第九章『合同戦闘訓練/STAGE1』
ランク戦編を終え、始まった昇格試験編その1です。
相手は香取隊・冬島隊で、那須隊は三輪隊と組んで彼等と戦いました。
最初の「合同戦闘訓練開催」では忍田さんと影浦の間で影浦隊の扱いについて話されていますが、此処で影浦隊のペナルティ解除を匂わせる事で後のあの展開へ繋がるようになっています。
影浦隊は根付さんアッパー事件のペナルティとしてA級昇格が出来ない状態であり、本来であればこの時期に解除される事はありません。
ですが、この世界線の影浦は七海を弟子にした事で短絡的な行動を自粛するようになり、原作でやったようなC級首チョンパみたいな事はしていません。
加えて七海への指導や周囲への配慮が評価された結果、忍田の側からペナルティ解除について密かに上層部に打診されていました。
原作で明言はされていませんが、カゲさんが根付さんを殴るとなると鳩原関連でユズルが根付さんと揉めた、といった理由が妥当ではないかと思われます。
そもそも影浦は犬飼を嫌っているように裏表のある人間を忌避する傾向がある為、自分から根付さんに絡むとは思えません。
ですので、そんな根付さんを殴ったというのは相応に「看過出来ない場面」に直面したからだと思います。
その理由として最もありそうなのが、ユズルが鳩原の件で根付に直訴した際に鳩原を侮辱する発言を根付さんが行い、それに彼が激怒した結果影浦が泥を被った、といったところでしょう。
少なくとも、この世界線ではその説を採用しています。
原作の影浦とこの世界線の影浦のパーソナリティは七海と関わった結果変化していますので、原作で今後そのあたりが明かされたとしても変更はありません。
七海玲一という原作にはない要素が混じったこの世界では、こうだと考えて貰えれば結構です。
尚、その影響が巡り巡って奈良坂の弟子馬鹿発言となっていますが、これは書いてたら勝手に彼が壊れていました。
この世界線の奈良坂は茜がマスタークラスになった事を契機に猫可愛がりが爆発しており、そこから茜が活躍しまくるのでその度合いを悪化させていった次第です。
奈良坂は能力及び結果を評価する優等生タイプなので、どんどん結果を出し続ける茜が可愛くて仕方なかったのだと考えられます。
その結果として、周囲がドン引きするレベルの弟子馬鹿となったのはご愛敬ですが。
さて、試合解説を始める前にこの昇格試験編でA級と組んで戦う、という変則的な仕様とした意図を説明したいと思います。
この「痛みの識るもの」の最終的な目標は、「大規模侵攻での被害軽減」でした。
大規模侵攻での完結を目指した理由は以前語った通りですが、それを以て終幕とする為には可能な限り「大団円」で幕を閉じる必要があります。
しかし、原作のように多数のC級が攫われ死者多数という結果では、どう考えても「大団円」とはなりません。
ですので、原作と同じ結果にならないよう各部隊へのテコ入れやA級部隊の適切な采配、そしてA級相当の力を持つ二宮隊・影浦隊の正規運用が必要となりました。
原作ではB級部隊と同じ扱いとなっていた為B級と同じく合流優先であまり活躍出来なかった二宮隊・影浦隊ですが、彼等はどう考えてもラービットや人型相手に切れる強力なカードの1枚です。
それを腐らせておくのは宝の持ち腐れでしかないので、そのあたりを解消する為の下準備としての側面もこの昇格試験編にはありました。
この合同戦闘訓練を通してA級及びA級相当の部隊の再評価を行い、大規模侵攻の際に適切な運用を行う。
加えて、A級の実際の能力を直に知って貰う事で有事の共闘をスムーズに行えるようにする。
そのあたりが、この昇格試験編を開催した理由となります。
勿論、冬島隊や太刀川隊、風間隊といった面々とランク戦方式で戦う部隊を描きたい、という欲もありました。
彼等がボーダー隊員と戦闘するシーンは原作では個人戦を除けば黒トリガー争奪戦くらいしかないので、実際にランク戦方式のルールで戦ったらどうなるか、を描いてみたくもありました。
それらの欲求と実利的な面を考慮した結果、この形になった次第です。
私は長編連載を行う時、ゴールとクライマックス、そして描きたいシーンから逆算してストーリーラインを組み上げます。
描きたい、描かなければならないシーンへ至る為に必要な準備、イベントは何か。
それらを逆算してストーリーラインに無理のない形で組み込み、計画的に物語を進めていくのが私の創作スタイルです。
この逆算方式を用いる事で「次何を描けば良いのか分からない」という問題と直面する事がなくなりますので、計画を立ててからその通りに進めるのが好きな私に一番合ったやり方であると自負しています。
そうして物語を進める事で、いざ何か描きたいシーンが出てきた際にそれを無理なく挿入出来る余白を自然に捻出出来るワケですね。
元からある程度余裕を持ってストーリーを構築しているので、そういった「意図的な空白」は常に用意しておりますので。
さて、それでは試合の解説に参ります。
今回組む事になった那須隊と三輪隊という組み合わせですが、ぶっちゃけこの二チームの共闘はかなり凶悪です。
何せ、狙撃手三人態勢という荒船隊を内部に抱えているに同然の構成に加え、七海・那須・三輪というエース三名の布陣に、優秀なサポーターである米屋・熊谷がバックを支えています。
更にどちらも四人部隊なので人数的な有利もあるという、香取隊単独ではまず勝ち目のない組み合わせです。
そこで用意したのが、冬島隊という性質的にクソゲー発生要因に違いない部隊と、河川敷MAPの二つです。
冬島隊はポイントゲッターが狙撃手一人のみという傍目から見れば意味不明な構成でA級二位に君臨する変態部隊です。
その厄介な部分は作中で説明した通り「撃ったら文字通り姿を晦ます狙撃手」と「仕事をしたら引き籠り前線に出ない特殊工作兵」という組み合わせにあります。
恐らくランク戦では当真は徹底して隠れ潜み、チャンスを見つけて狙撃を実行。
更に、撃ったら即座にスイッチボックスで離脱、というヒット&アウェイ戦法を繰り返していると予想されます。
そして、冬島さんは罠を設置し終えたら後は引き籠って支援に徹するでしょう。
つまり、相手チームは「一切姿を見せないチーム相手に警戒を強めながら狙撃の脅威に備える」という対応を強要されるワケです。
もしくは、隠れている相手を炙り出そうとメテオラを連打するかもしれませんが、そういった短絡的な行動に出ればその隙を当真に突かれるであろう事は言うまでもありません。
狙撃手の当真は普通なら撃てば位置バレして脅威度が激減するところをワープでいなくなってしまうので、被弾するどころか居場所を発見される事すら稀であると思われます。
しかも、狙撃の腕は百発百中の達人。
相手からすれば、対処に頭を抱えたくなる部隊でしょう。
結果として冬島隊は「得点力はそこまで突出しないが失点が殆どない部隊」という特徴を持つと予想されます。
今回香取はその冬島隊の力を借りる事により、自在に転移可能なスイッチボックスと撃っては消える狙撃手である当真という強力なカードを手にします。
加えて減点を覚悟で指揮を丸投げし、試験の場を鍛錬場へ変えました。
このあたりのムーブが出来るのも二度に渡って那須隊に敗北し折れた結果であり、彼女の成長が垣間見えるところです。
実際、この指揮丸投げがなければ香取隊の得られた結果は違ったものになった筈です。
格上の指揮に十全に従い、指令を実行する。
その経験を此処で得られたからこそ、大規模侵攻でのあの活躍に繋がったのだと思います。
そして、原作では那須隊が玉狛・鈴鳴相手に選んだこの河川敷AというMAPは那須隊・三輪隊へのデバフとして今回は機能します。
河川敷Aは大きな河川で、東西が分かたれたMAPです。
向こう岸へ渡るには橋を通るしかない以上、隠密を旨とする狙撃手は東西の移動がほぼ出来ないに等しいです。
橋を通る為に狙撃手が姿を晒してしまっては、狙撃手の最大の利点である初撃の脅威を捨てる事になる上に狙い撃ちにされるリスクを背負いますからね。
なので、狙撃手三名という那須隊・三輪隊連合軍の強みが此処で半減させられ、人数差も「転送位置によって孤立する可能性が高くなる」というデメリットに変わりました。
ですが、今回那須隊はそれを織り込んだ上で策を打ちます。
それが、那須を囮とした釣り出し作戦です。
那須隊・三輪隊の中で敵地の中で孤立すれば生き残れる確率が低いのが、那須さんです。
彼女はサポート能力と制圧能力は高いですが、タイマン特化型の香取とワイヤー地帯でガチれば相性的に厳しいです。
那須さんの真価は味方と組んだ時の制圧能力であり、相手の喉元に食い込む爆発力は香取の方が上です。
その関係性は丁度、攪乱特化の七海と攻撃特化の影浦の関係に似ています。
七海と影浦が能力的に対になっているように、那須さんと香取もまた対になっているワケですね。
ですので、那須さんが敵地で孤立した場合可能な限り時間稼ぎを行いつつ粘り、ワイヤー設置役である三浦・若村を釣り出し仕留める作戦を仕込んでいました。
那須隊としてもワイヤーを張られ続ける展開は一番避けたいところなので、ただ落とされるよりは有意義に駒として使い潰した方が得だと判断したワケです。
尚、作戦提案者は小夜子です。
那須さんとしては香取とガチっても勝つ気でいましたが、そこで冷静に相性分析をした小夜子が待ったをかけた形になります。
基本的に戦闘時の那須さんはイケイケモードになりますが、平時であり相手が七海や小夜子であれば理屈の合う事なら言う事を聞きます。
これは彼女が七海達に最も心を許している証でもありますが、無自覚な七海と違って小夜子はある程度それを自覚した上で那須さんを運転制御しています。
一度女としての本音でぶつかり合った間柄として、相手の考えている事をなんとなく察する事の出来るようになった小夜子だからこその動きでもあります。
実際に作戦は巧く嵌まり、那須さんは落とされる事になりましたが東側のワイヤー設置役だった若村を釣り出して落とす事には成功しました。
但し、香取隊側もやられてばかりではありません。
三輪とガチれば最終的に負けるしかない香取ですが、粘った結果冬島さんのワープ陣が完成。
転移で古寺を落とし、橋で頑張っている三浦の元へ向かいます。
若村は彼を落とす為にあの那須さんが捨て駒として自身を運用する事を許容する程の価値を示せたというワケなので、成長したと言って良いでしょう。
三浦もまた自身の役目を果たす為に、七海相手に奮闘します。
この橋の上の背水の陣での戦闘は第六ラウンドで見せた三浦の機動力を発揮する場面でもあり、クライマックスの橋崩落前後の戦闘へと繋がる展開でもあります。
三浦は原作では大規模侵攻でレイジさんがやっていたワイヤーを用いたメテオラトラップを橋に仕掛けて戦うという、テロリストみたいな戦い方をする事になりました。
彼のこの頑張りがなければ那須隊の戦力が東側になだれ込み、また違った展開となっていたでしょう。
この橋上の戦闘を指示したのは、勿論冬島です。
冬島は三浦が西側に転送された時点で、彼を時間稼ぎの駒として使い潰す方針を予め伝えてありました。
もしも一人で敵地に転送された場合、時間稼ぎを徹底する。
これは、冬島さんが最初に香取隊に伝えた方針の一つです。
幾らスイッチボックスがあるとはいえ、三輪隊と組んだ那須隊と正面からぶつかれば香取隊はまず負けます。
香取はともかくとして、他二人の練度がB級上位としてはお粗末なものだからです。
若村は言うまでもなく、三浦もサポート能力は高いのですがこれまで良質な経験に恵まれなかった為、フォロー自体は巧いのですが「点を取る為に味方を押し上げる為の動き」が苦手です。
その為に咄嗟に助ける事は出来ても、「後」を考えて臨機応変に一手を打つ能力が経験不足で足りていないんですね。
本来、香取隊は香取という自立式ロケットミサイルをどう相手の陣地に撃ち込むかというエース特化型のチームです。
その為他二人はサポートに徹し、自身を犠牲にしてでも香取ミサイルを相手に撃ち込んでいく多段ロケットのような動きが理想的です。
ですが、三浦はこの「自身を捨て駒にしてでも香取を敵地に押し込む」といった経験が殆どありません。
あの敗北までは、点が取れた試合でも香取が独断専行でその場で必要な行動を取っており多少のフォロー以外のサポートを必要しなかった為です。
というか、多分点が取れた試合っていうのは原作香取隊の場合「香取が単独で動いて巧くいった結果」だったと思います。
そのあたりを理解せずに文句を言うだけ、というのが原作若村です。
香取は天才としての感性から「今は自分が単独で動けば巧くいく」といった場面がなんとなく分かるのでしょう。
だからこそチャンスを逃さず行動しようとするのですが、凡才の若村ではそんな香取の行動が「身勝手な独断専行」にしか見えていません。
天才と凡才の感覚に違いによるすれ違いなのですが、香取はそれを一切矯正する気がありません。
香取自身、若村と言い合っても疲れるだけと思っていたのでしょう。
有り体に言えば、何の期待もしていなかったのだと思います。
こんな状態でまともなチームとして機能する筈もなく、あの第四ラウンドでの敗北は必定だったワケですね。
成長したといっても、香取隊の動き自体はそう変わりありません。
より戦術コンセプトが明確になり先鋭化はしていますが、「どうやって香取に点を取らせるか」が肝である事は言うまでもありません。
だからこそ此処で「香取を活かす為の時間稼ぎ」を三浦が行う事は意味があり、彼が粘った結果米屋が出て来た為に香取がA級撃破ボーナスを取得出来たワケです。
ワイヤーを自在に使いこなした香取ですが、まさか原作でも同様に香取がワイヤーを使用する場面があるとは思いませんでした。
原作でワイヤーを逆利用したシーンから相性良いだろうなと思い使わせましたが、あちらでも香取を強化するならワイヤー、という意識は同一であったようです。
崩れゆく橋での曲芸戦闘は、香取の天才性が色濃く描写出来たかなと思っています。
これで成長途上というのが、色々な意味で期待出来たというワケです。
その後は七海とガチって最終的に落とされた香取ですが、最後の場面でマンティスを使用出来なかったのはあの局面で咄嗟に使える程習熟度が高くはなかったからです。
マンティスは
幾ら天才の香取とはいえ、マンティスは本来一朝一夕で体得出来るようなレベルの技術ではありません。
見様見真似である程度模写出来た香取がおかしいのであり、普通ならあんな真似は出来ません。
それを踏まえた上での、マンティス抱え落ちだったワケですね。
当真と茜の狙撃手対決は、テレポーターで川の中に転移して潜み続けていた茜に軍配が上がります。
真っ暗な夜の川の中で機会が来るまでひたすらじっとして待機する茜の姿は、とても良く映えたと思います。
今回テレポーターを使用して茜を援護した奈良坂ですが、彼は茜にテレポーターを教える時にまず自分で使えるように加古さんに頭を下げて扱い方を勉強して茜に教えるという手法を取りました。
なのでテレポーターの扱い自体は全くの素人というワケではなく、ああいった作戦が通用したワケです。
この一戦で奈良坂は色々そりが合わない当真に一泡吹かせる事が出来て、万々歳といった感じでした。
これで第一試験は終了し、結果としては負けましたが香取隊は貴重な経験を手にする事が出来たというワケです。
さて、試験を通じて三輪と分かり合ったかに見えた七海でしたが、実はこの場面「お互い不必要に絡まない事にしよう」という紳士協定が結ばれたに過ぎず、二人共一切歩み寄りはしていません。
三輪の心変わりは、黒トリガー争奪戦編に持ち越しとなります。
試合が終わって、次の試合の特別ルール「旗持ち」ルールが公開されました。
この昇格試験編では通常のランク戦との差別化の為、そして大規模侵攻の予行練習の為に特殊なルールを構築しています。
この旗持ちルールの設定目的は、大規模侵攻での護衛・避難誘導能力、の向上です。
大規模侵攻では高い確率で千佳ちゃんという被護衛対象がいるので、その練習という側面もありました。
加えて、王子を使う以上頭脳戦を展開しなければならないので、その為にルールを追加したという側面もあります。
あの読み合いシーンは、割と好きなのでノリノリで書きました。
他の第一試合については、二宮隊が生駒隊相手に無双したのは点数調整の結果でもあります。
この形式で大量得点を狙うなら、四人チーム相手に勝つのが一番速いです。
なので表面上の相性はともあれ過去に同じチームを組み互いの手の内を知っている加古と組んだ時点で、この結果は約束されていたとも言えます。
二宮隊には今回も一つの壁として立ちはだかって貰うつもりでいたので、この調整に落ち着きました。
次の試合は太刀川隊相手となりますが、唯我は「B級下位相当の実力の駒が二点ボーナスではフェアではない」という出水の進言で彼の参加がッ却下されている為唯我自身はチラ見せで留まりました。
唯我は私の書き難い、「敵ではない三枚目キャラ」です。
こういうキャラは敵であれば扱いは楽なのですが、そうでなければ物語の中での役どころに困るのです。
実力的に大きな影響を齎せず、精神面も一部の
これが敵であれば物語を引っ掻き回すトリックスター役として動かせますが、味方ですとそうもいきません。
なので、唯我の描写不足はそのまま私の力不足と言っても過言ではなく、次は彼にもスポットライトを当てる機会を作っても良いかなと思っています。
章の最後の「ゲーマーズレディ」は、奇しくも趣味人同士で集まった小夜子達サブカル大好きオペ組の宣戦布告合戦です。
こういう女の子同士の友人関係って割と結構好きなので、この三人に共通点を持たせてくれた公式に感謝ですね。
切り口があるのとないのとでは、説得力に大きな違いが出ますので。
長くなりましたが、これで第一試験の解説を終了します。
次は第二、第三試験の解説となります。お楽しみに。