これにてワールドトリガー二次創作、「痛みを識るもの」は完結となります。
二年以上に渡る期間、お付き合い頂きありがとうございました。
アフターストーリーなんかは描きますが、続編は書きません。
七海玲一という少年の物語は、大規模侵攻終結を以て終了致しました。
アフターで未来を掴んだ七海達の様子を垣間見る事は出来ますが、彼等はもう舞台を降りた身です。
此処からの物語の主役は彼等ではなく、原作主人公である修達です。
色々と原作とは状況が違って来ていますが、きっと彼等ならあらゆる苦難を乗り越えてくれる筈です。
七海達がそうであったように、彼等もまた「主人公」なのですから。
さて、それではこの「痛みを識るもの」完結にあたって諸々の想いの丈を綴りたいと思います。
まず、このストーリーを描きたいと考えたのは原作や他の方のワートリ二次を見て「ランク戦を描きたい」「旧ボーダー周りを描写したい」と思ったのが切っ掛けです。
ワートリは世に溢れる様々な作品の中でも、ある意味異色を放っている作品だと言えます。
何と言っても、そのシビアさとロジカルさが段違いです。
普通のストーリーだと、ピンチからの逆転は大抵「秘めたる力に覚醒」だったり「想いを背負って気合いで勝つ」みたいな感じですが、ワールドトリガーの戦闘にそういった覚醒展開や根性論は一切通用しません。
覚悟を決めて、自らを鍛えるのは
その上で勝つ為の「具体案」を提示し、イレギュラーな状況へ即応出来るだけの「対応力」、最適な選択を選び取る「機転」と冷静な「判断力」。
それらこそが勝利の為に必要な要素であり、土壇場で覚悟を決め直すのでは「遅過ぎる」。
そういったロジカルな側面に魅せられたのも、私がワートリのランク戦を描きたいと思った理由です。
ワールドトリガーほど、「集団戦」をロジカルに描いている作品は存在しません。
BBF等で作者さんも仰っていますが、集団戦は個人同士のぶつかり合いと違って覚醒や根性論が必ずしも必須ではありません。
格上の相手であろうと「戦術で嵌め殺す」「駒として浮かせる」「狙撃や奇襲で不意を突く」という攻略手段が無数にある為です。
しかもランク戦では様々なトリガーの中から自分に合ったものを選び、オンリーワンのユニークウェポンなどはなく使い手の技術と機転、そして運が勝負を決めます。
そして
これが従来のバトルメインの作品とは違う要素だと思います。
「気持ちの強さは関係ない」という太刀川の名言も、これらの要素を集約させていると思います。
というワケでランク戦を描きたいという欲から始まったワケですが、原作時間軸のランク戦を描くとなると完結させる為の「区切り」が見えませんでした。
連載開始当時はまだ原作でランク戦が終わってない段階でしたし、完結の目途を立てなければ連載を開始するつもりのない自分としては、ランク戦は描きたいけれど完結は絶対させたいという二律背反で葛藤しておりましたが、そこで天啓が降りました。
原作時間軸じゃなく、その「前期」のランク戦を描けば良いじゃないかと。
ランク戦は定期的に開催されており、原作開始前にも当然行われています。
そしてその前期ランク戦であれば部隊の顔触れはほぼ変わらず、原作で得られた情報だけで回せます。
何より、前期ランク戦から物語を開始させる事で大規模侵攻という「区切り」をクライマックスに持って来れる。
そう判断し、前期ランク戦という他の作者さんが殆ど描いていない領域へと手を出す事を決めました。
どの部隊を主役にするかは、決めていました。
ご存じ、那須隊です。
これは原作内で迅さんが言っていた「隊長とエースの兼任はきつい」という評価が、ある意味決め手でした。
作中には様々な部隊が出てきていますが、那須隊はその中でも明確に「改善点」が描写されています。
それ故に那須隊に足りない「那須さん以外のエース」と「指揮を行える作戦立案者」という要素をベースに七海玲一という主人公を組み上げました。
原作の那須隊は那須さんという強力な駒を擁しながらも、順位は伸び悩んでいました。
その要因の一つに、那須さんの強みを活かし切れていなかったというのもあります。
那須さんは縦横無尽に戦場を駆け巡る機動力と、自由自在な軌道を描く
ですが原作描写を見る限りでは熊谷を前衛に任せたオーソドックスな射手としての動きに加え、他二名の点取り能力があまり期待出来ない為に相手を落とす為に無理をせざるを得なくなる為、防御に長ける村上相手に攻めあぐんで負けていたりもしたようです。
そういった面が見えた為に、「那須さんと同等に動き回れる攪乱要員」として七海の
七海のトリガーセットは、メテオラをセットしている以外は原作の遊真のそれとほぼ同じです。
だからこそ差別化の為にタイトルの一因となっている「感知痛覚体質」という
また、遊真が原作でやった「グラスホッパーの有効利用」や「スコーピオンの応用」等は何か切っ掛けがなければ描かないようにしていました。
それらは遊真が近界で傭兵として渡り歩く内に獲得した経験値の賜物である為、いきなり七海に使わせるのはおかしいと思ったからです。
なので最初はそれらの応用描写を控えめにして、ランク戦後半で徐々に解禁していった形となりました。
また、七海を攪乱の出来るエースとして運用する事で那須さんを「本来の射手」として動けるようにもしていました。
射手は基本的に、前衛をサポートする形で動きます。
出水は射手の基本にして究極系とも言える動きをしており、あれこそがサポーターとしての射手の模範だと思います。
那須さんは技術的には同じ事が出来ますが、他にエースがおらず自分に付いて来れる機動力の仲間がいない為に自ら前に出る他ありませんでした。
そこで七海という「那須さんと一緒に動き回れる
加えて、原作であまりぱっとしなかった茜を「ライトニング専門の精密狙撃手」として運用する事で那須さん以外のポイントゲッターを用意しました。
ライトニングは威力と射程の低さから多用する者はあまりいませんでしたが、茜はそこを「二人のエースが作った隙を突く」「置きメテオラの起爆要員になる」という二点でクリアしライトニングの腕を集中的に鍛える事でマスタークラスにも上がりました。
加えてテレポーターという手札を加える事で唯一無二の転移系狙撃手という個性も獲得し、隊への貢献が出来るようになりました。
我ながらこの選択は英断であったと思います。
彼女がいなければ、戦術がより狭まっていたでしょうから。
熊谷の場合は、原作でメテオラを使った事がヒントとなり
王子の例を見る限り、攻撃手が使う射撃トリガーとして最も有効なのはハウンドです。
アステロイドは射手の照準能力が、バイパーは純粋な技術が必要になりますが、ハウンドは一度狙いを定めれば弧月と併用して撃てるので、牽制や不意打ちの手段として優秀です。
防御重視の熊谷の戦闘スタイルとも噛み合い、最適な選択であるのは間違いありません。
懸念は熊谷のトリオン量ですが、ハウンドを撃ち続けるような無茶をしなければそこまで問題にはならないと判断しました。
トリオン量がさほど多くないので、逆説的にハウンドを多用しない理由としても使えますからね。
戦闘描写というのは、ある程度縛りがあった方が書き易いものですから。
但し、熊谷はいきなりハウンドを選べるほど器用ではないので一度メテオラで失敗させるという工程を踏みました。
言うまでもなく、負け試合として描いたROUND3での話ですね。
あそこで那須隊の歪みを表面化させて大敗させるのは、最初から決めていました。
一見紳士的で理想的な少年に見える七海ですが、過去の出来事から那須さんに負い目を抱いて自らを雁字搦めに縛っていました。
一方で那須さんは七海の右腕と姉を失わせてしまったという罪悪感から、無意識に七海を縛り付け常に情緒不安定な状態となっていました。
その歪みを明確化させ、膿を摘出する形で彼等を落としたのは東さんでした。
この役目は東さんにしか出来ないと考え、あの展開を組み上げました。
ただ勝ち続けるだけの展開だと飽きが来る、というのが僕の持論です。
昨今の書籍では主人公が何の苦も無く勝ち続けるスタイルが多いようですが、私は主人公は艱難辛苦を乗り越えてこそハッピーエンドがより際立つという考えの持ち主ですので、基本的にストーリー中は主人公を苛め抜きます。
重い過去を背負わせるのはデフォルトですし、心に瑕疵があるのも基本です。
そして、それを背負い乗り越える展開はこの物語を描く上で必須でした。
困難を乗り越えてこそ、キャラクターは輝くのです。
最初から決まっていた勝利ではなく、全霊を尽くした末にようやく掴み取った勝利を得る。
これに勝るカタルシスはありません。
但しその代わり、一度物語が完結した後は蛇足で後を濁す事はしません。
私が「第二部」や「続編」を書かない大きな理由は、一度ハッピーエンドを掴んだ主人公達に充分な報酬として平穏を与える為です。
第二部や続編で辛い展開が待っていたりすると、「あの大団円はなんだったんだ」となりかねませんので、蛇足となる続編は絶対に書かないと決めていました。
次回作は用意していますが、そちらはこの作品の世界線とは一切関係ないものである事を此処に明言しておきます。
幸福を掴み取った少年少女に、これ以上の試練を課すのは言うまでもなく野暮ですからね。
さて、それぞれの章に関してお話しましょう。
ランク戦編では、影浦を、師匠を乗り越える事を最終目標としていました。
原作では二宮隊が最後の壁として立ちはだかりましたが、七海の場合二宮との接点は修達ほど深くはなく単なる「強敵」という扱いでした。
確かに二宮隊超えなくして一位到達は有り得ませんが、七海の最後の壁としては因縁的な意味で的確ではありませんでした。
だからこそ最終ROUNDは二宮隊は戦術で潰し、最後の影浦との一騎打ちを「結果的に」実現させたワケです。
それまでも村上や生駒等を相手に疑似的な一騎打ちは書いていましたが、本当の意味での横槍なしでの一騎打ちは後にも先にもあれだけです。
あの展開に持っていく為に、最終ROUNDは全てを組み上げました。
不自然にならないように違和感なく駒を落としていき、最後に二人きりの戦いを実現させる。
その為に、様々な仕込みを行いました。
二宮さんを中盤で落とし、そこから茜とユズルの狙撃手同士の対決を実現。
辻ちゃんを那須さんを落とす為の囮として運用し、生駒戦で茜ちゃんを使い潰す形で七海を勝たせる。
そうして実現したのが、あの一騎打ちだったワケですね。
尚、茜ちゃんが此処まで存在感を出すようになったのはある意味想定外でした。
ラウンド3での茜ちゃんは当初、ひっそりと自発的に
しかしそこで「こうした方が良い」と天啓が降りた為、ユズルくんを因縁を結ぶ形で落とさせたのです。
これがあったからこそ最終ROUNDの狙撃手同士の対決が実現し、茜ちゃんとユズルくんが親交を結ぶ切っ掛けとなりました。
なんだかんだこの二人の組み合わせは好きになれたので、良かったと思っています。
また、ランク戦編から昇格試験編にかけては香取の存在感が割と出ていたように思います。
最初は香取隊の問題点を指摘して幾度か折るだけの予定でしたが、何度も折れたが為に成長し大成する、という
香取は努力のやり方や周りとの協調が苦手なだけで、才能だけはずば抜けています。
彼女に限っては、一度覚悟を決めて覚醒してしまえば停滞していた成長は一気に来るものだと思っていました。
案の定、原作でも最終ROUNDでその成長が垣間見えましたしね。
そんなワケで徹底して苛め抜きスポットライトが当たる事の多かった香取隊ですが、だからこそあのランバネイン戦のクライマックスが映えたのだと思っています。
実は次回作は香取隊メインなので、その予行演習でもあったりしました。
香取の動かし方も大体分かったので、得るものは多かったと思います。
ランク戦編は、大規模侵攻の被害を徹底的に減らす為に各部隊の成長を原作で先取りして行わせるという目的もありました。
原作では大規模侵攻や玉狛第二との戦いを経てようやく改善点等々が見つかる各部隊を、那須隊に叩きのめさせる事で強引にその背を蹴飛ばさせたワケです。
それらの積み重ねによって、あの大規模侵攻の結末に至ったワケですね。
また、今作を書くもう一つの目的であった旧ボーダー周り、特に迅さんを中心とした人間模様も昇格試験編の最終チャプター、迅さん編で描き切れました。
未来視という異能を持っているが故の苦悩が原作の描写からも滲み出ている迅さんですが、今作では想い人との死別という体験によってその曇り具合が上がっていました。
通常にワートリ二次創作では迅さんは都合の良い舞台装置としての運用が主ですが、今作の迅さんは徹底して「救われる側」として描きました。
原作では風刃を彼が手放した事に対する言及は小南達からはありませんでしたが、裏で何かしらあったと考えるのが適当だと思ったのでそのあたりも過去回想編で描写しました。
その過程で四年前の第一次大規模侵攻の様子をダイジェストながら描きましたが、好評を頂けて何よりでした。
「Re:七海玲一⑤」と「Re:未来を識るもの」はそれぞれ迅さんの側から見た「七海玲一⑤」と「未来を識るもの」の裏側であり、彼のそれまでの道程と覚悟を巧く描き切れたと思っています。
尚、過去回想編で初登場させた瑠花ちゃんがあそこまで好き勝手暴れるとは思っていませんでした。
当初のプロットには影も形もなく、最初はファンサービス的な要素として出しただけだったのですが、気付いたらバンバン存在感を出してました。
亡国のお姫様、ジト目、旧ボーダー組との関わり等美味しい要素が揃っていたのである意味必然だったのかもしれませんが。
琉花ちゃん、迅、小南の三角関係はノリノリで描けたと思います。
書いてて本当に楽しいキャラでした。
アフターでも多分、何かしらの形では出るでしょう。
また、恋愛関係ですと小夜子の話は外せません。
私はああいう報われない献身を行う少女ってなんだかぐっと来るので、書いてる内に小夜子ちゃんが大好きになりました。
作中では第三ROUNDの後の新生那須隊誕生編にて、那須さんとキャットファイトを演じたのが良かったのだと思います。
私の得意とする女の情念ドロドロのぶつかり合いと、その後のある意味さっぱりとした那須さんとの関係性は筆が乗りましたね。
今作での小夜ちゃんは原作と異なり、トラウマ級の出来事が原因で疾患としての男性恐怖症を患っているので、その度合いは原作よりも遥かに重度です。
原作の今の展開のように人前に出ていく事は、まず無理と言って良いでしょう。
那須さんもそうですが、今作のキャラ達は原作にはない道程を歩んでいるので、パーソナリティが若干異なっている部分があります。
小夜ちゃんは男性恐怖症の深刻化と、七海への恋慕が。
那須さんは七海への罪悪感を元とした病み要素と、コミュ障の追加が。
迅さんは原作よりも酷い境遇を経ての曇り具合激増が。
それぞれ、付加されています。
作中での彼等の独白等はあくまでもこの世界線での彼等の想いですので、当然原作と同じではありません。
私は二次創作の事を「原作と酷似した、しかし何かが違う世界線を描いているもの」として解釈しています。
原作に登場していない、七海と玲奈。
彼等の存在による影響によって原作とは異なる道筋を歩んだのが、この世界線であるというワケです。
まあその所為で修達のランク戦の難易度が上がりまくっていますが、彼等ならなんとかするでしょう。
テコ入れされているのは、彼等も同じですからね。
最終章の大規模侵攻編では、誰と誰を当てるかは一部以外は難産でした。
ヒュースは玉狛第一と遊真で迷っていましたが、原作玉狛第二メンバーで揃えたいと思い遊真と修を当てました。
原作と異なり彼等と直接ぶつかっているので、ヒュースの修達に対する心象も原作とは別のものになっております。
そのあたりはアフターにて描写出来るかと。
ランバネインは、香取をトドメ要員にする事は最初から決めていました。
木虎と少し迷ったのですが、矢張り此処は彼女しかいないだろうと決定を下しました。
エネドラは旧太刀川隊を、ハイレインは旧東隊を当てた事も紆余屈折あっての事です。
風間をエネドラ相手に、烏丸をハイレイン相手に活躍させたのは、それぞれ原作の意趣返しとも言える展開となっています。
エネドラは七海と影浦のコンビを当てるという選択肢もありましたが、七海には可能な限り万全の状態でヴィザ翁の前に立って貰いたかったのでこちらとなりました。
ハイレインは東と似た戦術思想を持っているので、東さんとの戦術家対決を行いました。
結果として、東さんが勝利。
そしてそれが、ヴィザ翁の本気を引き出すトリガーとなります。
原作でハイレインが素直に撤退したのは、C級隊員の鹵獲という目的を達成していたのも大きいです。
それがない以上、そのまま帰るワケにはいかず苦渋の決断として後先度外視でヴィザ翁に本気を出して貰う他なくなったワケです。
その為に修のモールモッド相手の緊急脱出を阻止したり、イルガーの被害を那須さんに食い止めて貰ったりと色々仕込みをしてたのです。
C級の緊急脱出の有無についての情報を隠し通せば、ハイレインもC級確保には動き難くなりますからね。
ヴィザ翁戦は、最後は王道オブ王道で攻略すると最初から決めていました。
土壇場での黒トリガー覚醒に、総力を結集した波状攻撃。
最後にして最大の壁である本気ヴィザ翁を討ち取るには、これしかないと思いました。
ご都合主義のチート能力ではなく、特殊な力を最大限に活用した「戦術」で最強の敵を打ち倒す。
それを描き切る事が出来て、満足しております。
長くなりましたが、これにてあとがきを幕とさせて頂きます。
アフターで色々書く予定ですが、改めましてお付き合い頂いた皆様に感謝を。
次回作、「香取隊の狙撃手」もどうぞご期待下さい。
それでは、また。