痛みを識るもの   作:デスイーター

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総評、そして

「決着……っ! 『香取隊』の三人が続けて『緊急脱出』……っ! 試合結果は8:0:0……っ! ラウンド1、2に引き続き、『那須隊』の完全勝利や……っ!」

「見事な試合運びだったな」

 

 真織が高らかに『那須隊』の勝利を宣言し、太刀川は笑みを浮かべる。

 

 隣では迅も満足そうに笑っており、双方共に『那須隊』の、七海の活躍にご満悦のようだった。

 

「若村も三浦も頑張っとったけど、結局は勝てんかったかー。ま、あの状況じゃしゃーないわな」

「と言うより、あれは敢えて生かされていたと見るべきだろう」

「ふむ、つまりあれか? 『那須隊』はいつでも仕留められるあの二人を敢えてあの場面まで泳がせていたっちゅー事かいな」

 

 そらなんとも無情やなー、と真織はぼやく。

 

 本人達からしてみればなんとか時間を稼いでいるつもりが、単に泳がされていただけだったとなると、流石に立つ瀬がない。

 

 確かに真織の言う通り、無情な話だった。

 

「そういう事だな。あの場面まで若村と三浦を生かしておく事で、香取に()()()()()()()()()()と錯覚させた。『那須隊』の三人は敢えてモール内に残って若村達の相手をする事で、香取の油断を誘ったのさ」

 

 確かにあの場面で、もし若村と三浦が早々に落ちていた場合、香取は周囲への警戒度をより上げていただろう。

 

 香取は茜を狙った時、茜の狙撃()()に焦点を絞って警戒していた。

 

 攻撃が来るとすれば茜のいる方角からであり、それ以外の方角からの攻撃は考慮していなかった。

 

 だからこそ、茜が『テレポーター』で消えた瞬間、致命的な隙を晒してしまったのだ。

 

 予想外の方角からの攻撃を、無防備に受けてしまう程に。

 

「けど、そんな事せえへんでもさっさと二人を落として四人がかりで香取ちゃんを狙った方が良かったんと違うか? なんで、そんな回りくどい事したんや?」

「香取隊長に、捨て身の特攻をさせない為ですね」

 

 真織の疑問を、迅がそう答える。

 

 迅はまず、と前置きして説明した。

 

「若村隊員と三浦隊員が早々に落ちていたケースだと、香取隊長は文字通り後がない状況になる。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようになるという事です」

「香取の戦闘センス自体は、本物だからな。覚悟を決めて捨て身で特攻した場合、一人二人持っていかれてもなんら不思議はない」

「『那須隊』はそのリスクを回避する為、敢えて『香取隊』の二人を泳がせる事で香取隊長を仕留め易い状況を作ったワケです。最後までリスク管理を怠らなかった、良い戦術と言えるでしょう」

 

 そう、迅や太刀川の言う通り、香取の戦闘センス自体は非常に高い。

 

 更に言えばあの時、香取は仲間の声を受けて覚悟を決め直し、それまであった諦観も消えていた。

 

 隊の最後の一人になった場合、捨て身で特攻を仕掛ける可能性は充分に考えられた。

 

 追い詰められた獣程怖いものはないと言うが、それは香取にも同じ事が言える。

 

 捨て身の攻撃は、時として想定外の損害を与える事がある。

 

 特に香取は爆発力が高いタイプであり、自身の脱落と引き換えに『那須隊』のメンバーを一人もしくは数人落とすといった展開も、場合によっては有り得ただろう。

 

 『那須隊』はその危険を排除する為、若村と三浦を敢えて泳がす策を打った。

 

 その結果、香取は一人も落とす事が出来ずに脱落した。

 

 完全に、『那須隊』の作戦勝ちだったと言えるだろう。

 

「けどそれ、日浦ちゃんを信頼してへんと出来ん策やよなー。これまでの『那須隊』やったらなんだかんだで護衛で一人同行させそうなモンやったけど、結局日浦ちゃん一人に香取ちゃんを任せおったしな」

「何もかも手を回す事だけが、チームワークではありませんからね。時として仲間の力を信じ、戦局を託す判断も必要。今の『那須隊』は、それを良く分かっていますね」

 

 あの敗戦はきちんと糧になったみたいだな、と迅は一人呟いた。

 

 ラウンド3での敗戦を経験する前の『那須隊』であれば、茜一人に任せず、熊谷あたりを茜の傍に控えさせていた筈だ。

 

 しかしその方針を取った場合、熊谷の存在を香取に認識させる事になってしまい、『テレポーター』での奇襲が成功しない可能性があった。

 

 奇襲が成功したとしても、『テレポーター』で移動出来るのは茜だけ。

 

 香取の傍には熊谷が残る事になり、落ちるまでの間に仕留められてしまう危険があった。

 

 故に、茜一人に香取を任せた判断は、英断だったと言えるだろう。

 

 結果として茜は『テレポーター』を用いた奇襲を敢行し、実質単独で香取を落とす事に成功した。

 

 あの敗戦の経験は無駄ではなかったと、迅に思わせるには充分な成果と言える。

 

「はー、つくづく見事やなー。こら、ウチらもうかうかしてられへんな」

「『生駒隊』も、そろそろ七海達と当たっても不思議じゃないからな。生駒に言っとけ、()()()()()()ってな」

 

 何せ、俺が直々に鍛えてやったからな、と太刀川はからからと笑った。

 

 真織としてはこれだけの用意周到な試合運びをした『那須隊』と当たる時の事を考えると色々と頭が痛いが、そうも言っていられない。

 

 太刀川の言う通り、最早いつ当たってもおかしくはないのだから。

 

「ま、伝えとくわ。ほな、そろそろ総評頼むでー」

「おう、じゃ、まずは『香取隊』からだな」

 

 真織の要請を受け、太刀川は総評に移る事を承諾した。

 

 まず、と太刀川は話し始める。

 

「さっきも言ったが、『香取隊』は最初から最後まで『那須隊』のコントロール下にあったようなモンだ。MAP選択も恐らく誘導されたものだろうし、『那須隊』はこの試合中、『香取隊』の動きを完全に把握し切っていた筈だ」

「香取隊長を釣り出し、『メテオラ』の焼き出しで他の隊員と『王子隊』をかち合わせる。その後は共闘の構えを取った『王子隊』と『那須隊』を分断し、各個撃破した。言ってみればこれだけですが、その作戦を通し切ったのは『那須隊』の個々の実力は勿論、適切な指揮と連携の賜物でしょうね」

「そうだな。そして、『香取隊』は『那須隊』にとっての予想外の行動を取る事が出来なかった。これが、最大の敗因と言える」

 

 太刀川の言う通り、『那須隊』はこの試合中、『香取隊』の行動を完全に予測し切っていた。

 

 そして『香取隊』は予測通りの行動をして、『那須隊』の計算通りの試合展開に持ち込まれ、敗北した。

 

 完敗、と言って差し支えない結果だろう。

 

「『香取隊』は今回折角MAPの選択権を持っていたのに、そのMAPを活かす作戦を何も持ち込んではいなかった。地形戦の重要性は今更言うまでもないから省くが、準備不足をまずどうにかしなくちゃ話にならん」

 

 最後の香取の負けも、試合ログを見ていれば防げた筈だしな、と太刀川は告げる。

 

 確かに、その通りである。

 

 『那須隊』は、()()()()()()()()()()()という事を前提に作戦を組み立て、実際にログを見ていなかった香取はまんまとその策に嵌まり敗北した。

 

 不勉強故に負けた、と言って差し支えない結果である。

 

 『香取隊』は今回、準備不足が目立ち過ぎた。

 

 MAPを選ぶだけでそれを活かす作戦は用意せず、いつも通りの場当たり的な対処で試合を進めた。

 

 その結果が、この惨敗である。

 

「チームランク戦は、個人の実力が高いからと言って勝てるような甘い戦いじゃない。戦術や相手チームの分析を疎かにする奴に、勝利は決して訪れない。そのあたり、もう一度よく考えるべきだな」

 

 だが、と太刀川は続ける。

 

「────最後のあたりの『香取隊』の顔つきは、悪くなかった。結果としちゃ惨敗に終わったが、諦めずに上を目指す姿勢があれば、あとは隊としての努力次第だ。伸び代自体は充分にあるチームだから、もっと楽しませてくれるようになると嬉しいな」

 

 

 

 

「…………まったく、好き放題言ってくれちゃって…………まあ、言い返せないのは確かだけど……」

「葉子……」

「葉子ちゃん……」

 

 『香取隊』の作戦室で、生身の身体に戻った香取はそう言って溜息を吐いた。

 

 そんな香取を、若村と三浦は複雑そうな面持ちで見詰めている。

 

 若村は柄にもなく殊勝な香取を見てどう反応していいか分からず、三浦も下手な口出しが出来ずにいる。

 

 だが、二人が何かを言う前に、染井が割って入った。

 

「でも、上を目指すつもりはあるんでしょ?」

「当然じゃない。あれだけ言われて、引き下がれるモンですか。あいつ等にも、きっちり借りを返したいしね」

 

 香取はそう言って拳を握り締め、自分が落とされた時の事を想起する。

 

 あの時、香取は目の前から茜が消えた事に対し、何も反応する事が出来なかった。

 

 『テレポーター』は使用者が少なく、B級隊員でセットしている者は殆どいない。

 

 碌にログを見ない香取はその詳細な効果すら知らず、茜がモールの方角を向いた()()を理解する事が出来なかった。

 

 理解出来なかったが故に、致命的な隙を晒し、落とされた。

 

 原因がハッキリしているだけに、口惜しさはかなりのものがある。

 

 次は負けない、と意気込むのも当然と言えた。

 

 そんな香取を見て、若村もまた溜息を吐いた。

 

「別に、お前だけの所為じゃない。そもそも、MAP選択権があったのに碌な戦術を用意しなかった俺達も同罪だ」

「へえ、珍しいじゃない。アンタがそんな事言うなんてね」

「ただ、自分の馬鹿さ加減を自覚しただけだ。俺はお前を糾弾出来る程、偉くもなんともなかったってな」

 

 若村の絞り出すような独白に、香取はそう、と短く告げるだけに留めた。

 

 元々、香取は若村達には一切の期待をしていなかった。

 

 若村は文句を言うだけで具体案を出すワケでもなく、三浦はその場その場のフォローで手一杯。

 

 だから、自分が暴れた方が手っ取り早く点が獲れる。

 

 そう判断した結果が今までの度重なる香取の独断専行であり、足踏みを続ける原因となっていた。

 

 結局、双方共に現状がどうしようもない事を理解しながら、互いの粗探しばかりをして碌な対策を取って来なかった。

 

 試合の度に反省点を挙げるまでは良いが、そこからどう()()()()()()()をきちんと話し合わなければ、何の意味もない。

 

 今までの『香取隊』には、その視点が決定的に欠けていた。

 

 本当の意味での()()()()など、ただの一度も行って来なかったのだ。

 

 それでは、改善など出来よう筈もない。

 

 だが、若村は今回の試合で自分の現状を正確に認識し、改善点についても理解した。

 

 下ばかりを向いていた顔を、ようやく前に向けた。

 

 これは、明確な変化と言えた。

 

「僕も、何処まで出来るか分からないけど協力するよ。これからは全員で作戦を話し合って、きちんと考えてランク戦に臨もう。今からでもきっと、遅くはない筈だから」

「そうね。雄太の言う通り、やるべき事がハッキリしたなら後は実行に移すだけよ。それとも、葉子は嫌?」

「…………正直、面倒だけど…………でも、このまま舐められたままってのもムカつくわ。やるってんなら、トコトンやってやろうじゃないの」

 

 今度こそ、目にもの見せてやるんだから。と、香取は獰猛な笑みを浮かべる。

 

 その顔を見て若村は苦笑し、三浦は笑みを浮かべた。

 

 確実に前を向き始めた隊員達を見て、染井は誰にも気付かれないように少しだけ笑った。

 

 ずっと足踏みを続けていた面々が、ようやく前へ一歩を踏み出した。

 

 その意味は、とてつもなく大きい。

 

 『香取隊』は、もっと上を目指せる。

 

 既に、これまであったぎこちない空気はない。

 

 ただ上を目指す確たる決意が、芽生えていた。

 

 

 

 

「次は『王子隊』だな。『王子隊』は、最初から最後まで不利な戦いを強いられたイメージが強いな」

「横に狭く縦に広い『市街地D』では、『王子隊』の強みである機動力を活かし難かったですからね。無理もないでしょう」

 

 迅の言う通り、『王子隊』の強みはその機動力にある。

 

 隊の三人全員が()()()事で有名な『王子隊』は、状況に応じて獲り易い駒を狙い、着実に点を獲っていくのが基本的な戦法だ。

 

 しかし広さの限られたモールが主戦場となった『市街地D』ではその機動力を活かす事が出来ず、次善の策に甘んじるしかなかったワケである。

 

「それでも『香取隊』を利用して点を獲ろうとする姿勢は良かったけど、『那須隊』が『香取隊』に仕込んだ仕込みの()()までは見抜けなかったみたいだな。結果的に、『香取隊』の巻き添えを食らったようなモンだろ」

「王子隊長が早々に落ちた事も痛かったですね。先ほども言いましたが、通信越しの指示ではどうしてもタイムラグがありますし、直に戦場を見た時とそうでない時とでは、どうしても認識の差が生じます。王子隊長の早期脱落がなければ、また違った結果になったかもしれません」

「それが分かってたから、『那須隊』は王子を真っ先に狙ったんだろうからな。相変わらず、初見殺しの使い方が上手い」

 

 確かに、太刀川の言葉通り、今回の『那須隊』は()()()()()()()()()()使()()()()という初見殺し要素を最大限に活かし、王子に隙を作らせそこを仕留めた。

 

 自分達の持つ手札(カード)の切り方を心得ている、良い采配と言える。

 

 あの一手が、試合の流れを決めたと言っても過言ではない。

 

 太刀川の言う通り、手札の使い方が抜群に上手い。

 

 称賛に値する、良い戦術と言えた。

 

「『王子隊』は確かに相手チームの研究に余念がない勤勉なチームだが、逆に今回は前回の試合までの情報を絶対視し過ぎたのが敗因と言える。王子が戦場に残っていれば幾らでも軌道修正は出来たんだろうが、それを見越して王子を最優先で狙った『那須隊』が一枚上手だったな」

 

 

 

 

「太刀川さんの言う通りだ。今回は、僕が早々に落ちてしまったのが悪い」

 

 『王子隊』の作戦室で、王子はそう言ってチームメイトに謝罪した。

 

 その姿に、樫尾は思わず立ち上がって反論する。

 

「いえっ! 王子隊長の作戦を遂行し切れなかった自分にも原因がありますっ! 王子隊長だけが悪いなんて事はありませんっ!」

「そうだな。今回、お前の機転にいつも頼り過ぎている事を痛感した。これからは、お前がいない場合のやり方も考慮に入れておくべきだろうな」

 

 樫尾に続き、蔵内もそう言ってフォローを入れる。

 

 隊員達の激励に感謝しながら、王子は笑みを浮かべた。

 

「僕も、これからは今まで以上に生き残る事を念頭に置いた戦い方を模索していくつもりだ。君達には色々苦労をかける事になるだろうけど、これからもよろしく頼むよ。『王子隊』は、まだまだこれからだ」

「はいっ!」

「そうだな」

 

 王子の言葉に、樫尾と蔵内が一も二もなく賛同する。

 

 『王子隊』はこれからも、勤勉に自分達に出来る事を模索していくだろう。

 

 彼らの歩みに、行き止まりはないのだから。

 

 

 

 

「最後に『那須隊』だな。前回はぼろ負けしてたが、その経験はきちんと活かせているみたいで何よりだ。特に文句を付ける所のない、完璧な立ち回りだったと言って良いだろう」

「そうですね。各々の強みを十全に活かした、良い戦術でした」

 

 『那須隊』を評価する太刀川と迅の顔には、確かな誇らしさが伺える。

 

 二人共手塩にかけた弟子の晴れ舞台をようやく直で解説出来た事もあり、些か高揚しているようだ。

 

 迅が妙に口数が少なかったのも、調子に乗って余計な事まで口走る事を避ける為だろう。

 

 二人共、なんだかんだで七海への入れ込み具合は割と深い。

 

 ラウンド2で茜を褒める為だけに解説を引き受けた奈良坂と、実はどっこいどっこいである。

 

「今回、くまが『ハウンド』を持ち込んで来たが、これで『那須隊』は中距離での射撃戦の厚みがより増した事になる。今までは七海と那須が暴れて日浦と熊谷がそれをフォローする形だったが、これで那須と熊谷が組んでの射撃戦という選択肢が出来た。この手札が増えたのは大きいぞ」

「そうですね。熊谷隊員はいざとなれば味方の盾となって相手の攻撃手を押し留める役割も持てますから、更に戦術の幅が広がったと見るべきでしょう」

 

 二人の言う通り、熊谷が『ハウンド』を習得した意味は思った以上に大きい。

 

 今まで熊谷は中距離戦で出来る事が少なく、ラウンド2までの活躍も専ら隠密からの奇襲だった。

 

 だが『ハウンド』という使い勝手の良い中距離火力を手にした事で、熊谷に()()()()()()()()()という手札が加わった。

 

 これだけで、今までとは出来る事が大分違って来るのだ。

 

 隊との相性を考慮しても、最善の選択だったと言えるだろう。

 

「そして今回、那須隊長は『グラスホッパー』を使用しました。これで更に機動力に磨きがかかり、これまで以上に彼女を機動戦で捉える事は難しくなるでしょう」

「『グラスホッパー』があるとないとじゃ、機動の自由度と速度にかなりの違いが出るからな。七海との合流も、これまでよりずっとやり易くなる筈だ」

 

 そう、那須はこれまで、『グラスホッパー』なしでも縦横無尽の機動で相手を幻惑していた。

 

 そこに、『グラスホッパー』という機動力を強化する手札が加わったのだ。

 

 空中での隙はこれまで以上に少なくなり、彼女を追うのも彼女から逃げる事もより困難になるだろう。

 

「二人の強化で、七海はこれまで以上に攪乱がやり易くなった筈だ。この試合でも一人で『香取隊』全員を抑え切ったし、自分の役割を心得た悪くない立ち回りだ」

「日浦隊員も、自分の仕事をきっちりこなしきっていましたね。こちらも、やるべき事をしっかりと理解して立ち回っています。『テレポーター』使いの狙撃手として、これからも躍進を期待出来るでしょう」

 

 そして七海と茜も、各々の役割をこなし切っていた。

 

 七海は単独で『香取隊』を完全に抑え込み、茜はチャンスを逃さず的確な狙撃で得点を重ねて行った。

 

 今回の試合では、『那須隊』の全員がその強みを活かし切れたと言えるだろう。

 

「だが、それでも油断ならないのがB級上位の面々だ。今回は上手く行ったが、次はどうなるか分からないぞ」

「ですが、今回で隊の理想的な立ち回りを知れたのは明確なプラスだったと言えるでしょう。彼等なら、きっとこれからも良い試合を見せてくれるでしょう」

 

 さて、と迅は仕切り直すように咳払いをした。

 

「総評はこれで終わりですが、此処で一つ、お知らせがあります。本来は忍田本部長が話す予定でしたが、()()()()()()()用事が出来たので僭越ながら自分が代わりに話す事とします」

「……ほぅ……」

 

 迅の言い回しにその真意を悟った太刀川が、目を細めた。

 

 『未来視』の副作用(サイドエフェクト)を持つ迅にとって、()()()()()()()などという言い回し自体が不自然だ。

 

 彼は、視えていた筈なのだ。

 

 今自分がその説明をする事になる、未来を。

 

 つまりこれから話す情報は、()()()()()()()()()()()()()()()と、迅は事情を知る者達に暗に伝えたのだ。

 

「結論から言いますと、今期のランク戦はラウンド8で終了となり、そこからA級B級合同の『合同戦闘訓練』を行います。大規模な戦いを想定した、複数チーム同士が組んだ特殊なランク戦と思って頂ければ結構です」

「「……っ!」」

 

 その迅の言葉に、傍で聞いていた太刀川と真織、そして迅の事情を知る者達は息を呑んだ。

 

 迅は今、()()()()()()()()()と告げた。

 

 『未来視』を持つ迅が、そう言った以上。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()と断言したに等しい。

 

 その事を理解した者達は、来るべき戦いを自覚し、奮起した。

 

 彼等の中には、過去の大規模侵攻で被害を受けた者も多い。

 

 そういった者達にとって、二度目の大規模侵攻は、ある意味でリベンジの機会でもある。

 

 かつて何も出来なかった自分が、今度は自分の力で街を守る。

 

 これで、奮い立たない者などいるワケがない。

 

 会場の熱気から自分の意図が正確に伝わった事を察した迅は、まとめに入った。

 

「ちなみに、この『合同戦闘訓練』はA級への昇格試験も兼ねています。これまではB級で上位二チームのみがA級への昇格試験を受ける事が出来ましたが、今回はラウンド8終了時点でB級上位にいたチーム全員にその機会があると思ってくれれば結構です」

 

 これで説明を終わります、と迅は真織に目配せをした。

 

 合図を受けた真織はこくりと頷き、声を張り上げた。

 

「これでB級ランク戦、ラウンド4は終了やっ! 新情報については後で詳しい説明がある筈やから、しっかり聞いとくようになー」

 

 そして、真織の一声でROUND4は終了した。

 

 一つの、大きな情報と共に。

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