痛みを識るもの   作:デスイーター

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クロスランク戦After/交差路の邂逅

 

 

「ん…………? ここは…………」

 

 七海は目を開け、周囲を見渡すと見覚えのない光景が広がっていた。

 

 一面の、()

 

 まるで宇宙(ソラ)のただ中にいるような、広大で果てのない漆黒の闇が。

 

 何処までも、何処までも広がっていた。

 

(さっきまで、ランク戦をしていた筈だけど。確か、試合が終わったと思ったら急に意識が遠くなって────────────────此処は、一体なんなんだ…………?)

 

 改めて、七海は周囲を見回す。

 

 果ての無い闇の中、足元だけが妙に明るいその場所は。

 

 三つの枝分かれした、交差路の中心。

 

 眩い光によって形成された分かれ道の分岐路に、彼は立っているようだった。

 

(まるで、あの時姉さんと会った場所のような────────────────少なくとも、現実の光景とは思えない)

 

 想起するのは、大規模侵攻の終盤。

 

 七海が黒トリガー群体王(レギオン)起動に成功した時に、白昼夢のように見た光景。

 

 姉との、死者との一時の邂逅。

 

 刹那の歓談を成し得る事が出来た、あの空間に雰囲気は似ていた。

 

 あれがなんだったのかは、今でも分からない。

 

 けれど、感じるのだ。

 

 あの時と同じような、空想でありながら何かしらの意味を持つと思われる場所。

 

 そういった場所に、今七海はやって来てしまっているのだと。

 

「────────成る程、そういう事か。色々違和感はあったけれど、こういう事だったとはね」

「あ…………」

 

 不意に、近くから少年の声が聞こえる。

 

 その声は、つい先ほど聞いたばかりのものであるから間違えようがない。

 

 紅月隊隊長、紅月ライ。

 

 たった今下したばかりの、一騎当千の実力者。

 

 いつの間にか現れていたランク戦で鎬を削り合った好敵手が、苦笑を浮かべてこちらを見据えていた。

 

「えっと、紅月先輩」

「ライでいいよ。君とは、何処か不思議な共感を感じるからね」

「そうですか。では、ライ先輩と」

「ああ、それで構わない。先輩呼びを強要するつもりはないんだけど、どうやら君はそっちの方が慣れてそうだからね」

 

 ライはにこりと、七海に微笑みかける。

 

 その様子は、先程まで戦っていた凛々しくも雄々しい姿とはまるで異なっている。

 

 しかし、この程度日常と戦闘時の差異であれば些細なものであろう。

 

 戦闘モードに入るとまるで人格のスイッチが変わったような振る舞いをする者は、相応に存在するのだから。

 

「えっと、今の言い方ですとライ先輩はこの場所が何か知っているんですか…………?」

「あくまでもこういう場所かな、って予測はあるけどね。まあ、知ったところで何か役立つワケでもないから敢えては言わないでおくけれど」

 

 ただ、とライは続ける。

 

「元の世界にはきちんと帰れると思うから、心配はしなくて良い。多分、この道の先がそれぞれの世界に繋がっているんだろうからね」

 

 そもそも夢を見ているだけだから現実の肉体には影響は特にないだろうけど、とライは小声で口にするが幸いにもそれは七海の耳には入っていなかった。

 

 正直、七海としてはこの場所が何なのか興味が尽きなかったのだが、同時にライに説明をするつもりがない事を今のやり取りで察したので、それ以上の追及はしなかった。

 

(いや、待て。ボーダーに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()筈だぞ。なのになんで、俺達は彼等の存在を在って当然のように認識していたんだ…………?)

 

 それ以上に、先程までの記憶の不具合(バグ)とでもいうべきものが気になっていたという事もある。

 

 七海の記憶では、ボーダーの隊員に紅月ライや加山雄吾という人物は存在しない。

 

 ライは隊章(エンブレム)持ちである事からA級部隊、もしくはその経験があった部隊である事は確実な筈だが、A級に紅月隊なんて部隊は存在しないし勿論B級も同様だ。

 

 弓場隊の方も加山という隊員はいなかった筈であり、七海が知る弓場隊とは即ち神田がいた頃の弓場隊だ。

 

 神田が脱隊した今となってもそのイメージが未だに強い七海ですら、つい先ほどまで加山の存在に疑問を抱いていなかったのだ。

 

 これは、おかしい。

 

 七海は既に、混乱の極地にあった。

 

「心配せずとも、多分害はないよ。簡単に言うとこれは夢を見ているようなものだから、生身の肉体がどうこう、って事態にはならないと思う。与太話にしか思えない説明をするのもなんだし、そう納得してくれると助かる」

「そうですか。正直気になって仕方がありませんが、先輩がそう言うのであれば納得する事にします」

 

 ライの言葉に、七海は若干後ろ髪を引かれつつもそう答えた。

 

 気にならない、といえば嘘になる。

 

 しかし、七海から見てライは情報を隠蔽したい、というよりはどう説明していいか見当も付かない、といった様子をしていた。

 

 ならば、此処で問い詰めても有益な情報は得られないだろう。

 

 七海はそう割り切って、この話を打ち切る事にした。

 

「ごめんね。色々事情は予想出来たんだけど、巧い説明のやり方を思いつかなくてね。やっぱり、弁舌はルルーシュみたいに巧くいかないや」

「ルルーシュ…………?」

「あ、ごめん。独り言だと思って聞き流してくれると助かる。ちょっと、昔の友達の事を思い出しちゃってね」

 

 ライはそう言って、何処か遠くを見据えていた。

 

 彼の口から出た「ルルーシュ」という言葉は、誰かの名前だろうか。

 

 恐らくは彼の親しかった友人でも思い出していたのだろうが、そこは七海が突っ込んで良い所ではない。

 

 相手が望まない限り、不用意に懐には踏み込まない。

 

 それが、七海が自分に課している鉄則である。

 

 場合によっては踏み込んだ方が良いケースはあるが、今回の場合は深刻な悩みを抱えているというワケでもないので、これで構わない筈だ。

 

「とにかく、僕たちは別の世界から夢を介してこの場所にやって来た、って認識してれば良いよ。納得は難しいだろうけど、そうとしか言えないからさ」

「いえ、この場が尋常の空間ではない事は察しが付きましたし、きちんと帰れるのであれば文句はありません」

 

 それに、と七海は続ける。

 

「ライ先輩や()()ともこうしてゆっくりと話す機会を持ちたいとは思っていましたから」

「────────割と酔狂ですね、七海先輩」

 

 そう言って姿を現したのは、加山である。

 

 ライと同じくいつの間にか傍に立っていた彼は、不意に水を向けられた事に困惑しつつも苦笑する。

 

 どうやら、彼は彼で話しかけるタイミングを探っていたらしい。

 

 理解不能の状況に一先ず静観を選んだが、事態の究明に話が向きそうにないのでつい口を出したくなった、という所だろう。

 

 効率重視でありながら浪漫を解して超常の事態にもある程度経験があるライや、基本的に大抵の物事には寛容な七海と違い、未知の出来事に対しては何処までも現実的に推理を行い打開策を探そうとする加山とでは、スタンスの違いがある。

 

 しかし他二人に事態を究明する気がない様子であった為、加山としては一言物申したかった、というのもあるかもしれない。

 

「気にならないんですか? この空間を生み出してる絡繰りだとか、誰がこれを仕組んだんだとか」

「害があるなら色々調べてみるけれど、取り敢えず明確な被害はないからね。帰る事は可能なみたいだし、結果さえ分かってるなら細かい事は気にしないかな」

「そうっすか。いやまあ、本当に帰れるんならそれでいいですけども」

 

 何処か納得していないように、加山はそう言ってちらりとライに目を向ける。

 

 ライは明確に「帰れる」と断言しているが、その根拠については一切口にしていない。

 

 加山としてはそこの所はハッキリ言って欲しかったというのが本音であり、このあたりに基本的に人を信じる事から始める七海とのスタンスの違いが見える。

 

 七海はこう見えて試合で直接刃を交えた相手との肉体言語を重視するタイプであり、実際に矛を交えたライや加山の人柄もなんとなく把握している。

 

 だからこそのライの言葉に対する無条件の信頼なのだが、加山はそこまで頭が柔らかくはない。

 

 常識というものを捨て切れない加山にとっては論理的な説明こそが第一であり、そういったアバウトな信頼というのは中々肯定し難いものであるのだろう。

 

 しかし、それ以上の追及をするつもりはないようだった。

 

 この場で異を唱えているのが彼一人であり、無理に自分の意見を押し通しても利がさほど無いと考えたのもあるだろう。

 

 それに、直接戦って七海達の人格をある程度把握しているのは加山も同じだ。

 

 相手の性格を分析して戦術を組み上げる加山だからこそ、感情的な理由ではなくあくまで論理的(ロジカル)な根拠として、この場面で二人を疑う事自体無駄な労力であると理解しているのだ。

 

「取り敢えず負けはしなかったですし、蒸し返すのも良くないですしね」

 

 加えて、試合の結果が引き分けだったので割と満足している、というのもある。

 

 勝てはしなかったが、そもそもあの状況から弓場隊が単独一位を取る事自体が相当に細い道筋だったのだ。

 

 むしろ、同点に抑える事が出来ただけでも御の字といったところであり、ある程度は加山の思惑通りに試合が推移したのは間違いない。

 

 これで紅月隊が単独首位の結果になっていれば割と負けず嫌いな加山が大人気ない態度に出ていた可能性はあるものの、そうはならなかった。

 

 むしろ、してやったりといった感じで気分が良い加山であった。

 

「ああ、あれはやられたね。最初から、この結果を狙っていたのかい?」

「部位欠損をしてる状態なら別ですが、日浦先輩が生き残ってた以上生存点を取る可能性が一番高いのは那須隊だと思ってましたからね。だから紅月隊の戦力を可能な限り削って、少しでも七海先輩が戦闘で有利になる条件を整えました」

 

 長引けばライ先輩がトリオン漏出で緊急脱出(ベイルアウト)する可能性もありましたし、と加山は続ける。

 

 彼の言う通り、あの時点で紅月隊は狙撃手を失いライ単騎となっていた。

 

 狙撃手である茜が温存されていた事と、実際に体感した七海の生存能力。

 

 そのあたりを加味して、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のが加山なのである。

 

 最悪でも負ける事だけはないように、あの時出来る最善を行ったワケだ。

 

 その思惑の暴露に半ば予想していたとはいえ、二人は苦笑する他なかった。

 

「凄いな。まんまと利用されたって事か」

「相手の力さえ利用するその戦略眼は、大したものだね。ボーダーに来る以前は、何処かで軍事経験でもあったのかい?」

「あるワケないでしょう。こちとらただの三門市民ですよ。まあ、四年前色々あったし今じゃ黒トリガーも適合したのがあるんで、()()()ってのも語弊がありますけど」

「…………!」

 

 黒トリガー。

 

 ライの何気ない質問に呆れつつ答えた加山のその一言に、明確に二人────────────────特に、七海が反応を見せた。

 

 無意識に、七海は自身の右腕に視線を向ける。

 

 それに、気付いたのだろう。

 

 もしかして、と加山は七海の右腕を凝視した。

 

「…………あの、その右腕ってトリオン体のデザインとかそういうのじゃなくて、まさか」

「ああ、君の想像通り黒トリガーだ。君の適合した黒トリガーというのも気になるし、丁度良い」

 

 そう言って、七海はにこやかに告げた。

 

「お互いの立場やこれまでの経緯を、少し話しておかないか。貴重な機会だし、気になっているのも確かだからさ」

 

 

 

 

「あの大規模侵攻を、被害ゼロで…………? あの爺さんを正面から倒したって、マジか」

「ああ、と言っても黒トリガーの力だけじゃなく皆の協力あっての勝利だったよ。迅さんの期待にも応えられたし、誇れる結果であったと自負しているよ」

 

 その後、一通りお互いの事情を話した三人は七海の辿った大規模侵攻の経緯を聴き、目を見開いていた。

 

 それはそうだろう。

 

 未だ大規模侵攻未経験なライはともかく、加山は既にそれを経験している。

 

 あれを人的被害ゼロで抑える事がどれだけ大変だったかは、実感として理解している。

 

 上層部のスタンスの違いや各隊員の早期の地力上昇等様々な要因が重なったとはいえ、あの結果が奇跡のようなか細い可能性を掴み取った末の戦果である事は七海も理解している。

 

 だからこそ、彼は手にした未来を誇っている。

 

 何よりも、迅や姉の期待に応えられた事を。

 

 彼は、誇りに思っているのだから。

 

「しかし、迅さんが俺達のトコとはなんだか別物ですね。話を聞いてみても、同一人物とは思えないっすね」

「ああ、僕の知る迅さんとは誠実さが段違いだ。いや、表面上そう見えているだけで本質的には同じなのかもしれないな────────────────まあ、セクハラだけは許すつもりはありませんが」

「こちらこそ、迅さんがそんな真似をするなんて信じられませんね。あの人、そういった行為は軒並み嫌ってそうですし」

 

 尚、双方共に複雑な感情を向けている七海の世界線の迅の変わりように、加山とライは驚いていた。

 

 彼等にとって迅悠一とは常に飄々としている暗躍者であり、加山は反感を、ライは彼のセクハラを理由とする警戒を迅に向けていた。

 

 そんな彼等にしてみれば、色々拗れてはいても人間臭さが丸出しで尚且つ誠実な迅、というのは理解の外にあるのだろう。

 

 加山は立場上相容れないという理由で、ライは大切な仲間に手を出した奴は許すまじの精神で迅を好いてはいなかっただけに、聞かされても実感が持てないというのが正直なところだった。

 

 七海にしてみてもセクハラを堂々と働く迅という存在がそもそも理解不能であり、お互いに迅に対するイメージのギャップで固まる結果になったのだった。

 

「その玲奈という方の影響が、やっぱり強いんだと思います。誰かに懸想する迅さんってのも、あまり想像出来ませんが」

「旧ボーダーの人たちの話だと、ベタ惚れだったみたいですね。一緒に墓参りにも行きましたし、一途に想っていてくれた事は確かみたいです」

「あの迅さんがかぁ。恋愛一つだけで、そこまで変わるもんなのか」

 

 ふむ、と加山のコメントに対し七海は目を細める。

 

 そして。

 

「恋は全ての原動力になります。俺が玲を想う気持ちは、誰にも負けていませんし」

 

 全力で、無意識の惚気をぶちまけた。

 

「誰かに恋するって気持ちは、他の何よりもモチベーションを高める事になりますからね。玲には散々待たせてしまいましたが告白して付き合うようになった今では一緒にいてドキドキする事も多いですし何より俺だけに向けてくれる笑顔ってのがこれまで意識してなかったんですけど最高で、俺の為に手料理を振舞ってくれる姿もたまりませんし普段のちょっとした仕草も色々と────────」

 

 延々と、七海は那須との惚気を吐き出し続ける。

 

 普段は色々と抑え込んでいる分、今後の付き合いで揶揄される心配のない相手だからこそ制限(リミッター)なしで惚気られると思ったのかもしれない。

 

 感覚を取り戻して遅い思春期体感中の七海にとっては、色々悶々とする事も多かったのだろう。

 

 ここぞとばかりに惚気を話す七海にライは苦笑し、加山はげんなりしている。

 

「あ、すみません。俺だけ一方的に話しちゃって」

「いや、君の熱い想いは伝わって来たし誰かを想う気持ちが尊いというのは理解出来る。生憎恋愛を経験した事はないけれど、僕が誰かに恋した時にはその気持ちに正直でいたいと思ったよ」

 

 5分ほど話して自分の所業を自覚した七海ははっとなって謝罪するが、ライは苦笑したままそう答える。

 

 彼にしてみれば七海が那須を想う気持ちがこれでもかと伝わって来たし、恋愛経験を実体験として話す彼の体験談は貴重なものだったので特に苦痛ではなかったのだ。

 

 まあ、恋愛自体がいまいち理解出来ていない加山にとっては聞き流す一択の話ではあったのだが。

 

「しかし、中々ヘビーな人生送ってますね七海先輩。腕やお姉さんを失って、幼馴染とも色々拗れてたみたいですし」

「それを言うなら、君も相当苦しい経験をして来たみたいだ。こういうのはどちらが重い、という話でもないよ。俺は俺の、君は君の人生を精一杯足掻いて生きて来た事は変わらない。重要なのは過去に何があったかじゃなく、これからどうするか、だからね」

「…………成る程。ごもっともですね」

 

 加山は何処かはっとした表情で、七海の言葉を受け入れた。

 

 不幸自慢をする趣味は彼にはないが、ある意味割り切っている七海のスタンスに驚いたのは確かだ。

 

 なんだかんだで過去の経緯を引きずっている加山と、全て受け入れた上で覚悟を定めて駆け抜けた七海の違いでもあるのだろう。

 

 まあ、心配はあるまい。

 

 既に加山は、必要な出会いと経験を経て此処にいる。

 

 彼が本当の意味で前を向く日も、そう遠くはないだろうから。

 

「重要なのは過去に何があったかじゃなく、これからどうするか、か。確かに至言だね。その通りだと、僕も思うよ」

 

 ライもまた、七海の言葉に感心していた。

 

 後悔や反省で終わるのではなく、この先どうするかを考える。

 

 それは確かに、未来を生きる為に必要な割り切り方と言えるだろう。

 

 この考えは、ランク戦にも通じる。

 

 それを理解しているからこそ、七海は最後の生存者に成り得たのだろう。

 

 こと()()()()という事に関して、彼は特筆すべきものを持っていて尚且つそれを活かしてあの結果を掴み取るに至ったのだから。

 

「さて、そろそろ帰らなくちゃね。心配ないと思うけど、あまり長居すべき場所でもないだろうし」

「そうっすね。この光の先に進めばいいんですかね」

「ああ、お互いが帰る先はなんとなく分かるだろう? その直感に従って進めば、問題はないさ」

 

 ライの言葉に、二人は頷く。

 

 確かに、三人全員が自身が進むべき方角がどちらかは言われるまでもなく理解していた。

 

 一番超常現象に懐疑的な加山は一応確認はしてみたが、ライの太鼓判を得て安心した様子だった。

 

「じゃあ、お別れですね。次は勝ちます、って言いたいところですけどそうもいかないのが心残りではあります」

「まあ、もう二度と会う機会なんてのはないだろうからね。でも、変なしこりも残っていないし案外最良の結果かもしれないよ」

「そうっすね。まあ、負けてたら悔しかったでしょうし案外そうかもしれません」

 

 この出会いは奇跡のうようなもので、彼等の道が交わる事は二度とない。

 

 それは全員が理解しており、だからこそ名残惜しくはある。

 

 けれど、その寂しさを言及しても仕方ない事もまた、彼等は知っている。

 

 出会いと別れは必然的に訪れるものであり、この邂逅もまた刹那の奇跡には違いないのだから。

 

「さようなら。健闘をお祈りしています」

「ああ、ありがとう。此処を出たら全部忘れてるだろうけど、それでも嬉しいよ。さようなら、七海くん、加山くん。良い戦いだった」

「ええ、勝てはしませんでしたが貴重な経験を得られました。もう会う事はないでしょうけども、お互い頑張りましょう」

 

 三人はそれぞれにエールを送り、踵を返す。

 

 一歩、また一歩と進んでいくうちに、懐かしい気配が漂って来る。

 

 七海は、全力で駆け抜けた末の大団円の世界へ。

 

 ライは、戦火の予兆を前にした運命の世界へ。

 

 加山は、彼が答えを見つける為の葛藤の世界へ。

 

 それぞれ、戻っていく。

 

 刹那の邂逅は、此処で終わる。

 

 三人の主演者は、己が居るべき世界へと帰って行った。

 

 

 

 

<クロスオーバーランク戦~終~>





 これにてクロスランク戦本編は終了となります。
 
 おまけ回とあとがきもありますのでそちらもお楽しみに。
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