で弾丸を撃ち出したのだ。

 

 ヴィザに弾幕を迎撃させ、その刃に重石を撃ち込む為に。

 

 那須のサポートで弾道制御に慣れている小夜子のサポートを受ける事で、この作戦を成功させたのだ。

 

 自動的な機械音声の変換という策を国近達が立てていなければ、このサポートは実現しなかっただろう。

 

 そういう意味で、この成功は小夜子の成長の証でもある。

 

 全ての経験が繋がり、今に至る流れを紡いでいる。

 

 この戦いは四年間の積み重ね、その全ての結集であり。

 

 未来永劫変わる事のない、絆の証明でもあった。

 

 戦いは、まだ終わってはいない。

 

 だが、一矢報いる事は出来た。

 

 これまで触れる事すら叶わなかったヴィザに、指先であろうと手が届いたのだ。

 

 ならば、この一歩を足掛かりとして全力で前に進むだけだ。

 

 どれ程困難であろうと、不可能ではない。

 

 決して、超えられない壁ではないのだと。

 

 それを、証明する為に。

 

()()()()だ。まだ、勝てたワケじゃない。おれも、やれる事をやらなきゃな」

 

 遊真もまた、ヴィザという壁を超える為に動き出す。

 

 ボーダーの、真の意味での総力の結集。

 

 その総決算であるこの戦いを、勝利で終わらせる為に。

 

 自分を受け入れてくれたこの世界を、守る為に。

 

 心優しき異邦人は、戦場を駆けて行った。

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