「────────メテオラ」
七海は対峙する龍神に向かって、爆撃を敢行。
無数の分割されたトリオンキューブが、弾丸となり襲い掛かる。
弾数はかなり多く、それ故に一つ一つの威力はそこまで高くはない。
だが、弾幕の密度に振り切ったその爆撃を回避のみで凌ぐ事は困難。
「────────天舞」
しかし、それが発射された瞬間には既に龍神は行動に移っていた。
グラスホッパーを展開し、それを踏み込む。
龍神はその勢いを利用し、上階へと跳躍。
その一瞬後、メテオラが壁に着弾し爆発が巻き起こる。
「────────」
爆破と同時、七海が動く。
先程と同じく爆音に紛れて龍神の背後に忍び寄った七海は、スコーピオンを無造作に振り抜く。
爆音と爆煙で聴覚と視界を封鎖し、その隙に死角に回って仕留めるメテオラ殺法と
一騎打ちでの暗殺を可能とする七海の戦闘術が、龍神へと振るわれる。
「それは、一度見た」
「…………!」
だが。
村上のそれとは違うが、彼の学習能力はずば抜けて高い。
それこそ、一度見た技であればその性質を看破し次は喰らわない、といった程度には。
彼の学習能力は、他者と比べて高いのだ。
流石に村上のように眠るだけで経験がフィードバックされる事はないが、龍神はその差を技術とセンス、そして人並み以上の鍛錬を以て埋めようと足掻き続けている。
彼は、立ち止まらない。
他者から見て
普段飄々としていても、その内に眠るのはマグマのような熱い闘志だ。
だからこそ、一度見た攻撃程度を喰らうワケにはいかない。
龍神は再び、接近して来た七海に向かって弧月を振るう。
上段からの、振り下ろし。
その剣速は速く、剣筋は鋭い。
龍神の斬撃が、七海へと襲い掛かる。
「────────」
七海はそれを、迷う事のないバックステップで回避。
予め来るのが分かっていたかのように、龍神の剣を躱してのける。
否、分かっていたのだろう。
七海とて、一度見せた方法が龍神に通用するとは思っていなかった。
「…………!」
故に、この一手は陽動。
今の攻防を以て時間を稼いだ七海は、グラスホッパーを踏み込み跳躍。
吹き抜けを通り、下階層へと跳び去っていく。
「見え透いた罠だが、追いかける以外ないな…………っ!」
その行動が罠である事は、理解している。
中距離攻撃手段が旋空一本である龍神にとって、上を取られて延々と爆撃され続けるのは如何にも都合が悪い。
だからこそ、七海は通常ならば上階へ向かうべきなのだ。
にも関わらず、こよみよがしに下階層を目指している。
明らかにあそこに何かあると、喧伝しているようなものだ。
しかし、追わないという選択肢はない。
此処で躊躇すれば、七海はすぐさまこの場を離脱し次の仕込みを始めるだろう。
七海のようなタイプに時間を与えれば、碌な事にならないのは目に見えている。
チームランク戦の時とは事情が違うが、彼がこの環境下でもゲリラ戦を行えるのは今まで見た通りだ。
置きメテオラという厄介な手札もある以上、七海を自由にさせるワケにはいかない。
「────────」
「…………!」
下へ、下へ。
吹き抜けを通り、二人は下階層を目指す。
彼との間の距離は、凡そ30メートル。
旋空の射程では届かず、更に機動力でも遅れを取っている。
七海も龍神も同じグラスホッパーの使い手だが、龍神の場合それを装備しているのは片側だけだ。
その代わり龍神にはテレポーターというもう一つの移動手段があるが、こちらはグラスホッパーと異なり軽々に使うワケにはいかない。
確かにテレポーターは優れた移動手段ではあるが、
テレポーターは一度に十数メートルを一気に転移可能だが、移動距離に比例して次の使用までにインターバルが必要となり、長距離を一気に跳んでしまえば相応の時間使えなくなってしまう。
だからこそ、テレポーターの切り時は慎重に見極める必要があった。
回避困難な攻撃からの離脱、もしくは必殺の一撃へ繋げる為。
それらの条件を満たさない限り、テレポーターという手札を切るワケにはいかない。
(俺の予想だと、この先に仕掛けてあるのは────────)
そして、龍神は七海の一挙手一投足を見逃さぬよう警戒しながら、彼の後を追う。
七海はグラスホッパーを用いた三次元機動を行いつつ、ある程度最短ルートに近い形で下へと向かっている。
テレポーターを使えば、追いつける可能性はある。
しかし、それは今取るべき選択肢ではないと龍神は断じていた。
(この先は、俺がバッグワームらしき影を見かけた階層────────────────つまり、七海が俺を
理由は、明白。
15階層は、龍神がバッグワームを思わせる影を見掛けた場所だ。
七海が実際にいたのが30階層だった事を鑑みれば、あれは陽動であった事は分かる。
だからこそ、あの階層に何も仕掛けられていないとは思えない。
何かが、ある筈だ。
そして、それは────────。
(────────通り、過ぎた…………? いや、違う…………っ!)
そうこうしている内に、七海が15階層を通過する。
足を止める事なく、その下へと。
その様子を見て龍神は一瞬読み違えたかとも考えたが、すぐさまそれを否定した。
此処までお膳立てをしておいて、何もしない筈がない。
龍神はそう確信し、決して注意を逸らさなかった。
(来た…………!)
だからこそ、気付いた。
七海が、その右腕を。
横薙ぎに、振り抜いた事に。
その、腕の先。
そこには、細い槍のような形状のスコーピオンの姿があった。
今の
こちらに気付かれないように、スコーピオンを投擲武器として。
相当に細く形成したのか、刀身はまるでレイピアのようだ。
あれでは大した強度は望めず、容易に破砕するだろう。
だが、龍神の読み通りであればそもそもあれに威力は必要ない。
何故なら、あのスコーピオンの役割は────────。
(仕掛けてあった置きメテオラの、起爆…………! 矢張り来るか…………っ!)
────────その進路上に設置された、メテオラの起爆。
テレポーターで移動すればあの刃を止める事が出来るかもしれないが、その場合地雷原のただ中に転移と言う手札を切った状態で放り出される事になる。
恐らく、設置してある
間違いなく、あの階層付近には無数のメテオラが仕掛けてある。
一つの起爆を妨害したところで、位置さえ分からない爆弾の起爆を全て防ぎ続ける事は不可能だ。
故に、判断は迅速。
スコーピオンがメテオラに到達する、直前。
龍神はグラスホッパーを展開し、跳躍。
その勢いを以て、窓を突き破り外へと跳び出した。
「…………!」
直後、スコーピオンがメテオラのキューブに着弾。
爆音と共にメテオラが爆破され、連鎖的に次々と同様の爆音がビルの内部から炸裂する。
止まらない爆発、一瞬にして広がる亀裂。
七海の
すると、どうなるか。
「やってくれたな、七海…………!」
七海が爆弾を仕掛けていた15階から10階にかけてのエリアを起点に、ビルが傾く。
支柱を失った高層ビルは、斜めに倒れていく。
ただ、一ヵ所を爆破されただけではこうはならない。
しかし、このビルはこれまで散々七海の爆撃によって各所に穴を空けられている。
加えて内部に吹き抜けという空洞があり、しかも爆破解体の手順を無視した乱暴な起爆をすればどうなるか。
結果として、ビルは倒れ込む形で倒壊。
巨大な建造物が、その質量を以て摩天楼を蹂躙する。
「────────」
傾くビルが隣のビルに接触し、轟音と共に衝突。
砂場の城の如く、あまりにも無造作に高層ビルが破壊される。
その刹那。
いつの間にか傾くビルの壁面を駆け出していた七海が、空中の龍神へ向かい疾駆する。
崩落していくビルの壁という、不安定極まりない足場の中でも彼の動きに翳りはない。
まるで普通の道路であるかのように、七海はビルの壁面を足場に蜘蛛の如き機動で自在に駆ける。
「面白い…………!」
望むところだと、龍神はグラスホッパーを起動。
加速台を踏み込み跳躍し、七海と同じ壁面へ着地。
同時。
「…………!」
龍神が旋空の構えを取った事で、七海は即座にグラスホッパーを起動。
ジャンプ台を踏み込み七海が跳躍した直後、彼のいた場所を横薙ぎの旋空────────────────七式・浦菊が降り抜かれる。
一瞬でも判断が遅ければ、今の一撃で七海の身体は両断されていただろう。
龍神は口で告げた技名と違う技を使ったりはしないが、無言で技を放つ程度の事は行える。
これは彼が「無言でクールに技を放つのもそれはそれで格好良いな」という判断をしている為であり、基本的に技名を叫んで攻撃するのが大好きである為早々行わないが────────────────逆に言えば、絶対に行えないという縛りもない。
まあ、彼の「技」の実態は過半数がただの旋空弧月である為それが普通ではあるのだが、そこはそれ。
「まだまだ行くぞ」
「…………!」
そして無論、これで終わりではない。
龍神はグラスホッパーで跳躍し、即座に旋空を起動。
上段振り下ろしの旋空────────────────弐式・地縛にて、七海を狙う。
現在、七海は空中にいる。
空中での移動手段があるとはいえ回避行動を取る事は困難であり、そもそもグラスホッパーの展開にはワンテンポのタイムラグがある。
回避が間に合うかは、五分五分といったところだろう。
それを鑑みれば、龍神の旋空の攻撃タイミングは的確と言えた。
上空へ跳躍したという事は、上へ向かう慣性が働いている。
それを打ち消すには相応の運動エネルギーが必要であり、急停止等をかければ致命的な隙となる。
「な…………!」
だが。
七海は、自身の至近にグラスホッパーを展開。
それを腕で殴りつける事により、強引に軌道を変更。
ジャンプ台と衝突した勢いで、七海の身体が旋空の斬線から逃れ去る。
更に、続けざまに七海はグラスホッパーを展開。
曲線軌道で空中を駆け、空を泳ぐように移動する。
その間にもビルの亀裂は広がり続け、巨大質量に押し潰された隣のビルもまたミシミシと嫌な音を響かせながら加速度的に崩壊していく。
七海はその機動力を見せつける形で龍神を翻弄しながら、倒れゆくビルの壁面へ着地。
「────────メテオラ」
未だ空中にいる龍神に対し、七海は再度爆撃を放つ。
今度もまた、密度重視の炸裂弾幕。
それが一斉に襲い掛かり、龍神は止む無くグラスホッパーで大きく横へと移動する。
「…………!」
そこへ、七海の背後に隠されていた無数の弾丸が跳躍した龍神へと殺到する。
メテオラには弾道の誘導能力などはなく、ハウンドやバイパーのように自在に軌道を操る事は出来ない。
だがそれは、あくまでもトリガーの性能だけを見た場合の話だ。
メテオラもまた射撃トリガーである以上、
そもそも、置きメテオラ自体その技術の派生のようなものである。
置きメテオラは設置場所から離れる事でキューブとの接続をカットしこちらから動かす事が出来なくなる代わりに、「衝撃が加わりカバーが外れれば起爆する」という特性を残したまま、トリガーの使用枠を埋めずにその場に残す事が可能となるものだ。
これは「衝撃によって起爆する」という特性を持つ
そして、置き弾はカットした接続を繋ぎ直し、設置したキューブを再度操作可能にした代物だ。
これは射撃トリガーであればどの弾種でも可能な技術であり、メテオラもまた例外ではない。
派手な爆発とビル倒壊は、これを隠す為の陽動。
これまで演じた空中戦も、その為の布石に過ぎなかったワケだ。
無論、アステロイドと異なり突破力に乏しい
しかし、その場でシールドを使わせて釘付けにする事は出来る。
空中で足を止めるというのは、この状況ではほぼ致命に等しい。
七海のメテオラは、速度重視にチューニングされている。
それ故最早龍神にこれを回避する時間はなく、シールドを張ればその時点で固められて終わり。
「旋空八式────────
だが、その目論見さえ龍の牙は破砕する。
龍神は自身の身体にグラスホッパーをぶつけ、その勢いで身体を回転。
その慣性を利用する形で、旋空を撃ち放った。
放たれた旋空は迫り来るメテオラの群れに接触し、起爆。
爆撃は龍神に到達する前に、空中で全て爆発して消え去った。
七海の豊富なトリオンと、弾の密集率。
それが仇となり、七海の攻撃は凌がれた。
「旋空参式・姫萩『改』」
そして、それだけでは終わらない。
強引に空中で態勢を整えた龍神は、右腕を大きく引き。
「────────穿空虚月」
必殺の一撃を、撃ち放った。