痛みを識るもの   作:デスイーター

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クロスランク戦⑯

 

 

(…………っ! まさか、此処で鳩原を狙って来るなんて────────────────いや、()()()()それが狙いだったのか)

 

 ライは鳩原脱落の報を聴き、内心で唇を噛んだ。

 

 彼の読みでは、弓場隊が取る戦略は残り少ない手札を使っての七海の打倒だった。

 

 以前の戦闘で七海が()()()()()()()()()ではない事を実感した彼等は、その時のノウハウを活かして今度こそ彼を仕留めようとする筈だと。

 

 そう、踏んでいた。

 

 だからこそ彼等が七海を落としに行くであろう事を予測し、そこに横槍を入れる形で帯島を点にする計画をライは立てていた。

 

 実際、それは成功した。

 

 七海への攻撃の瞬間という最大の好機は、それだけ第三者へ隙を見せる瞬間でもある。

 

 そこを武器破壊によって妨害し、副作用(サイドエフェクト)によってギリギリで回避するであろう七海の身体で射線を隠す事で躱せない一撃を叩き込んだ。

 

 イーグレットの弾丸は見事命中し、帯島の命運を刈り取った。

 

 此処までは、ライの作戦通りだった。

 

 予想外の事態が起きたのは、その直後。

 

 ライのサポートを行った鳩原が、最初から待ち伏せていたとしか思えない場所に潜んでいた外岡の狙撃を受けて脱落した。

 

 既に鳩原から報告は聞いているが、外岡は明らかに彼女が狙撃位置として陣取るであろう場所を狙撃するのに最適な場所に潜伏していたのだそうだ。

 

 それはつまり、こちらの作戦が弓場隊に完全に読まれていた、という事になる。

 

(狙撃に使える場所は、狙撃手なら分かる。だから鳩原が()()()()()()()に当たりを付けて潜伏する事は、可能だ。だから、その推測が当たったのだと考えれば一応説明はつく)

 

 けれど、とライは思考を進める。

 

(鳩原が言うには外岡くんが狙撃して来た場所は、彼女のいた建物に隣接する場所からだという。そこまでの近距離に潜んでいたという事は、単に当たりを付けただけじゃなく彼女があそこに陣取るという予測の元に成り立っていたに違いない)

 

 そう、狙撃手同士であればどんな地形が潜むに最適な場所かは理解している。

 

 それ故に()()()()()()()()()()()()()()()()というのは、MAPをきちんと把握していればある程度当たりは付けられる。

 

 ライもまた狙撃手の一員でもある為、そのくらいの事は分かる。

 

 しかし、今回ばかりは狙撃して来た場所がピンポイント過ぎる。

 

 外岡の潜んでいた場所は、付近の狙撃に適したポイント全てが見渡せる場所ではなく────────────────鳩原の陣取った位置()()を、最短で狙える場所だった。

 

 これは明らかに、彼女の動きを完全に読み切っていなければ不可能な芸当だ。

 

(つまり、弓場隊は鳩原があの位置に来る事を最初から承知していた。七海くんを狙ったのは陽動(フェイク)で、本命は彼女を落とす事にあったのか)

 

 

 

 

(その顔が見たかった。こっちの思惑に気付いたみたいだけど、後の祭りだよ)

 

 加山は視線の先で眼を見開いていたライを見据え、ニヤリと笑みを零した。

 

 そう、最初から彼は七海を落とそうとは考えてはいなかった。

 

 彼が帯島と外岡に下したオーダーは、こうだ。

 

 帯島には、「全力で七海を落としに向かえ。ただし、七海にだけは落とされるな」と。

 

 外岡には「鳩原が指定の場所に来て狙撃したら、彼女を撃って緊急脱出しろ」と。

 

 それぞれ、指示を下していた。

 

(最初から、七海先輩が落とせるとは思っちゃいない。さっきはそれをやろうとして、見事にアンタ達に漁夫られたからな)

 

 加山は今回の作戦で、まず七海は落とせないだろうと考えていた。

 

 そう結論したのは、先程の弓場が緊急脱出した時の顛末にある。

 

 あの時、紅月隊は七海を落とそうとした弓場を武器破壊で妨害し、その直後にイーグレットで彼を仕留めた。

 

 その事から、紅月隊の方針は弓場隊(かれら)に点を与えず、他部隊全員の撃滅である事を理解した。

 

 故に、もう一度七海を狙おうとすれば必ず横槍を入れて来ると、加山は読んでいた。

 

 紅月隊の妨害を防ぐ事は、かなり難しい。

 

 鳩原は熟練の狙撃手であり、A級部隊に所属していた経験もあって狙撃の直後でもなければ落とせる相手ではない。

 

 彼女は、スパイダーを装備している。

 

 たとえ位置が露見しても、あの手この手で妨害し雲隠れするくらいはやってのけるだろう。

 

 だから、鳩原を落とそうとするのであれば狙撃の直後────────────────攻撃完了から逃走までの短い間を、的確に狙う必要があった。

 

 故に、外岡には鳩原の狙撃を妨害はするなと言っておいた。

 

 欲をかけば、帯島を囮にしてまで釣り出した駒をみすみす逃してしまいかねない。

 

 そういった判断も、勿論あった。

 

(それに、あの攻撃が成功していたとしても七海先輩は致命傷は避けそうな気がしてならない。落とせると確信出来るのならまだしも、七海先輩の腕や足だけ斬って終わりってパターンが一番マズイ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って結果なら良いが、部位欠損させる可能性が高い以上危険な橋は渡るべきじゃねぇ)

 

 加えて、加山はとある理由で七海に部位欠損をさせたくなかった。

 

 そういった事情もあり、加山は徹頭徹尾鳩原を落とす事のみにリソースを注ぎ込み目的を完遂させた。

 

(とにかく、これで最低限の目標は達成出来た。確実に取れる点は、大体取り切った筈だ)

 

 これで、弓場隊は3点目を獲得。

 

 紅月隊は2Pt、那須隊は未だ0Ptであると考えれば現状での獲得点数はトップである。

 

 その代償として残る隊員は加山一人になってしまったが、まだ勝ちの芽は捨ててはいない。

 

 だからこそ、外岡には自ら緊急脱出して貰ったのだから。

 

(外岡の位置は、こっから約70メートル。自己緊急脱出(ベイルアウト)可能な60メートル以内に他チームの隊員がいないって条件を、ギリギリ満たせる場所だった。あの場で離脱しなきゃ、七海先輩に詰められて落とされていた)

 

 外岡は鳩原を狙撃で落とした代償として、その位置を露見させてしまった。

 

 七海の機動力ならば、此処からであればすぐにでも急襲して彼を落とせていただろう。

 

 狙撃が効かない七海相手に、外岡単体では成す術がない。

 

 帯島が落ちた以上七海をあの場に留まる理由はないし、彼の機動力相手では加山のフォローも間に合わない。

 

 複雑な地形であれば幾らでも手はあったが、それもない以上位置を晒した外岡はただ狩られるだけの獲物に過ぎない。

 

 故に、狙撃完了と同時に自己緊急脱出するよう指示しておいたのである。

 

 他部隊に、一点たりとも与えない為に。

 

 ただひたすら、己の部隊の勝利の為に。

 

(さぁて、必要な保険はかけたし正直言えば俺も逃げちまいたいが、まず無理だな。条件が悪過ぎるし、いい加減トリオンも厳しくなって来た。今すぐどうこうってワケじゃないが、もうエスクードも合成弾もそこまで濫用が出来ねぇな)

 

 加山は自身の状況を改めて把握し、溜め息を吐く。

 

 これまで加山はエスクードや合成弾も何度も用いて、攻撃を凌いで来た。

 

 最初の那須相手のエスクードの大量展開に始まり、その後の位置露見からの合成弾連発。

 

 幾ら加山がトリオン強者とはいえ、全力でトリオンを吐き出し続けていれば息切れも見えて来る。

 

 少なくとも、膠着状態が続いてしまえば真っ先に落ちるのは自分であると加山は理解していた。

 

 七海もメテオラを連打してはいたが、消耗は燃費最悪のエスクードを使用している加山ほど酷くはない。

 

 彼のトリオン量であれば、試合終了まで何の問題もなく保つと加山は推測していた。

 

(だから、最後の仕事だ。生き残るのは無理だろうが、やれる事はやってやる。さあ、ぶちかますぞ…………っ!)

 

 全ての覚悟を決めた加山は意を決し、即座に合成弾を生成。

 

 対峙する七海とライ、その双方に弾幕を射出した。

 

 

 

 

(来たか)

 

 七海は自らに向かって来る光弾の群れを見据え、駆け出した。

 

 撃ったのは、無論加山。

 

 帯島はライに落とされ、外岡も自ら緊急脱出したと聞いている。

 

 故に、弓場隊はもう彼一人だけしか残ってはいない。

 

 身を隠す場所もなく、孤立無援な彼は。

 

 未だ、その眼の闘志を消してはいなかった。

 

 あれは、まだ何かをやる気だ。

 

 その心意が、ひしひしと伝わって来る。

 

 これまでとは違い、最早加山は自らの闘志を隠していない。

 

 今までは自身の思惑を悟られぬようひたすら裏方で謀略を巡らせていた加山であるが、此処に来て腹を括ったような気配を感じる。

 

 あれはそう、七海が最強の剣聖(ヴィザ)を前にした時と同じような。

 

 決して退けない、そういった覚悟を秘めた眼だ。

 

 少なくとも七海は、加山の眼光をそう解釈した。

 

(なら、受けて立つだけだ。実質二人がかりだとか、そんな事は関係ない。手心を加える方が、よっぽど相手に礼を欠く)

 

 故に、七海はその挑戦を正面から受ける事に決めた。

 

 状況的には加山は不利ではあるが、獲得したポイントの事を考えれば最も厳しいのは那須隊だ。

 

 那須隊は未だ誰も落とせてはおらず、各得点は0。

 

 しかも残っているのは二人だけと、ランク戦が点の取り合いである事を考えれば一番マズイ位置にいるのは自分達である。、

 

 だが、諦めるつもりは毛頭ない。

 

 残る二人のうちどちらを倒した上で生き残れば3点で弓場隊と同点、両方倒せば4点獲得で勝利可能だ。

 

 まだ、勝ちの芽は残っている。

 

 ならば、足を止める理由にはならない。

 

 此処まで試合をかき回してくれた加山には、全力で当たる事こそが返礼となる。

 

 そう決意し、動く。

 

 七海は迫り来る弾幕を前に、グラスホッパーを展開。

 

 ジャンプ台を踏み、天高く跳躍。

 

 追い縋る強化追尾弾(ホーネット)を、引き離しにかかった。

 

 

 

 

強化追尾弾(ホーネット)か。なら、こうすべきだな)

 

 ライは自身を狙う加山の合成弾────────────────七海を追ったその軌道から、間違いなくホーネット。

 

 それを前に、足元の瓦礫を蹴り上げ1枚の壁とする。

 

 そして、壁に手を付きエスクードを展開。

 

 突き出たバリケードの加速を利用して、一直線に加山へと接近した。

 

「…………!」

 

 当然、その軌道はホーネットの群れに正面から突っ込む事になる。

 

 しかし、無論の事被弾などする筈もない。

 

 ライはシールドを展開し、自身にぶつかる弾を弾く。

 

 ホーネットは追尾性能自体は凶悪だが、威力はそこまで高くはない。

 

 故に防御するだけならばシールドを広げるだけで事足りるが、そうなるとその場に固められてしまい身動きが取れなくなってしまう。

 

 だが、足を止めずにシールドを張る事が出来れば関係はない。

 

 エスクード跳躍(ジャンプ)による加速は、直線移動であればグラスホッパーのそれを上回る。

 

 代わりに小回りは利かないものの、加速力自体はかなりのものだ。

 

 それ故、シールドはホーネットの群れに突っ切る時だけ維持出来ればそれで良い。

 

 如何にホーネットの追尾性能が高かろうと、追いつけなければ意味はない。

 

 そして、一瞬でも引き離せればライには充分だった。

 

(これ以上、余計な真似はさせない。何かされる前に、此処で落とす…………っ!)

 

 ライの加山への警戒度は、先程の鳩原撃破によって最大級に上がっていた。

 

 これ以上彼を、戦場に残してはならない。

 

 仲間の脱落によってそれを強く意識したライは、速攻で加山を落とす事を選択した。

 

 時間を与えれば与える程、加山が何かを仕掛けて来る確率は上がる。

 

 ならば、その前に有無を言わさず撃墜する。

 

 戦術家を自由にすれば、どれだけの事が出来るのかを彼は知っている。

 

 かつてあの世界での無二の友が、有象無象のレジスタンスを率いて軍に立ち向かった時のように。

 

 軍略に富んだ指揮官というものは、戦力差を容易くひっくり返す怖さがある。

 

 奇しくも、その知略を前に読み負け鳩原を落とされてしまったように。

 

 此処からも、何かを仕掛けて来る可能性は充分にあった。

 

 故に、此処で落とす。

 

 リスクの勘案も、最早度外視する他ない。

 

 次の行動を起こされる前に、撃破する。

 

変化弾(バイパー)

 

 ホーネットの群れを突破したライは、バイパーを展開。

 

 速度重視でチューニングしたそれを、加山に向けて撃ち放った。

 

「…………!」

 

 それに対し、加山はシールドを広げ対応。

 

 四方から襲い来る光弾を、加山のシールドが弾く。

 

 だが、当然これで攻撃が終わる筈もない。

 

 ライは即座に、その手にイーグレットを構えた。

 

 空中での狙撃となるが、彼ならばこの状態から当てる事など造作もない。

 

 現在、加山はシールドを広げてバイパーを凌いでいる。

 

 あそこから逃げるにはシールドを解除するしかないが、そうなれば残るバイパーが彼を撃ち貫く。

 

 最初から、バイパーの半数はやや遅れて着弾するように調整してある。

 

 あの場でシールドを張る事を選んだ時点で、彼に回避という選択肢は失われた。

 

「────────!」

 

 しかし、それで諦める程加山は潔くはない。

 

 ライがその手にイーグレットを手にした段階で、彼は地面に手を付けエスクードを起動。

 

 自身の周囲を守り固める形で、無数のバリケードを発生させた。

 

 幾ら威力の高いイーグレットと言えども、防御に使用出来るトリガーの中でも最高の硬度を誇るエスクードは突破出来ない。

 

 弓場のリボルバーのように連射が出来るのであればともかく、ライトニング以外の狙撃銃は単発式で再装填(リロード)にも時間がかかる。

 

 加えて、今回ライはイーグレットを弧月と同じメイントリガーにセットしている。

 

 イーグレットを使用している現在、旋空弧月は使えない。

 

 恐らくはそう考えて、一斉にエスクードを起動したのだろう。

 

詰み(チェックメイト)だ」

「…………っ!」

 

 されど。

 

 その目論見は、ライがイーグレットを()()()()()段階で失敗である事が明白となった。

 

 確かに、メインとサブではそれぞれ一つずつしかトリガーを起動出来ない。

 

 だが、それはあくまでも()()した場合だ。

 

 ライは最初から、イーグレットはオフにしていた。

 

 この試合、彼は2度もイーグレットで弓場隊の隊員を落としている。

 

 故に、加山の中では「ライが敵を仕留める時はイーグレットを使用する」という印象が植え付けられた筈だ。

 

 だからこそ、イーグレットを見せた段階で加山は反射的にそれに対応したのだ。

 

 エスクードという、イーグレットでは破れない盾を用いて。

 

 しかし、それこそが罠。

 

 ライは加山がイーグレットには必ず対応して来ると踏んで、それを囮にした。

 

 本命である、伝家の宝刀で仕留める為に。

 

「────────旋空弧月

 

 旋空、一閃。

 

 居合抜きの要領で放たれたライの拡張斬撃は、エスクードごと加山を両断。

 

 ほぼゼロ距離で放たれた斬撃は、回避の余地なく命中。

 

 弓場隊最後の一人を、一瞬で撃破した。

 

「…………!」

 

 そこでライは悪感を感じ、咄嗟に身体を捻る。

 

 しかし、一歩遅かった。

 

 エスクードの向こう側から地面スレスレの低高度で飛んで来た弾丸の一部が、ライの脇腹に着弾した。

 

 致命傷ではない。

 

 しかし決して無視出来ないダメージを負ったライは、自身が斬り捨てた弓場隊最後の一人────────────────加山を、見据えた。

 

「最初から、この状況で生き残れるなんて考えちゃいなかったさ。欲を言えば相打ちに持ち込んでおきたかったが、流石に欲張りだったか」

「いや、してやられたよ。まさか最初から、捨て身前提だったとはね」

 

 そう、ライに落とされる事は最初から承知の上。

 

 その上で、あわよくば彼を相打ちに持ち込むべく待ち構えていたのだ。

 

 エスクードを展開したのは、防御の為ではなかった。

 

 全ては、この攻撃を通す為。

 

 ライに痛打を与える為だけに、加山は自身を駒として使い潰した。

 

 鳩原を落とされたライが、自分を速攻で落としに来ると読んだ上で。

 

 彼は自身の脱落を視野に入れた上で、最後の罠を張っていたのだ。

 

「これで、アンタを落とすお膳立ては整った。自分でやれなかったのは心残りだが、結果良ければ全て良しだ。頑張ってくれよ、()()()()

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 加山は最後まで不敵な笑みを浮かべ、光となって消え去った。

 

 そして。

 

「────────」

 

 加山の強化追尾弾(ホーネット)を振り切り、地面に降り立つ少年が。

 

 七海玲一が、30メートル程の距離を置いてライと対峙した。

 

 弓場隊はこの瞬間、全員が脱落。

 

 残るは、那須隊と紅月隊。

 

 各々の隊のエースと、未だに隠れ潜む狙撃手一人。

 

 最後の戦闘が、始まろうとしていた。

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