痛みを識るもの   作:デスイーター

435 / 487
各章解説・及び裏話/最終章・大規模侵攻編

 

 最終章『BORDER OF BEST FUTURE/大規模侵攻』

 

 文字通りの最終章、大規模侵攻編の解説となります。

 

 サブタイトルは「最善の未来の境界線」の意味。

 

 迅や七海が目指す最善の未来へ、辿り着けるか否か。

 

 その分水嶺となる、境界線上の戦い。

 

 それが、この大規模侵攻編となります。

 

 これまで何度も説明した通り、本作品の最終目標はこの大規模侵攻での被害軽減にあります。

 

 本作は通常のワートリ二次創作と異なり、大規模侵攻編を以て物語が完結します。

 

 ですが、原作のように死者や大量の行方不明者に加え遊真の相方であるレプリカとの別離、更に侵攻の被害の影響による茜ちゃんの離脱まであるとなれば、とてもではありませんが「大団円」とはならないでしょう。

 

 なので、物語を綺麗に締める為にも徹底的にこの大規模侵攻の被害を抑える事を念頭に置いて物語を構築しました。

 

 原作において、大規模侵攻の被害が拡大した要因は下記の通りです。

 

 ①ラービットという()()のトリオン兵の存在。

 

 ②大した護衛もなく避難誘導を行っていたC級の扱いとその脱出装置の有無がバレていた事。

 

 ③人型近界民の圧倒的な実力。

 

 ④二宮隊や影浦隊といったA級相当の部隊が的確な運用をされていなかった。

 

 他にもありますが、主な要因はこの四つでしょう。

 

 まず一つ目の「ラービット」に関しては、「トリガー使いを捕獲する為の高性能トリオン兵」という想定外にも程がある存在の情報が、よりにもよって敵がそれらを投入して来てから判明した事が非常に大きいです。

 

 「トリガー使いを捕獲するトリオン兵」という性質を鑑みれば、アフトクラトルの狙いが隊員の鹵獲にあると推測する事が出来ます。

 

 そういった情報を得ていなかった為に、原作では後手に回らざるを得なかったという部分があります。

 

 また、組織の一員としての自覚が不十分なC級隊員を大した護衛もなく避難誘導という仕事を任せ、放置していたが為にボーダーの手が回る前に多くのC級隊員の拉致を許してしまったものと思われます。

 

 原作では修の学校での一件でハイレイン側にC級が脱出装置がない事がバレていた為、何の懸念もなくC級確保にリソースを注げたのでしょう。

 

 尚、これらの流れはミスというよりは迅さんの苦渋の決断の結果とも取れます。

 

 もしも、敵が狙いをC級の確保に絞っていなければどうなったでしょう?

 

 その場合、徹底して「神」の候補者────────────────金の雛鳥を確保する為に躍起になり、市街地への攻撃すらも考慮に入れていた恐れがあります。

 

 以前説明した通り、エリン家当主の「神」化はハイレインとしても出来る事ならば取りたくない一手です。

 

 ですので、どんな影響が出ようが本国に直接関わりのない玄界(ミデン)で「神」を確保出来るのならばしておきたいというのが本音でしょう。

 

 そして、今回アフトクラトルの遠征メンバーには本気を出せばどれ程か全く底が見えないヴィザ翁がいました。

 

 その気になれば城攻めすら可能である御仁がいる状態で、ハイレインが真の意味で形振りを構わなくなればどうなるか。

 

 それを考えると、迅さんとしてもC級を敢えて狙わせる事で被害を軽減する方向にシフトするしかなかった筈です。

 

 原作では迅さんは修に千佳を囮に使った事を謝罪していますが、あの謝罪にはC級を餌に使った後ろめたさも含まれていたのでしょう。

 

 あの時、迅さんは葛藤を押し殺しながらトロッコのレールを変えたのですから。

 

 四年前のあの時に迅さんが玲奈を止められなかったのは、七海の未来を視るまでこのルートよりもマシな未来が全く視えなかったという事情もあるのです。

 

 ですが、この世界線で同じ事をやると原作と同規模の被害が齎されてしまいますし、何より七海によって時計の針が進み始めたこの世界の迅さんはその未来を望みません。

 

 だからこそ、ハイレインの作戦目標そのものを変える方向で展開を構築しました。

 

 迅による木虎の介入による、修のトリオン体の破壊阻止。

 

 那須の投入によるイルガーの被害防止と、市民感情の悪化阻止。

 

 前者によってハイレインはC級の脱出装置の有無が分からず、後者によってボーダーは市民感情を原作程過敏に気にする必要がなくなりました。

 

 そしてC級確保の担保がなくなった以上、ハイレインはモールモッド襲来の際に存在だけは確認出来た「神」候補の確保に躍起になる筈です。

 

 ハイレインは原作でも千佳を取り逃していますが、それでもアフトクラトルにそのまま帰還したのは大量のC級隊員という「戦果」を持ち帰る事が出来たからです。

 

 それがなければハイレインは内情はどうあれ、外面的には「優秀な隊員を戦果もなく二人失った指揮官」という評価が下される筈です。

 

 他の領主との政争を鑑みれば、そんな自分の失態を晒すような真似は出来ません。

 

 もしもC級を確保出来ていなければ、再度の侵攻すら有り得たでしょう。

 

 原作ではレプリカの干渉によって強制帰還となりましたが、これを達成するには相当限定的なシチュエーションが必要である上、レプリカがいなくなってしまうので大団円とは言えなくなってしまいます。

 

 だからこそ、それ以外の方法でハイレインに帰還を納得して貰う必要があったのです。

 

 ハイレインが成果なしの帰還に納得するには、どうすれば良いか。

 

 それは、侵攻再開によって得られるリターンをそれによって生じるリスクが上回ると考えさせれば良いのです。

 

 基本的にハイレインの思考は、リスクヘッジを最重要視します。

 

 「如何に多くの戦果を得るか」よりも、「如何に想定内のリスクでリターンを得られるか」「如何にすれば自軍のリスクを減らせるか」を重視して作戦を組み上げます。

 

 この思考法は東さんと同じであり、「最大の結果を得る」事よりも「如何に致命的な失敗を引かないようにするか」を念頭に置いて行動します。

 

 故に、ハイレインに「これ以上の作戦行動はリスクが大きい」と思わせる事が出来れば、彼はそのまま帰ってくれます。

 

 此処からはアフトクラトル側の戦力への対処を交えて、そのあたりの仕組みを解説していきます。

 

 

 

 

 ①VSラービット

 

 大規模侵攻におけるある意味最大の肝、ラービットへの対処。

 

 これは、争奪戦編の経緯の変更によってレプリカより早期にラービットの情報を開示させ、このトリオン兵が出現し次第適正な戦力を送り込む事で対処としました。

 

 その為に仕込んだのが、ご存じ冬島隊長のスイッチボックスです。

 

 ワープの戦争における厄介さは、原作で散々ミラが見せた通りです。

 

 適正な戦力を適切な場所に瞬時に送り込めるこのトリガーは、こういった拠点防衛型の戦争では抜群の威力を発揮します。

 

 しかしこれをやると冬島さんが鬼怒田さんと組んで原作でやった罠によるトリオン兵の迎撃が出来なくなりますが、こちらはスイッチボックスと違い代替が可能なので遊撃部隊を組織して時間稼ぎに当てました。

 

 遊撃部隊は七海と那須という高い実力と機動力を持つエースコンビと、遊真という最強の遊撃戦力。

 

 そして、ラービット相手は危ういが通常のトリオン兵であれば高速で処理可能な黒江・緑川の幼馴染コンビ。

 

 この三組を罠の代わりに時間稼ぎに当て、冬島さんを自由(フリー)にしてスイッチボックスをフル稼働出来るようにしたワケです。

 

 こうして万全の迎撃態勢を整えた上で、ラービットが出現するなり即座に討伐部隊を送り込んだのです。

 

 ラービットの厄介な点はその硬い装甲とスピードであり、それさえどうにか出来ればプレーン体は攻略可能です。

 

 創作仲間とのディスカッションによってラービットの装甲を正面から破るには「旋空」もしくは「二宮クラスの徹甲弾(ギムレット)」が必要と結論したので、討伐部隊には旋空使いと二宮隊、そして技術でそのあたりをどうにか出来る風間隊や影浦隊が選ばれました。

 

 ちなみに遊真も遊撃をしながらラービットの討伐を請け負っており、描写外で相応の数を撃破しています。

 

 こうなるとアフトクラトル側も討伐隊を見過ごす事は出来ず、人型近界民(ネイバー)が投入される事になります。

 

 

 

 

 ②VSヒュース

 

 最初の人型戦は原作では迅さん自らが足止めをしなければヤバいと評され、実際にその生存能力と目標達成能力が明らかになってこれマジでヤバい奴だと再評価された、ヒュース戦です。

 

 彼には玉狛第一を当てるという案もありましたが、玉狛第二繋がりで遊真と修のコンビを当てた方が面白いだろうと判断し、近界民(ネイバー)同士の対決が実現しました。

 

 他にも七海を向かわせる案もありましたが、出来れば此処は関わる人物を玉狛だけに限定したかった為にあのような配置となりました。

 

 ヒュースは使用しているのはアフト製の汎用トリガーですが、本人の実力と蝶の盾(ランビリス)の持つ能力の応用性のとんでもない高さによって黒トリガーを使う遊真といえど一筋縄ではいかない相手です。

 

 ですが、だからといって原作と同じく迅さんを当てるワケにもいかないので、遊真に尽力して貰いました。

 

 また、修にも活躍の場を与えたかった事もあり、最後のワイヤー殺法に繋がったワケです。

 

 今作では修を死にかけさせる予定はなかったので、別の活躍描写が必要だと考えこういった形での介入を選択した次第です。

 

 加えて此処で修・遊真の両名と顔を合わせてその力と性質を実感して貰う事で、今後のヒュースとの玉狛第二のコミュニケーションを取り易くするという狙いもありました。

 

 そのあたりはアフターでちらっと書きますので、後ほど。

 

 

 

 

 ③VSランバネイン

 

 原作では東さんの指揮する合同部隊で討伐したランバネインですが、今作では合同部隊と言う点は同じでも活躍する面子は大きく異なる内容となりました。

 

 香取隊をランバネインに当てる、というのはROUND6の時点では既に構想していました。

 

 当初より香取隊は折って叩いてズタボロになってから立ち上がらせて大舞台で花を咲かせる予定でしたので、活躍どころを用意するのは決めていました。

 

 そして香取の性質や相手のトリガーの事を考えれば、ランバネインが最も適当であると結論しました。

 

 ランバネインは確かに強いですが、ヴィザ翁のような理不尽、ハイレインのようなトリオンメタやエネドラのような物理無効、ヒュースのような反射を用いない正統派の実力者です。

 

 きちんと作戦を練り、それが通れば倒す事の出来る絡め手のないパワー型のトリガー使いなので、成長した香取が活躍を見せる相手としては最も適当でした。

 

 活躍の内容も、これまでの香取隊の歩んだ戦いの軌跡を鑑みたものとなっています。

 

 また、木虎よりも敵からの評価が下である事を利用した一手に踏み切れたのも、彼女の成長の証と言えるでしょう。

 

 

 

 

 ④VSエネドラ

 

 そしてエネドラ戦は、彼の攻撃を感知可能な影浦と旧太刀川隊の組み合わせとなりました。

 

 旧太刀川隊を使う事は当初から決めていたので、何処で使うかを考えた時にエネドラしかないとこういう采配になりました。

 

 ブレードメインの旧太刀川隊では、ハイレインは少々相性の悪い相手です。

 

 なので、ブレードでもどうにかなるが性質上連携が必須なエネドラ相手に戦う事になったのです。

 

 泥の王(ボルボロス)は初見殺しに全力を注いだような特殊な性質を持つ黒トリガーであり、如何に早くその能力を見抜けるかに全てがかかっています。

 

 なので、最初に影浦に戦って貰って隠密していた風間隊が情報を収集し、能力を看破して攻略に繋げました。

 

 ちなみに空中に撃ち出して逃げ場をなくして攻略に繋げる方法は、灼眼のシャナの壊刃サブラク戦に着想を得て実行しました。

 

 エネドラも核を持つ意思総体が一つの塊となっている以上、空中への撃ち出しは有効であると考えた為です。

 

 トドメの一撃を風間さんにやらせたのは、原作でエネドラに落とされた風間さんがフィニッシュを担当するという逆オマージュがやりたかった為です。

 

 原作との差異を明確にする為でもあり、「七海玲一が存在する世界線」の影響の結果の一つであると言えます。

 

 また、此処でエネドラが撃破後に生きたまま確保された事が、後々利いて来る事になります。

 

 

 

 

 ⑤VSハイレイン

 

 原作ではそのチート級トリガーで暴れ回り、結局落ちる事なく帰ったハイレインですが、今回は旧東隊プラスアルファという最上級の戦力を当てる事で討伐に漕ぎ付けました。

 

 此処はイルガー相手に手札として切らざるを得なかった千佳という最重要人物を護衛しながら戦うという、修ではなく充分な実力を持った部隊が千佳を守ればどうなるのか、というイフでもあります。

 

 ちなみにハイレインも東さんも戦闘を目的の為の過程の一つとしか捉えていないので、ある意味で戦闘の結果を度外視し如何に相手の目標を達成させずに勝利条件を満たすかに焦点を当てた戦闘となりました。

 

 ハイレインの勝利条件は、自身の生還と千佳の確保。

 

 東さん側の勝利条件は、言うまでもなく千佳の防衛と敵の撃退。

 

 どちらがどちらを倒したではなく、相手の勝利条件を阻みながら自らの勝利条件を達成させる読み合い。

 

 それが、この戦闘の本質でした。

 

 この戦いでは、お互い許容可能な損害と許容出来ない損害の二種が存在し、如何にその線を超えないかが課題でした。

 

 東さんにとっては最悪二宮以外の駒の損耗は「許容可能な損害」であり、千佳の奪取だけは決してさせてはいけない「許容不能の損害」でした。

 

 千佳の死守を達成しながら、敵に目的を果たさせずに撃退する。

 

 それが、東さん側の勝利条件でした。

 

 対してハイレインは生きて帰れさえすれば自身の損耗すら「許容可能な損害」である一方、「千佳の確保失敗」は彼としては許容出来ない類の損害でありました。

 

 この失敗を許容してしまうと「最終手段」を使わざるを得なくなる為、なるだけ速やかに千佳を確保して帰りたかったのです。

 

 ですが同じ思考傾向を持つ東さんによってその思惑は見抜かれ、敢えて護衛を外して隙を作るという大胆不敵な策によってハイレインは敗れ、千佳が密かにB級になっていた事で彼女の撤退を許します。

 

 この展開に繋げる為に、修の功績を二分して千佳のB級早期昇格をやっておいたのです。

 

 ラスボスを翁にする以上、千佳の逃避行に描写を割くのは正しく「余分」です。

 

 なので千佳にはさっさと撤退して貰い、ラストチャプターに繋げる事にしたワケです。

 

 尚、ハイレインらしい指揮官としての戦術によってラービットが投下され、沢村さんがそれを斬っていくという一幕がありましたが、こちらは忍田本部長がヴィザ戦にかかりきりになる以上代わりに討伐役が必要だと考え、彼女に出番を与える形にしました。

 

 伸ばさない旋空による高速戦闘はカバー裏の煽り文を見る限りスピードアタッカータイプだった沢村さんに適切な戦闘スタイルは何かを考えた時、旋空の名手である忍田さんの部下だったという事で旋空使いという要素は強調しつつ、スピードタイプの剣士に仕上げました。

 

 ちなみにこの沢村さんの活躍は、「玲奈がもしも生きていたらこんな風に活躍していた」という内容の描写でもあります。

 

 どちらもスピードタイプなので、自然と戦闘方法は似通っていた筈ですから。

 

 

 

 

 

 ⑥VS本気ヴィザ翁

 

 ラストチャプター、本気ヴィザ翁戦です。

 

 先述した通り、ハイレインは此処までで得られた戦果は正しく0であり、機密目標の一つだったエネドラの始末に至っては生きたまま彼をボーダーに確保されるという結果に終わっています。

 

 流石にこのまま帰ると政治的にマズイ立場に置かれてしまいかねないので、最終手段であるヴィザ翁への丸投げを実行したワケです。

 

 このルートは本来であれば最悪の未来に繋がる決して選んではいけない道筋であり、本気のヴィザ翁を倒すという無茶ぶりが達成出来なければそのままバッドエンド直行のルートでもあります。

 

 原作の迅さんがこれだけは避けなければならないと考えた、最悪の未来の一つでしょう。

 

 ですが、この世界線では敢えてそのルートを選び、「本気ヴィザ翁に勝利する」という難易度ルナティックな条件を達成する事で「最善の未来」へ至るルートを解禁させようと目論んだワケです。

 

 ヴィザ翁に本気を出させるには、C級が一人も捕まっておらず、捕獲に向いた能力持ちのハイレインが無力化されているという超限定的な前提条件が必要でした。

 

 ボーダーの面々の活躍によりその条件を達成してしまったが為に、本気ヴィザ翁という修羅が顕現したワケです。

 

 翁は挨拶代わりに奈良坂と古寺を経験則と勘だけで居場所を見抜いて両断し、進軍を開始します。

 

 ヴィザ翁の無双を描いた「神の国の剣聖」は、我ながら秀逸なサブタイトルであったと自負しています。

 

 このタイトルである間はヴィザ翁の天下であり、万が一が起きる余地はありません。

 

 それが終わり、神がサイコロを振らなくなってからが対ヴィザ翁戦の本番となります。

 

 全霊でぶつかっても勝てなかったヴィザ相手に、あの修羅に勝つには七海の黒トリガー起動が必須であると風間さんは思い至ります。

 

 なので、その為の一押しをする相手として迷いなく影浦に援軍を要請したのです。

 

 この状況で七海に発破をかけるなら、適役は影浦以外にはいません。

 

 共に戦い支えるだけならば那須にも出来ますが、彼女を守る事はとうに覚悟完了しているのでそれだけでは覚醒には至りません。

 

 七海をこの局面で覚醒に至らせるのであれば、それは戦友にして好敵手である影浦以外に適任はいないでしょう。

 

 悲嘆や怒りではなく、闘志と勇気を以て自身と向き合う。

 

 それをさせるのは矢張り、師にして兄貴分である影浦以外有り得ません。

 

 この時、賽は神ではなく人の手に委ねられたのです。

 

 そして、次の「雲外憧憬」でヴィザ翁の雲の向こう側のような圧倒的な力の前に屈しそうになる七海の前に、影浦が現れます。

 

 彼が現れた事によって雲の向こうを視るだけだった七海は、正しく憧憬と共にその輪郭を掴み取ります。

 

 自らが倒すべき敵の輪郭を把握し、仲間たちの激励(エール)を受けて七海は覚醒に至ります。

 

 あの白昼夢については、敢えて詳しくは語りません。

 

 本人が見た幻覚のようなものなのかもしれませんし、黒トリガーというブラックボックスの塊が見せた情景であるのかもしれません。

 

 一つだけ言えるのは、そこを追及するのは無粋であるという事だけです。

 

 あれは正しく七海にだけ視えた夢の邂逅(きせき)であり、それ以上でもそれ以下でもないのですから。

 

 こうして、七海は(Force)に目覚めたのです。

 

 七海の黒トリガー、群体王(レギオン)の能力をああいったものにしたのは、正しく彼のこれまでの時の積み重ねという要素の集大成として描きたかったからです。

 

 特殊な能力で無双するのではなく、あくまでもこれまでに持っていた能力のブースターとなり、既知の戦術の組み合わせで強敵を打倒する。

 

 そういった展開を組み上げる為に、徹底して彼の黒トリガーの情報は隠蔽して来ました。

 

 尚、黒トリガーの誤作動で七海の痛覚が失われたと書きましたが、正しくは効果の停止が出来なかった為、と言えます。

 

 当時、七海は相当量の出血をしており、そのままでは死を待つだけでした。

 

 ショック死を防ぐ為には、ある程度身体機能の一部を抑止するしかありません。

 

 通常の手段ではあそこまでの重症者を生き永らえさせるのは難しいですが、そこは黒トリガー故の特殊性によって救われたワケです。

 

 ですがその際に行った身体の過剰反応を抑制する効力が解除出来ず、結果として無痛症に近い身体的瑕疵として残ったのです。

 

 これは製作者である玲奈が一心に「弟の苦しみを取ってあげたい」と祈った結果生まれた誤作動であり、彼女の想いが強過ぎたが故の事故のようなものでした。

 

 なので一度正常起動出来てしまえば、その障害は消えるのです。

 

 ちなみに群体王起動時の七海のステータスは、以下の通りとなります(()内は通常時のもの)

 

 トリオン:30~???(10) 

 

 攻撃:12~??(8) 

 

 防御・援護:14~??(8) 

 

 機動:10

 

 技術:9 

 

 射程:6~??(4) 

 

 指揮:6 

 

 特殊戦術:10(6) 

 

 TOTAL 97(61)

 

 群体王はその特殊な性質により、トリオンや攻撃の上昇値はリンクを繋いだ仲間の人数に比例します。

 

 数人程度では多少の出力上昇にしか成りえませんが、本編でやったように大人数を一気に繋ぐ事で瞬間的に凄まじい出力を使う事が可能となります。

 

 ある意味遊真の黒トリガーの亜種とも言える性質であり、あちらと違ってコピーの手間が必要ない分能力のストックは出来ませんが即応性は非常に高いです。

 

 このリンクを結ぶのには一定範囲内に効果対象者がいる必要があるので、多くの仲間がいる防衛戦でこそ真価を発揮する代物と言えます。

 

 半面単体では黒トリガーらしい出力を発揮出来ないので、一人で一部隊扱いするS級隊員にはなりたくてもなれない仕様となっております。

 

 尚、このリンクを結ぶ相手というのは七海が「友軍である」と認識し尚且つ相手に彼を拒絶する意思がなければ発動時に自動的に成立します。

 

 要は一定の範囲内にいる相手全員に電話をかけ、その電話を取った者にのみ回線が繋がるワケですね。

 

 もしもあの争奪戦の問答がなければ、三輪はこのリンクを受け取る事が出来ずにアウトでした。

 

 そういう意味で、これまでの積み重ねがダイレクトに力になる黒トリガーと言えます。

 

 そして、満を持して開帳された風刃の使い手は村上です。

 

 原作では三輪が担った役割ですが、今作では七海との関係性や副作用(サイドエフェクト)を鑑みて彼が担当するのが適当であると判断しました。

 

 カゲさんが黒トリガー起動の発破という役割を務めた以上、勝利へ繋がる風を吹かせるのは村上しかいないでしょう。

 

 これをやる為に昇格試験編で村上を観戦に呼び、黒トリガーとはどんなものか、どう使うのかを実際に見せたワケですね。

 

 そこから遊真の重石攻撃、茜ちゃんの転移とユズルから受け継いだスパイダーによる支援で七海の刃は遂に剣聖に届く事となりました。

 

 ここら辺は王道オブ王道を意識して展開を描いたので、シンプルに燃える展開と言えるでしょう。

 

 王道は面白いからこそ王道と呼ばれるのであり、妙な変化球を打つよりは王道で勝負した方が良いというのが私の持論です。

 

 そうでなくとも、王道の展開というのは須らく燃えるものですから。

 

 こうしてヴィザは撃破され、ヒュース・エネドラが生きたまま囚われました。

 

 これによりハイレインは「エネドラが暴露した情報によってヒュースが即座に反旗を翻す」リスクと、「あのヴィザ翁を撃破してのけた玄界(ミデン)の軍と再び戦う」リスクを同時に背負い込む事になりました。

 

 此処でエネドラが生きて捕まった事が活きており、死んでいれば無視する事の出来たリスクですがやられたらやり返すエネドラの性格を鑑みれば暴露しない可能性の方が低いと思い至るでしょう。

 

 そしてヴィザが敗北するとは欠片も考えていなかった為に、そうなった場合のリカバリーまでは手が回らなかったと思われます。

 

 再侵攻はリスクが大き過ぎると判断したハイレインは、撤退を決めます。

 

 こうして、大規模侵攻は正しく被害0で終わったワケです。

 

 最終話、「痛みを識るもの」では現実を生き抜く中で得る艱難辛苦(いたみ)を識ったからこそ、前に進む力を得た二人が愛を誓いフィナーレとなりました。

 

 元々最終話でタイトル回収は考えていましたし、恋愛をテーマの一つにした以上此処で正式に二人をくっつけるのは予定調和でした。

 

 これにて、七海玲一による物語は終幕となります。

 

 此処から先の時間軸では、修達が難易度の上がったランク戦を四苦八苦しながら攻略していくでしょう。

 

 既に七海は主役の座からは降り、彼が舞台に立ち続ける時間は終わったのですから。

 

 趣味全開の解説を此処まで見て下さり、ありがとうございます。

 

 これからははぼちぼちアフターストーリーを書いていきたいと思いますので、今後ともよろしくお願いします。

 

 それでは。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。