痛みを識るもの   作:デスイーター

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各章解説・及び裏話/VS迅悠一編

 

 第十二章『LAST TRIAL/迅悠一』

 

 この章はA級上位部隊の面々が風刃を持った迅さんに挑む、VS迅さん編です。

 

 断章で迅さんのバックボーンを描写し、その思惑を知った上でこの対決に至るように構築しましたので我ながらこの二つの章は傑作だと思っています。

 

 これらの章で描きたい事は大体描き切った、と断言しても良いと考えています。

 

 章の最初の話では、迅さんが影浦に会いに来ます。

 

 七海に諭される事で歪みから解放された今の迅さんは、周囲の人間の心情を顧みる余裕が出来ています。

 

 だからこそ影浦に七海の事をほぼ任せきりのような形にしていた事を悔い、こうして感謝を伝えに来たワケです。

 

 これまでの目的以外を下に置いてしまっていた迅さんでは、まず有り得ない行動です。

 

 過去の呪縛から脱していなかった迅さんに人を気遣える余裕などあるハズがなく、「必要だから」と他者の心情を無視した所業も行っていました。

 

 しかし色んな意味で目が覚めた迅さんはそんな自身の行いを猛省し、可能な範囲で補填を行うようになったのです。

 

 そしてカゲさんは副作用(サイドエフェクト)により、そんな迅さんの心情を見抜きます。

 

 カゲさん的には迅さんは同情すべきところや共感出来る部分は色々あるとはいえ、好感度自体はそう高くありません。

 

 七海を散々振り回してもいたので、どちらかと言えばマイナス寄りでした。

 

 ですが、こうしてダイレクトにその感情を感じ取った事でその在り方に理解を示し、話を聞く事にしたのです。

 

 とはいえ、此処では二人が会った時点で迅さん側の目的は果たされていたので、お礼を告げて終わりです。

 

 しかしこの邂逅がなければカゲさんは迅さんの在り方を識る事はなかったので、必要なイベントだったと言えます。

 

 さて、次話の「現在を識るもの」はタイトル通り、迅さんの現在を識る少女二人が自身の意思を示す話です。

 

 前半では七海達がどの試合を観戦するかを話し合っていますが、この時点では熊谷や茜ちゃんは生駒隊をプッシュしていました。

 

 熊谷は同じ弧月使いとして生駒さんが迅さんとどう戦うか興味がありましたし、茜ちゃんは自分とは異なる移動トリガーを持つ隠岐がどうするか気になっていました。

 

 ですが、二人共「敢えてどの部隊が良いか選ぶなら」とプッシュしただけで、そこまで拘っていたワケではありません。

 

 なので、七海が説明した「理由」を聞いてそちらに納得したのです。

 

 さて、本題の少女二人ですが、この時点で両名共迅さんの意思に理解を示していたので、同じように激励(エール)を贈ります。

 

 琉花ちゃんは己の立場を引き合いに出して背中を押し、小南はちゃんと見てるから頑張れと背中を叩きます。

 

 昔馴染み二人から「好きにやれ」とお墨付きを貰った事で、迅さんのやる気はこれ以上ない程高まりました。

 

 正直、那須隊は勿論香取隊や影浦隊相手にあそこまでハッスルしたのはこのエールがあった為でもあります。

 

 テンションが割と最高潮になって、実力を十全に引き出してしまった形です。

 

 迅さんはどちらかと言えば気力が充実し、前向きな精神状態の方が潜在能力(ポテンシャル)を最大まで発揮出来ます。

 

 どんな精神状態でも実力が落ちる事はありませんが、その上で戦闘者として好ましいのはポジティブな思考をしている時です。

 

 基本的に迅さんは悲観的な思考をしがちなので、義務感だけで戦っているとどんどん後ろ向きな思考をしてしまいその心の痛みに堪える為にリソースを消費してしまうので、持てる精神的な余裕が少なくなります。

 

 だからこそ、前向きな精神状態であればそういった無駄な消耗がない分、持てる性能(スペック)をフルで活用出来るのです。

 

 そういう意味で、少女二人の激励は意味があったワケですね。

 

 次話の「選ぶもの」は、文字通りどの試合を観戦するかのお披露目です。

 

 王子隊は順当に協力者だった香取隊と、色んな意味で興味津々な那須隊を。

 

 生駒隊は、消去法で香取隊と、迅さんの晴れ舞台を見る為に那須隊を選びました。

 

 この時生駒隊が那須隊を選んだのは、生駒さんの意見を隊全員が全会一致で賛同した結果です。

 

 前々から生駒さんが迅さんと七海さんの事を気にしていたのは全員が察していましたし、そんなイコさんに賛同しない選択肢は生駒隊にはありません。

 

 イコさんは自分の意思を汲んでくれたチームメイトに感謝し、後に食事を奢ったそうです。

 

 生駒隊は生駒隊らしく、和気あいあいな雰囲気だったというワケです。

 

 さて、香取隊は消去法で王子隊、生駒隊の二部隊を選び、弓場隊は弓場さんのコネクションから生駒隊と王子隊の二部隊を選びました。

 

 弓場さんからすると生駒隊がどう戦うかは気になるところですし、王子のやり口も見ておきたいという想いがあった為です。

 

 神田も自分の最後の試合になるこの試験ですが、彼としてもこの二部隊は気になっていたので異は唱えませんでした。

 

 他の面々も特に反対意見もなく、スムーズに決まった形です。

 

 そして影浦隊は香取がマンティスを習得したと七海から聞いていた為香取隊を選び、隊全員の意向として那須隊の試合を観戦する事に決めていました。

 

 作中で言及した通り、これは隊の全員の意向が秒で一致した結果です。

 

 影浦隊の面子にとって、那須隊の試合を観戦しないという選択肢は有り得ません。

 

 勿論影浦が気になっていた事もありますが、そんなカゲさんの気持ちを全員が理解していたので否など出よう筈がありません。

 

 そんな影浦隊の意向を察した七海は内心で感謝し、弓場は影浦らしいと内心ニヤリとしたようです。

 

 最後の二宮隊は順当に影浦隊と弓場隊を選びますが、これは取るべき戦術は既に決まっていたのでポイント順に選んだだけです。

 

 二宮隊としては他部隊が直に迅とどう戦うかという参考資料が欲しかっただけなのでどの部隊にするかは拘らず、ポイントが高い順に選んだ形となります。

 

 もしも那須隊の試合が自分達より前であればそちらを選んだでしょうが、那須隊の試合は彼等より後だった為にこのようになりました。

 

 そして遂に、最終試験が開始されます。

 

 香取は、那須隊を容易く撃破した迅さんを見て内心では怒り心頭でした。

 

 今の香取に、そして香取隊にとって那須隊は超えるべき最大の目標であり、作中で言及している通りなんだかんだで彼女達の強さを絶対視している気がありました。

 

 そんな那須隊がまるで歯が立たずにやられたのを見ているので、心中穏やかではありません。

 

 しかし幾度もの挫折を経て切り替えが早くなった香取は、そのままでは終わりません。

 

 視界封じと空中からの爆撃というガンメタ戦法を携えて、迅さんに挑みます。

 

 この砂嵐による視界封鎖と空爆は、事前情報から取れる戦術としてはかなり理想的です。

 

 空爆を行えるだけの性能と適性が必要にはなりますが、香取隊にとってこれ以上好条件で迅さんに挑めるステージはないでしょう。

 

 若村と三浦の捨て身戦法で香取が迅に突っ込みますが、戦争経験という迅独自のアドバンテージによって攻撃を捌かれ敗北します。

 

 作戦は悪くなかったですが、迅さん本人の潜在能力(ポテンシャル)の底を図り切れなかったのが敗因と言えます。

 

 ちなみに徹底して空爆を続けた場合、ほぼ確実に若村と三浦は見つけ出されて尚且つ香取も落とされていました。

 

 若村と三浦は未来視をフル活用して地形を把握した迅さんによって潜伏場所を推定されて斬られ、香取は岩山を経由した遠隔斬撃によって撃ち落とされたでしょう。

 

 また、迅さんに肉薄せずに終わるのでこのケースですと那須隊が勝利に必要な情報を得る事が出来ませんでした。

 

 そういう意味で、この選択は意味があったと言えます。

 

 また、作中で王子が言及している「視界封鎖による遠隔斬撃の発見難易度上昇」は割と致命的でした。

 

 遠隔斬撃はあの菊地原が反応も出来ずに落とされる速度を誇るので、斬撃の軌道が見えなくなるというのは回避不能になると言い換えても過言ではありません。

 

 それが知れただけでも、香取隊の貢献は大きいです。

 

 ちなみに、此処でケーキバイキングにお疲れ様会に行くと言い出していた香取隊ですが、これは後日しっかりと行きました。

 

 お陰で三浦と若村にとっては手痛い出費となりましたが、隊としての纏まりが出来る切っ掛けとなったので悪いものではなかったそうです。

 

 さて、そんな香取隊の試合も鑑みて市街地Dと猛吹雪というMAPにした影浦隊ですが、基本的な戦法は常の彼等のものと同じです。

 

 即ちゾエの適当メテオラで場を乱し、影浦が敵に突っ込む。

 

 このデフォルト戦法の発展形が、今回彼等が用いた戦術です。

 

 工夫したのはカゲさんのサイドエフェクトを考慮した上で未来視封じの為に視界封鎖の天候を選択し、カゲさん自身は白い迷彩服を纏います。

 

 この猛吹雪という天候設定はオリジナルのものですが、暴風雨という設定があった以上こういったものもあるだろうと考えた次第です。

 

 情景としては、ホワイトアウトするくらいの猛吹雪を想像して頂ければ良いです。

 

 寒い所に住んでいる側としては想像も容易なのですが、視界がほぼ0になると思っていただければそれで構いません。

 

 香取隊は視界を封鎖した影響で遠隔斬撃の視認が難しくなった事が敗因の一つでしたが、彼女達と影浦隊とでは犬飼が言及した通り前提条件が違います。

 

 当然、カゲさんの副作用(サイドエフェクト)である感情受信体質の存在です。

 

 これがあるお陰でたとえ視界が0に近くとも、カゲさんは攻撃を察知可能です。

 

 なので香取隊が負ってしまったリスクをある程度踏み倒す事が出来る為、この天候での戦いに踏み切った次第です。

 

 そんな影浦隊が敗北したのは、策を練り過ぎてしまった為です。

 

 カゲさんは先日の迅との邂逅と香取隊の試合観戦によって、迅さんにある種の幻想を抱くようになっていました。

 

 「この程度、通じる筈がない」というある種の絶対視です。

 

 その所為でいつも通りの戦術から離れ、付け焼刃の戦法を採用した結果隙を突かれる形で敗北しました。

 

 色々と考える事が多くなり、つい考え過ぎて道を踏み外した形となります。

 

 消灯戦術は作中で言及した通り、迅さんにとっては対処が容易なタイプの戦術に過ぎませんでした。

 

 なので、影浦隊は初志貫徹しテレポーターを得たゾエさんとワイヤーを利用可能なユズルの援護を受ける形で吹雪の中で戦った方が、遥かに勝率は高かったのです。

 

 この試合は文字通り、考え過ぎて墓穴を掘った形になります。

 

 これは試合後に影浦も痛感しており、自分の失敗の原因である迅への絶対視を避けるよう伝えます。

 

 どれ程の力を持っていようが完璧な人間などおらず、迅もまたそれの例に漏れない。

 

 その事を師匠から教えられた七海は、決戦の地へ向かいます。

 

 二宮隊は順当に実質的な生存点である3点を獲得した為、敢えて説明すべきところはありません。

 

 彼等は事前情報に惑わされる事なく、自分たちの戦いをやり遂げた結果として三点を得た。

 

 それだけに、過ぎないのですから。

 

 決戦前の回、「激励」では那須隊と迅さんがそれぞれ自分達を良く知る面々から文字通り激励を受けます。

 

 こういう決戦前の激励ラッシュは割と好きな描写なので、やれて満足です。

 

 さて、遂に迅さんとの決戦となりますが、此処で河川敷Aと暴風雨という組み合わせを選んだのは原作オマージュの一つでもあります。

 

 このMAPと天候の組み合わせは、原作で那須隊が初登場した試合と同じです。

 

 迅さんとの決戦はこの組み合わせでやると、前々から決めていました。

 

 こういうオマージュは割と大好きなので、やりたいようにやった結果です。

 

 ちなみに作中言及があった通り、当初七海達は暴風雨ではなく濃霧を選択するつもりでした。

 

 ですが、香取隊と影浦隊の試合を見て視界を0にするのはマズイと考え直して暴風雨に切り替えました。

 

 仮に濃霧だった場合は遠隔斬撃の凶悪度が増していた為、勝つ事は出来なかったでしょう。

 

 そういう意味で、香取隊と影浦隊を選んだのは間違いではなかったワケです。

 

 那須隊は二部隊の試合を経て、「戦術を練り過ぎると墓穴を掘る」という事を理解し、練りに練った戦術ではなく地力を活かした正面決戦を選びます。

 

 太刀川が言及している通り、迅相手への最適解は「凝った戦術は使わずに地力と数の差でぶつかる」事です。

 

 影浦隊は前者の戦術選択による影響で、香取隊は後者の地力が足らずに敗北しました。

 

 だからこそ、那須隊はこれまで培って来た地力を活かして各々の機転をフルに使う形で正面から挑んだのです。

 

 迅さん相手だと、これが最適解です。

 

 下手に綿密な戦術を使ってそれに全てのリソースを注ぎ込めば未来視でそれを把握した時点で詰まされるので、この正面決戦が最も勝率が高い形となるのです。

 

 また、雨の中の橋上の決戦は絵面としてもかなり良いので、見栄えという意味でも最高の舞台でした。

 

 ちなみに橋を爆破しての崩落する橋での戦いも、私の趣味を反映した結果です。

 

 迅さん撃破の為には波状攻撃をかけ、とにかく処理能力を圧迫し続けるしかなかったので、戦術としての有効度も確かにありましたが。

 

 その後の変則マンティスは、原作で遊真が帯島ちゃん相手に模擬戦で使ったのと同じです。

 

 崩れる橋越しのもぐら爪という未来視で視認し難い攻撃を行う事で、有効打に繋げたワケですね。

 

 原作で迅さんが直々に「読み逃した」と漏らしているように、もぐら爪は迅さんに対しては有効な手札です。

 

 これは地面を経由するという性質上、迅さんの未来視でも視認し難い攻撃である為です。

 

 迅さんの未来視は、今戦っている戦闘のログを先んじて見る事が出来るようなものと解釈しています。

 

 なので未来の映像(ログ)に映っていない個所や映っていても目立たない個所は「見逃す」可能性が出て来る為、もぐら爪は有効なワケです。

 

 もっとも、知っての通りもぐら爪は隙の多い攻撃なのでただ使うだけでは足りず、一工夫が必要だったワケですが。

 

 そしてフィニッシュに繋がる有効打となった茜ちゃんの狙撃も、原点回帰という事でライトニングを用いた精密狙撃を決めてくれました。

 

 連射が可能なライトニングだからこそ、一発目を囮とした疑似ツイン狙撃が成功したワケです。

 

 こうして那須隊は迅の①オペレーターがいない為緊急警報(アラート)を受け取れない②シールドもバッグワームも張れない③攻撃に対する対応が回避か迎撃の二択に絞られる④空中への攻撃手段が無いという四つの穴を利用し尽くした形で、どうにか迅に刃を届かせました。

 

 この時の迅さんの心境は、語る方が無粋というものです。

 

 きっと、とても良い顔をしていた筈ですから。

 

 「君を選んで、良かった」という言葉に、その想いは集約されています。

 

 次話で「貴方に選ばれて、良かった」という七海の独白は、その想いに対する返答のようなものです。

 

 迅から七海へと、しっかりとその意思は伝達出来たワケですね。

 

 そして、瑠花と小南からの「お疲れ様」は、色々な意味が込められていました。

 

 七海の壁となるという役目を終えた迅への労いであり、自分を超える七海を目にするという目的を果たした彼への祝福でもあります。

 

 こうして、風刃を持った迅さんとの戦いという大一番は幕を下ろしたのです。

 

 最後の「那須隊②」では、語る事はそう多くはありません。

 

 那須隊は勝利の結果としてA級へ昇格し、二宮隊・影浦隊はペナルティ解除と有事のA級と同等の行動権利を獲得します。

 

 これで、大規模侵攻への七海側の事前準備はほぼ整ったと言って良いでしょう。

 

 ちなみに此処でお披露目した隊章は、かなり以前に創作コミュニティで隊章のイメージを呟いた結果、それを聞いていたHITSUJIさんが次の日にはポンと仕上げてくれていました。

 

 使用許可を頂き使用するにあたって更にリメイクして下さったので、これはもうホント感謝しかなかったです。

 

 格好良い隊章をお披露目出来て、もう感無量でした。

 

 貰った時からお披露目の時をずっと待ち続けていたので、此処まで来れた事には感動したものです。

 

 これで、私としても渾身の出来栄えだった迅さん編が終わります。

 

 次は遂に原作の時間軸に追いつき、修が出て来る修編解説となります。

 

 お楽しみに。

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