痛みを識るもの   作:デスイーター

81 / 487
鈴鳴第一④

「おーっと、此処で七海隊員と村上隊員の戦闘に来馬隊長が介入……っ! 両攻撃(フルアタック)による好アシストによる連携で痛打をもぎ取った~……っ!」

「来馬サンの援護が、上手く決まったなァ」

 

 来馬と村上の連携プレーの鮮やかな成果に、会場が沸き立った。

 

 これまで、七海がまともに被弾した回数は数える程しかない。

 

 最初は、荒船の不意打ち『鉛弾』による拘束。

 

 二度目は、ROUND3での東のスナイプ。

 

 三度目は、このROUNDでの東の瓦礫抜き狙撃。

 

 その殆どが、工夫を凝らして()()()()()()()()()()()()()()()()事で届かせた攻撃である。

 

 今回のように、()()()()()()()()()()()()()()()()というのは、今まで例がない。

 

 此処に至るまで来馬の両攻撃(フルアタック)という切り札を隠した、鈴鳴第一の策が生きたというワケだ。

 

「これまで、鈴鳴は銃手の来馬サンと狙撃手の太一が村上を援護するのが基本だった。嵌れば強いが、逆に言えば村上頼りの面が大きく、どうしたって()()()()が複数いる相手にゃあ弱くなる」

 

 前に、諏訪隊に面制圧されて負けたようにな、と弓場は語る。

 

 確かに、これまでの鈴鳴は村上という大戦力をどう運用するか()()に焦点が置かれており、村上が戦えない距離だと押されてじり貧に陥る事が多かった。

 

 以前はその点を突かれて、近付けないまま諏訪と堤の一斉掃射で負けてしまった事もある。

 

 そして、村上には決定的な()()がある。

 

 それは、()()()()()()()()()()()()という性質だ。

 

 村上は結果的に自分の守りが薄くなろうと、来馬がピンチになれば反射的にそれを庇う。

 

 これは考えての行動ではなく、身体に染み付いた反射的なものだ。

 

 来馬が目の前で攻撃対象となれば、村上は自分の身を顧みずにそれを庇ってしまう。

 

 ROUND1ではその点を七海が突き、村上を完全に封じ込めて嵌め殺している。

 

 村上が来馬を必ず庇うというのは彼と親しい者の間では周知の事実なので、そこを突かれ易いのだ。

 

 来馬もまた、突出したものがない為狙われ易いという点もそれに拍車をかけていた。

 

 だが今回、村上達はそれを()()()()()()()という手で補って来た。

 

 来馬と別行動をするのではなく、合流しながらも両攻撃(フルアタック)の火力で押し切る事で、相手に反撃の隙を与えない。

 

 攻撃は最大の防御、と言わんばかりの陣形である。

 

 そしてそれは、村上達にとっては最適解でもあった。

 

 村上に「来馬を庇うな」と言った所で無駄であるし、そもそも聞き入れる筈もない。

 

 どんな状況であろうと、村上と太一は来馬を庇う。

 

 ボーダー随一の人格者である来馬と、それを慕う者達が集まった部隊。

 

 それが、鈴鳴第一というチームなのだ。

 

 それは変わる事などないし、本人達も変えようとは思っていない。

 

 故に、戦術の組み換えによって()()()()()()()事でその隙を埋める事とした。

 

 恐らくこれが、村上達にとっての最善。

 

 誰に何を言われようと揺るがない、鈴鳴第一の最適な強化案であった。

 

「来馬サンが大きく前に出て、二人分の防御を鋼が請け負う。それが、今の鈴鳴第一の新戦術の肝だろう。恐らく、こいつを決める為にこのMAPを選んだんだろうなァ」

「このMAPだと、狭い地下通路での戦いを強いられるからね。上や横に逃げる隙間がない以上、来馬先輩の両攻撃の射程が活きるってワケね。むう」

 

 そして、この戦術は今回のMAP『市街地E』と組み合わさる事で七海への対策へも成り得る。

 

 確かに鈴鳴の新戦術は強力ではあるが、七海にはグラスホッパーを用いた高い機動力がある。

 

 開けた場所で戦っても、射程外へ逃げられてしまう可能性が高い。

 

 だからこそ村上達は狭い地下通路が主戦場となるこの『市街地E』のMAPを選択し、来馬の銃撃が有効活用出来る場へと七海を引きずり出したのだ。

 

 回避する為の場所を制限し、七海を来間の射程内へ収める為に。

 

 そして、その戦略は功を奏し七海に痛打を与える事に成功した。

 

 この攻撃成功は、大きい。

 

「七海は今の攻撃で、唯一残っていた右腕の手首から先を失った。手首の断面からスコーピオンを生やしゃあまだ戦れるが、手で刃を持つ時と比べるとどうしたって自由度が違って来る。こいつは大きい筈だぜ」

「咄嗟に刃を返す事も出来ないし、投擲も出来そうにないわね。もう、なにやってるのよ七海ったら」

 

 むぅ、と七海の窮地に頬を膨らませる小南を見て、弓場は思わず苦笑した。

 

 身内贔屓しがちなこの少女の性質は見知っていたが、此処まで入れ込んでいるとは思っていなかった為だ。

 

 どうやら小南にとって、七海の存在はかなり大きなウェイトを占めているらしい。

 

 どういった関係性なのかは察するしかないが、迅から聞いた()()から考えるに色々複雑な関係なのは間違いない。

 

 どちらにせよ、詮索は趣味ではない。

 

 此処はフォローしてやるべきかと、弓場は持ち前の面倒見の良さを発揮した。

 

「そう言ってやるなよ小南ィ。今のは七海がしくじったっつゥよりも、鋼達が巧かっただけだからなァ。それに、不利にゃあなったがまだ負けが決まったワケでもねェ」

「…………ま、そうね。七海なら、このくらいどうにかするでしょ。あいつは、強いんだから」

「へェ……」

 

 弓場はその小南の言葉に、思わず溜め息を吐いた。

 

 この小南桐絵という少女は攻撃手ランクは3位だが、それはあくまで()()()()()()()()()()()である。

 

 玉狛第一は規格外のワンオフトリガーを所持している為、ランク戦への参加が出来ない特殊なチームだ。

 

 その玉狛第一に属する小南は、支部が本部から独立した事を切っ掛けにランク戦から退いている。

 

 つまり、その時点からポイントの更新がないにも関わらず、ランク3位という成績を未だ堅持しているのだ。

 

 それだけの実力を、この少女は持っている。

 

 故に、その自負は大きい。

 

 自らを()()と言って憚らず、「弱い奴に興味はない」と言い切る彼女にとって、()()の評価はかなり厳しいものである。

 

 その彼女が、七海を()()と断言したのだ。

 

 身内贔屓も勿論あるのだろうが、彼女がこう評価するからには七海は小南から見ても光るものを持っているという事だ。

 

 弓場も個人ランク戦を通じて七海とは戦り合った事ならあるが、()()()()()()()が戦うのを見るのは今シーズンが初めてだ。

 

 これは、期待出来る。

 

 弓場は好戦的な笑みを浮かべ、試合映像を見据えた。

 

 そこには村上と来間、二人と対峙する七海の姿が映し出されていた。

 

 

 

 

(手首だけか。本当なら今ので、落としておきたかったんだがな……)

 

 村上は背後に立つ来馬の存在を意識しつつ、距離を取って対峙する七海の姿を見詰めた。

 

 七海の身体には所々風穴が空いており、右腕の手首から先は喪失している。

 

 傷口からは多量のトリオンが漏れ出ており、痛打を与えた事は間違いない。

 

 しかし、本来であればあの攻撃は七海の身体をそのまま両断する筈だった。

 

 そう出来なかったのは、七海の回避機動が以前よりも上がっていたからだ。

 

 恐らく、これまでのランク戦を通じて七海も経験を積み、回避能力に磨きをかけたのだろう。

 

 その成長を、見誤った自分の落ち度だった。

 

 確かに七海に痛打は与えたし、トリオン漏出による緊急脱出も時間をかければ有り得るだろう。

 

 だが、トリオン切れで落ちるとすれば恐らく自分の方が先だろうと、村上は感じていた。

 

 累計ダメージは自分の方が大きいし、単純なトリオン量も七海の方が上だ。

 

 時間経過で有利になるのは、むしろ七海達の方である。

 

 自分が落ちれば、恐らく七海は即座に来馬を落とすだろう。

 

 来馬の両攻撃(フルアタック)は確かに強力だが、七海のトリオン量であれば両防御(フルガード)でシールドを貼れば突破可能だ。

 

 七海が今突っ込んで来ないのは、自分という()()がいるからだろう。

 

 一撃で仕留められる状況でない限り、七海が余計なリスクを冒す筈もない。

 

 今やるべきなのは、なるべく短時間で七海を削り、仕留める事。

 

 その焦りを、七海に勘付かれてはならない。

 

 七海は、相手の弱みを突く事が抜群に上手い。

 

 無論、その事を卑怯だとか言うつもりは微塵もない。

 

 戦場では弱みを見せた方が悪いのだし、相手の弱点を突くのは当然の事だ。

 

 そして、七海はそのあたりの割り切りに関してはA級の面々にも見劣りしない。

 

 七海にとっても自分は親しい相手であるという自負はあるが、七海は相手が親友でも────────否、親友だからこそ容赦しない。

 

 これが1対1の勝負ならまた話も違っただろうが、七海にとってこれはチームの勝敗がかかった()()である。

 

 故に、手段も選ばなければ相手が誰であろうと容赦する理由にはならない。

 

 それに、真剣勝負の場に置いて、手心を加える事こそ相手への侮辱に他ならない。

 

 七海はそれを、きちんと理解している。

 

 だからこそ、ROUND1では自分達の弱みを的確に突いて嵌め殺して来たのだから。

 

 あの敗戦を経て、自分達は強くなった。

 

 前期では到達出来なかったB級上位へと駆け上がり、一歩先に上位へ上がった七海達と鎬を削り合っている。

 

 その事が、どうしようもなく嬉しい。

 

 村上は自分が、常よりも昂揚している自覚があった。

 

 B級上位という戦いの場で、親友と鎬を削り合う事が出来ている。

 

 それは村上の戦士としての本能を、どうしようもなく掻き立てていた。

 

 今度こそ、七海(しんゆう)に勝つ。

 

 その想いを盾に込め、村上は来馬に目配せした。

 

 来馬はその村上の意図を察し、引き金に指をかける。

 

 二丁の突撃銃による一斉掃射が、戦闘再開の合図だった。

 

 

 

 

 ────やり難い、と七海は感じていた。

 

 七海は両防御(フルガード)で来間の銃撃を防御しながら、通路を駆けている。

 

 しかし二丁の突撃銃の射程が思った以上に広く、中々射程外へ抜け出せずにいた。

 

 グラスホッパーを用いて一気に距離を離さないのは、両防御を崩せば先程のように痛打を貰う可能性があるからだ。

 

 もしもこの上足まで失う事になった場合、自分の脱落がほぼ確定してしまうと言っても過言ではない。

 

 現在膠着状態が継続しているのは、自分の足が死んでいないからだ。

 

 攻撃の要である右手首が斬り落とされたのは痛かったが、足を集中的に防御した為脚部に損傷はない。

 

 もしも足を失ってしまえば、村上の旋空弧月から逃げ切る事は難しい。

 

 『旋空』の射程は、通常は最大20メートル。

 

 生駒という例外を除き、それが拡張斬撃の届く最大射程だ。

 

 今、七海はこの『旋空』の射程にだけは決して入らないように逃走を続けている。

 

 『旋空』は射撃と違い、()()()()()()攻撃である。

 

 シールドはおろか耐久力の高いエスクードや固定シールドさえも両断してしまうその威力は、ノーマルトリガーの中でも随一だ。

 

 先程も、その旋空によって七海の手首は斬り落とされた。

 

 来間の銃撃を防ぐ為に両防御を用いている今、グラスホッパーを使えない状態で『旋空』を避けるのは難易度が高い。

 

 旋空は、()の攻撃である。

 

 そして、村上は先程その旋空の軌道を()()()()()()()()()という離れ業を見せた。

 

 紙一重の回避では、あの技巧の前に斬り払われる。

 

 故に、七海が取った選択は両防御をしながらの全力疾走。

 

 村上の旋空の射程に決して入らぬよう、逃走を続けていた。

 

(もう少しだ……っ!)

 

 しかし、七海とて闇雲に逃走を続けているワケではない。

 

 向かうのは、この地下街の()()

 

 地上へ上がる、地下街への出入り口である階段である。

 

 外に出れば狙撃手の射線に晒される事になるが、この狭い通路で来馬の銃撃に晒されるより遥かにマシである。

 

 なにより、七海に狙撃は基本的に通用しない。

 

 七海が地下街へ入ったのは、あくまで地下にいる他のチームの者達を仕留める為である。

 

 幾ら狙撃が効かないとしても、落とす相手がいなければ地上に残る意味はない。

 

 だが、このまま行けば村上達を引き連れた状態で地上に出る事が出来る。

 

 上に出てしまえば、こちらのものだ。

 

 来間の銃撃が七海にとって脅威なのは、あくまで此処が狭い地下通路だからである。

 

 開けた場所に出てしまえば、グラスホッパーを用いて射程外へ出る事は容易い。

 

 後は射程外からメテオラで爆撃を続ければ、容易に削り殺せる。

 

 故に、駆ける。

 

 地上へ向かう、階段へと。

 

『七海先輩、もうすぐ出口です』

「了解。他のチームの反応は?」

『近くにはありません。バッグワームを使っていればその限りではありませんが……』

 

 充分だ、と七海は返答した。

 

 バッグワームを使っているのであれば、使えるトリガーは片枠のみ。

 

 たとえ奇襲して来ても、両攻撃(フルアタック)でなければ防ぐ事は可能だ。

 

 脅威なのは東の狙撃であるが、東のいた場所からは大分離れているし、幸い東の機動力はそう高くない。

 

 このタイミングであれば、近くに潜んではいない筈だ。

 

『そこの曲がり角の先が、出口です……っ!』

「よし……っ! 間に合ったか……っ!」

 

 七海はラストスパートをかけ、壁を蹴って曲がり角の向こうへ跳躍する。

 

 そして、その先に待つ出口の階段を駆け上がろうとして────。

 

「な……っ!?」

 

 ────その出口を塞ぐ()を前に、立ち止まった。

 

 出口へ向かう階段は、ある。

 

 だが、その階段の先が玉狛の、旧ボーダーのエンブレムが刻まれた()()()()()────『エスクード』によって、塞がれていた。

 

 馬鹿な、と七海は絶句した。

 

 エスクードは、堅牢な耐久力と一度出してしまえばそのままその場に残る応用性の高いトリガーではあるが、()()()()()という最大の問題がある。

 

 地下街の出入り口は、此処だけではない。

 

 その全てを塞ぐとすれば、相当のトリオンが必要になる筈だ。

 

 それこそ、トリオンが平均程度の者であれば戦闘に必要なトリオンすら殆ど残らない程に。

 

 村上も来間も、現在トリオン切れを極端に気にするような素振りは見えない。

 

 二人のトリオンは、平均より少し上程度。

 

 少なくとも、エスクードを連発しても戦闘に支障が出ないレベルのトリオン量ではない。

 

「……っ!」

 

 そこで、気付く。

 

 この場にいない、鈴鳴第一の()()()()()()()に。

 

 思えば、その隊員だけはこの戦闘が始まってから一度も目にしていない。

 

 つまり、()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()

 

 彼のトリオン量は決して多くはないが、戦闘に必要なトリオンまで注ぎ込めばなんとか足りるかもしれない。

 

 それに、そういった()()()は、彼なら如何にもやりそうである。

 

「太一か……っ!」

 

 鈴鳴第一の狙撃手、別役太一。

 

 間違いなく、その少年こそがこの(エスクード)で出口を塞いだ張本人に違いなかった。

 

 

 

 

「ふひー、きっつー。このトリガー、燃費悪過ぎでしょー」

 

 太一は、壁に背を預けへとへとになりながら溜め息を吐いた。

 

 既にトリオンは殆ど空っ穴に近いが、それでも彼はやり遂げた。

 

 己が言い出した、この試合での役割を。

 

 …………前回の試合では、太一は何の戦果も上げられず、相手の狙撃手に落とされた。

 

 狙撃手にとって一番警戒しなければならない筈の、カウンタースナイプで。

 

 きっと、自分は狙撃手としての才能はそんなに無いのだろう。

 

 他の、凄い狙撃手と比べると自分は狙撃に関して光るものを持っていない。

 

 精密射撃は茜に上を行かれているし、ユズルのような上手い立ち回りも出来ない。

 

 しかし、狙撃手として負けていても、チームとして勝てれば良い。

 

 そう思って進言したのが、この作戦だった。

 

『太一、作戦は成功よ。七海くんを追い詰めたわ』

「よっし……っ!」

 

 作戦が上手く決まったとの報告を受け、太一はガッツポーズを取る。

 

 小さな狙撃手の献策が、今此処に成就した瞬間だった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。