「さて、本日の試合はこれにて終了……っ! それに伴い、暫定順位が更新されます」
綾辻はそう告げると機器を操作し、画面にランク戦の暫定順位を表示した。
B級上位
1位:『二宮隊』23Pt→26Pt
2位:『影浦隊』21Pt→23Pt
3位:『生駒隊』19Pt→22Pt
4位:『弓場隊』18Pt→20Pt
5位:『那須隊』18Pt→19Pt
6位:『王子隊』15Pt→17Pt
7位:『香取隊』13Pt→17Pt
B級中位
8位:『鈴鳴第一』14Pt→17Pt
9位:『東隊』15Pt→16Pt
10位:『諏訪隊』10Pt→12Pt
11位:『柿崎隊』8Pt→12Pt
12位:『漆間隊』10Pt→11Pt
13位:『荒船隊』7Pt→9Pt
14位:『早川隊』5Pt→5Pt
「ご覧の通り、『香取隊』が4得点を獲得しB級上位に復帰。入れ替わりに『東隊』が中位落ちという結果になりました」
「『那須隊』はROUND2までの貯金で、なんとか上位に留まった感じだな。結構苦しい試合だったにしては、マシな結果になったじゃねーの」
確かに、『那須隊』は結果としては惨敗に近かったものの、ROUND2までの大量得点が功を奏し、上位に留まる事が出来た。
あの試合内容にしては、上々の結果と言える。
「『東隊』が中位に落ちたのは、なんか意外な感じだな。試合も割と上手くコントロールしてた感じはするがよ」
「元々、東さんはそこまで大量得点を狙うタイプじゃないからね。獲れる点を確実に取ってタイムアップを狙うのが常套手段だし、それを考えれば仕方ない面はあるわ」
でも、と加古は続けた。
「もしも茜ちゃんが無理に東さんを狙っていれば、『東隊』に得点が入って中位落ちにはならなかったかもしれないわね。それに、彼女が得点していなければ更に上のチームとの点差が開く結果になっていたわ」
「そう考えっと、マジで日浦ちゃんはファインプレーだな。チームメイトの敗退のロスを、最低限で抑えられたからな」
確かに、ポイントが同じであればシーズン開始時の順位が優先される以上、『東隊』にあと1点入っていればその順位は7位に繰り上がり、『香取隊』が上位に復帰する事もなかった。
そして、『那須隊』も1ポイントとはいえ獲得した事で、上の順位のチームとの点差を最低限に留める事が出来た。
あらゆる意味で、茜の功績は大きい。
彼女が取った選択は、そういう意味で最善だった。
「けど、次も同じような結果だったら『那須隊』は中位落ちも有り得んぞ。さっきも言ったが、今回はROUND2までの貯金が活きた側面がでけぇからな。このまんまだと流石に限界があんだろ」
「そうね。それについては同意見だわ」
加古はそう告げ、総評に移るけれど、と前置きして話し始めた。
「今回、『那須隊』は全体的に動きが悪かったと言わざるを得ないわ。熊谷ちゃんが落ちたのは転送運もあるからある意味仕方ないとしても、その後の行動が頂けないわね」
「よりにもよって二宮に突っかかったからなー。チームメイトをやられた借りを返したかったのはわかっけどよ、それでも相手が悪過ぎるわな」
そう、今回の『那須隊』の最大の問題点はそこだ。
熊谷が落ちたのは、転送運もありある意味では仕方ない。
だが、そこで『那須隊』は相性が最悪で尚且つ最も地力が高い二宮に対して仕掛けてしまった。
そこが、今回の試合の分かれ目だったと言えるだろう。
「『那須隊』が取るべきだった戦略は、『二宮隊』を放置して他の二部隊と食い合わせ、その隙を狙って獲れる点を取っていく事。少なくとも、二宮くんを真っ先に狙う事じゃないわ」
「ま、そうだな。これまでのROUNDのように上手く乱戦に持ち込めれりゃ、得点するチャンスもあっただろーぜ」
ま、それも結果論ではあるけどよ、と当真は告げた。
確かに、『那須隊』は『二宮隊』を狙う事に固執しなければ、得点を得られていた可能性はあった。
同じ『二宮隊』を狙うにしても、犬飼と合流して隙のなくなっていた二宮ではなく、単独で動いていた辻を狙えば、落とせていた可能性もあった。
だが、『那須隊』は…………というよりも那須はあくまで二宮を倒す事に拘り、その機会をふいにしてしまった。
完全な、失策と言えるだろう。
「最初の二宮くんとの戦いで、『那須隊』は彼との相性の悪さは身を以て分かっていた筈よ。格上の相手を落とす為に試行錯誤するのは悪い事じゃないけれど、それならそれで自分達の得意分野を活かすべきだったわね」
「そうだなー。『那須隊』は攪乱に特化した能力持ちが揃ってんだから、『二宮隊』と他の隊を食い合わせて犬飼と二宮を分断させりゃ、二宮を倒せるチャンスもあったかもしんねーしな」
まあ、結果論だがよ、と当真は付け加えた。
実際は『二宮隊』を崩すのはそう簡単な事ではなく、合流した二宮と犬飼を分断するのも至難の業だ。
二宮が近くにいる以上あの絨毯爆撃を掻い潜らなければ彼等に肉薄する事は出来ず、狙撃も犬飼が防御に専念していたあの状態では成功させるのは難しい。
B級一位の壁は、そう薄くはないのだ。
「そういやその『二宮隊』だけどよ、今回は妙に『那須隊』に執着してた気がすんな。二宮は犬飼と連携してくまを仕留めてたし、その後も迷う事なく『那須隊』を追いかけてやがったしよ」
「それについては二宮くんの悪い癖が出ただけだから気にしなくていいわ。時折ある彼の気紛れ、とでも思って頂戴」
「ふーん、そういうもんか」
てっきり二宮が七海の事をそれだけ買ってたと思ってたんだがな、という当真の呟きを、加古は心中で肯定した。
言葉にしてみれば、なんて事はない。
二宮はそれまでの七海の対戦映像を見て本人と直に接した結果、七海に一定以上の価値を見出した。
目をかけるに値すると考えた相手に対しては、余計なお節介を焼くのが二宮という男の特徴である。
二宮はこの試合で七海を、『那須隊』を試すつもりで熊谷を確実に落としにかかり、それに対する反応を見た。
だからこそ、感情任せに自分達に仕掛けて来た『那須隊』を見て、ああも落胆していたのだ。
この程度か、と。
「ま、『二宮隊』に関してはいつも通りに戦って、いつも通りに勝った、という所かしら。まあ、間違いなく東さんの案じゃない雪MAPで動きが鈍らなかったあたりは評価してもいいかもね」
「ふん……」
作戦室で加古の総評を聞いていた二宮は、不機嫌そうに眉を揺らした。
彼と加古の相性の悪さは犬飼も知っている為、見ている側としては気が気ではない。
試合の最中から二宮の機嫌はかなり下降しており、試合終了直後の今は最悪と言って良い。
胃が痛いなー、と犬飼は宙を仰いで頼むからこれ以上煽らないでくれよー、と加古に願った。
「それから、『東隊』はやっぱり東さんが上手かったわね。
「ま、あの人なら当然だろ」
加古は次に、東の手腕を褒め称えた。
サイドエフェクトで狙撃が効かない七海を、那須を狙う事でそれを庇わせ、落とす。
言うは易しだが、行うは難しだ。
那須を狙うと言っても、那須自身かなり機動力が高い。
一ヵ所に留まる事はまずない上に、建物を利用した三次元機動で縦横無尽に跳び回る。
その彼女を狙うには、彼女の移動経路をシミュレートし、その移動先に射線を
止まった的を狙うならまだしも、機動力に優れた那須を空中で狙い撃つというその絶技。
『始まりの狙撃手』と呼ばれるに相応しい、卓越した技量が伺える。
「最初にそれを狙ったユズルくんも流石だったけど、東さんはその上を行ったわね。七海くんの
「ま、幾らトリオン能力がでかくても『アイビス』二発を防ぐのは無理があっからな。しかも、ユズルの狙撃から間髪入れずに撃ってっからシールドを張り直す時間もねえ。ありゃ防げって言う方が無茶だ」
そう、東はユズルの狙撃のコンマ数秒後に『アイビス』の弾を七海に着弾させている。
あれは、ユズルが撃つタイミングを読み切っていなければ出来ない芸当だ。
タイミングが遅れていれば、七海はシールドを張り直すか『グラスホッパー』で回避していた可能性もあった。
確かな戦術眼に裏打ちされた、計算され尽くした一射と言える。
「けど、七海を仕留める為に全霊を注いでた感じがあるよな、今回の『東隊』は。辻を小荒井達に足止めさせたのもその為だろ」
「そうね。東さんといえども、
「『東隊』は小荒井と奥寺が相手を釣って、東さんが狙撃で仕留めるスタイルだからなー。その狙撃が効かない七海を最優先で対処すんのは、まあ当然っちゃ当然なんだよな」
そう、当真たちの言う通り、『東隊』はこの試合、七海を仕留める事を最優先に行動していた。
狙撃を回避された上に七海に位置を補足されては、流石の東といえど動きが制限されてしまう.
だからこそ、『東隊』は
結果としては一点しか取れなかったものの、作戦自体は上手く行っていた。
中位落ちという結果となったのは、ある意味で致し方なかったと言えるだろう。
「けど、七海並とは言わずとも、小荒井達にはもうちょい攪乱能力が欲しいトコだよなー。折角連携がうめぇのに、ちと勿体ない気がすんぜ」
「そうね。前の試合で奈良坂くんも解説していたけど、遠距離攻撃手段が『旋空』だけだとどうしても連携ではやり難い部分も出て来るわ。他にも…………いえ、これは私が口出しするべき事じゃないわね」
東さんに怒られちゃうわ、と加古は悪戯っぽく笑った。
「まあ、『東隊』ならまたすぐに上位に戻って来るでしょう。その時には、小荒井くん達も一皮剥けてるかもね」
「今回はお前達を活かし切れなかった俺が悪い。だからそう落ち込む事はないぞ」
『東隊』作戦室で、中位落ちという結果に意気消沈している小荒井と奥寺の二人に東は穏やかな口調でそう告げた。
それに対し、小荒井はでも、と言い募る。
「…………俺等がもっとちゃんと影浦先輩を抑えてれば、あそこで一点取れてたかもしれないのに……」
小荒井の脳裏には、あの時確かに影浦が自分を見て腕を引っ込めた時の映像が想起されている。
恐らく、あの時影浦が狙撃を回避出来たのは自分の所為だ。
影浦の前で「獲った」と確信してしまったから、その
あの狙撃の失敗は、自分の未熟の所為である。
小荒井は、そう考えて自分を責めていた。
「それを言うなら俺も同罪だ。お前だけの所為じゃない」
「けどよ……」
「はいはい、反省するのはいいけどそれより次にどう活かすかの方が大事でしょ? しゃんとしなさい」
後悔の感情ばかりを垂れ流す二人に対し、人見が溜め息を吐きながらそう言って仲裁に入った。
それを見て、東も人見に同調する。
「そうだぞ。自分達に足りない部分があると分かったのなら、次どうやってそこを克服していくか考える事が大事だ。くよくよしてばかりじゃ何も出来ないぞ」
自分の所為だ、と思い込む二人に対し、「お前達は悪くない」と語っても効果は薄いと判断した東は、そう言って切り口を変えた。
目論見通り二人はようやく東の言葉に耳を傾け、顔を上げた。
「これは言うべきかどうか迷っていたが、次の試合の内容次第ではお前達のサブトリガーを本格的に解禁しても良いと考えている。今回の結果が不足と感じるのなら、その経験を踏まえた成果を次の試合で見せてくれ。期待してるぞ」
「「はいっ!」」
東の言葉に一転して二人は笑顔になり、「俺『ハウンド』装備したいっ!」「気が早いっての」などと雑談を交わし始めた。
そんな二人を見て人見は「気が早いんだから」と溜め息を吐き、東はその光景を見て苦笑していた。
残念ながら中位落ちという結果となってしまったが、得るものはあった。
彼等は、この隊は、きっと大丈夫だろう。
(…………あとは、七海達がどうなるか、だな。俺がやるのは此処までだ。叶うなら、後の試合でその結果を見せて欲しいものだな)
「『影浦隊』は、基本的にいつも通りやれてたように思うわね。転送位置の悪さもあって影浦くんが中々戦闘を始められなかったけど、結果を考えればそれだけ余裕を持って戦えたという事でもあるわ」
『影浦隊』の動きをそう評価する加古に対し、当真もそうだなー、と言って同意する。
「ゾエは最低限の仕事はしてたし、ユズルも狙撃で得点してる。ただ、カゲがユズルと連携して七海を追い込んだのには驚いたな」
「普段なら、ユズルくんは単独で動いて獲れる相手を獲る事が多かったものね」
そう、加古の言う通り『影浦隊』は合流する事は殆どなく、北添の爆撃を起点にしてユズルと影浦が単独で動き、影浦は目当ての相手と戦い、ユズルは隙を見せた相手を順次落としていくのが普段の動きだ。
少なくとも、影浦とユズルが連携して一人を狙う、という事は殆どなかった。
アドリブの連携を成功させたユズルは、1万ポイント超えの狙撃手の面目躍如といった所だ。
「でも、これで『影浦隊』が戦術的行動を取ればどれだけ強いかが証明されたわね。私としてはこれからも精進して、是非とも『二宮隊』に目に物を見せて欲しいものね」
「ったく、うっせーんだよファントムばばあ」
『影浦隊』作戦室で、影浦は不機嫌そうに鼻を鳴らしながらソファーにどかっと腰掛けた。
それを見守るように北添がまあまあと彼をなだめ、ユズルがそんな影浦を何か言いたげに見詰めている。
「あ? なんだユズル」
サイドエフェクトでその感情を察知した影浦はそう尋ね、ユズルは少しの逡巡の後口を開いた。
「その、初めてカゲさんと連携したけど、中々良かったからさ。これからも、機会があればやってみない? カゲさんが良ければ、だけど」
「…………上、目指したくなったのか?」
「うん。日浦さんには完敗しちゃったし、俺もまだまだだって思った。だから、やれる事があるならやってみたいんだ」
それに、とユズルは続けた。
「七海さん達、これで終わるような人達じゃないでしょ? だったら、俺等はもっと強くなって堂々と待ってようよ。その方がきっと、面白いと思う」
そう告げるユズルの声には、確かな熱が宿っていた。
今まで、ユズルは狙撃手として天賦の才を持ち、自分の力量に不満を覚えた事はなかった。
師匠と仰ぐ鳩原の力量は認めていたが、彼女は自分にとって尊敬すべき師であり、比較対象としては見ていなかった。
しかし、ユズルは今回自分より格下だと思っていた茜に完膚なきまでに敗北した。
その事実が、彼の心に火を付けた。
まだ、自分にも出来る事がある。
才能なんかに、胡坐をかいている暇はない。
もっと、もっと上を。
その想いが、鳩原の失踪で燻っていたユズルの心を奮い立たせたのだ。
「…………いいぜ。面白ぇじゃねえか」
「……! じゃあ……っ!」
「ああ、付き合ってやるよ。オラ、訓練室行くぞ」
そう言って影浦は光に訓練室の設定についての指示を飛ばし、「全く、お前等はあたしがいないとなんもできないなー」と嬉しそうな悲鳴があがる。
そんな光景を見ながら、ユズルはその顔に笑みを浮かべた。
(次は負けないからね、日浦さん)
そして、ユズルは敬愛すべき隊長達の後を追った。
立ち止まらず、前へ進む為に。
その先に待つ、再戦を信じて。
「各部隊の動きに関してはこんな感じね。これでいいかしら?」
「はい、ありがとうございます。では最後に、各部隊について何か一言あればどうぞ」
綾辻がそう告げると、加古はしばし思案した上で「分かったわ」と了承の意を示した。
「『二宮隊』に関しては私が言うべき事は何もないわ。そのくらい、分かっているでしょうからね」
「そうだなー。流石のB級一位、ってトコか」
『二宮隊』については、加古から言うべき事は特に何もないのだろう。
今回三得点を挙げて勝利した部隊に、不足などあろう筈もない。
「『東隊』は小荒井くんと奥寺くんの成長次第で、まだまだ伸びると思うわ。期待してるわよ」
「おう、同じ狙撃手メインの部隊の隊員としても応援してるぜー」
『東隊』に関しても、発展途上の小荒井と奥寺次第でどうとでもなる部隊である。
二人の指導に関しては東なりの方針がある筈なので、此処で詳しく言うべき事はない。
「『影浦隊』はさっきも言った通り、戦術的な動きが出来るようになれば化けるわ。こっちも今後に期待ね」
「今回上手く行ったんだし、ユズルとカゲならどうにかすんだろ。ゾエもいるしな」
『影浦隊』は今回、不可抗力ではあったが影浦とユズルの連携を見せた。
その連携を更に極めていけば、今後更に躍進する可能性は充分にある。
元々の地力が高いだけに、何処まで伸びるかについても期待が持てるだろう。
「『那須隊』に関して言えば、戦術的な事に関してはさっき言ったし、他に私が言える事は一つだけね」
加古はそう告げると一呼吸置き、笑みを浮かべた。
「────
────そして、『那須隊』の面々に対する、彼女なりのエールを口にした。
その意味を分かった者は、どれだけいただろうか。
観戦席のC級隊員は疑問符を浮かべていたものの、その意味は七海達と親しい者にとっては一目瞭然。
真実自分の仕事を終えた加古は、それ以上言葉を重ねず口を噤んだ。
それが、今自分に出来る最善と確信して。
「では、これにてROUND3の総評を終わります。皆さん、お疲れ様でした」
加古の話が終わった事を理解した綾辻が、ROUND3の閉幕を告げる。
波乱のROUND3は、これで終わりを迎えた。
『那須隊』に、大きな波紋を残して。