1、
銃声が夜の闇に響く、Special operations forces Combat Assault Rifle Hevy通称 SCAR-H。
FN社ことFNHが創ったアサルトライフルの奏でる殺戮の旋律だ。
標準口径は7.62mm。精密性に長け、ロングバレルに付け替えるなどしてマークスマンライフルとして使用されることが多い。
標準型はMK.17 Mod.0の名前でかつての米軍に調達されているが、それ以外にも、銃身やレシーバ、ストック等の換装用のパーツを調達してMk.20に組み替えての運用も行われていた。
更に、大は小を兼ねるということで、H型は5.56mm弾用のコンバージョンキットを使用して5.56mm口径のアサルトライフルに組み替えることができる汎用性の高い銃だ。
その名の通り特殊部隊のために生み出されたということがよく解る多機能性と汎用性を持つ。
この銃を訓練された人間が扱えばどんな敵でも無事ではいられまい
「ちくちょう! 当たらねぇ化物かよぉ!?」
「たった一人だぞ、たった一人に!?」
「ちくちょう、死にたくねぇ、死にたかねぇ、来るな、来るんじゃねぇぇええええ!?」
先頭に立って泣きわめきながら銃を乱射していた男の首がポトリと落ちる。
それを成したのはただの幅広の分厚いナイフである。
現代では自動火器の発達で、ナイフに頼らずとも近接戦闘を行うことが容易になったため、純粋な戦闘用ナイフは求められなくなってきている。
そこで軍隊で用いられる戦闘用ナイフは「ナイフとしても使える銃剣」という形で一本に集約され、銃剣自体もワイヤーカッターや鋸刃が付く等、多機能化する傾向にある。
これらのナイフの多くは刺突能力を向上させるため、諸刃の構造を持つ“ダガー”形状になっている。
しかしこの使い手が扱うナイフは時代を逆行したかのように「く」の字に曲がっているナイフというより鉈に近いククリと呼ばれるものだ。
「セポイの乱において、グルカ朝(現在のネパール)の兵士が、ククリを携え凶猛な白兵戦を行ったことに注目したイギリスが、彼らを傭兵として雇った」という経緯から、英語圏ではグルカナイフと呼ばれることがある。
切れ味は鋭いであろうがナイフ一本で銃火器で武装した軍隊を一人で蹂躙するその姿は常識の外にある異能の輩であることは間違いなかった。
で、あるならばこの出会いは必然であろう。
類は友を呼ぶ、同類相求む、
「行くべきか帰るべきか、それが問題だ」
シェイクスピアのハムレットの有名な句をもじったセリフを呟きながら血風漂う鉄火場に秋もときが現れた。
2、
「話せばわかる、話をしよう……無理? ですよねー」
若い頃は汚い大人の事情に関わりたくないと対魔忍になるのを拒否していたというのに、今では薄汚い駆け引きを日常的にするデスクワークの仕事をしている学園長のアサギからの頼みで米連の訓練兵の護衛を頼まれたもときであったが、いつまで経っても迎えが来ないので直接職場に辿り着いたらこの有様である。
よくあるテロ予告に対する形だけの護衛ということで受けた任務であるが大事になっている。
苦労人な上司に同情して下手にかけた情けが仇になるという無情な世の中にもときが美しい顔を憮然とさせて話が違うと文句を言うのもしょうがない現状であった。
もときは後で誠意を言葉でなく金で示してもらおうと心のなかで決めた。
そんな心の動きを知らぬ存ぜぬとナイフを片手に
顔は見えないが特撮に出てきそうな厳ついマスクとはち切れんばかりに自己主張する女性らしい胸部と臀部のふくらみをこれでもかと見せつける肌面積が多いスリングショット水着のような恰好だ。
つまりいつもの対魔忍世界の定番コスチュームである。
これまでに血祭りにした兵士たちの返り血で深紅に濡れるその肢体はさながらスプラッター映画の殺人鬼だ。
学園でもちらほらこの手の露出過多な格好を見かけてさすがにどうなのよと一緒に仕事したことのある先輩に尋ねたところ『能力の都合でこういう格好じゃないと体に負担がかかる』といわれた。
世界が露出を求めているとしか考えられない能力の代償である。
このナイフの女性も刃物を扱うのにものすごく素肌晒しているけど、返り血を後で洗い流しやすいからとか痴女みたいな格好になんらかの理由があるのかなーと現実逃避しながらもときの指が本人にしかわからないほどわずかに動く。
その意を受けて1000分の1ミクロン、ナノサイズ程のチタン製の糸が踊るようにしなり殺意の一閃となって襲いかかった。
人間の視力では捉えることなど不可能な不可視の斬撃を
次の瞬間にしなやかなバネのような鍛えあげられた筋肉によって生じた雷光のような速さで美影を斬り裂くための動作はその美しさは傷つけるどころか触れることさえ世界が許さないとでもいわんばかりにあっけなく空を切った。
常人にはあるかどうかすら知覚できない僅かな隙に瞬時に対応してもときの指先は揺らぎ、操る糸は命じられるままに操者を移動させたのだ。
二人を挟む距離は一足一刀の間合いから外れ、戦いは仕切り直しとなった。
「常々思うんだけど見習いの身なのに相手が一騎当千の猛者ばっかで割りを食ってる気がする」
先日の戦闘でまだまだ実力不足を実感して鍛えなおそうとは思っていたが運があるのかないのかあっさり手練にぶつかってしまったもときであった。
登場人物は物語の構造上搦手に弱い女性が多いが逆に言えばそうでもなければ倒せない猛者が多いのが対魔忍世界である。
「うん?」
真面目に戦うとめんどくさい相手なので色仕掛けでもしようと考えたもときはそこで違和感を感じた。
不可視の妖糸をかわす手合いはこの世界で何度か出会ったことがあるが自分の容姿に何の反応もない相手というのは今目の前にいるのが初めてだと気付いた。
気合や根性で耐えるとかそんな次元の美しさではないのだ、同様の美を持ち主でもなければ精神的に対抗できない。
歴戦の戦士であろうとその魔性の美にまったく反応しないのはありえない。
ということは
その事に思い至ったとほぼ同時にもときの操るチタン鋼の糸は死刑を命ぜられた処刑人がギロチンを作動させたかのように
「ふーん、
そういうと口うるさい幼馴染達にしかわからないであろうわずかばかりいつもより緊張していた顔が常日頃の春風駘蕩たる表情に戻る。
当然見えていないであろう相手にはその変化がわからないが次にもときが始めた行動に大いに困惑した。
「僕だよ、僕!今米連施設が襲撃されてる困っているから慰謝料を振り込んで!……え、預かっているウルフィーが騒がしいけどどうしたらいいか?……そもそもペット預けてないけど」
もときが任務時に愛用している黒コートのポケットから取り出した通信機でコントを始めたのであった。
隙を誘う為というには過剰かつ無防備な仕草にどうしたものかとわずかに考え、ナイフを構えてそのまま突撃した。
自分の能力に対する絶大な信頼によりどんな行動をとっても対応できるという自負があるからである。
その考えが誤りであると彼女が知ることは永遠になかった。
もときに対してナイフで斬り込める間合いに入る直前に
「……おや終わった? いやこちらの話それはそれとして本当に手当ぐらいは頼みますよ、ではまた」
懐に通信機を仕舞い首なしになった死体を眺めた。
どういう理屈かは知らないが相手は攻撃される直前には回避行動をしていた。
攻撃が届く瞬間にはもう別の位置に移動しているのなら当たるはずもない。
もしかしたらヘルメットになんらかの仕組みがあるのかもしれない。
視力を封じるかわりになんらかの察知能力があがるといったところであろうか?
音も出さないように工夫し斬りかかる妖糸の攻撃を避けたことから聴覚ではないと分かった。
となるとわざわざ露出度の高い格好にしていることから触覚の類だと判断。
攻撃の直前に避けたことから敵意や害意の類を文字通り
なら敵意や害意の感じられない方法を取ればいい。
「本当にこの糸は便利」
つまりこちらから攻撃するのではなく相手が自ら武器に飛び込ませればいい。
ワイヤートラップの要領で相手と自分の間に妖糸を張っていれば攻撃手段がナイフによる接近戦しかできない相手はいずれ自ら切断される。
間にある糸を見抜いてそれを考慮した行動したとしたらこちらから攻撃を続けて仕掛けた位置へと誘導すればいいだけの話である。
それが通用しなくてもやろうと思えば一度に数千もの斬撃を時間差で放てるもときは手数で圧倒できるためどちらにしろ敵ではなかったのだ。
「対人戦では有利だけどドローンとか無人兵器と地雷やワイヤーなどの罠には悪意もなにもないので効果はないし装甲を纏えない分不利なんでいささか浪漫がすぎたね」
そう言って死体に背を向けて歩きだした。
美しい顔にはもはやなんの感情もなく。
その背後で戦場後に漂う硝煙と血の臭いは風に導かれ月と星が輝く夕闇の空へと向けて旅立ち始めたのだった。
3、
「小太郎ちゃん何読んでるの?」
教室でいつものように本を読んでいたら声をかけられたので本から顔をあげると馴染みの人物である蛇子がいた。
その後ろのにはいつものように鹿丸もいる。
無言で本の背表紙を見せる。
「『サービス終了前に無料ガチャ祭りしているソシャゲで最上級レアキャラを揃えた瞬間に異世界に!?』」
「ああ、『なれた』系小説ってやつか面白いの?」
『なれた』とは素人の小説投稿サイト『作家になれた?』のことである。
素人が書いたので相応の出来な作品が大部分を占めているが中にはプロ顔負けの作品もあり、そこから実際にプロになりアニメ化や実写化もしたりする作品もあるサイトである。
様々な作品があるがランキング上位は異世界へ転移したり転生したりする『強くてニューゲーム』な内容な作品が多いので『異世界』ということばが出てタイトルが長いと『なれた』系作品と呼ばれたりする。
「思ったよりは面白かった。 ゲームのバランスがトップレアキャラ揃いの重課金前提で無課金や微課金勢が居着かなかったせいでサービス終了になったけど無料ガチャをヤケグソ気味に確率上げて大量に配布した結果、キャラが揃ってバランスが取れて実はゲーム自体はシナリオもシステムもいい難易度だけが問題な名作だったという設定が割と面白いな。
仲間は強いけど主人公がゲームのことを全く知らないでやったので実質『なれた』系というよりも普通にファンタジーな作品だったけど」
「それだったら最初から異世界に行ってファンタジーをするのじゃだめなの?」
「よくわからんがゲームの世界へ強い状態で行くという様式美が大事らしい」
「ふーん」
時子に財布を握られて日々の小遣いのやりくりに苦心している身からすると無料でガチャを回して最高レアを揃えるという設定は非常に憧れる。
無断でゲームに課金しようものならどんな目に合わされるか……。
「あー課金しても困らないぐらいの小遣い欲しい」
「そういえば知ってるか? こんな噂があるんだけど」
「噂?」
・
・
・
「おい、秋! 聞こえているのか!?」
「うーん……?」
もときは自分を呼ぶ声に目を覚ました。
教師がなるべく授業中に視界に入れないように教室の窓際の隅の席にいるため、窓から差し込む暖かい日差しについ眠気を誘われてうたた寝をしたようだ。
目をこすり顔を上げると、秋山達郎の姿があった。
その目をよくみるとコンタクトレンズをはめているのが分かる。
しかも周囲を見渡すとクラスメイトの全員が装着済みである。
もときの美貌を直視して
特殊なコンタクトレンズでもときの顔がぼやけて見えるので授業中は装着を義務付けられている。
もときを見たことのないものは技術と予算の無駄遣いと叫ぶが、それ以外のものは必需品として非常に重宝している。
「お前、今朝説教されたばかりなのに授業中に寝るとかほんと図太いな」
「ん〜、そう? でも任務で疲れてるからしょうがないし」
先日の任務でも持ち場を離れたりして効率のいい方法があれば命令無視の常習犯だるもときには日常的に注意や警告など指導が絶えないのだが「だったら仕事を回さなければいいのでは?」とまったく気にせずにいるので反省の色が全く見えないもときに対して説教の時間は日々記録更新しつつあった目指せ授業時間超え。
しかし当の本人はそんなことなど忘れたかのように教室に戻った後にすぐ授業中に昼寝をしているのである。
「しょっちゅう寝てばかりなのになんで成績がいいのか……」
「テストの点はちゃんととってるから?」
「だからなんで点とれるんだよ!」
本人も忘れつつあるが秋もときは転生者である。
生まれ変わった体があまりにも前世とかけ離れすぎた美貌なのと、魔界都市<新宿>ほどではないがこちらも大概な世界での非日常を送ったことでもはや前世の記憶は朧気ではあるが知識は一応保っている。
教師がこちらをなるべく見ないようにしているため内申点はテストだけで判断しており前世が勉強家だったのか、戦闘関連の授業が中心で学業は最低限の基礎ぐらいしかやらない対魔忍の授業内容ぐらいは昼寝しても問題ないのであった。
「まあいいや、学園長が呼んでるからさっさと行ってこい」
「はぁ」
・
・
・
「『深夜学校の屋上で携帯電話に特定の番号で電話を掛けると願いが叶う』?
……よくある学園の怪談では?」
「ええ、問題はそれで実際に試すと言っていた生徒が行方不明になっているのよ」
「はぁ、……それを探せと?」
「ええ、いつもそういうことの解決を頼んでる子がその当事者になって行方不明になって……困ったものだわ」
対魔忍世界も魔界都市並にオカルト要素が強いなと思いながら、行方不明になった生徒の写真をもときは手にとった。
そこには「ふうま小太郎」「上原鹿之助」「相州蛇子」の姿が写っていた。
性春姫その3 に続く?
「決戦アリーナ軸の世界といったな? あれは嘘だ」
いや、完全にIFにするか性春姫の世界だけにするか考え中なので
もしかしたら別タイトルに区切るかもしれません。
対魔忍RPGはゆきかぜの実家がお城みたいだとか面白い情報が出てるので
ストーリーは面白いですが
決戦アリーナみたいに携帯のブラウザでプレイできないのが難点ですね
まさかこの時点でアクション対魔忍がでるとは読めんかった。