痛みを識るもの   作:デスイーター

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クロスランク戦EX/×厨二なボーダー隊員③

 

(やはり来たか、メテオラ…………!)

 

 龍神は迫り来る無数のトリオンキューブを見据え、目を見開く。

 

 分割された状態とはいえ、その弾は大きい。

 

 トリオンが多い方であるという七海の自己申告は、むしろ控えめな表現と言えるだろう。

 

 二宮クラスとまではいかないが、それでも一般的にトリオン強者と呼ぶに相応しい出力を持っている事は間違いない筈だ。

 

 龍神はその弾幕を見て、即座に屋上の床を蹴り跳躍。

 

 その直後。

 

 無数の爆撃が、彼の立っていたビルへと着弾した。

 

 連鎖する、爆裂。

 

 それは建物の上部を大きく抉り、ミサイルが着弾したかの如き様相へと変貌させる。

 

「────────メテオラ」

「む…………っ!」

 

 だが、それでは終わらない。

 

 七海はその爆撃の合間を縫うように移動しながら、再びメテオラを射出。

 

 一見無差別に放たれたそれは爆破によって内部が剝き出しになったビルへと着弾し、起爆。

 

 更なる爆発が、空中を席捲した。

 

 そして。

 

 そのただ中を、一つの影が疾駆する。

 

 影の名は、七海玲一。

 

 痩躯の暗殺者は、爆発の間隙。

 

 狭間に出来た僅かな()を駆け、龍神へと肉薄する。

 

「く…………!」

「────────!」

 

 一閃。

 

 七海のスコーピオンによる斬撃を、間一髪で龍神の弧月が受け止める。

 

 そのまま斬り返そうとした時には、既に。

 

 七海はその場から後退し、即座にメテオラを起爆。

 

 爆煙のカーテンが、彼の姿を覆い隠した。

 

(名付けるならメテオラ殺法、とでも言うべきか。まさか、副作用(サイドエフェクト)をこんな形で利用して来るとはな…………っ!)

 

 その光景を見て、龍神はこの奇想天外な七海の動きの絡繰りを理解する。

 

 七海の副作用(サイドエフェクト)、感知痛覚体質は攻撃の被弾個所を自動的に察知出来る能力だ。

 

 彼はそれを用いて、自らが使用したメテオラによる爆破範囲を正確に感知。

 

 爆撃を隠れ蓑としながら敵に肉薄し、一撃離脱で再び爆煙へと身を隠す。

 

 加えて爆発によって相手の移動経路を制限し、場合によってはシールドの使用を強要する。

 

 影浦のそれではない、七海のサイドエフェクトだからこそ可能とした戦術。

 

 それが、このメテオラ殺法なのだ。

 

(被弾範囲の感知の精密さを、こうも巧みに活用するか! 確かにこれは、カゲさんには出来ないやり方だ)

 

 相手の意図の把握や攻撃察知のタイミングなど影浦のサイドエフェクトに劣る部分が見受けられる七海の能力だが、この戦法は間違いなく彼にしか出来ないものだ。

 

 影浦の能力はあくまでも相手の意思、感情がトリガーとなって発動する為自分の攻撃がどの程度まで被害を齎すかまでは察知出来ない。

 

 加えて感知の精度そのものも七海の感知痛覚体質(ちから)の方が優れている為、今見せたような曲芸じみた移動経路の確保を可能としている。

 

 戦闘スタイルの違いもあるが、これは七海のサイドエフェクトを前提とした戦術である事は間違いない。

 

 ある意味単純で、だからこそ対処し難い戦闘法。

 

 それが、このメテオラ殺法なのである。

 

(だが、だからといって対処が不可能というワケでもない。この場合は────────!)

 

 しかし、対処が難しい程度で諦める程龍神はヤワではない。

 

 そもそも、その程度で剣を下ろすくらいであれば一度も勝ち星を挙げられていないにも関わらず太刀川に繰り返し挑み続けてなどいない。

 

 対処が困難、それがどうした。

 

 そんなもの、龍神(かれ)にとっては日常茶飯事。

 

 目指す頂(たちかわ)との戦いで、数えきれない程経験済みだ。

 

 爆撃の中、迫る影を見据える。

 

 その軌道は複雑ながらも、微かにその道筋は垣間見える。

 

 如何に爆煙のカーテンといえど、向こうからこちらに迫って来るのであれば。

 

 姿を完全に隠す事は、不可能。

 

「旋空死式────────」

 

 故に。

 

 龍神は弧月を構え、迎撃態勢を取る。

 

 それを見て取った七海は、彼の一挙手一投足を見逃さぬよう凝視し。

 

 そして。

 

「…………!」

「────────赤花(アカバナ)

 

 一瞬にして背後に回った────────────────否。

 

 七海の後方へと()()した龍神より、旋空が放たれた。

 

 旋空死式・赤花。

 

 それは、テレポーターを利用した旋空弧月。

 

 転移と同時に拡張斬撃を放ち、相手の死角から致死の一撃を叩き込む初撃必殺。

 

 類稀な機動力と回避能力を持つ七海相手に長期戦は些か不利と悟った龍神は、早々に勝負を決めに行った。

 

 正しくは。

 

「────────」

「これも、躱すか」

 

 このレベルの攻撃で通用するのか、()()()()為に。

 

 七海は初見殺し極まりない筈であった龍神の転移旋空を、難なく回避。

 

 身体を捻る事で、紙一重で拡張斬撃を躱し切った。

 

 その光景を見て、龍神は悔しがるどころか更に闘志を燃やし滾る。

 

 これ程熱くなれる勝負は、早々ない。

 

 彼は、七海は。

 

 己が全霊で当たるに、相応しい相手であるのだと。

 

「良いぞ、全てを見せてみろ。試合は、まだまだこれからだ」

 

 

 

 

(────────昇格試験の時に、熊谷のあれを見ていなければ厳しかったな。旋空の練度自体は彼の方が上なようだし、初見であれば避けられなかっただろうな)

 

 七海は不敵な笑みで啖呵を切る龍神を前に、冷静に今の旋空の事を思い返していた。

 

 テレポーターを利用した、転移旋空。

 

 その技術自体は、昇格試験の時に熊谷が使用していた。

 

 昇格試験、第三試合。

 

 そこで弓場隊・風間隊と対戦した時に、熊谷はテレポーターと旋空の合わせ技で歌川を撃破している。

 

 その様子を見ていたからこそ、龍神が消えた瞬間に転移トリガー使用の可能性に思い至り回避が間に合ったのだ。

 

 旋空の練度自体は、それを主戦力として扱っている分龍神の方が上だ。

 

 再び迂闊に近付けば、今度こそ死角からの旋空を見舞われる羽目になるだろう。

 

(判断が速く、的確だな。でもそれならそれで、戦い方を変えるだけだ)

 

 しかし、七海はメテオラ殺法に頼り切りの弱兵ではない。

 

 幾ら強力な戦術とはいえ、あくまで手札の一枚に過ぎない。

 

 一つの()()戦術なんてものに拘った先にあるのは、固定観念の外からの不意打ちによる敗北しかない。

 

 少なくとも、彼はそんな甘えた考えが通用する類の相手ではないだろう。

 

 ならば。

 

 更に一手、加えるまでだ。

 

「────────メテオラ」

 

 

 

 

(また、メテオラだと…………っ!?)

 

 龍神は迫り来るメテオラのキューブを見据え、舌打ちする。

 

 今の攻防でメテオラ殺法の穴にこちらが気付いた事は察された筈だが、それでも尚七海の選択は同じ爆撃。

 

 先程の攻防を経て尚、得意戦法に固執する程頭が固かったのだろうか。

 

(違う。コイツは、そんな手合いではない…………っ!)

 

 否だ。

 

 此処に至るまでの攻防が、そして何より龍神の直感が。

 

 それは違うと、強く警鐘を鳴らしていた。

 

(何か、仕掛けて来る…………っ! ならば、こちらは一旦距離を取るまでだ)

 

 龍神はその感覚に従い、後退。

 

 後方に跳躍し、メテオラの軌道から跳び退いた。

 

 直後、爆撃が着弾。

 

 七海の立っていたビルが、爆発に呑まれて形を変える。

 

 そして。

 

「いない、だと…………っ!?」

 

 爆煙が晴れた、その直後。

 

 七海の姿は、忽然と消え失せていた。

 

(しまった。これが狙いか…………っ!)

 

 龍神は、悟る。

 

 今の爆撃は、次の攻撃へ直接繋げる為のものではない。

 

 爆煙で視界を塞ぎ、七海が姿を隠す為の()()()()だ。

 

 レーダーを見ても、恐らく反応はあるまい。

 

 今この瞬間、七海はバッグワームを使っている筈だからだ。

 

 何故ならば、彼の狙いは。

 

(個人ランク戦は、互いに近距離で対峙した状態で始まる故に、身を隠す事が困難。だが、俺はこれから強制的に、潜伏からの奇襲(ゲリラ戦)に付き合わされるというわけか)

 

 

 

(何とか、隠れられたか。さて、此処からが正念場だな)

 

 七海はビルの中を移動しながら、思考を巡らせる。

 

 彼がこうして身を隠す事に成功したのは、偏に摩天楼というMAPの広大さと爆撃の相性の良さが際立ったからでもある。

 

 このMAPは大都市の摩天楼がモデルとなっており、煌煌と輝く灯りに照らされたビル群がひしめく地形だ。

 

 大きく立体的な建物が多い為上下の移動範囲が広く、建物そのものも巨大である為隠れる場所にも事欠かない。

 

 その性質自体は、チームランク戦で既に経験していた。

 

 しかし、これは個人ランク戦。

 

 チームランク戦と違い、互いが視認可能な近距離に転移した状態から試合が始まる形式の戦いである。

 

 相手の目の前にいる状態で試合開始となる都合上、個人ランク戦で見を隠す事は非常に困難だ。

 

 七海はそれを、爆煙を隠れ蓑にする事で成功させた。

 

 恐らく、龍神は油断せずに堅実に動くであろう事を見越して。

 

(彼は行動は大胆に見えて、その実堅実で隙の無い性格をしている。俺があそこで爆撃を放てば警戒して距離を空けると思っていたが、予想が的中したな)

 

 龍神は言動こそ大仰ではあるが、戦闘スタイルそのものは堅実で手堅いやり方を好んでいる。

 

 リスクヘッジもきちんと計算出来ており戦闘中は常に思考を回しながら最適解を求める事を止めない。

 

 如月龍神とはそういった人物であると、七海はこれまでの攻防で理解している。

 

 だからこそ、それを利用した。

 

 そうでもしなければ、彼を打倒する事は出来ないと悟ったからだ。

 

 龍神は一騎当千というレベルには達していないが、それでもボーダー内でも有数の実力者と言って差し支えない相手である。

 

 言動が大仰であろうと、一見奇想天外な行動をしていようと。

 

 その実力は、嘘をつかない。

 

(恐らく、この場ではこれが最善の筈だ。勿論、相手の出方によってはやり方を変える必要はあるが────────)

 

 

 

 

(まずは、どの建物に七海が入り込んだか。それを突き止める必要がある。迂闊な行動は命取りだな)

 

 龍神は周囲を油断なく警戒しながら、思考を巡らせる。

 

 爆煙の発生からそれが霧散するまで、そこまで時間は経過していない。

 

 故に、離れた場所へ逃げる事は不可能。

 

 つまり、必然的に七海はこの周囲のビルのどれかの中にいる事になる。

 

 しかし、此処はビル群連なる摩天楼。

 

 中でもビルの密集地帯であるこの中央区域には、バカでかい建物が腐る程ある。

 

 その中から七海が跳び込んだ建物を探すのは、容易ではない。

 

(少なくとも、窓を突き破って入ったであろう事は間違いない。しかし、先程の爆撃で近辺のビルの上層部の窓は軒並み割れている。この事態も想定して、メテオラを乱打していたという事か)

 

 二人が戦っていたのは、ビルの屋上だ。

 

 摩天楼のビル群の上を跳び回りながら戦っていた為、その際七海が放ったメテオラにより周囲の建物上部の窓はほぼ破砕されている。

 

 矢鱈と派手に撃っていたのは、こうなった時の為に居場所を特定し難くさせる為だったのだろう。

 

 想定通り、一筋縄ではいかない相手である。

 

(周りのビルを、片っ端から旋空で斬るか…………? いや、イコさんならともかく俺の腕でそれをやれば隙になる。かといって、下手に当てずっぽうで突入すれば外から爆撃を叩き込まれて建物ごと爆破される恐れがあるな)

 

 生駒旋空が使えればビルを斬って炙り出すという方法も用いる事が出来たのだが、それが出来ない以上は隙を晒すだけだ。

 

 そも、彼が未だに上階に留まっている保証はない。

 

 七海の素の機動力は、明らかに自分よりも上だ。

 

 テレポーターを使えばまた違うだろうが、このトリガーは様々な制約の関係上考え無しに使って良いものではない。

 

 それがない状態では、スピード勝負では七海に分がある。

 

 この短時間であろうとも、ビルの下層部へ逃走していないという保証はないだろう。

 

(だが、このまま手をこまねいていては碌な事にならないのは目に見えている。考えろ、この状況を打開するには────────)

 

 思考を、加速させる。

 

 今は、一分一秒の遅れも許されない。

 

 七海のような手合いに時間を与えれば、間違いなく致命傷になる。

 

(…………! あれは…………!)

 

 その刹那。

 

 一瞬、向かいのビルの下方の窓に焦げ茶色の影が映った。

 

 それはまるで。

 

 七海が纏う、バッグワームを彷彿とさせる色合いだった。

 

 加えて、その階層の窓が一つだけ割れている。

 

 同じ階層の他の窓は割れておらず、そこだけが破砕されていたのだ。

 

(そういう事か)

 

 それを見た龍神は、即座に行動に移る。

 

 グラスホッパーを踏み込み、向かいのビル目掛けて跳躍した。

 

 

 

 

(来たか)

 

 柱の陰に隠れながら、七海はビルの下方目掛けて急降下する龍神の姿を視認して不敵な笑みを浮かべた。

 

 彼のいる場所は、ビルの30階層。

 

 龍神がバッグワームを思わしき影を見かけた15階層よりも、上の階層である。

 

 彼が見た布は、七海があの場所に置いて来たバッグワームだ。

 

 七海は一度バッグワームを脱いで窓際に置いた後、即座に上階へ脱出。

 

 龍神がビルへ視線を向けたタイミングを見計らい、バッグワームを解除。

 

 七海自身は上階に潜み、龍神がやって来るのを待ち受けていたワケである。

 

 あの階層の近辺には、大量のメテオラを設置してある。

 

 龍神は恐らく、旋空を用いてビルに突入する筈だ。

 

 そうなれば、それをトリガーとして置きメテオラが一斉に起爆。

 

 広範囲の爆発によって龍神を呑み込む手筈、という事だ。

 

 そうでなくとも、龍神が突入した時点でスコーピオンを投擲すれば起爆は可能だ。

 

 どちらにせよ、下層へ向かった時点で龍神の命運は尽きる。

 

 これは、その為の作戦だった。

 

「旋空伍式────────野薊(ノアザミ)

 

 だが。

 

 厨二剣士(かれ)は、その想定の上を行く。

 

 下方へ向かっていた龍神は、その中途でグラスホッパーを起動。

 

 それを踏み込み、上階目掛けて跳び上がると同時。

 

 旋空の連撃を放ち、外壁を両断。

 

 轟音と共に、ビルの内部へと突入した。

 

 メテオラが仕掛けてあるのは、ビルの下層のみ。

 

 この上層には何の仕掛けもない為、勿論起爆も発生しない。

 

 完全に、七海は思惑を外された形となった。

 

「────────気付いていたんですね。俺が、下にいない事を」

「その可能性も想定はしていた。お前は、中々に知恵が働くようだからな。警戒するに越した事はない」

 

 それに、と龍神はニヤリと笑みを浮かべて。

 

「上から派手に突入した方が、格好良いだろう」

 

 己の証たる、厨二病(きょうじ)を口にしたのだった。

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