痛みを識るもの   作:デスイーター

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痛みを識るもの

 こうして、第二次大規模侵攻は最良の形で終わりを迎えた。

 

 トリオン兵や人型近界民(ネイバー)自体は警戒区域の外側にまで侵攻したが、人的被害は奇跡的に皆無。

 

 死んだ者も、怪我をした者も、そして行方不明になった者も誰もいなかった。

 

 建物はそれなりに壊れてはいたが、柿崎が指揮した避難誘導のお陰で巻き込まれた者は誰もおらず。

 

 四年前の悪夢を思い出し、怯えていた被災者達も。

 

 被害を最小限で留めて見せたボーダーの活躍を前にして、称賛の声が上がっていた。

 

 難癖や野次を飛ばす者がいないワケではないが、それも大多数のボーダー擁護の声に押されて下火となっていった。

 

 もし、市民に被害が及んでいれば。

 

 もし、隊員が死亡又は行方不明となっていれば。

 

 決して、こういった評価にはならなかっただろう。

 

 ボーダーは、表舞台に現れて以降最大の危機を。

 

 無事、乗り切ったのだ。

 

 そして、それを成した英雄達は。

 

 この日、影浦の号令によって彼の実家(みせ)に集まり健闘を称え合っていた。

 

 

 

 

「改めて、お招き頂きありがとうございます。カゲさん」

「いいから、祝われておけよ。誰がなんと言おうが、おめーが一番頑張って結果を出したのは事実なんだからよ」

 

 お好み焼き屋、『かげうら』。

 

 影浦の実家が経営するその店に、多くのボーダー隊員が集まり席を囲んでいた。

 

 こうしてやって来ている七海は、今までと違い特注のトリオン体ではない。

 

 生身で、彼の店にやって来ていた。

 

 あの後、七海は改めて検査を受けてこれまで彼を苛んでいた無痛症が完全に取り除かれている事を知らされた。

 

 白昼夢での姉の言葉通り、彼の無痛症は黒トリガーの誤作動による()()()だったのだろう。

 

 四年ぶりに取り戻した触覚に戸惑いながらも、七海やその仲間達は素直に彼の快癒を喜んだ。

 

 影浦もまた、今まで七海に提供して来た特別メニューではなく普通のメニューの方を出している。

 

 味覚がほぼ死んでおり通常の食事は味が分からず密かに疎外感を覚えていた七海であったが、初めて食べる事になる影浦の出す普通のお好み焼きの味を知って思わず涙ぐんでいた。

 

 既に那須邸(いえ)で普通の食事を味わっていたとはいえ、これまで薄くしか感じられなかった影浦のお好み焼きの味をようやく堪能出来たのだから、その喜びはひとしおである。

 

「ええ、玲一は頑張ったんだもの。だったら、相応の報酬は在って然るべきでしょう? 私の料理を食べた時よりも喜んでるみたいなのは、少し複雑だけどね」

「あ、いや、えっと」

「ふふ、嘘よ。半分くらいは」

 

 七海の隣に当然の如く座っている那須は我が事のように胸を張り、密着状態の彼の腕をぎゅっと抱き締める。

 

 少女の柔らかな感触と甘い匂いが七海を襲い、思わず頬を赤らめる。

 

 これまで無痛症の所為で人の温もりを殆ど感じ取る事が出来ず男性としての反応も皆無と言って良かった七海ではあるが、感覚を取り戻した事によりそういった機能も正常化していた。

 

 つまり、四年前より更に遠慮なくスキンシップを取るようになった那須の感触や匂いを直に感じ、初々しい反応を返すようになったのだ。

 

 これまで抱き着いても添い寝をしても平気な顔をされていた那須としては、七海のそんな反応は可愛らしくて仕方がない。

 

 七海の紳士な態度にも好感を覚えていた那須ではあったが、それはそれこれはこれである。

 

 少女として、女として自分に対して異性としての反応を見せないというのは彼女をして複雑な面持ちだったのだ。

 

 大事にされるのは喜ばしいが、それはそれとして女として求めて欲しいというのも偽らざる彼女の本音であったが為に。

 

 こうして自分のスキンシップで一喜一憂する七海の姿に、色んな意味で溜飲が下がっていた那須であった。

 

「おい、そういうのは家でやれ。此処は飯を食うところだぞ」

「あ、すみません。つい、嬉しくて」

「わかりゃあいい。甘えるのは、家でたっぷりやってやれ」

 

 当然、貸し切りとはいえ飲食店という公共の場でイチャ付いていた二人を見て砂糖を吐いている者が何人もいた為影浦が注意する結果となった。

 

 二人の関係性は此処にいる者であれば大体知ってはいるが、節度というものがある。

 

 指摘されて自分の行為を振り返った那須は若干顔を赤らめながら、掴んでいた七海の腕を名残惜し気に離す。

 

 アイコンタクトで「後は家でね」とメッセージを伝える事は、忘れなかったが。

 

「おう、やってんな」

「本当にお疲れ様だったな、七海。その甲斐もあって、特級戦功も貰ったようだが」

「荒船さん、鋼さん」

 

 二人だけの時間が終わったのを見計らい、やって来たのは荒船と村上だった。

 

 攻撃手二人は七海の近くに座り、口々に彼の健闘を称えている。

 

 彼等の言う通り、七海は今回の大規模侵攻に置ける活躍で特級戦功を授与された。

 

戦功所属部隊隊員名備考
特級那須隊七海玲一戦闘初期に那須隊長と共にトリオン兵を駆除して被害を食い止め、人型近界民(黒トリガー)を撃破した/新型撃破数2

 

 七海は、褒賞授与の際に送られた文面を思い返した。

 

 矢張り、ヴィザの撃破への貢献が大きかったのだろう。

 

 自分だけの力ではないと七海は最初授与を渋っていたが、共に戦った者達も一様に彼の尽力を称えた為、断るのも悪いと素直に褒賞を受け入れた。

 

 尚、黒トリガーの起動者となった七海ではあったがS級隊員への昇格は見送られる事となった。

 

 これは七海の黒トリガー、群体王(レギオン)の特殊性にも関係する。

 

 群体王は風刃等と異なり、単体で起動しても何の効果も齎さない。

 

 複数人、最低でも10人以上の人数で共闘する際に使わなければその能力を活かし切れないからだ。

 

 何せ、群体王には固有の戦闘能力が存在しない。

 

 出力もリンクを結んだ相手の数に依存する為、一部隊だけで起動してもそこまで大きな効果は望めないし単独の起動では多少出力が強化されるだけなのだ。

 

 その為単独での運用が求められるS級隊員となるには不適格である、という判断が下されたのだ。

 

 無論、その決定には彼を慮った上層部の意思も介在している。

 

 黒トリガー自体が彼の右腕となっており取り外しも不可である為、七海から群体王を取り上げるという選択肢自体存在しない。

 

 加えて彼は現状那須隊での活動を強く望んでおり、迅の働きかけもあって群体王の運用に関しては有事の際に上層部が起動許可を出す形で使う、という形に落ち着いた。

 

 那須隊と離れ離れになる事にならず、心底安堵した七海であった。

 

「でも、鋼さんもS級隊員にはならなかったんですね」

「ああ、風刃は使えはしたが元々俺のスタイルとは合わないしな。何より、来馬さんの元を離れる気がなかった事もある」

 

 また、同じく黒トリガー風刃を使用した村上に関しては彼自身がS級隊員となる事を固辞し本部にトリガーを返却した。

 

 確かに村上は迅の指導もあって風刃を使えていたが、そもそもこの黒トリガーは攻撃にのみ特化したピーキーな仕様である。

 

 村上本来の戦い方である防御主体の戦術には合わず、自分が持っているよりは有事の際に適切な相手に使用させる方が良いと彼が進言した結果として風刃は再び本部預かりとなった。

 

 ちなみにこの説明は村上本人ではなく、風刃の扱いに悩んでいた彼に風間や迅がアドバイスした結果を纏めたものだ。

 

 そのあたりの根回し自体は城戸も把握していたが、説明はもっともであった為に黙認した形となる。

 

 結果としてS級隊員が増える事はなく、群体王は七海と一心同体である為実質的な本部預かりの黒トリガーが増えるといった事もなかったワケである。

 

「それに、S級になったらランク戦が出来なくなってしまうからな。もう一度七海に挑むつもりの身としては、受けるワケにはいかないさ」

「ああ、俺も鋼も燻ってるつもりはないからな。すぐにとはいかないかもしれねぇが、ちゃんとお前に追いつくつもりでいるからよ」

「ええ、俺も初心を忘れず精進を続けるつもりです。今度も、負けませんから」

 

 言うねぇ、と荒船は不敵な笑みを浮かべた七海の肩をガシガシと叩き、三人は笑い合う。

 

 影浦も仲間に入りたそうに見てはいたが、丁度その時柿崎のテーブルから注文が入り彼を蔑ろには出来ない為に渋々席を離れていった。

 

「男三人で何やってんのよ。あたし達も混ぜなさいっての」

「小南さん、迅さん」

「やあ、楽しんでいるみたいだね」

 

 次にやって来たのは、小南と迅であった。

 

 あまりこういう場には顔を出さずに何かあれば玉狛支部に招いて食事会を開いていた二人であったが、今回ばかりは特別という事でやって来たのだ。

 

 特に迅はこういった集まって騒ぐ場に自分は相応しくないと考えている節があり、今回も小南が強引に連れて来なければ出席を辞退していただろう。

 

 勿論そんな戯れ言(あまえ)を小南が許す筈もなく、こうして連行されたワケであるが。

 

 尚、二人もまた戦功を受け取っている。

 

戦功所属部隊隊員名備考
特級玉狛第一小南桐江多くの新型トリオン兵を撃破し、人型近界民(黒トリガー)の足止め及び撃破に貢献した/新型撃破数17

 

戦功所属部隊隊員名備考
特級玉狛第一迅悠一適切な采配を行い被害を最小限に抑え、小南隊員と共に人型近界民(黒トリガー)の足止めを行い撃破にも貢献した/新型撃破数2

 

 小南は、圧倒的なラービット撃破数とヴィザ翁戦への貢献が。

 

 迅は、未来視を用いた采配とヴィザ撃破への貢献が。

 

 それぞれ、評価された形となる。

 

 他にも特級戦功は人型撃破に多大な貢献をした東、太刀川。

 

 加えて人型を撃破し捕虜にした遊真、風間といった面々が受け取っている。

 

 遊真の場合はヴィザ戦への補助も込みの評価であり、ヒュース戦で戦闘をサポートし結果万全の状態で彼を決戦に送り込む貢献をした修には一級戦功が授与されている。

 

 また、東と共同で人型撃破に当たった二宮、三輪、加古、烏丸、出水には一級戦功が。

 

 ランバネインを撃破した香取、それを全力でサポートした嵐山隊にも同じく一級戦功が与えられている。

 

 他にも人型撃破で活躍した王子隊や他のトリオン兵の駆除に当たっていたB級部隊には二級戦功が。

 

 人型撃破に貢献し、七海を最大限にサポートした影浦や那須隊の面々には一級戦功。

 

 そして、避難誘導を指揮し人的被害を0に抑えた柿崎にも二級戦功が与えられていた。

 

 他にもトリオン兵駆除に尽力した天羽や遊撃部隊として活躍した緑川達などにも、戦功が授与されている。

 

 むしろ、正隊員の中では戦功を授与されていない者の方が少ないくらいである。

 

 それだけ、今回の大規模侵攻では多くの人々が結束し、全力で事に当たったのだ。

 

 彼等の誰一人が欠けても、この結果は有り得なかっただろう。

 

 それは、この場に集う誰もが認めている。

 

「七海。本当にありがとう。君のお陰で、俺は玲奈との約束を果たす事が出来た。改めて、礼を言うよ」

「それはこちらも同じです、迅さん。貴方の、そして皆の力があったからこそ姉さんの願いを叶える事が出来たんですから」

「そうよ、二人共胸を張りなさい。この結果は紛れもなく、アンタ達全員が掴み取った代物なんだから」

 

 二人で礼を言い合っていた七海と迅を見て、小南はすぐさま活を入れた。

 

 七海も迅も共に根が悲観主義で責任感の塊である為、放っておくと空気が重いものになりかねない。

 

 それをとても良く知っている小南は、即座にフォローを入れたワケだ。

 

 しんみりするなら後にしろ、と言わんばかりに。

 

「そうだぞ。此処は祝いの席なんだから、笑って食えばいいんだよ」

「太刀川さんが言うと、なんか駄目な意味に聞こえて来ますね」

「まあ、それも含めて太刀川さんだからね~。仕方ないと思うよー」

 

 それに同意する者も、数多い。

 

 太刀川隊の面々は、いつもと変わらぬ調子でお好み焼きをかっ喰らっている太刀川を中心に、好き勝手にやっている。

 

 いつ如何なる時でも、自然体。

 

 それが、太刀川隊の持ち味なのだから。

 

「そやぞ。折角大勝利に終わったんやから、しんみりしてばっかじゃあかんで」

「皆、カッコ良かったですもんねっ! イコさんも、俺たちの分まで頑張ってくれましたしっ!」

「やっぱ、イコさん生き残らせて正解でしたわ。我ながら、巧い事やった思うとるで」

「そうっすね。俺はあんま役に立てなかったっですけど、結果的にどうにかなたんなら言う事ないですわ」

 

 流れに便乗してわいわいと騒ぎ出す、生駒隊の面々。

 

 この店に来る回数自体はこれまで多くなかった彼等ではあるが、こういった場では盛り上げ役として適役である。

 

 彼等がいるだけで大体の毒気が抜けていくのだから、気を張っている方が難しい。

 

 何処であろうと変わらない、生駒隊クオリティだった。

 

「ふん、はしゃいじゃって」

「そう言いながら、葉子も嬉しそうだね」

「華だって、嵐山さんに誘われたのがそんな嬉しかったの?」

「それは秘密」

「……………………なんか、少し場違いな気がして来たかも」

「奇遇だな。俺もだ」

 

 嵐山からランバネイン戦での活躍を称えられ、断り切れずにやって来た香取隊の面々。

 

 こういったボーダーの隊員同士の交流会に出るのは初めての彼等は多少肩身の狭い思いをしていたようだが、それを察した柿崎隊の面々や敢えて空気を読まなかった王子達がちょっかいをかけ、最終的には人の輪に加わっていた。

 

 彼女達もまた、七海達と関わり成長した戦友の一人。

 

 上へ目指す気概を得た彼女達は、これから先も歩みを止める事はないだろう。

 

「うむ、おいしいな」

「空閑、あまり早く食べて詰まらせるんじゃないぞ」

「うん。まだまだ一杯あるから」

「……………………何故、捕虜をこんな所に連れて来る。何をしたところで、本国の情報は喋らんぞ」

「そう言いながら、一番食べてるのヒュースくんだよねえ」

 

 和気あいあいとお好み焼きを食べている、玉狛第二の面々。

 

 一人この場にいるのがおかしい人物が混ざってはいるが、気にしてはいけない。

 

 何故かと問われれば、陽太郎が瑠花と組んだ結果であるとだけ言っておく。

 

 その一部始終を知っている修達としては彼は既に警戒の対象ではなく半ば身内扱いに等しい。

 

 彼等はまだ走り出したばかりで、その道程が明かされるのはこれからだ。

 

 次なる物語の主役として、彼等は一喜一憂しながら歩を進めていくだろう。

 

 長かった一つの物語の幕は、もう下りているのだから。

 

 そんな彼等を、ボーダーの仲間達を見て。

 

 迅は、心からの笑みを浮かべた。

 

「────────────────もう大丈夫だよ、玲奈。望んだ未来は、こうして掴む事が出来たんだから」

 

 その呟きを聞き取れた者は、果たして何人いただろうか。

 

 多くは、語らない。

 

 これまで苦難の道を歩んで来た彼は、ようやく光を手にする事が出来た。

 

 今はその事実だけで良いと。

 

 彼を大切に想う者達は、一様に頷いた。

 

 これからも、この大馬鹿者が突っ走らないように見守ろうと。

 

 そう、改めて決意して。

 

 

 

 

「玲」

「玲一」

 

 その日の夜。

 

 皆に謝辞を告げ二人で帰路に着いた七海と那須は、ある場所へと赴いていた。

 

 そこは、警戒区域の一角。

 

 かつて、七海の自宅が在った場所。

 

 そして。

 

 玲奈が命を落とした、彼女が眠る場所でもあった。

 

 その、空き地の前で。

 

 那須と七海は、二人で向かい合っていた。

 

 帰り道、どちらともなくこの場所へ向かう事を提案し、こうしてやって来たのだ。

 

 他の何処でもなく、この場所こそがその場に相応しいと考えて。

 

 二人は、玲奈の眠る場所へとやって来ていた。

 

「姉さん、姉さんの────────────────ううん、俺達の望んだ未来を、ようやく掴む事が出来たよ。誰一人欠ける事なく、皆で笑い合えた。多分、この光景が見たかったんだよね」

「色々遠回りをして、ごめんなさい。でも、これでようやく本当の意味で前に進む事が出来ると思う。だから、二人で報告に来ました。聞いて、貰えますか?」

 

 返事は、当然ない。

 

 けれど。

 

 二人の脳裏に、玲奈の笑みが浮かび。

 

 きっと聞いてくれているのだと、そう感じて。

 

 少年と少女は、向かい合い口を開いた。

 

「────────────────玲。お前の事が好きだ。だから、ずっと一緒にいて欲しい」

「うんっ! 私も、玲一の事が大好き。愛してる」

 

 そして、二人は前に向き直り。

 

 手を繋いで、微笑んだ。

 

「だから、見守っていて欲しいんだ。私達がずっと、一緒にいられるように。この手がいつまでも、離れないように」

「これからも色んな事があるだろうけど、玲と一緒ならきっと大丈夫。二人で、幸せになってみせるからさ」

 

 だから、と七海は告げる。

 

「────────────────なんでもない毎日を、大切に歩んで行くよ。いつか姉さんの所に行くその日まで、たくさん思い出を作りながらね」

 

 七海はそう言って、那須を抱き寄せる。

 

 もう、言葉は要らなかった。

 

 二人の影が、重なる。

 

 その光景を見降ろす夜空に、流れ星が落ちる。

 

 遠き星々の狭間に流れる、一筋の流星。

 

 それはまるで、二人を祝福する玲奈の流した嬉し涙のようで。

 

 ────────────────うん、二人なら大丈夫だよ。望んだ未来を掴み取れた玲一達なら、きっと────────────────

 

 何処からか、声が聞こえた気がした。

 

 気の所為だったのかもしれないけれど、それでも構わない。

 

 七海は、痛みを失ったが為に人の輪の大切さを、心の温かさを識り。

 

 那須は、そんな七海の成長を見ていたからこそ決して思い通りになるばかりじゃない困難(いたみ)を乗り越える人の強さを識った。

 

 二人の少年少女は喪失の痛みを背負い、それでも尚前へ進む事を選んだ。

 

 人生は思い通りに行くものばかりじゃなく、むしろ苦悩(いたみ)の方が多い日々が続くかもしれない。

 

 けれど、そんな毎日だからこそ人は精一杯に生き、幸せを掴もうとするのだ。

 

 当たり前の、けれど誰しもが忘れている日常(いたみ)の価値。

 

 それを識る彼等は、きっとこれからどんな現実(いたみ)に直面しても挫ける事はないだろう。

 

 黒い棺に眠る少女の、望んだ通りに。

 

 二人の歩みは、もう止まる事はないのだから。

 

 

 

 

────────FIN────────

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