第15.5章『Before the storm/決戦前・間章』
この章は名前の通りクライマックスフェイズである大規模侵攻前、その最後の準備期間にあたるストーリーです。
タイトルの「Before the storm」は文字通り「嵐の前」。
どでかい嵐である大規模侵攻、その前日譚となる内容となります。
章の最初は風間隊による七海への説教から始まります。
太刀川と共に城戸から七海に重大なペナルティが課される事はないと聞いてはいたものの、師である風間としてはA級に昇格したばかりの時分に大それた事をやらかした弟子へ詰問したかったのは当然ですね。
結果として話を聞いて納得はしましたが、場合によっては更に説教の延長も有り得た場面でした。
地味に嘘発見器として菊地原に心音を見張らせていましたし、大切な相手に対しては厳しくなるのが風間さんのデフォなので。
さて、その会話の中で修への興味を覚えた風間さんは、原作通りその力を見に行きます。
勿論事前に修のデータは見ていたので性質的に七海と同じように実力でボーダーに貢献出来るタイプではない事は分かっていましたが、迅が見定めた以上「何か」はあると考え探りを入れに行った恰好です。
また、風間も迅とはそれなりに長い付き合いになるので、本当に彼が風刃を手放してまで守る価値のある人物かどうかも確かめたかった、という理由もあります。
対して、修の側はこれを格上相手に一矢報いる良いチャンスだと考え、腹の下を隠しながら模擬戦を受けます。
最初に風間から「負けるつもりで戦うならこれまでだ」と指摘されますが、これは初めから修が何度も負ける事を前提として戦略を組み立てていた事が一部バレたからです。
修が負ける事に抵抗感がない事を見抜いて指摘した風間ですが、彼はまだこのペンチメンタルの性質を知らなかったので「負けるつもりで戦う軟弱者か」と勘違いしたワケです。
本質は「負けを前提として情報を収集しつつ勝利への道程を組み上げる」という気の遠くなるような作業をしようとしていた修の本心の一部だけを見抜き、「負けをどうとも思っていない」事だけが感知出来た、というのが実情です。
今作の修はこれまで得た情報の差異により本編よりも覚悟完了の度合いが強いので、この時点で既に原作後半程度のメンタルは所持しています。
なので、「何度負けても構わないからその間に情報を集めて一矢報いる為の糧とする」というやり方を当たり前のように最初から実行していたのです。
途中でトリオン無限の仕組みを利用する事に気付いたというモノローグがありますが、これは修が情報収集に熱中し過ぎて基本的な事を忘却していた為です。
マルチタスクが普通に出来るほど修は器用ではないので、情報集めに奔走した結果として足元が疎かになっていたワケです。
そしてそんなこんなで情報収集が完了し、原作と途中までは同じ作戦を組み、そこに隠し玉であるスパイダーを用いた奇襲を行う事で勝利を手にします。
修は最初から、風間に勝つにはスパイダーを利用した戦術しかないと考えていました。
身体能力や戦闘センスで圧倒的に負けている以上、正攻法で勝つ事はまず不可能です。
原作の方法でもある程度の勝機はあるかもしれませんが、今の風間さんは七海の件もあってやる気が満々の状態です。
なのでそれだけでは足りないであろう事をそれまでの風間との戦闘で実感した彼の戦闘力と機転から感じ取り、スパイダーを切り札として用いたワケです。
置き弾という、七海から教わった鬼札を彼のログから模倣した部位投擲戦術と組み合わせる事によって。
ランク戦の中で何度か自分の千切れた腕や足を武器として投げたりしていた七海ですが、修も必要ならそれくらいはやるクレバーさを持っています。
自分の腕を投げるというのはたとえアバターのものであっても精神的な抵抗のある場合が多いですが、ペンチメンタルにそんなものはありません。
勝つ為に必要であるならば、その程度幾らでもやるでしょう。
風間はそんな修の姿に七海の面影を見たので、一応認める事にしたワケです。
七海の影響が見られるという事は、即ち放置してはいけない危険人物という事でもあります。
それに那須という精神的ストッパーとなる存在のいる七海と違い、修にそれらしい相手は見当たりません。
遊真はどちらかというと黙って修に付き従う米屋タイプですし、千佳の場合は色々と複雑な関係性なのでストッパーとしては微妙なところです。
放置すれば何処まで突き進むか分かったものではないので、目をかけつつ危ない時には介入すると風間さんは決めたワケです。
迅にその役割を求めるのは幾ら難でも過剰労働だという至極当然の考えは、風間さんの中にもあったのですから。
ちなみにそんな風間さんの動きに模擬戦を見ていた諏訪さんは当然気付いているので、何かあればフォローすっかと密かに決意を固めていました。
今後の修の動向次第によっては、彼と関わる事もあるかもしれません。
風間さんイベントが終わり、その次は木虎を呼んでの玉狛での食事会となります。
作中で言及した通り木虎は立場上こういったイベントは遠慮しがちですが、今回は自身が指導している修がいた事、そして嵐山からの後押しがあった事で参加と相成りました。
当然、学校は同じでもそこまで話す機会のなかった小南は木虎を歓迎します。
同じ気の強い少女という共通点はありますが、親しみ易さで雲泥の差がある二人です。
小南は自然と人の輪に入る事の出来るお手本のような明るさを持ちますが、木虎の場合は自尊心と承認欲求の高さから来る刺々しさで人を寄せ付けない為、プライベートは割と寂しいぼっち気質です。
原作で黒江に嫌われているのも、恐らくナチュラルボーン上から目線と年上保護者目線を同時にやってしまっているので、微妙なお年頃の彼女に嫌われているのでしょう。
木虎は年下には分かり易く庇護対象として接するので、年頃故の繊細な面がある黒江にとっては「自分の実力を鼻にかける嫌な年上女子」として見えているのだと思われます。
そんな木虎相手でも小南はぐいぐいと距離を詰め、その緊張を解き解します。
小南は木虎でも認めざるを得ない程の、ボーダー屈指の戦闘者です。
滅多な事で自分を下には置かない木虎ですが、流石に小南相手では強気に出るワケにもいかず、たじたじになっています。
そんな木虎に、小南は本題を話します。
今回彼女が木虎を歓迎した事には、純粋な善意の他にその真意を図る為でもありました。
小南は迅から得た情報により、修がある意味で嵐山と似たタイプであると見抜いています。
だからこそ、その指導を買って出た木虎に修の将来性のプランニングをどう見越しているかを聞き出そうとしたのです。
嵐山さんは一見イケメンの爽やかヒーローですが、描写をよくよく見ると色々と闇が覗く御仁でもあります。
あまりにも正し過ぎるその姿勢は記者会見で隣に立っていた柿崎等をドン引きさせていますし、遠征試験編では遊真とヒュースの隊員の死亡を考慮したシビアな意見にプラス評価を下しています。
しかも、これまでの原作描写を見る限り嵐山は肉親や大切な人の喪失を一切経験していません。
その上でこれだとあまりにも達観が過ぎており、覚悟が決まり過ぎています。
ハッキリ言って、何の悲劇も経験していない人間が抱く姿勢としては度を越しています。
迅さんの場合は分かり易く歪んでしまう「原因」がありましたが、嵐山さんの場合はそれが一切ないにも関わらず迅さんと同じような覚悟を抱くに至っています。
それは修も同じで、彼の場合は麟児さんとの別離を経験していますがあれは喪失とはまたベクトルが違いますので、千佳の願いを起点にあそこまで覚悟完了してしまうのは普通じゃありません。
本人は当然の事だと思っているようですが、普通はあれだけで自分の命まで懸ける覚悟は持ちません。
修は自分自身の価値を色んな意味で過小評価する悪癖があるので、その所為だとも言えますがそれでも異常です。
そんな、嵐山と同程度の危険性の孕んでいる修をこれからどう扱っていくかを、小南は聞きたかったワケです。
嵐山は実力があって、尚且つ立場上遠征に行くワケにはいかないので小南も少し気に掛ける程度で済んでいますが────────────────修は違います。
作中で言及した通り修は遠征を目指しており、しかも弱い。
加えて自分の命に頓着しない性質すら垣間見えるので、そんな彼に影響を与え易い師匠である木虎に出来るならば矯正を頼みたいとも考えていました。
烏丸も修の師匠ではありますが、どちらかといえば彼と噛み合うのはトリオンが少ないという共通点を持った木虎の方です。
なので木虎と話す今回の機会を良いチャンスだと捉えて、問うたワケです。
木虎は、修をどうするつもりなのかを。
説明を聞いた木虎は嵐山の自分の知らなかった一面に驚きながらも、「静観と指導」という自身の立場を表明します。
木虎は小南ほどではないとはいえ、修の危険性には気付いていました。
その上で彼の意思を折るのは不可能であると判断し、それならば近くで見守りながら危険に対処出来るだけの力を身に着けさせる事に終始するのがベストだと考えたワケです。
基本的に、木虎は相手への過干渉を好みません。
あくまでも自分の道は自分で決めるものであり、他者が余計な真似をしても悪影響の方が強いと彼女は考えています。
ですがだからこそ相手の意思は尊重しますし、正しい努力をする限りは場合によってはバックアップを惜しみません。
修に対しては初対面から好印象であった事もあり、必要な支援は惜しまない前提は既に出来ていたのです。
なので、帰り道の修との会話では木虎は大体ベストな言葉選びをしています。
修という少年の性質を理解しつつ、効率の良い話の持って行き方をしているので解答としてはほぼベストです。
今作での修のテコ入れに木虎の尽力は欠かせなかったので、私が彼女に求めた役割は大体こなせたと言えるでしょう。
「城戸正宗⑤」では、遊真が三馬鹿をボコすのを見ながら上層部が迅との大規模侵攻に向けた会議をしています。
此処でも迅や三輪の原作との姿勢の違いが垣間見えるので、争奪戦編の成果が出ているシーンと言えます。
次の緑川イベントは、またもや修の原作からの変化が垣間見えます。
原作では緑川には成す術なくやられ、遊真がおしおきするのがこのイベントの流れですが、今作で色々悪知恵を仕込まれている修は彼に一矢報いる事に成功します。
やり方は緑川が苛立つ戦い方を敢えて選び、逃げながら情報を収集。
苛立ちで攻撃パターンが雑になった隙を見計らい、一撃を叩き込む。
これに尽きます。
この戦術は緑川の精神の未熟さ故に成立した代物であり、風間さん相手にやった戦法の応用でもあります。
緑川が修を舐め切っていた事を冷静に利用し、その上で最後の一本の為にそれまでの9本を躊躇なく捨てたその精神性に緑川は若干ドン引きします。
まあ、それはそれとして遊真によるお仕置きは実行されるのですが。
次の「三雲修⑧」では、原作でもあった修と遊真を巻き込んだ大規模侵攻に向けた会議が開かれます。
此処でのターニングポイントは、修が事前にレプリカからアフトクラトルと「神」の話を聞いていたかどうかです。
以前に「アフトクラトルは「神」を探す為に遠征を繰り返す場合がある」という情報を聞いていた修は、話の中でその可能性に気付いて言及します。
それが転機となって、レプリカからアフトクラトルの追加情報────────────────特に重要な、ラービットに関する情報が開示されます。
原作では上層部との関係性がそこまで良好ではなかった為にある程度情報を出し渋っていた面と、相手国がアフトクラトルであると確定していなかった事からラービットの情報は侵攻で件のトリオン兵が出て初めて開示されましたが、今回は修の一言で敵国がほぼアフトクラトルに絞られた状態です。
加えて上層部との関係も原作ほど冷えてはいない事から、ラービットの情報開示がスムーズに進んだワケです。
事前にラービットの情報をボーダーが得ていたかどうかは、かなり趨勢に影響を及ぼします。
これがあったからこそ参加するC級の数を厳選したり、遊撃部隊を組む等の対策が取れたワケです。
正しく、今回のMVPは修であったと言えるでしょう。
また、この話で星の杖に言及したのはこのストーリーのラスボスがヴィザ翁であると強調する狙いもありました。
大規模侵攻で物語を終わらせる以上、ラスボスに最適な人物はヴィザ翁以外有り得ません。
原作ではまだまだ底があると思われるヴィザ翁は、本気を出す舞台を整えればこれ以上なく凶悪なラスボス枠になります。
恐らくワートリ二次でも早々ない「本気ヴィザ翁」が出て来ると、勘の良い人はこのあたりで察する事も出来たかもしれません。
そして、七海と遊真の模擬戦。
これはプロット最初期にはなかったもので、土壇場で思い付きました。
原作主人公部隊のエースである遊真と、本作主人公である七海。
その二人が戦う舞台をセッティングしたかった、というのはあります。
また、七海に風刃以外の黒トリガーとの戦闘経験を得させる事でヴィザ相手に食い下がる説得力を持たせたかった、という狙いもありました。
あの迅相手に勝利経験すらある七海は、遊真ともある程度拮抗します。
ですが徐々に遊真の傭兵としての戦闘経験が勝負を優位に運び、押されていきます。
その中で見せた敢えて重石を喰らってその重量で攻撃する、という手法は漫画D.Gray-manの中でリナリーがやったものをイメージ元としています。
敵の攻撃を利用した一撃、というのはロマンがありますしね。
最後の一戦の決め手になった腕飛ばしスコーピオンは、ランク戦で彼が用いた戦法の一つです。
遊真は修と違いランク戦のログをまだ見ていなかったので、その情報量の違いを突いたやり方だったと言えます。
試合終了後に七海と那須の今作でのポイントが明かされますが、このポイントは本作での彼等の動向を加味したものとなります。
七海は適性が個人戦より集団戦向きなので一万超えのポイントは少々違和感があり、されど影浦や村上と頻繁にやり合ってはいるので9759という微妙に一万に届かない数値に。
那須は七海の存在によって原作よりもモチベーションが上がっており、イライラした時等はランク戦で憂さを晴らす事もあったので原作の8395よりもやや高い8765という数値に。
それぞれ、設定してあります。
章の最後の「決戦前夜」は、各々の主役組の決意表明の回です。
修達原作主人公組は、改めて大規模侵攻へ挑む準備と動きの確認をしていました。
彼等はやる事は既に決まっており、特に迷う事もないので簡潔に済ませています。
次は迅さん達旧ボーダー組ですが、こちらは迅とレイジさんの会話からしっとりとした雰囲気を演出しつつ迅さんのスタンスの変わり具合が垣間見えます。
以前の迅さんであれば此処まで胸襟を開く事はなかったと思いますが、それを変えたのが七海です。
それを一番分かっているのは迅さんなので、台詞にもそれが滲み出ています。
最後に、七海と那須の主人公ヒロイン組。
こちらはよりしっとりと、本作を象徴する空気を醸し出したシリアスシーンを演出しています。
色々な困難を超えてこの場に至っている二人ですから、その想いもひとしおです。
二人にとって大規模侵攻という言葉は四年前の悪夢の象徴でもあるので、それを乗り越える為の改めての覚悟完了の場でもあります。
こうして全ての準備が完了し、最終章が始まります。
次回の解説は最終章、大規模侵攻編となります。
どうぞお楽しみに。