痛みを識るもの   作:デスイーター

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香取隊④

「さて、あれだけ言ったからには俺達もただやられるワケには行かない。可能な限り時間を稼ぐぞ」

「うん。葉子ちゃんが日浦さんを落とすまで、何とか粘ってみよう」

 

 若村と三浦は二人で頷き合い、『那須隊』の三人と相対した。

 

 正直言って、不利なんて言葉では片付けられない。

 

 一矢報いる、と考える事すら烏滸がましい。

 

 これは、どれだけ落とされるまでの時間を稼げるか。

 

 そういう、()()()の類だった。

 

 だが、負け戦であろうと意味のない戦いではない。

 

 自分たちがどれだけ『那須隊』を足止め出来るかで、香取が目的を果たせるかどうかが変わってくる。

 

 此処で、踏ん張らない理由などあろう筈もなかった。

 

(そうだ。俺達には、何も足りていなかった。葉子だけじゃない。俺は文句を言うばかりで、具体案なんて何も考えちゃいなかった)

 

 若村は視線の先にいる七海を見据え、歯を食い縛る。

 

 この圧倒的不利な状況は、ただ香取が暴走したが為に起きた事ではない。

 

 自分達が碌な戦術も講じず、実質無策で試合に臨んだからだ。

 

 自分など、香取が珍しくMAPを選んで意気込んでいたものだから、普段よりやる気があるならいけるだろうと、()()してこの試合を迎えてしまった。

 

 その結果が、これだ。

 

 MAPを選んだだけで、有利になるワケがない。

 

 そのMAP選択に必要な情報が間違っていたのならば、猶更である。

 

 そして、MAPを効率的に活用する方法に関しても、自分達は何も考えていなかった。

 

 むしろ、このMAPを最大限に運用したのは、香取に誤情報を掴ませMAP選択を誘導した『那須隊』の方である。

 

 香取は案の定七海に独断専行で突貫し、それを追いかけた自分達もメテオラで釣り出され、カメレオンでの奇襲、という手札(カード)を早々に潰された。

 

 その後『王子隊』との共闘で七海を追い込んだものの、熊谷によって釣り出された王子隊長が落とされたのを皮切りに、戦局は『香取隊』VS七海、『王子隊』VS那須&熊谷という構図に移行した。

 

 形だけ見れば『那須隊』の分断に成功してはいるが、自分達が七海一人相手にいいように翻弄されていては何の意味もない。

 

 挙句の果てに『王子隊』の思惑に乗って屋上に潜む那須を落としに香取を向かわせた結果、香取はモール外へ叩き出され、『王子隊』は『那須隊』の策に嵌って全滅した。

 

 モール内には自分達二人と茜以外の『那須隊』全員が相対しており、戦力差は明らかだ。

 

 これまで自分達が七海相手に拮抗出来ていたのは、七海に攻めっ気が無かった事も勿論だが、香取の存在も大きかった。

 

 香取の戦闘センスはずば抜けて高く、機動力の高さもあり、相手にとっても無視出来ない強さを持った駒だ。

 

 その香取を抑える為に、七海は攻撃よりもメテオラでの行動封鎖を重点的に行い、結果的にそれが拮抗状態を生み出していた。

 

 だが、『那須隊』の策によって香取はモール外へ叩き出され、七海が膠着状態を作り続ける理由も失われた。

 

 そして、『王子隊』が全滅した事で那須と熊谷がフリーになり、七海の加勢に加わる。

 

 そうなると、最早勝ち目がどうこうという次元ではない。

 

 香取程の機動力や突破力を持たない自分達では、時間稼ぎが関の山どころか、時間を稼げるかどうかすら怪しい。

 

 完璧に、『那須隊』の策に絡め取られた。

 

 若村はこと此処に至り、『那須隊』の試合運びに憧憬交じりに感服する他なかった。

 

 全ての行動に意味があり、相手の思考を誘導し、自分達に有利な形へ試合展開を()()していく。

 

 仕込みを忘れず、チャンスを逃さず確実に点を獲る。

 

 その鮮やかな手並みは、自分達には無いものだ。

 

 戦術を齧る、どころではない。

 

 用意周到な策を以て、戦術を自らのものとして確立させている。

 

 その姿に、その在り方に、若村は気付かされた。

 

 自分に足りなかったのは、これだったのだと。

 

 相手チームを分析し、MAPを活用し、自分達の強みを相手に()()()()()

 

 その試合の組み立て方を、自分は今まで何一つ考えて来なかった。

 

 これまでの自分と言えば、香取の独断専行に腹を立てながらそれを追い、その場その場で()()()()()()をするだけ。

 

 先の展望も、敗北の原因も、何一つまともに考えては来なかった。

 

 その結果が、今の足踏みを続ける『香取隊』だ。

 

 香取は勝手に動き、自分は文句ばかりを垂れ、三浦はその場その場のフォローに終始する。

 

 これでは、成長など望める筈もない。

 

 香取の、言う通りだ。

 

 自分は自分の力のなさを棚上げして、香取の粗探し()()をして満足してしまっていた。

 

 香取は、そんな自分達を使()()()()と判断し、結果的に独断専行に走っていたに過ぎない。

 

 自分よりも余程、香取の方が隊の現状を理解していた。

 

(ったく、そんな俺が、葉子を責める資格なんてねえじゃねえか……っ!)

 

 若村は舌打ちし、右手に持った突撃銃を握り締める。

 

 後悔は、後でも出来る。

 

 今は、この場で出来る最善を行うだけだ。

 

 ────自分達の強み、それは何か。

 

 当然、高い得点力を持った香取の存在だ。

 

 此処で香取に取らせるべき行動は、自分達に合流させて負けの時間を引き延ばす事ではなく、自分達が時間を稼ぎ、香取に一点を確実に獲らせる事だ。

 

 幸い、この試合で『王子隊』は一点も取れずに敗北した。

 

 現在、『香取隊』と『王子隊』のポイントは同率17点。

 

 同じ得点であればシーズン開始時に順位が高かった方が上となる為今は『王子隊』の下にいるが、此処で自分達が一点でも獲得出来れば『香取隊』は18点。

 

 『王子隊』の点を超え、中位落ちから逃れる事が出来る。

 

 此処が、勝負の分かれ目だ。

 

 絶対に、この一点を逃すワケには行かない。

 

 たとえ自分達が落とされようと────いや、自分達の得点と引き換えに、香取に点を獲らせる。

 

 それくらいの覚悟で、臨まなければならない。

 

 此処に来て、若村と三浦は思考を同じくしていた。

 

 香取の為に、隊の為に、一秒でも長く足止めに徹する。

 

 それが、今自分達に出来る()()だ。

 

「行くぞ……っ!」

「うん……っ!」

 

 若村は突撃銃を、三浦は『弧月』を構え、『那須隊』と相対する。

 

 決死の時間稼ぎが、始まった。

 

 

 

 

「おっとぉ、此処で『香取隊』の二人が『那須隊』と交戦を開始……っ! どうやら香取ちゃんは、このまま日浦ちゃんを狙うつもりやな……っ!」

「ま、順当な選択だろうな」

 

 太刀川は真織の実況に、そう答えた。

 

「此処で香取がモールに戻っても、敗北の時間を引き延ばす効果しか望めない。なら、一人でモールの外にいる()()()()の日浦を刈る方が、ずっと効果的だ」

 

 一点でも取れれば『王子隊』よりポイントは上になるしな、と太刀川は告げる。

 

 確かに、此処でモールに戻っても悪い意味で結果が見えている以上、確実に茜を獲った方が『香取隊』にとっては何倍もメリットがある。

 

 それを考えれば、これ以外の選択はないようにも思えた。

 

「若村と三浦が『那須隊』の三人相手にどれだけ粘れるか、そして香取がどれだけ早く日浦を仕留めに行けるか、それが勝負の分かれ目だろうな」

 

 けど、と太刀川は画面を見据え、笑みを浮かべる。

 

 画面に映る『香取隊』の三人の眼に、諦めは浮かんでいない。

 

 その場の最善を尽くす戦士の顔が、そこにはあった。

 

「────三人共、良い眼をしてる。あれなら、期待出来るかもな」

 

 

 

 

「旋空弧月……ッ!」

 

 三浦は『旋空』を起動し、七海へ拡張ブレードを向ける。

 

 尋常ではない回避機動を行う七海相手には、()の攻撃よりも()の攻撃の方が効果的。

 

 一人『那須隊』の試合ログを確認していた三浦は、それを知っていた。

 

 だからこその、『旋空弧月』。

 

 普段あまり使わないそのトリガーを用いて、七海に挑む。

 

「────メテオラ」

 

 だが、線の攻撃とはいえ単発では意味がない。

 

 七海は難なく『旋空』の攻撃を躱し、メテオラを放つ。

 

「うらああああああああああああ……っ!!」

 

 そうをさせじと、若村は体を捻りながらアサルトライフルの引き金を引き続け、遮二無二に弾丸を放つ。

 

 そのうち幾つかが七海のメテオラに着弾し、起爆。

 

 無数のメテオラが連鎖的に誘爆し、周囲は爆風に包まれた。

 

「く……っ!」

 

 だが、無論『那須隊』の攻撃はそれだけでは終わらない。

 

 爆発を迂回するように放たれた無数の光弾が、若村と三浦を狙い撃つ。

 

 周囲は爆風で包まれ、回避は不可能。

 

 二人は、すぐさま決断を下した。

 

「「シールド!」」

 

 若村と三浦は、同時に『固定シールド』を展開。

 

 バイパーの檻を、『鳥籠』を防御する。

 

(ん……? あれ、両攻撃(フルアタック)にしては弾数が少ない……? これは……っ!)

 

 自分達を包囲する弾丸は、よく見れば両攻撃(フルアタック)にしては数が少ない。

 

 それが意味するところは、何か。

 

 先程の()()()()()を目にしていた三浦の脳裏に、その()()が過る。

 

「……っ!! ろっくん、これはバイパーじゃない……っ! 『()()()()』だ……っ!」

「……な……っ!」

 

 …………『王子隊』は、熊谷が撃った『ハウンド』を那須の『バイパー』であると誤認した。

 

 つまり、これはその時と同じ。

 

 バイパーに見せかけた、ハウンド。

 

 故に、次に訪れる事態は一つ。

 

「あれは……っ!」

 

 ────()()()()()()()による、第二射撃。

 

 天井近くに星々のように煌めく無数の光弾が、致死の雨として降り注ぐ。

 

「ぐぁ……っ!」

「くぅ……っ!」

 

 ハウンドの直撃によって脆くなっていたシールドを貫通し、無数の光弾が二人の体を撃ち貫いた。

 

 バイパーの直撃により、二人の手足に無数の風穴が出来上がる。

 

 何とか急所への一撃は避けたものの、少なくないトリオンが傷口から漏れ出している。

 

 退場は、時間の問題だった。

 

(く、情けないけどあまり保ちそうにない……っ! 頼んだよ、葉子ちゃん……っ!)

 

 

 

 

「見つけた……っ!」

 

 グラスホッパーを用いて、香取はビルの屋上へと駆け上がる。

 

 目まぐるしく景色が移り変わり、風を切るように疾駆する。

 

 そして、捉えた。

 

 ビルの屋上からこちらを視認する、ライトニングを構えた茜の姿を。

 

 茜は香取の姿を確認すると、すぐさまライトニングの銃口を向け、弾丸を撃ち放つ。

 

 ライトニングは、狙撃銃の中でも唯一()()が可能なトリガーだ。

 

 他の狙撃トリガーと比べると小回りが利き、狙撃手が相手に近付かれた際の抵抗手段としても用いられる。

 

 そう、あくまで()()()()だ。

 

 ライトニングは弾速こそ速いが発射先が分かっていれば反応出来ない速度ではなく、威力も低い。

 

 当然、機動力に優れグラスホッパーを用いる香取相手に通用する筈もない。

 

 狙撃手は、位置を知られて寄られた時点で負け。

 

 それは、狙撃手の元祖である東も言っている言葉だ。

 

 攻撃手の接近を許した狙撃手に、生き残る道は無い。

 

 そのセオリー通りに、香取は狙撃手を追い詰める。

 

(獲った……っ!)

 

 遂に茜のいる屋上へ到達し、香取はハンドガンからハウンドを撃ち放ち、同時にスコーピオンで斬りかかる。

 

 ハウンドで逃げ道を塞ぎ、スコーピオンの一撃で仕留める。

 

 万が一にも茜を逃がさない為の、詰めの一手。

 

「……え……っ!?」

 

 だが、そこで香取は予想外の光景を目にする事となる。

 

 茜が、自身に迫る弾丸や香取の方ではなく────横を、モールの方を向いたのだ。

 

 その意味を理解出来ず、怪訝となる香取。

 

 香取がもし、『那須隊』の過去の試合ログを見ていたのであれば、その意味にも気が付いただろう。

 

 だが。

 

 だが。

 

 香取は、『那須隊』の試合ログを()()()()()()()

 

 ()()『那須隊』の情報を、碌に持っていない。

 

 それはどれだけ心構えを決めたとしても、既に過ぎ去ってしまった()()の経緯。

 

 その過去の負債が、今香取へ牙を剥く。

 

「な……っ!?」

 

 ────茜が、消えた。

 

 目の前から、一瞬で。

 

 香取の放ったハウンドはそのまま屋上へ着弾し、スコーピオンも空ぶった。

 

「が……っ!?」

 

 そして、戸惑う香取の頭部を、閃光の一撃(ライトニング)が貫いた。

 

 香取は、その弾丸が放たれた方向に────消える直前に、()()()()()()()()()()へ視線を向ける。

 

 そこには、穴の開いたショッピングモールの壁があった。

 

 そして、その先。

 

 壁の向こう側に、『ライトニング』を構えた茜の姿があった。

 

 …………蔵内は茜によって落とされた時、壁の穴越しに茜を()()した。

 

 つまり茜は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にいた事になる。

 

 事実、茜が陣取っていたビルは、モールのすぐ横に位置しており、モールとは()()()()()()()()()()()()()

 

 故にそれは、()()()()()()()()()()()()()である事を示していた。

 

 茜がモールの方を向いたのは、テレポーターを使用して退避する為。

 

 香取が来るまで逃げなかったのは、香取の虚を突き狙撃を撃ち込む隙を作り出す為。

 

 ライトニングは、確かに狙撃銃の中でも最も威力が低い。

 

 だが。

 

 だが。

 

 トリオン体の強度に個人差がない以上、適切な急所を射抜く事が出来ればたとえ威力が低くとも致命傷を与える事は出来る。

 

 事実、茜はこれまでの試合でそうやって得点を重ねて来た。

 

 だが、それを香取は知らなかった。

 

 知らなかったが故に、隙を突かれた。

 

 彼女の不勉強が、彼女自身を敗北へと導いた。

 

 その事を察した香取は、乾いた笑みを浮かべた。

 

「…………あーあ、悔しい。アタシ、ホント馬鹿だったわ」

『戦闘体活動限界。『緊急脱出(ベイルアウト)』』

 

 機械音声が、無情に彼女の敗北を告げる。

 

 香取はそのまま、光の柱となって戦場から脱落した。

 

 

 

 

「葉子……っ!?」

「葉子ちゃん……っ!?」

 

 その光景を、若村と三浦はただ見ている他なかった。

 

 突然壁際に茜が現れたと思ったら、壁の穴目掛けて狙撃。

 

 その直後、香取の脱落の報を聞いた二人は、頭が真っ白になった。

 

「────ハウンド」

「────メテオラ」

「────トマホーク」

 

 そんな致命的な隙を、『那須隊』が逃す筈がない。

 

 熊谷が、七海が、那須が、各々の射撃トリガーを一斉掃射。

 

 夥しい、雨のような弾丸が、二人へ降り注ぐ。

 

「が……っ!!」

「ぐ……っ!!」

 

 慌てて固定シールドを張るも、三重の射撃の雨に耐えられるワケがない。

 

 シールドは瞬く間に粉砕され、眩い爆発が二人を包む。

 

『『戦闘体活動限界。『緊急脱出(ベイルアウト)』』』

 

 結末は、変わらず。

 

 機械音声が、二人の敗北を告げる。

 

 それが、終幕の合図。

 

 ラウンド4の戦いは、『那須隊』の完全勝利で幕を閉じた。

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