痛みを識るもの   作:デスイーター

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クロスランク戦EX/×厨二なボーダー隊員④

 

 

(想定外だな。まさか、こうもピンポイントに乗り込んで来るとは)

 

 七海は視界の先に立つ龍神の姿を見据え、素直な驚嘆を示す。

 

 囮を無視される可能性や、屋上から侵入される可能性くらいは考えてはいた。

 

 しかし、それらの予測を裏切り七海のいる階層へ壁を斬って乗り込んで来るとまでは思ってはいなかった。

 

 恐らく、この階層を選んで突入して来た理由に確たるものはあるまい。

 

 強いて言うならば、()だろうか。

 

 口では「その方が格好良いから」と言ってはいるが、言い得て妙だ。

 

 本人としては、あくまでも特別は理由はないのだろう。

 

 ただ、()()()()()この場所を選んだ。

 

 凡そ、その程度の認識である筈だ。

 

 しかし、その裏では無意識下で()()()()()()()()()()()()をシミュレートする予測演算が進められていたに違いない。

 

 その程度の事は出来るだろうと、七海は龍神の事を評価していた。

 

 これが過大評価だろうと、見当違いだろうと構わない。

 

 直視すべきは、龍神が七海の思惑を抜けてこの場に辿り着いたという事実のみ。

 

 故に。

 

「────────メテオラ」

 

 開戦の号令はない。

 

 必要とすら、感じない。

 

 七海は龍神が次の手を撃つ前に、躊躇なく爆撃を開始した。

 

 

 

 

「容赦がないな…………! だが、それでこそだっ!」

 

 龍神は迷いなく炸裂弾(メテオラ)を撃ち込んで来た七海へ、喜び勇んで相対する。

 

 こちらの口上に対する返礼は、躊躇の無い爆撃。

 

 少し寂しくはあるが、これはこれで悪くはない。

 

 此処は仮初とはいえ戦場であり、そこで戦士が相対したのであればやるべき事はただ一つ。

 

 即ち、敵の撃滅である。

 

 七海はその宿命に、従っているだけに過ぎない。

 

 ならば、こちらもそれに応じよう。

 

 それこそが、挑戦を受けてくれた彼への最大の返礼となるのだから。

 

「────────天舞」

 

 七海の爆撃が直撃する前に、龍神はグラスホッパーを起動。

 

 加速台の連鎖跳躍により、メテオラを迂回する形で七海へと肉薄する。

 

「────────」

 

 だが、それだけで接近を許す程七海は甘くはない。

 

 七海もまたグラスホッパーを起動────────────────はせず、床を蹴り疾駆。

 

 床から壁へ、壁から柱へ、柱から天井へと次々と足場を変えて跳躍。

 

 トリガーさえ使わない三次元機動により、すぐさま龍神の裏へと回った。

 

 確かに、グラスホッパーとテレポーターを駆使する龍神の機動力は驚異的だ。

 

 しかし、七海のそれも負けてはいない。

 

 戦場を縦横無尽に駆け回り、狙撃無効の性質も駆使して盤面をかき乱す遊撃手(トリックスター)

 

 それこそが、七海の真骨頂。

 

 この程度の芸当等、彼にとっては児戯に等しい。

 

 そして。

 

 七海が背後に回った直後、爆撃が壁へと着弾。

 

 轟音と共に、爆発が周囲を席捲する。

 

 その瞬間を狙い、七海が動く。

 

 右手にスコーピオンを携え、背後から龍神へ斬りかかる。

 

「甘いぞ」

「…………!」

 

 しかし、龍神とてこの程度の奇襲で仕留められる程ヤワではない。

 

 背後から急襲して来た七海に対し、龍神は身体を捻り弧月を振るう。

 

 無論、旋空を起動した状態で。

 

 刃の拡張は、最低限。

 

 されど確かな切断力を備えた斬撃が、七海の脳天へと振り下ろされる。

 

「…………!」

 

 七海はそれを、身体を捻る形で回避。

 

 即座に次の一手に繋げようとした、刹那。

 

「旋空六式────────鳶尾(イチハツ)

「…………っ!」

 

 突如として()()()()()()()龍神の腕が、その手に持つ弧月ごと着弾。

 

 弧月の柄によって七海の肩が殴打され、一瞬の硬直を生む。

 

 旋空六式・鳶尾。

 

 それは、グラスホッパーを用いた旋空弧月の派生技である。

 

 旋空を振り下ろした直後、グラスホッパーを用いて自身の手首を打ち出す。

 

 それによって弧月そのものが跳ね上がり、相手の身体を柄で殴打する仕組みだ。

 

 トリオン体を傷付けるにはブレード部分を当てなければいけない以上実質的なダメージは0だが、衝撃で意表を突く事は出来る。

 

 要するに牽制技の部類に入るが、この状況下では無視出来ない利点が存在する。

 

 即ち、七海の副作用(サイドエフェクト)の感知をすり抜けられる事である。

 

 ダメージが発生しない以上、七海の能力はこの攻撃を察知出来ない。

 

 しかも至近距離での連撃である為、仮に気付けたとしても対処は困難。

 

 更にこの瞬間、七海は龍神相手に致命的な隙を晒した事になる。

 

「────────毒尾・蹴式」

 

 弧月を振り抜き、更に腕を打ち上げた状態での追撃は不可能。

 

 そんな常識は、如月龍神(かれ)には通用しない。

 

 龍神はその足にスコーピオンを生やし、蹴撃を放つ。

 

 木虎の足スコーピオンに着想を得た、龍神の奇襲攻撃。

 

 最早ただの蹴りを用いたスコーピオンによる攻撃ではあるが、この場でそれが有効である事は変わらない。

 

 隙を見せた七海へと、毒持つ蹴撃が襲い掛かる。

 

「む…………!」

 

 だが。

 

 鳶尾と異なり、それは七海にとって視えている攻撃だ。

 

 故に、対処を行うのは必然。

 

 七海はシールドを展開し、そして。

 

 スコーピオンの軌道上に、メテオラのキューブを展開。

 

 勢いを止められず、龍神の刃がキューブへ接触。

 

 瞬間、起爆。

 

 爆発が、二人を呑み込んだ。

 

「く、やるな…………っ!」

 

 間一髪でテレポーターの発動に成功し、爆発から逃れた七海が油断なく爆心地を見据える。

 

 七海はメテオラのキューブと同時に、シールドを展開していた。

 

 故にこの爆発によって手傷を負っているというのは考えられず、此処から次の一手へと繋げて来る筈だ。

 

「────────メテオラ」

 

 その予測は、すぐさま現実のものとなる。

 

 爆煙の向こう側から、無数の弾丸が飛来。

 

 間違いなく炸裂弾(メテオラ)であるそれが、龍神へと迫る。

 

「ならば…………っ!」

 

 此処で待ち受け、爆発に巻き込まれる意味はない。

 

 龍神はグラスホッパーを展開し、跳躍。

 

 吹き抜けを伝い、爆発が届かない上階へと移動する。

 

 直後、爆撃が着弾。

 

 たったの今までいた階層が、大規模な爆発で覆われる。

 

「────────」

「く…………!」

 

 その、刹那。

 

 音もなく背後に忍び寄っていた七海の刺突が、龍神の頬を掠めた。

 

 下の爆発は、あくまでも目晦まし。

 

 爆煙をカーテンとしながら密かに上階へと移動していた七海は、同じようにそこへやって来た龍神へと奇襲を敢行したのである。

 

 無論、ただやられるワケはない。

 

 龍神もまた、弧月を用いて七海へ攻撃を仕掛ける。

 

 しかし七海は、何の躊躇いもなく後退。

 

 そして、どう考えてもスコーピオンの射程外である場所から腕を突き出した。

 

 それは。

 

 七海が師から教わった、スコーピオンの派生技術の一つ。

 

「マンティス、だと…………っ!?」

 

 マンティス。

 

 スコーピオン二つを連結させ、射程を伸ばす高等技術。

 

 少なくとも龍神の知る限り影浦の専売特許であるそれを、七海は披露してのけた。

 

 予想外の事態に反応が遅れ、龍神のコートを蟷螂の刃が浅く斬り裂く。

 

 更に。

 

「…………っ!」

 

 七海はマンティスを、連打。

 

 弧月の射程外から、鞭の如き斬撃が襲う。

 

 旋空弧月と、マンティス。

 

 どちらもブレードトリガーの射程を拡張する代物ではあるが、この二つの間には幾つもの差異がある。

 

 一つ目は当然ながら旋空はオプショントリガーを用いた()()()()であり、対してマンティスはあくまでスコーピオン二つを用いた()()である事。

 

 二つ目は旋空弧月が片腕しか使わない事に対し、マンティスはスコーピオンの両攻撃(フルアタック)を必要とする事。

 

 そして三つめは、()()の有無である。

 

 正確に言えば、予備動作とでも表現すべきだろう。

 

 旋空を放つ為には弧月を構え、振り抜くという手順が必要となる。

 

 その工程にはどうしても一瞬のタイムラグが生まれ、基本的に旋空を撃つ時は静止した状態で使用する事が求められる。

 

 太刀川や生駒と同じく旋空の名手である龍神はこの時に生まれる隙を極限まで減らし、移動しながらの旋空弧月すら可能とする。

 

 されど、タイムラグをゼロに出来るというワケでもない。

 

 対して、マンティスは本質的にはスコーピオンの通常攻撃の派生である為、構えも予備動作も必要としない。

 

 故に、弧月が届かずマンティスのみが届く射程での斬り合いに置いては、攻撃速度という一点で後者に軍配が上がるのだ。

 

 マンティスは両攻撃(フルアタック)の状態でなければ使えない為その間シールドを張る事が出来ないという致命的な欠点が存在し、普通のチームランク戦では迂闊に使えば幾ら七海といえど無視出来ない隙となる。

 

 しかし、これは個人ランク戦。

 

 第三者の横槍が存在しない以上、警戒すべきは目の前の対戦相手のみ。

 

 その相手を釘付けにしておけるのであれば、マンティス使用のリスクはある程度軽減出来る。

 

 並の弧月使いであれば、この距離を維持しながら斬りかかり続けるだけで制圧出来るだろう。

 

「旋空七式────────浦菊(ウラギク)

 

 相手が、()()弧月使いであれば。

 

 果たして如月龍神は、並などという言葉で言い表せる程度の使い手だろうか。

 

 否。

 

 確かに、頂に座しているワケではない。

 

 されど、弧月使いとしての龍神の実力はボーダーの上位陣の中でも無視出来ないものがある。

 

 そうでなければ、龍神の引き抜きに多くの部隊が腰を上げる事はなかっただろう。

 

 彼等は、知っていたのだ。

 

 言動に癖があるとはいえ、この少年は間違いなく強者の側に位置する存在であるのだと。

 

 そして、そんな彼が並の弧月使い相手ならば通じる戦法如きで、防戦一方になる筈もない。

 

 旋空七式・浦菊。

 

 それは、居合の要領で横薙ぎに振り抜く速度特化の旋空である。

 

 実態としては最早ただの旋空弧月ではあるが、その剣速・威力は驚異的だ。

 

 他の龍神旋空がオプショントリガーを利用した奇襲技であるのに対し、この浦菊はあくまでも旋空一本を用いた純粋な居合い抜きだ。

 

 余計な装飾、補助効果がない分速度のみに特化したその攻撃は予備動作を極限まで排した超速の斬撃を実現する。

 

 それこそ、マンティスの連撃の合間を潜り抜けて放てる程に。

 

 スコーピオンを両攻撃で用いてマンティスを使っていた七海に、これを防御する手段は無い。

 

 今この瞬間であれば、グラスホッパーを使ったところで間に合わない。

 

 マンティスと旋空とでは、そもそも射程距離の時点で明確な差がある。

 

 あくまでも敵と肉薄しない程度の近距離から放てるマンティスに対し、旋空は明確な中距離攻撃に該当する。

 

 その射程は20メートル程と剣士としては破格の攻撃範囲を誇り、銃手や射手が攻撃手から一定の距離を取りたがる一つの要因でもある。

 

 剣一本で戦うタイプの攻撃手にとっては、相手の中距離攻撃を抑止する為の必須装備が旋空であると言っても決して過言ではない。

 

 使いこなせるかはともかくとして、殆どの弧月使いが旋空をセットしている理由がそこにある。

 

 何故ならば、旋空がなければ弧月使いが銃手や射手に攻撃を届かせる為にはそれこそ肉薄するまで接近する必要があるからだ。

 

 それは威力特化のブレードトリガーの宿命とも言えるが、そもそも銃手や射手相手にそこまで近付けた時点で勝ったも同然のようなものだ。

 

 逆に言えば、それを理解しているからこそ銃手や射手は攻撃手の接近を徹底的に防ぐように動く。

 

 その際にある程度離れた場所から攻撃出来る旋空があれば、一定距離まで近付けた時点で相手は迂闊な行動が出来なくなる。

 

 隙を見せれば旋空で薙ぎ払われる危険がある以上、回避にも意識を割かなければいけないからだ。

 

 此処で、旋空の防御不能という特性が活きて来る。

 

 シールドを張っても斬り裂かれる以上、旋空に対する回答は回避一択。

 

 故に、旋空をセットしていればそれだけで攻撃手は銃手や射手に対して()()()()()が増えるのだ。

 

 その証拠に、旋空をセットしていない弧月使いは軒並み射撃トリガーや銃手トリガーといった別の中距離攻撃手段を用意している。

 

 射程持ちの武器の有無というのは、それだけ重要である事の証左である。

 

 中距離で放たれた旋空というのは、それだけ相手にとっては脅威となる代物なのだ。

 

 それは、相手が同じ攻撃手であろうと同じ。

 

 ()()()()()()という性質は、回避不能の状況に置いて絶死の刃と化す。

 

 防御不能、回避不能の刃が。

 

 七海へ向けて、振るわれた。

 

 並の相手であれば、この攻撃を凌ぐ事など出来ないだろう。

 

 両攻撃の状態で、尚且つ旋空の射程内。

 

 しかも攻撃直後の隙を狙われたのだから、回避出来る筈もない。

 

「────────これも、躱すか」

 

 だが。

 

 七海もまた、並のなどといった表現が適用出来る相手ではない。

 

 確かに、龍神の一撃は凄まじい剣速を誇っていた。

 

 攻撃直後の隙を突かれた事もあって、普通であればまず回避は出来なかっただろう。

 

 だが。

 

 七海は、識っている。

 

 今の一撃など比べ物にならない程、それこそ目にも映らない速度で振るわれる。

 

 剣聖の、刃を。

 

 彼は、七海はあの最強の剣聖との戦いを乗り越えて此処にいる。

 

 それが持つ意味は、果てしなく大きい。

 

「────────」

 

 口上はない。

 

 必要もない。

 

 七海はただ、明確な闘志を宿した瞳で龍神を見据え。

 

 次なる一手へ繋げる為、床を蹴り跳躍。

 

 蛇の如き暗殺者は、龍の名を冠する剣士へと再び挑みかかった。

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