痛みを識るもの   作:デスイーター

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クロスランク戦②

 

「────────」

 

 戦場となる空間へ転送が完了し、七海は視界に広がる街並みを見据える。

 

 彼が立つ家屋の上から見渡せるのは、大小様々な建築物が並んだ市街地。

 

 オーソドックスな住宅街が並ぶ市街地Aと比べ高低差のある建物が多く、射線が切れ易いバトルフィールド。

 

 市街地B。

 

 その戦いの地に降り立った七海は、通信を繋ぎ号令をかける。

 

「始めるぞ。予定通りだ」

『了解』

『了解よ』

『了解ですっ』

 

 三者三様の返答が成され、仲間の後押しを受けた七海はその身を躍らせる。

 

 異邦人との戦いが今、開始された。

 

 

 

 

「こちら加山。予定通り、七海先輩に見つからない事を第一に仕込みをやってきます」

『おう、見つかんなよ』

 

 加山もまた、現状を確認しつつ仲間と通信していた。

 

 彼が転送されたのは、東側の住宅街の一角。

 

 細い路地が多く、家屋を通れば上方からの視線を切りつつ移動出来る悪くない環境だ。

 

 現在彼は家の影に隠れながら、地道に仕込みを行っている最中だ。

 

 地形を利用した戦術こそが彼の真骨頂であり、他のチームの眼を掻い潜りながら罠を仕込んでいくのが今の彼の最優先事項だ。

 

 見つかっては元も子もないが、それでもまごついていてはいつ戦闘に巻き込まれるか知れたものではない。

 

 那須隊は中距離戦のエキスパートと言える部隊であり、メテオラや合成弾もある為火力も高い。

 

 紅月隊はとにかく隊長のライの移動・攻撃範囲が広く、油断すれば部隊ごと一蹴されても不思議ではない。

 

 加えて、それぞれの部隊のエースが厄介な副作用(サイドエフェクト)持ちだ。

 

 七海は感知痛覚体質の能力によって不意打ちや狙撃が効かず、それを最大限に活かした戦い方をする。

 

 狙撃を恐れずに大胆に立ち回り、乱戦で優位を取っていくそのやり方は放置すれば盤面を好き放題にかき乱されてしまう。

 

 ライは超高速精密伝達という、要するに超絶的な反射神経を持っているに等しい動きを行う。

 

 これによって生半可な攻撃は通じないどころか、凄まじい精度の攻撃が的確に標的に叩き込まれるのだからたまったものではない。

 

 七海は乱戦・攪乱特化の盤面操作能力が、ライはとにかく個人としての突破力の高さが突出している。

 

 対して、加山に出来るのはあくまでも仕込みを元に作戦を遂行し、部隊に有利なシチュエーションを作り上げる事だ。

 

 嵌まれば何もさせずに封殺出来るが、反面途中で妨害を受ければ瓦解しかねない脆さも孕んでいる。

 

 この試合は、加山が準備を終えるまで生き残れるかが、最大の焦点。

 

 故に。

 

「────────────────早速来ました」

 

 それを止めようとするのは、至極当然の理。

 

 有り得ざるマッチメイクの試合の第一手は、他ならぬ那須隊が駒を繰り出した。

 

 無論、彼の初手は決まっている。

 

 ()()である。

 

 

 

 

「────────メテオラ」

 

 バッグワームを脱ぎ捨てた七海は、眼下の住宅地へ向かって炸裂弾(メテオラ)を放つ。

 

 無数に分割され、叩き込まれる弾丸。

 

 それらが地面に着弾すると同時に爆発が起こり、家屋を吹き飛ばしていく。

 

 無論、一度で終わる筈もない。

 

 七海は屋根の上を足場としながら高速で移動を続け、跳躍の度にメテオラを撃ち放っている。

 

 目的は無論、加山の────────────────弓場隊の炙り出しである。

 

 現在、七海を除く全ての隊員はバッグワームを纏っておりレーダーには映っていない。

 

 仕込みさえ済んでしまえば試合を優位に進められる弓場隊の場合、これは当然の選択である。

 

 今回どのチームにも狙撃手はいるが、紅月隊の鳩原は人を撃てないという性質を持っている。

 

 そして那須隊の狙撃手である茜は最も得意とするのがライトニングによる高速精密狙撃であり、イーグレットやアイビスの使用頻度はそこまで高くはない。

 

 無論警戒をしなくて良いというワケではないが、少なくとも序盤は咄嗟の両防御(フルガード)が出来ないというリスクよりも位置を知られる事による思惑の看破の阻止を優先したという事だ。

 

 紅月隊の場合はタイミングを見計らっているだけだろうが、それも長くは続かないだろう。

 

 何故なら。

 

「小夜子、次は」

『今示したルートを爆撃して下さい。このまま、最短で加山さんを炙り出しましょう』

 

 加山に、弓場隊に残された猶予はそう長くはない。

 

 それを。

 

 彼等はすぐに、知る事になる。

 

 

 

 

(マズイマズイ…………ッ! このままじゃ、()()()()()()()()…………っ!)

 

 加山はその七海の動きに、内心で滅茶苦茶焦っていた。

 

 それは何故か。

 

 七海の行う、爆撃のルート。

 

 その破壊痕は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 

 恐らく、加山のいる位置が大まかにであるが那須隊側にバレている。

 

 これは、そういう動きだ。

 

 このメテオラ包囲網が完成してしまえば、加山が外に出るには破壊され上から丸見えな瓦礫の上を通るしかなくなる。

 

 そうなれば、どうなるかは目に見えている。

 

 加山は自分という駒が、他の隊員よりも格段に()()()()()と自認している。

 

 何故ならば、彼は放置すれば間違いなく他部隊に大きな損害を与える駒だからだ。

 

 エスクードによる地形操作や、高速で生成される合成弾による奇襲。

 

 何よりも他チームの嫌がる事を的確にこなすその戦術スタイルが、見敵必殺の対象となるに充分過ぎる性質を備えているからだ。

 

 場合によっては敢えて姿を晒して自分を囮に相手チームを罠に嵌めたりもする加山だが、今回も場合はこの最序盤で居場所がバレてしまえばほぼ詰みだろうと考えている。

 

 七海は当然ながら、ライも加山を見つけたならば見逃すという選択肢はない。

 

 加山は生存率の高い駒であり、一度逃げに徹されれば仕留めるのは相当に難しくなる。

 

 故に、彼が隙を見せれば恐らく双方の部隊から狙われて終わりだ。

 

 他の仲間は離れた場所に転送された為にすぐに救援に向かう事は出来ず、孤立無援な状態で集中攻撃されれば流石に加山でも凌ぎ切れはしないだろう。

 

 彼の生存率が高いのはあくまでもリスクヘッジを常に意識しながら行動するからであり、対抗手段のない状態で狙われても堪え切れるような類の駒ではない。

 

 だからこそ、今の状況は最悪の類と言えた。

 

(なんでバレた…………? 開始と同時に全員がバッグワーム着たから、俺の位置に繋がるような情報は与えていない筈────────────────いや、待て。まさか)

 

 加山は一つ、仮説を思いつく。

 

 想起するのは、とある機会に国近から聞かされた話。

 

 曰く、彼女は────────。

 

 

 

 

『恐らく、那須隊のオペレーターは自分たちの転送位置から大まかに弓場隊の居場所を割り出したんでしょう。以前、私達も同様の事を行いましたが────────────────正直、誰一人として位置が分からない状態でやられるとは思いませんでした』

「成る程、そういう事か。そんな事まで出来るなんて、優秀な子なんだな」

 

 ライは瑠花の見解を聞き、得心して頷いた。

 

 通常、ランク戦では各隊員の間に一定の間隔を置いてランダムにMAPに転移させられた状態で試合が始まる。

 

 何処に誰が送られるかは完全な無作為(アトランダム)だが、その隊員間の()()だけは大まかにだが決まっている。

 

 故に那須隊は人数が多い四人部隊であるという特徴を活かし、仲間の転送位置を元に相手チームが隠れていそうな場所を割り出したのだ。

 

 無論口で言うほど簡単な事ではなく、精密な地形把握や距離の計算、立体的な座標の掌握等様々な技術を併用しなければ精密な位置特定は不可能だ。

 

 以前に瑠花も同様の技術を用いて相手部隊の位置特定を行っているが、あの時は既に二人の隊員の位置が割れた状態だった。

 

 それと比較すると今回小夜子は自部隊以外の全員がバッグワームを纏っている中、その位置特定を行っている。

 

 瑠花も状況次第では同じ事が出来るかもしれないが、流石に余程の好条件でない限り難しいだろう。

 

 そんな真似を、軽々とやってのける程の技術。

 

 果たして志岐小夜子というオペレーターはそこまで突出した技能を持っていただろうか、と瑠花は首を傾げる。

 

 小夜子は確かに優秀なオペレーターではあるが、国近のような天才性までは備えていたというイメージはない。

 

 彼女とは別段親しかったというワケではないが、記憶の中にある小夜子と今向き合っている部隊のオペレーターのイメージが、どうにも噛み合わない。

 

 些細な、しかし確かな違和感が瑠花の心に燻り。

 

 しかし些末な事だと、思考を次へ回す。

 

 今は、そんな事を気にしている場合ではない。

 

 此処での選択が、今後に大きく影響するのだから。

 

「じゃあ、今七海くんに追い込みをかけられているのは加山くんではない可能性もあるワケか」

『ええ、流石に個人を特定する事までは不可能だと思います。ですが』

「僕と鳩原でない以上、十中八九弓場隊の()()である事は間違いない。那須隊としては加山くん本人なら御の字、仮に他の隊員であったとしても加山くん側としてはみすみす落とさせるワケにはいかないから出ていかざるを得ない、という事か」

 

 そう、七海としては()()()()()()()のだ。

 

 追い込んでいる相手が加山なら、そのまま仕留めに行くだけ。

 

 他の他の隊員であっても、加山を釣り出す為に利用すれば良いのだから。

 

『あそこは地形的に、狙撃手が潜むような場所じゃありません。仮にライ先輩ならもう自分から出て行っている頃合いですし、那須隊は自分達が追い込んでいる相手が弓場隊だと確信を持っているでしょう』

「或いは、高所を取った狙撃手の観測情報で弓場隊の隊服が垣間見えたから、というケースもありそうだね。日浦さんはテレポーターを持っているし、気付かれずに上を取るのも得意だろうからね」

 

 そして、恐らく那須隊は今囲っている相手が弓場隊だと決め打っている。

 

 ライであればとうに迎え撃っているであろうし、地形的に狙撃手である鳩原が潜伏するような場所ではない。

 

 そもそも追い込まれている相手が鳩原であればライが既に飛び出しているであろうから、その可能性は考えてはいないだろう。

 

 彼の性格を抜きにしても、この試合ではサポーターである鳩原をこんな序盤で失うワケにはいかないのだから。

 

『どうしますか? 作戦では、もう少し潜伏する予定でしたが』

「流石にこれ以上は放置出来ない。出るとしよう。瑠花、サポートを頼む」

『了解しました。ご武運を』

 

 そして、弓場隊を利用するつもりでいるライとしてもこの七海の動きは看過出来ない。

 

 確かにライは一騎当千の駒であるが、彼は自分の事を無敵だなどと驕った考えは持っていない。

 

 むしろどんな試合であろうと負ける可能性が少しでもあるなら全霊を尽くし、対策を練るのが当然だと思っている。

 

 そして、この状況を見過ごす事が出来ない以上。

 

 やる事は、一つだ。

 

「────────さて、行こうか。相手をして貰うよ、七海くん」

 

 

 

 

(紅月隊は、まだ動かないのか…………っ! やりようがないワケじゃないが、出来れば手札はまだ温存しておきたい。けど、どう考えてもこのままじゃ包囲網の完成に間に合わない)

 

 加山は姿を見られないよう気を付けながら、思考を巡らせていた。

 

 このままでは七海による爆撃包囲網が完成し、彼は文字通り籠の鳥となる。

 

 しかし、姿を隠しながらという枷を背負った状態で狙撃を意に介さず高速で駆け回る七海の速度に勝てる筈もない。

 

 そして最大の計算違いが、紅月隊が未だに姿を見せない事だ。

 

 加山の予想では、ライは七海が爆撃を開始してすぐに迎撃に向かう筈だった。

 

 爆撃を継続されれば自分の隊のサポーターである鳩原の居場所まで炙り出されかねないし、弓場隊を対七海に利用する以上放置する択はないと思っていたからだ。

 

 だが予想に反して未だにライは姿を見せず、沈黙を保っている。

 

 七海による包囲網は、最早その半分以上が完成している。

 

 このまま手をこまねいていれば、加山の逃げ道はなくなってしまう。

 

 状況の打開策がないワケではないが、それはこんな序盤で切って良いような手札ではない。

 

 そもそも、七海とライを食い合わせるのはこの試合で弓場隊が勝つ為の大前提だ。

 

 流石に無傷の二人を落とすのは難易度が高過ぎるし、堅実な勝ちを狙うにはお互いのエースをぶつけて消耗させるのがベストだ。

 

 此処で手札を切ればこの場はどうにかなるかもしれないが、それは後々の為に用意していたリソースを吐き出す事を意味する。

 

 流石にそんな状態であの強力且つ厄介な二部隊に勝てるとは思えず、加山は舌打ちした。

 

(読み違えたか…………? 紅月隊の戦略傾向を()()限り、これで動かない筈がないんだが────────────────いや、冷静になれ。此処で動揺して、下手に動けば元も子もない)

 

 加山は内心で自身を叱咤し、冷静な思考を取り戻す。

 

 今一番やってはいけないのは、焦って下手に動いた挙句に居場所を晒してしまう事だ。

 

 どの道、自力での脱出が困難である以上自分の読みが間違っていない事を祈るしかない。

 

 まるで一夜漬けでもしたかのように所々紅月隊や那須隊に対しての脳内情報の鮮度が曖昧であるが、余計な思考だと切り捨てる。

 

 今肝要なのは焦らず、事態を把握し続ける事。

 

 そして、それは。

 

「────────ようやく、来たか」

 

 望んだ現実の到来となって、結実する。

 

 

 

 

「────────旋空弧月

 

 旋空、二連。

 

 神速の連続斬撃が、爆撃をしていた七海へと襲い掛かる。

 

 それを。

 

 七海は予め用意していたグラスホッパーを踏み込み、跳躍。

 

 避けようがなかった筈の二連撃を回避し、七海は離れた家屋の上へと着地した。

 

「────────」

「────────」

 

 視界の先には、濃い青に銀色のラインが特徴的なロングコートを身に纏う少年────────────────紅月ライ。

 

 その胸には、祈りを捧げる少女とそれを守る武器を象った隊章(エンブレム)が刻まれている。

 

 対するは、尾を食む蛇(ウロボロス)とそれを支える三つの武器が描かれた隊章を胸に刻む少年────────────────七海玲一。

 

 二人の視線が、交わる。

 

 異邦の世界の主演者同士が、戦場で対峙した瞬間だった。

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