ヒガンの先に 作:霊界案内人
「相変わらずだね、あんたも」
「そうですか?」
「そうさね。こんなおばさんの顔なんて、見に来たって何も面白くないだろうに、毎度毎度飽きないもんかね」
「飽きないですよ。飽きるわけないじゃないですか、幻海さん」
人里離れた山の上に立つ一つの道場。広く、大きな建屋とは裏腹に、どこまでも静かで寂しげに沈んだ建物。私と幻海さんはその中の一角、母屋の居間でお茶を飲んでいる。
門下生はなく、広い施設を維持するための人員もない。ただここに住まうのは幻海さんただ一人。
研鑽する相手もおらず、継承する弟子もおらず、気心の知れた仲間もいない。まるで世捨て人のような有様。
「それに私がこないと幻海さん、話し方を忘れちゃうんじゃないですか?」
「生意気言ってんじゃないよ。それに私だって霞を食べて生きているわけじゃないさ」
「だといいんですけど」
「まったくもって口が減らないね」
「幻海さんに鍛えられましたから」
私がそう嘯けば、幻海さんは呆れたように胡乱げな眼差しを向けてくる。なんとなくいたたまれない気持ちになり、目の前の湯呑みで視線を切るため茶を飲む。
「やれやれだね」と、呆れ声が聞こえた気がするが気のせいだろう。
「それで? 今日は何しに来たんだい」
「用がなくちゃ来てはいけませんか?」
「そうだって言ったら来るのをやめるのかい?」
「やめませんよ」
「物好きめ」
「意固地さんに言われたくないですよ」
「次は手が出るよ」
「良いですよ。修行になりますから」
何処吹く風と受け流せば、疲れのこもったため息が帰ってきた。
こんななんでもないやりとりにも随分と慣れたものだ。
それぐらいには時間が流れてしまっている。過ぎ去ってしまっている。
流れた時間の分だけ、幻海さんもまた少しだけ老けられた。
小さな罪悪感に視線を落とせば、湯呑みにあの時から欠片も変わらない自分が写った。
言葉にできないもどかしさで口元がきゅっと引き結ぶ。
「まだ諦めてないのかい?」
俯いた頭に幻海さんの言葉が落とされた。
なんのことであるかの明示はない。それは何を指しているかなんて言葉にするまでもないからだ。
迫り上がる感情を一度、自らの内で吞み下す。けれども動揺は隠しきれず、手に持っていた湯呑みの茶が、小さな波を立てていた。
「……諦めるも何もまだ何も始まってません。まだ何もできていません」
「そうかい」
短い返答。しばしの沈黙がおりた。
「幻海さんは……幻海さんは良いのですか?」
「良いも何も終わった話さ。私は終わったことに後悔も未練も引きずらない性質でね」
「終わってないです」
「終わったさ。私の言葉はあいつに届かなかった。それが全てで、それが結末。だからこの話は私にとってはもう終わった話なんだよ」
毅然と言い切る幻海さんへ言い返せない。その時その場にいなかった私に、その時その場にいた幻海さんへ返す言葉があるはずない。
原因の一端となった自分がどの面下げて、彼女を責められようか。責められるべきは私であるのに。けれども幻海さんは私を責めないし、見捨てもしない。
甘えている。その自覚が痛いほどあるのに、私はそれをやめられないでいる。なんと愚かで浅ましい人間なのだろうか、私は。
心身ともに、惰弱な自分を殺したくなる。あの時に力があればと、未練は尽きない。
「ま、あんたにどうこうしろなんて、強制するつもりはないから、そう自分を責めてやるな。ただ口うるさい奴だくらいに思っておきな」
「……ありがとう、ございます」
いつでもやめて良いんだよ。そう言われているようで、気を使われていることが苦しかった。ちゃんと笑えて言葉を返せただろうか。
また会話が途切れてしまう。今日はよく気まずくなる日だと思いながら、乾いた喉を茶で潤しつつ無言の時間を誤魔化す。
何を話題にして空気を変えようか。そう思案している時だった、無遠慮なそれに気がついたのは。
視線を開け放たれた障子の外へと向ける。私の変化に幻海さんも気がつき、そして幻海さんもそれを捉えたのだろう。
礼儀のなっていない無礼者たちに。
「数は……一、二、三、四…………五、ですかね」
「私のよりもあんたの霊感能力のが上なんだから、あんたがそう言うならそうだろうね」
否定は返ってこなかった。霧のせいで分かりにくい妖気もあるが、五人で間違いないだろう。
山裾に広がる森に、うっすらと霧が広がり始めていた。不自然な風が広がっていく霧を拡散しないように押しとどめているのがわかる。
逃す気はないとの意思の表れか、妖力を帯びた霧は山を取り囲むように広がり、徐々に頂上のここへと魔の手を広げている。
「最近はご無沙汰だったけど、また随分と手の込んだ襲撃だね」
「呑気ですね」
「あの武術会以来どうにもその手のバカが増えてね。全員ぶっ飛ばしてやってたら大人しくなったから放っておいたんだが、キツイ仕置きをしておいた方が良さそうかもしれないね」
「もっと私を頼ってくださっても良いんですよ?」
「馬鹿言うんじゃないよ。喧嘩を売られたのは私だよ。なんなら今から櫂に乗って霊界へ帰っても構わないよ」
「構いますよ。友人を放って帰れるわけないじゃないですか」
幻海さんの返答が一瞬遅れる。「そうかい」と短い言葉が返ってくるが、その声色からは優しい柔らかさを感じた。
「それじゃあ獲物は早い者勝ちで行こうか。せいぜい死なないように粘りな。すぐに助けに行ってあげるよ」
「過信しない程度にせいぜい気張りますよ」
「良い心がけだね」と幻海さんは不敵に笑い、一足先に飛び出していった。すぐにその姿は霧へと消えていくが、彼女の強い霊力は妖力の霧の中であっても手に取るように追うことが出来た。
少なくとも何かあれば霧の中でもすぐに駆けつけられそうだ。ならばと私も霧の中へと身を踊らせる。
もはや怯えて震えるだけではない。潰煉クラスには今でも勝てはしないだろう。だからといって、どの妖怪にも勝てないと言うわけではない。
私は師匠の元で研鑽を積み、死後も幻海さんと共に練磨している。二人の偉大な先達に導かれているのだ。いつまでも半人前ではない。
「臭い……」
霧に飛び込み、はじめに感じたことはそれだった。妖力を含んでいるから妖怪臭いとかいう話ではない。純粋にこの霧が臭いのだ。
毒を含んでいるから臭うとかではない。これは、汗の匂いだ。それがひどく鼻につく。
視界はほとんど効かない。自分の手の届く範囲がせいぜいといった程度。それより先は白に染まっていた。
「ッ!!」
走っていた足を止め、すぐさま後方へと飛び退く。
直後、先ほどまで居た地点から破砕音が響いた。
一足飛びで下がりすぎたせいで、何がそこを破壊したのか、目にすることはできなかった。
だが襲撃があったことは明白だ。
「よく気がついたな」
「随分と臭いましたので。水浴びをされることをお勧めします」
霧の中より男の声が聞こえた。賞賛しているような言葉でありながら、声色には随分と嘲りが混ざっている。
こいつらは幻海さんを殺しにきたのだ。たまたま居合わせた羽虫くらいにしか私のことを考えていないのかもしれない。
幻海さんは人間界で、五指に入るほどの霊能力者と言われている。そしてそれと同等の者が都合よくいるなどと普通は思わないし、幻海さんを殺せると思って来ているのだ。
それより劣る者の一人や二人、ものの数ではないと驕っているのも道理。
「哀れだな。殺されると理解しての抵抗がその罵倒か」
「面白い冗談ですね。抵抗はこれからですよ」
両手に霊気を纏い、武器の形へと押し固める。握る武装は一本の杖。
作り慣れたそれは実によく手に馴染んだ。けれども相手はお気に召さなかったらしい。嘲るような笑いが霧の奥より漏れ聞こえる。
「何を出すかと思えば、棒切れ一本。馬鹿にして俺様の気分を逆なでするつもりであったなら大成功だ、小娘」
「突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀、杖はかくにも、外れざりけり」
「なんだ、変わった念仏だな」
「聞き覚えはないようですね。それでは、存分に味わって後悔なさい」
相手はこの霧の中でも、何かしらの手段で私のことを把握しているらしい。私から相手が見えないなら、相手からも私が見えないはず。
だが相手は霊気で作った武器を、見えないながらも言い当てた。そのことから相手は正確に私のことを、視覚以外から把握する術があると言うことだ。
霧の術者か、もしくは霧の術者からの手助けがあるのか。どちらもありそうだが、恐らくは前者。私の霊感能力がそうだと肯定している。
「まあなんとでも言え。さっさと片付けてあちらへと合流せねばならんからな。幻海殺しに関わったと関わってないでは、評判に天と地ほど差が出る」
「そう……」
幻海さんを殺す。相手の狙いは想像通りだが、改めて言葉にされると、心がいっそう冷えていく。
彼女を害そうなどと言う戯言、到底許せるものではない。たとえ幻海さんが自分で問題なく全てを蹴散らせるとしても、害意を向けることを、牙を向ける者を私が許容できるかは別だ。
それほどに、私は幻海さんに懐いているし、敬愛もしている。
だから。
「なら死んでいきなさい」
ここで殺す。
霊気を身体に巡らせる。ぐっと踏ん張り、声の方へと突貫する。
飛び退く前の私がいた場所が視界に入る。拳の痕と、小さいが陥没した地面。腕力に自信あり、武装は無しと言ったところか。
だがそこに襲撃の下手人はいない。あたりは霧に覆われて、姿は見当たらない。
「ふっ!!」
だが問題ではない。自身の斜め後ろ。右肩後方めがけて、振り向きざまに杖を薙ぐ。
「なっ、見えているのか!?」
驚愕の声。不意を突いたつもりだったのだろう。だが視えている。
霧と同質の妖力が、これでもかと感じられる。母屋にいた時は、遠いために判別が難しかったが、ここまで近づけば察知できる。
水に沈むガラス玉のように、同じ透明でありながらそれを識別できるように、妖力の霧の中の妖力の塊は判別できる。
師匠は多分できないが、幻海さんなら苦もなく同じことができるであろう。これはその程度の芸当だ。
だがお相手さんもそれで呆気なくやられるほどでもないらしい。
反射的に杖の軌道上に腕を割り込ませ、防御ののちに一発をお見舞いする算段のようだ。右腕で守りつつ、引かれた左拳は固く握りこまれている。
だが甘い。甘すぎる。
「払えば薙刀」
言葉に合わせ、杖の先が形を変える。私の殺意を具現する。
相手の息を呑みかける音を、その腕ごと切り捨てる。
抵抗は一瞬。わずかに骨で抵抗を覚える程度で、腕の切り落としは成った。
「っ、ぐぁぁぁぁぁぁぁ!! 俺の! 俺の腕がぁぁ!!」
痛みと腕を失った驚愕に、相手の攻勢が止まる。たたらを踏んで失った腕先へと視線を送るのは悪手に過ぎるだろう。
「突かば槍」
振り切ったままの薙刀は、刃先が自身の背後へと流れている。それを正面へ引き戻し構えるのではなく、持ち手の向きを反転させる。
石突を先端とした順手持ちになるよう、手を返す。そのまま薙刀の石突部分を相手へ向ける構えにすぐさま切り替え、槍のように突き出す。
振り切った薙刀を止め、振り直すよりも圧倒的に早い速度で第二撃が、狂乱に叫ぶ相手を襲う。薙刀部分の刃が消え、石突から槍の穂先が伸びる。
「う、おぉぉぉお!!」
すんでのところで相手も反応した。喉を狙った突きは、わずかに薄皮を掠っただけに終わる。
「ころ、殺してや──」
恐怖に引きつった顔をしながらも、相手は一歩踏み込んできた。槍の柄の間合いに入ればというとっさの判断。悪くない。悪くないが、これで積みだ。
「──持たば太刀」
柄が持ち手部分を除いて、鋭い刃を剥き出しにする。相手の目が見開かれ、瞳に卑屈な色が宿る。
「た、助け」
「死ね」
慈悲はない。幻海さんを殺しにきたのだ。また、私の大切な人から何かを、命を奪いにきたのだ。速やかに死ね。
ひゅっという小さな風切り音。首を断たれた男の体が、一瞬の静止ののち、ぐらりと崩れ落ちて頭部が転がる。
上を向いた頭部と目が合う。一度、二度。瞬いたのち、もう動くことはなかった。命が消え、妖力も薄まっていく。そして霧も薄れていく。
幻海さんは大丈夫だろうかと意識を向ける。流石に戦いながらも幻海さんの霊力の気配を追うことは難しかった。その程度には、先の男の妖力を、同質の妖力を含む霧の中から識別するのは集中力を必要とする作業であった。
「三人か」
大きな妖力が一つと、それより劣る妖力が二つ。けれども幻海さんが優勢に立ち回っていると感じられた。手助けは必要なさそうだが、あればあったで、多少はこの面倒ごとが早く終わる程度の助力は出来るであろう。
ならばと一歩踏み出そうとして、跳躍して近場の木の枝に飛び乗る。
「そういえば五人いましたね」
見下ろした先の地面には、腕が二本生えていた。実に奇怪な光景だが、妖怪が相手なのだ。そんなものだろうと動揺はない。
「よくぞ気がついたな」
腕が沈んだ後、ずるずると黒ずくめの男が地面からせり上がってきた。髪型も相まって新種のきのこにも見える。まるで食欲は湧かないが。
「汗かき男の次は、もぐらもどきですか。女性の足元から挨拶をしようとは、先の男といい変態集団ですか?」
「貴様……あやつを始末したくらいでいい気になられては困る。此度の任における参加者であやつは最弱。それで私の力までも侮られては困る」
「……仲間が殺されたのですよ。恨み言の一つもないのですか?」
「すでに技は継いでいる。ならば弱者の生死など些事だというのだ」
男の妖力には欠片の揺らぎもない。本心から仲間の死を些事だと思っている。自分で殺した相手ではあるが、少しだけ憐憫の気持ちが湧く。
遺体はちゃんと弔ってやろう。そう思う程度には同情が湧いてしまった。
「敵の技を明かしたことについては評価してもいいがな」
「そうですか……私であればたやすく勝てると?」
「赤子の手をひねる程度にはな」
侮ってくれる相手はやりやすい。それは実に行幸な話だった。
枝から跳び、地面に降りるとすぐに霊気の杖を生成する。
「少々の変形があろうと所詮は棒の間合い。そして刃になろうとその程度、我が修羅粘土闘衣を貫ける道理はない」
相手が妖力の圧を増し、全身に力を込めて力めば、足元から土がズルズルと這い上がり、男の体を包んで行く。そしてそれはやがて鎧を形成した。
「武装を作るという意味では同系統の能力と言えるかもしれないが、私と貴様ではまるで話にもならん」
「随分と饒舌ですね。緊張を紛らわせているのですか? それとも」
杖を構える。それは本来の杖術からすれば特異な構えかもしれない。例えるなら釣竿を投げ込む前の溜めの姿勢が一番近い。
「不安な心を鼓舞しているのですか?」
「この私を舐め」
相手の言葉に興味はない。私の挑発に目を剥いて怒りを表す相手の隙をつく。
杖の間合いへ入れるには、十メートルは接近しなくてはならない。だからこそ、間合いの外だからと相手の油断を誘える。
引き絞った杖を全力でふり、頂点付近で急制動をかける。しなやかさを持たせて作った杖がしなり、その先端五センチほどが切り離される。飛び出す先端と杖の先は鎖状の霊力で繋がっている。
「ッ! 姑息な!」
やはり回転させてからの、遠心力を乗せた投擲ではないため速度はお察しか。幾分かの余裕を持って回避されてしまう。
これで鎧のない剥き身の頭でも砕けたら楽だったのにと小さな落胆とともに、柄を振り戻し、分銅部分を引き戻す。
「鎖付きの分銅? 武装は一つではないということか。面倒な」
「霊気で形作っているのです。武装が一つである道理はないでしょう」
杖を変形させるだけだと認識していたのだろうが、私の霊能力はもっと広い範囲を押さえている。一芸特化の達人ではない。武芸百般にして千変万化。それが私の
「霊装万化」
分銅を戻し、杖に戻した武装を変成させる。しなやかさを持った柄は鎖に、両端は分銅と鎌に。ぶぉんと風切り音が一度、二度と音を重ね、ついには回転する軌跡に残像を見せる速度で回転を始める。
「さぁ、始めましょうか」
返答はいらない。勝手な意思表明だ。
全力で右手で回す分銅を投げつける。先の速度と比にならないそれは、相手の余裕を奪うには充分だった。
躱そうと身体をずらした相手の肩装甲に当たり、大きく身体を仰け反らせ、肩に纏われている装甲を破砕した。
それでも相手はすぐさま態勢を立て直し、身体を低く構え突進の姿勢を見せる。
だが相手の踏み出しよりも早く、私は右の分銅を引くための身体の捻りに合わせ、回転させていた左の分銅を、相手の顔面めがけて投擲する。
相手の顔に驚愕が浮かぶ。主にとどめに使われる鎌だけならば近づいてしまえば容易いと考えていたのだろう。なるほど、道理だ。
だがいつでも刃を形作れるのなら、鎌にしたまま手元に置いておく死に武器にしておく理由がない。
相手の意表をついた分銅はギリギリで直撃を躱された。だが兜状の防具と防具に隠された耳を削り取った。
「小娘風情がァァァ!!!!」
相手の怒号に合わせ、地面が蠢く。足元から土を吸い上げ、防具の厚みが増していく。顔を剥き出しにしていた兜も、口元を隠し、目元だけを露出していた。
どうにも本気にさせてしまったらしい。侮ってくれているうちに、終わらせられたら楽だったのにと嘆息する。
鎧を見るに、撃ち抜くには今までの火力ではやや不足しそうだ。衝撃を与える瞬間に分銅の霊気を増やし、質量を増加させて対応するか。
または別の武装を使い、鎧のつなぎ目である関節部を狙うか。
私は次なる方策を練ろうとし、気がついた。
「終わりですね」
「貴様風情が! この私に!! すでに勝った気で──」
構えを解いての私の勝利宣言に、相手が激発した。だがそれも最後までは続かない。
横合いから突如現れた特大の霊気の弾丸が男を飲み込んだ。
断末魔の悲鳴もなく、相手は絶命した。着弾地点には遺体の残りすらなく、ただただ破壊の痕だけが残っている。
「一対四ですか。二人は持って行きたかったのですが、まだまだですね」
「そう思うんなら納得いくまで精進することだね」
「そうですね。せっかくですからこの後一手ご教授願えませんか?」
「そいつは残念ながら無理だな」
「どうしてですか?」
「今のあんたは汗臭いからお断りだね。それが嫌ならうちで風呂でも入っていきな」
意地悪そうな顔で笑う幻海さんからは、いつもと変わらぬいい香りがした。なんでも後で聞いた話では、幻海さんの方には風使いの敵がいたため、霧の中での戦闘にはならなかったそうだ。
助力をしてもらったのに釈然としないのは何故だろうか。私は借りた風呂の中で小さく不満の吐息をこぼした。