▼星合千晶(クリスティアナ)
個性;血液操作・英霊召喚
最後のマスターの片割れとして人理修復の偉業を成し遂げ、亜種特異点修復後に聖杯を用いてBBB世界に帰還したルートの嬢。そのため、カルデアから贈られた『
とはいえスタート時点で血法だけでもかなり優位な上、サーヴァント一体でも強力すぎる(宝具なんて周囲被害考えるともっての外)ので、英霊召喚も個性登録は公式にしているが、授業では全く披露せず。一応霊体化したりして傍には誰かしら控えていたりする。クラウスの指輪同様、『瑠璃の金環』も普段から身に付けている。
オールマイトに拾われる下りは全く一緒だが、住む場所を決めるに当たっては子ギル・巌窟王などの黄金律スキル組が株で一山当てて、一人暮らし用の部屋ではなくセキュリティ完備の広々とした高級マンションを買った。勿論キャスター陣がすぐに陣地作成で拡張・工房化したのでプチカルデアとばかりに常に何人も英霊が現界している。
英霊があまりに強力すぎるのを懸念した塚内・オールマイトの提案で、英霊召喚については表向き秘密にすることに。ただ諜報・回復系宝具があまりに魅力的すぎるので、政府とリカバリーガールの審査・許可を経て、有事の際の個性使用許可資格を所有している。
本編よりもヒーローになることへの執着が輪をかけて薄い。雄英に通うのは保護してくれたオールマイト・リカバリーガールへの恩返しと、ヒーローを目指すように思わせておけば政府からの監視が緩むため。
しかしヴィラン連合とかいう厄介な敵も出てきたので、能ある鷹は爪を隠すで体育祭など敵も見るような場所では全くそぶりすら見せないまま学生時代を過ごす(が、百貌のハサンやアサシン勢を使って情報収集は怠らず)。
たまに私服姿のカルナや頼光、玉藻、ケツァルコアトル、巌窟王など過保護勢や、子ギルやナーサリー、ジャックなどを引率したエミヤなどが雄英まで様子見がてら迎えに来るのでとても目立つ。周囲からは顔面偏差値の暴力とか思われていたり、人種も年齢もバラバラ、名前が悉く英雄と同じな“家族”を疑問視されるがのらりくらりとはぐらかしている。話術EX。
合宿編でやっと英霊召喚。しかもスキル『情報抹消:B』『霧夜の殺人:A』『気配遮断:A+』を持つジャックに指向性の硫酸の毒霧『
ある意味硫酸の霧を吸った上にナイフで滅多切りにされるという死んだ方がマシな状態にはなるのだが、命は取らないだけ温情だし殺す気でそっちも来たのだからと自業自得と冷たく割り切っている。嬢はエンカウントしていないので知らないが、トガちゃんだけ『
死なない程度に心を折ることを目的にしていたので、実は毒の全体宝具の酒呑でも良かったのだが、指向性がないので味方を巻き込むこと、万一酒呑童子の姿を見られたら覚えてしまうのでジャックにしたとのこと。
カルナは冬木で召喚した最初のサーヴァント。立香とマシュのような相棒関係にある。隣にいるのが当たり前。
聖杯を捧げてレベル100、スキルマ、フォウマ済みの絆10。クリスのサーヴァントと言えば真っ先にカルナの名前が上がるほど。主従であり、相棒であり、兄妹のようであり、特別な思慕を向け合う関係性。周囲には恋人か何かと疑われるレベルの仲睦まじさ。
ただ異世界召喚可能になってからは大英雄クラスとあってわりと燃費の悪さが露呈するので、省エネモードで人目のないところや気にしなくていい場所ではスキンシップが多い。
アンデル先生「仲のいい兄妹かお前らは、いや兄妹でもそこまでやらんぞオイ聞いてるのか施しの英雄」
→トガとジャック・ザ・リッパーの邂逅(トガちゃんSAN値チェック描写、当社比でグロ成分多め注意)
殺人者と殺人鬼の邂逅。SAN値的にこれも運命か。
夜の森が燃える。夜闇を紫色の炎が染め上げていく。同時に薄っすらと立ち込め始めた霧のようなものを目で捉える。……ただの霧にしては明瞭すぎるしこの夜の気候条件に適していないし、妙に停滞している。……毒ガスか。
敵襲。
そこまで思考が至った、わずか一秒にも満たない時間で、私は初日に森を駆け回って仕込んでいた守りのために地に打ち込んでいた少量の血液、それを薄く地中に張り巡らせることで敷いたセンサーを起動させる。無用であればいいと仕込んでいたものを使うことになるとは皮肉だ。センサーが示す反応は、明らかに学生といるはずのプロヒーローとの数と合わない。多すぎる。肝試しのために森の道に沿って待機している生徒から離れたところから、道なき獣道を縫うように移動している人間がいる。その数9人。それらに地中を介してごく少量の血でマーカーを打つ。全てはこの後の布石のために。
その中でも道なき森の中を不穏な動きで移動する誰かがこちらに近づいている。それを感じ取った私は、木の上へ飛び上がって息を潜めた。意思を自らの内へ押し込める。気配を絶つ。身体をごくごく薄い水の膜で覆い、幻術をかけて姿を消す。
そうして待つこと一分もせずに現れたのは、腕を拘束具で締め付けられた、開口器を嵌めた異様な風体の男だった。目は明後日の方向を向いて虚ろ。歯が奇妙に直線状に枝分かれしながら伸び、地面に鋭く突き立てることで素早く身軽に動いている。……遠目でも、あれは殺し慣れた者の動きだと思った。容赦なく叩き潰して良い類の、放置すれば他の生徒に軽くない危害の及ぶヴィランだと判断し──私に気づかずに通り過ぎようとした男の頭上に幻術をかけたまま飛び降り──風圧でかろうじて反応した男が完全に振り仰ぐ前に、その脳天に踵落としを決めた。接触と共に血液を付着させ、絶対零度の小針で全身を瞬間凍結させる。
男は何が起こったのか知覚するまえに、思考ごと冷凍された。かろうじて生命活動ができるレベルの冷凍だが、指一本動かせない硬度の氷であり、細胞レベルでの氷結では急激な体温低下に意識はシャットダウンされる。手練であろうと抵抗不可能な状態にせしめ、私は地面に降り立つと同時に幻術を解いた。
「……ヴィラン連合の襲撃か。USJのときより尖兵のレベルが上がってるな」
楽しいはずの合宿をぶち壊しにする闖入者の出現に苛立ちを覚えながらも、思考と手は止めない。センサーで大まかな人間の動きを把握しながら、取るべき手段を思い巡らせて、ついに表立って起動することのなかった最終手段に触れた。右手の人差し指に輝く金環、黄金の願望機が形を変えた指輪を。
『このような場まで来るとは、穏やかではないな』
「……カルナ」
独り言に応えたのは、霊体化した相棒、漆黒の日輪であるカルナだ。静かな声は苦慮を滲ませて、普段のそれよりも少し低い。一瞬の躊躇と苦慮の後に、私は彼に告げた。
「霊体化を解いて、カルナ。この森は広い……私一人では手が足りない。合宿をぶち壊しにしてくれたおめでたい連中に知らしめなければ気が済まない……自分たちが何に手出ししたのかを、骨の髄まで」
『構わないが……我々の存在を明かして良いのか? お前の望むところではないだろう』
カルナの平坦な声は僅かに憂慮に滲んでいる。
人類史を彩り、繁栄の中に刻まれてきた偉大なる過去の人間の影法師。英霊一騎だけでも一都市、一国を滅ぼすことも不可能ではない一騎当千の実力者たち。本来は人類の危機に際して呼び出される人類史の守護者たちだ。たとえ一つのクラスという枠に実力を抑えられ、生前に比べればダウングレードしていたとしても、スキルひとつ、振るう技のひとつさえ、人外の膂力や俊敏性、技術に相当する。個性という本来の人間から離れた進化を遂げたこの世界の人間であっても、戦闘機には敵わないのと同じだ。……あのオールマイトでさえも。それだけ互いには明確で絶対的な力の壁が厳然とそびえ立っている。そも、比較するのもおこがましいぐらいに。
だから、英霊の力を人に明かすのを良しとしなかった。周囲に与える影響が大きすぎる。核兵器に匹敵する熱量のビーム、その気になれば彼岸から魂を呼び戻しその器を癒やすことも可能な神格の分け御霊。声色、吐息一つ、視線の一瞥で対象の思考を泥酔させ蕩かす鬼の酒気。どのようにも利用価値のある特殊な能力ばかり。ひとたび知られれば、善悪を問わず利用しようと擦り寄ってくる人間は数え切れないほどいるだろう。周囲へ牙を向きかねないほどの欲望をもって。……それは、どうしても嫌だった。友人たちの学生生活を壊すことも、今の穏やかすぎるほどの関係性を崩すのも。
だが、そんなことを言っていられる状況ではない。ガスと炎。あちらは本気で生徒が死んでも構わないと思って襲撃を仕掛けてきている。……出し惜しめば、誰かが死んでも不思議ではないほどの状況。
だから私は、なんでもないように、心配しないでと笑いかけた。
「戦力を出し惜しんで間に合わずに誰かが死ぬより、厭うことはないよ」
『……承知した』
風もないのに木々が揺れる。魔力が風を起こし、その中に金の粒子が結集する。ヒトの形を取ったそれは、ほろほろと溶け消えるようにして一人の青年の姿を露わにする。闇夜にあっても目を引く白い髪と肌、夜を切り裂く一筋の日輪を顕す金の鎧。涼やかな蒼氷色が、憂いを乗せて私を流し見る。
「──それがお前の望みなら、叶えるにやぶさかではない」
「ありがとう。……多分あの炎は目くらましと生徒の行動を制限させる目的で放ったんだろう。生徒を大回りさせて教師との合流を遅らせ、撤退ポイントに人を寄せないつもりか……まぁ、何であれありがたく回復に使わせてもらうけど」
本来なら森を燃やす炎は脅威だが、『太陽神の寵愛』で炎を無力化する私にはただの魔力回復のための餌でしかない。彼女をここに呼び寄せ、宝具を使ってもらうぐらいの魔力は賄えるだろう。もう一人召喚するサーヴァントはとうに決めていた。
この状況で最も輝くサーヴァント。機動力があり、特定条件下での隠密性に置いてはトップクラス。アサシンの語源となった山の翁ではなく、霧の都市で暗躍した
「──私たちを呼んだ? おかあさん」
ジャック・ザ・リッパー。カルデアの基準で初代”山の翁”や最後のファラオ、平安を脅かした蒐集家の鬼と同列に成長する最高クラスの
「ええ。ジャック。早速でごめんね、宝具『
「? 解体しちゃだめなの?」
「良いと言いたいけど、そうすると今後私が動きにくくなってしまうから。それに、のこのこやってきた斥候に、とんでもないものに手を出したとボスに報告してもらうためにも殺すわけにはいかないわ。……ジャックには我慢をさせてしまうことになるけど」
『暗黒霧都』は産業革命時代のイングランドを包んだ硫酸の霧を振りまく結界宝具である。霧によって方向感覚は失われ、魔力で生まれた硫酸の霧は呼吸器に一定ダメージを与え続ける。直感B以上のスキル、あるいは魔力を払う魔術でなければ永遠に迷い続けるこの宝具の最大の利点は、効果範囲の広さに反して、霧の中にいる誰に効果を与えるか、与えないかを宝具使用者が判断できるところにある。同じアサシンの酒呑童子のスキル『果実の酒気』あるいは『千紫万紅・神便鬼毒』は範囲内の人間を平等にターゲットにしてしまうが、『暗黒霧都』ならば、襲撃してきたヴィランのみを迷わせ、肺を冒し、解除するまで退却も許さない。二度とこんな真似をさせないように徹底的に心を折るのには最適だった。
とはいえ、久々の戦闘なのに彼女の在り方を否定しかねない「殺さないで」を命令するのは、若干申し訳無さもあるのだが……ジャックはぷるぷると小動物じみた動きで首を横に振った。
「ううん! おかあさんのお願いだもん、我慢する! 殺さない程度に切れば良いんだね!」
「お願い。ああ、あと『
「宝具はだめ、だね。わかった! 行ってくるね!」
「頼むよ、ジャック」
「うん!」
ヴィランの毒ガスよりもずっと濃い白い闇が広がっていく。元気よく返事をしてぴょこりと跳ねた彼女は霧に紛れるように森の中へ消えた。ジャックの気配が一気にスピードを上げて遠ざかっていく。
「私たちも行こうか。炎を消しながら会敵したら応戦、生徒がいたら回収して安全な場所まで連れて行こう」
「了解した。……飛ばすぞ」
本気を出せば空を音速で駆ける大英雄の赤い炎の外套が光を帯び、私たちは紫炎が森を燃やすエリアへと中空に駆け上がるのだった。
**
「解体するね」
白髪に頬と目元に傷のある小さな女の子は、にっこりと笑った。逆手に持った大振りのナイフが、その愛らしさと対照的で現実味がない。明らかな凶器なのに、あどけない幼女が持つとどうにもちぐはぐで、玩具を手にしているのではと思い込みたくなってしまう。
暗闇の中で芽吹いたばかりの黄緑色の瞳がヤヌスグリーンに炯炯と輝いて、濃い霧の中に消える。姿も、気配も。何も感じなくなった。息がしづらい。炎を呑んだように灼けつく喉が痛みを訴え続ける。
この時トガヒミコは己の失策を悟った。
あれに出会ってはいけなかった。せめてあまりに遅くとも、目が合った瞬間にここから離脱しなければならなかった。何故数秒前の自分はあの女の子の異常性に気付かなかった?
そもそもまず、この夜、この場所に自分は居るべきでなかった。
何故なら──最初にナイフで腕を切り付けられた数秒後まで、あの子の存在を知覚できていなかったのだから。
「此よりは地獄。わたしたちは、炎、雨、力────殺戮をここに」
さえずるような少女の謳う声は奇妙に反響してどこから響いているのかわからない。
目を凝らしても、耳を澄ませても、感覚を精一杯張りつめさせても、どこから襲ってくるのかわからない。霧が深すぎて、何も分からない。
ああ、くらくら、する。
トガヒミコにはそれが恐ろしかった。今まで大好きな人を切り刻んで、ぐちゃぐちゃにして、真っ赤な血で彩って。その過程、結果が彼女にとってなによりの愉しみだった。その血で自分が「好きな人」に成るのが、なによりの悦びだった。
そのためには法、ルール、ヒーローや警察の追っ手、自らを「常識」で縛ろうとするなにもかもが邪魔だった。それらを身を潜めて、血で変装して、息も気配も自我も殺して隠れることで撒き続けてきた。
暗殺技術に等しい、気配を断つ術が周囲よりずっと優れていたと自負するトガヒミコだからこそ、そして何より、人を切り刻んできたからこそ────あの少女が自分よりずっと格上で、自分が狩られる立場だと本能で理解した今、身動きが取れないほどの恐怖に飲み込まれた。
「『
動けない。動けない。動けない、逃げられない。怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、ああ、私の
脳裏に赤い光が明滅する。ちかちかちかちかちかちか、ばらばらになった私の無残な姿が走馬灯のように見えて、ギュッと目を瞑って襲い来るだろう衝撃に耐えるために歯を食いしばった、
「あっ」
喉を締めあげていたプレッシャーが一気に緩む。はっ、と反射的に息を呑んで、どくどくどくとうるさい心臓の音を聞きながら目を開くと、幼女の声だけが森の中に響いた。
「ごめんなさい、おかあさん」
「…………え?」
「宝具はつかっちゃだめなのに、わたしやくそく破るところだった。うっかり殺しちゃうところだった」
ほうぐ。おかあさん。一体何の事……────
「だから、殺さない程度に切るね?」
私が最後に視たのは血しぶきと、鈍色のナイフ。えぐられるような重い衝撃。身体中にうまれた熱と痛みを感じながら瞼を閉ざす寸前に……森の暗がりに光る、赤いなにかを見た。
**
「ジャック」
「あっ、おかあさん」
カルナに空を飛んでもらい、ショートカットしてジャックの気配があるところに到着すれば、血で濡れたナイフを手にしたジャックと、セーラー服に何やら物騒な機械を背負った少女のヴィランが倒れていた。ヴィランは遠目で見る限り、致命傷にならない程度の切り傷だけで、腹部を掻っ捌かれているわけでも、内臓が飛び出ているわけでもなさそうで安心した。まぁ中々にエグい絵面ではあるのだが、私設部隊の拷問風景に比べればずっとマシだ。トマティーナも真っ青な、内臓の卸売り市場みたいな血みどろフィーバーな惨状と較べている時点で、私の感性もどこか確実にネジが飛んでいるが。
先程、急に魔力を持っていかれる感覚には少し焦った。ジャックの宝具『
稀代の殺人鬼、ロンドンを脅かした都市伝説の殺人を再現するかの宝具は、強力な女性特攻を持つ。「時間帯が夜である」「相手が女性、または雌である」「霧が出ている」、この三つの条件が揃っている時に宝具を使用すると、対象の身体の中身を外に弾きだして問答無用で「解体された死体」にする、呪いの宝具なのだ。しかもクー・フーリンのゲイ・ボルクの「心臓に必中」と似た因果律の逆転を引き起こす宝具で、まず解体された死体という「殺人」が発生し、その次に標的の「死亡」が起こり、最後に大きく遅れて解体に至るまでの「理屈」がやってくるのだ。結果が先に提示され、最後にその結果を引き起こすための過程が後追いで出てくることになる。
条件がひとつ欠ければ致命傷には至らずダメージを与えるだけだが、一つ揃うだけで威力は跳ね上がる。しかもナイフそのものが宝具なのではなく、正体も動機も不明な「ジャック・ザ・リッパーの殺人」という概念に基づく極大の呪いなので、呪い耐性が無ければ距離は関係なく物理的な防御は叶わず、霧の中なら「必ず中る」ので回避は不可。「ジャック・ザ・リッパーの姿を見た目撃者は居なかった」という伝説から生まれたスキル『情報抹消:B』の効果で、戦闘終了後、目撃者と対象の記憶からジャックの外見特徴、声、能力、行動に至る一切が抜け落ちる。
女性限定だが完全犯罪を生み出す最高の暗殺宝具、それが『
本来なら殺しにやってきたヴィランに手加減する情けは一切かけないのだが、流石にこの合宿所で殺人が起こったら色々と不味い。戦闘許可は出ているが、あくまでヴィランに殺されないよう自衛のために発令されたものであって、ヴィランを殺していいというお墨付きではないのだ。というか、この世界のヒーローは殺人を許されていない。一時的な逮捕が精々だ。探偵と警察が混じったような権限しか持たない以上、間違いなく過剰防衛になるジャックの宝具を使わせるわけにはいかなかった。私が英霊召喚出来ることは一部の先生方しか知らないことだし、相澤先生は不可解な状況下で唯一動きの読めなかった私を疑うだろう。それ以前にこの場で殺人が起ころうものなら、マスコミが黙っていない。雄英へのバッシングは強くなり、世論はヒーローへの疑念に一気に傾く。ともすれば自分も、相澤先生も責任を取って学校を辞める、あるいは刑務所行きの運命だ。それは望むところじゃない。
だからジャックが何を思ってか宝具を使おうと真名解放するのを、令呪で止めたのだ。どうせあと数時間で回復するのだから、取り返しのつかないことになる前に惜しみなく一画使って「強制」した。……間に合って良かった。
「おかあさん、ごめんなさい。わたしたち、宝具つかっちゃうところだった」
「気を付けて……HLと違って、この世界では殺しちゃだめだからね。でもお茶子と梅雨ちゃんのふたりを助けてくれてありがとう、ジャック」
「うん!」
ナイフに付いた血を払ってケースに収めたジャックの頭をなでると、嬉しそうにニコニコ笑う。この邪気のない笑顔とか、ナーサリーや立香のところのアビゲイル、サンタリリィ、バニヤンたちと戯れているところを見ているだけだと忘れそうになるが、ジャックは「堕胎された子どもたちの悪霊」が集まって出来た、いたかもしれない「ジャック・ザ・リッパー」の可能性のひとつなのだ。
「ジャック、先にうちに帰ってて」
「もういいの? 分かった! ナーサリーと待ってるね」
ぴょこんと一つ跳ねたジャックが金の粒子となって融け消える。霊体化ではなく、召喚解除によって指輪の疑似座を通して自宅に戻っていくのを感覚を通して見送った私は、倒れ伏しているヴィランを一瞥した。
「このまま置いておいたら失血死しそうだな、焼くか」
「ああ、うん、お願いカルナ」
「承知した」
カルナが指先をヴィランに向けて振ると、ぽっとオレンジの炎がヴィランの身体のあちこちに灯り、未だに血が流れる傷口を焼き塞ぐ。太陽神の息子であるカルナが操る炎は、本気を出せば周囲をマグマに変えかねないほど高熱だ。だが炎の規模と温度を操ることで、こうした応急処置にもつかえるのだ。……人理修復の旅で、何度私や立香がお世話になったことか。
痛みにかすかに身じろぐだけで、ヴィランは起きる様子はない。……ジャックの殺気を間近で受けて、痛みに気絶したのならしばらくは目覚めないだろう。とりあえず後で回収に来るとして、とりあえず生徒側の現状を知るためにも広場に戻らなければ。
「戻ろうか、カルナ」
「ああ。飛ばすぞ」
魔力放出で空を飛ぶこと数分、森を突っ切って広場に出ると、相澤先生やクラスメイトたちが負傷したりガスで気絶している子たちを背負って集まっているところだった。
「相澤先生!」
「!! 星合、無事だったか! ──……その男は、お前の味方か」
「はい。私の個性で呼び出した、大事な英霊です」
「……そうか」
私を担いでいたカルナを見た瞬間視線を鋭くしながらも問う相澤先生に首肯すれば、彼は溜息と共に瞼を降ろした。すぐに気を取り直すところはさすがだ。
「重体の人はどのぐらいいますか」
「催眠ガスで意識不明が10人以上、ヴィランの攻撃で頭を強く打ったピクシーボブ、重軽傷が今のところ5人ほど……まだ戻ってきてない奴も多い」
「それならとりあえず今戻ってきている人全員を集めましょう。私に個性を使わせて下さい」
「! 何か策があるのか」
「英霊の中に弱体解除……毒物を無毒化して傷を回復させられる人がいます。完全に無毒化は難しくても、毒が回るのを少しでも遅らせられるはずです。黙っていましたが、リカバリーガールと警察に、やむを得ない人命救助の場合は回復系のみ英霊の力を他人に行使してもいいと許可を貰ってます」
「わかった」
遠くで救急車と消防車のサイレンが響いている。先生方が通報したんだろう……あまり英霊の力は知られたくない、救急隊が来る前に彼女を呼び出して宝具を使ってもらわなければ。負傷者が集められている合宿所前までカルナに担いでもらって移動しながら、私はホログラムを操作して編成欄にセットする。
「ついたぞ」
「ありがとう! 周囲警戒よろしく!」
「承知した、敵は近付けさせん」
合宿所前にはシートが敷かれ、その上でクラスメイト達が寝かされていた。森の中でお化け役としてB組の面々が主にガス攻撃に気付かないまま昏倒したんだろう。ほとんどがB組の中、早い順番でスタートしたトオルやキョウカも中に混じっていた。……大した外傷がないのが不幸中の幸いだろうか。もっと早くに気付けていたらと、不甲斐なさに奥歯を噛み締める。
彼らに駆け寄った私を見て、合宿所で補習だった切島くんたちが顔を明るくさせた。
「星合! お前無事だったか!」
「うん! 私は大丈夫──それより、怪我やガスを多少なり受けた人は一旦この場に残って! 私の個性で回復させるから!」
「えっマジか!?」
「星合そんなことも出来んの!?」
「詳しい説明は後で! ───
ぎょっと目を丸くする切島くんや負傷者を運搬して戻ってきた所だったらしい飯田くんや尾白君が驚いているのを横目に、説明をぶった切った私は令呪のある右手をぐっと握りしめ、胸の前に翳した。
──英霊指定召喚:バーサーカー
──概念礼装指定:カレイドスコープ最大解放
「──来て! ナイチンゲール!!」
私の叫びに反応した『
「──ええ、
黄金の粒子を纏って現れるのは、赤い軍服に大きな衛生鞄を腰に括りつけ、白い軍靴を履いた女性。人類史において、現代にいたるまで圧倒的な知名度を誇る“クリミアの天使”。ピンクゴールドの髪を束ねた彼女は目の前の重症患者たちを診て眉を鋭く吊り上げた。
「ナイチンゲール! 早速で悪いけど『人体理解:A』!」
「はい。本格治療を開始します。覚悟は、宜しいでしょうか?」
「彼らはガスによる中毒者と、一人頭部外傷、その他大小の傷を負ってる! 貴方の宝具で癒してほしい!」
スキルによってどこが悪いのかを見定めてもらい、その上で宝具を使用することでより効率化を図る。本来は人型のエネミーの弱点を見抜き、攻撃力と防御力をアップするスキルなのだが、今回は応用としての使い道だ。
召喚直後に矢継ぎ早に指示を出す私に、ナイチンゲールは手袋をぎゅっと嵌め直しながら微笑んだ。
「適切な指示に感謝を。さあ、緊急治療です!!」
血液が沸騰するような感覚。血液を魔力に、血管を魔術回路として辻褄を合わせた私の身体は、魔力を練って宝具を放つたびにこの高揚するような、自分の根幹が不安定になるような、不思議な感覚を覚える。カルナや玉藻は私の魂が陽であり、身体と精神が陰の気を帯びているから、その全てを運用する宝具起動時はどちらもが混ざり合ってフワフワするのだろうと言っていた。あまり人間の身体には良くない負担らしいが、魔改造された身体ではその負担もあまり掛かっていないのが幸いだとドクターが胸を撫で下ろしていた。……懐かしい。
「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち! 我が力の限り、人々の幸福を導かん!!」
両手を虚空に掲げたナイチンゲールの周囲に魔力の波動が満ちる。髪やスカートを揺らめかせるそれは、辺り一面に広がって打ち寄せるさざなみになった。
カッ、と見開かれた赤い双眸が彼女の前に倒れ、蹲る患者たち全てをくまなく見渡す。それと同時に、彼女の背後に彼女の「傷病者を助ける白衣の天使」の逸話と看護師の概念がカタチを取った幻影が、手にした幅広の大剣を祈るように胸の前に掲げた。
最大捕捉人数100人の対軍宝具、彼女が指差す先、効果範囲のあらゆる毒性と攻撃性は無視され、内包するものを回復させる絶対安全圏────
「『
温かな緑の光が駆け抜け、患者を包み込むように広がる。溶け込んだ光はやがてガスのみならず身体中の毒素を集め、黒い靄となって細く細く、クラスメイトや奮戦したヒーローたちの身体から溶け出し立ち昇った。身体に負った大小の切り傷や擦り傷も、僅かな血痕を残して元通りに塞がっていく。
「すげ……」
「傷が治ってく……」
幻想的な光景に、手も足も止めて見惚れる彼らをよそに、ナイチンゲールは素早く患者の元に駆け寄って呼吸や脈を確かめ、テキパキと救助順序を定めていく。カルデアに召喚されたことで現代の医療・看護知識を聖杯から得た彼女は、勿論災害時の救助優先システムたるトリアージも心得ているのだ。数分後に駆けつけた救急隊にバーサーカーらしい食って掛かるような勢いで状態を報告し、重傷者から搬送させる手際は流石としか言いようがない。まぁ、救急隊の人たちはナイチンゲールの剣幕と知識量に目を白黒させながらも勢いに押されて従っていたが。
私もそれを黙って見ていたわけじゃなく、搬送の手伝いや車の誘導、後から運ばれてきた怪我人の誘導と治療に当たった。……流石に、障子くんに担がれて運ばれてきた全身ボロボロのイズクには驚いたが。どこもかしこも血まみれ、両腕に関しては無茶を重ねたんだろう、内出血で紫色に腫れ上がり、右手の指先はぐちゃぐちゃの方向を向いていた。体育祭の比じゃなかった。泣いているのか錯乱しているのか分からないくらいの雄叫びを上げて暴れて手が付けられないので、私の後に般若顔ですっ飛んできたナイチンゲールが手刀で昏倒させた。
「おい、何しやがる……」
「轟、どうどう。怪しい人じゃないから」
急に現れたナイチンゲールを警戒する轟やお茶子たちをなだめると、向けられた敵意にぎろりとナイチンゲールが目を向けた。小陸軍省と呼ばれた鋼の精神そのもののようなひと睨みは、バーサーカーともあって非常に心臓に悪い。
「命を救うためです。ええ、命を! 救うためなら、私は何でもするわ! ええそうよ、何でも!」
「ナイチンゲールも落ち着いて、今は目の前の患者の方が大事だろう?」
「……失礼しました」
マスターであり、あの北米大陸の対戦を乗り越え、ナイチンゲールとの付き合いを心得ている私とならば割と狂化の影響が少ない会話ができるのだが、悪気はあろうとなかろうと治療の邪魔をする人間には狂化EXのステータスに恥じないバーサーカーぶりを発揮するのは変わらない。これでもだいぶん丸くなった方だが。
「マスター、この患者はあまりに重傷です。新しく運ばれてきた患者を含めて、もう一度宝具の使用許可を」
「うーん、それは構わないんだけど。ナイチンゲール、一回で治せそう? ここまでぐちゃぐちゃだと君だけじゃ難しいと思うんだけど」
「……ええ、マスター。分かります、確かに私の宝具は多数を救うもの。故に彼を回復させるには足らないと、そういうことでしょう」
「うん、だからあのロクデナシを呼ぼう。あの宝具なら対人宝具でレンジも狭いし、継続回復が見込める。一度でダメなら数回に分けて治療するしかないだろう。……星5三騎召喚で宝具2連発となるとちょっと無理をすることになるけど……こんなことでしか手助け出来なかったんだ、多少の無茶は目を瞑ってね、ナイチンゲール」
「……重症患者を救う為ですから、今回だけですよ。あの時のような魔力不足にはさせません」
「ウルクの時のこと? ……あれは私ももう勘弁したいなあ」
激戦に激戦を重ねたあの消耗戦において、立香と私の指は魔力不足と血液不足で壊死寸前になるほど真っ黒だった。ナイチンゲールの手助けがなければ、私たちの指先は腐り落ちていただろう。今の私の指先は真っ白だが、本来の25歳の私の指にはうっすら痕跡が残っている。それほどにあの神代の戦いはなにもかもが絶望的だったのだ。
「というわけで、出番だマーリン」
「──良いとも。久々に呼び出してくれたね、マイ・ロード。退屈しそうだったよ」
「ええっ、何もないところから何か白いお兄さんが出てきた!?」
私の一声を待っていたかのようにノータイムで現れたのは、白い長髪に白いローブ、聖剣エクスカリバーを仕込んである木の杖を手にした、絢爛なるアーサー王伝説に名を連ねる魔術師・マーリンである。耳飾りのせいでウーパールーパーとか言ってはいけない。
人理修復を成し遂げ、理想郷アヴァロンに永遠に閉じ込められる運命にある夢魔の彼は未だ死んでいない。というか死ねない。死んでいないということは英霊にはなれないため、当然この指輪の疑似座にも登録できないのだが……そこは古代ウルクの底、冥界まで徒歩で来た男である。アヴァロンの抜け道を色々弄って単独顕現スキルを活用し、向こうの世界とこっちの世界を自由に行き来している。向こうの世界の織物を眺めながら私の旅路も見守るとかいう中々な引きこもり生活を送っているキングメーカーならぬトラブルメーカーなロクデナシである。一応英霊になったら
とりあえずイズクはシートの上に降ろしてもらい、轟たちにもイズクの近くで固まってもらう。マーリンの宝具レンジが狭いからだ。
いったい何が始まるのかと不安そうな彼らには後でちゃんと説明するとして、とりあえず治療を優先させる。
「令呪を以て命ずる、ナイチンゲール、マーリン、宝具を以てイズクたちの治療を」
「治療、開始」
「お任せ、マイ・ロード。……王の話をするとしよう」
カッ、と令呪が光を放ち、令呪の膨大な魔力が二人に注がれる。二画目が手の甲から消えた瞬間に、二人は詠唱を始めた。
「全ての毒あるもの、害あるものを絶ち! 我が力の限り、人々の幸福を導かん!!」
「星の
看護師の幻影が顕現する。光のさざなみが辺りに満ちる。
濃いマゼンダ色の花びらが咲き乱れ、10メートル四方を色とりどりの花の海に変える。
赤い炎に燃える夜闇を掻き消して、降り注ぐのは暖かな春の陽光と満ちる夏の匂い。
誰も辿り着きようのない理想郷。地球という惑星が持つ、魂の置き場所。
僅かな範囲の空を理想郷の空に書き換え、今も彼が幽閉される宙に浮く白い最果ての塔が現れた。
「──『
「──『
ナイチンゲールとマーリンの宝具が重ね掛けされる。
ナイチンゲールによってイズク達の身体に蓄積されたガスの毒、不純物は取り除かれ、血を流し続ける傷口は塞がれ、内部破裂によってぐちゃぐちゃになった骨、神経、血管、筋肉はあるべき配列へと導かれる。
さらにマーリンの『
それでもまだ、イズクの度重なる無茶によって変色した腕は癒えた様子がない。自らの変化に驚くお茶子や障子くん達の様子に反して、くらくらする頭を押さえながらも渋面のまま私はさらに指示を出した。
「ナイチンゲール、イズクへ『鋼の看護:A』を」
「はい。……どのような戦い方をすれば、ここまで癒えにくい傷を……これではまるで身体の内部で炸裂弾が破裂したような……」
マックスまで上げたHP回復スキルを使用してもらう。それでもじわじわと癒えていくだけの傷。
戦時病院で尽力し、サーヴァントとなってからも人間業ではない様々な怪我を見てきた彼女でさえ眉を顰めるイズクの状態に、私はお茶子に問い掛けた。
「……一体なにがあったんだい?」
「実は……」
話しにくそうではあったが、お茶子はぽつぽつと森の中で何があったのかを教えてくれた。
ジャックが殺しかけた女のヴィランから逃げた二人は障子くん、イズク、轟、常闇くん、爆豪の一団と合流。イズクたちも直前に常闇くんの個性が暴走して轟と爆豪を襲っていたヴィランを退けた後、広場に戻るため向かう途中──音もなく常闇くんと爆豪がヴィランによって攫われていた。あの女のヴィランを小脇に抱えたマジシャンらしき格好のヴィランが逃げるのを必至で追いすがったものの──奪還は失敗し、黒霧によって爆豪が連れされれた。
……あの女のヴィラン、放置せず縛って連れてくるべきだったな。結構なトラウマ製造シーンだっただろうし切り傷も酷かったので復帰は時間が掛かるだろうけれども。クラスメイトの安否を優先させたことは後悔していないが、微妙に下手を打った。その場にいれば、むざむざ取り逃がすこともなく、全員無力化出来ただろうに。
僅かに渋面を作ったのを、爆豪の奪還に失敗したことへの憤りに見えたのか……心配げな面持ちの梅雨ちゃんに気付いて苦笑を浮かべた。
「……マーリン、視える?」
「勿論だとも」
周囲に聞こえないよう、小声での私の問いかけに、魔術師の頂点の一人たる夢魔は微笑んだ。
感情を持ち合わせず、夢の中で集めた心の機微を燃料に、人間らしい感情や表情の変化を再現して使い捨てにしているに過ぎない彼は、あらゆる
だがそれを、私は彼らに言うつもりはない。言ったら最後、少なくともイズクは救出に向かってしまう。それはルールを超えた行いだ。ただの感情に突き動かされた蛮勇だ。それを、オールマイトを恩人と仰ぐ私は許さない。
──結局。
生徒41人の内、ヴィランの催眠ガスによって意識不明の重体15名は、ナイチンゲールの宝具によって日付が変わる頃に殆どが目を覚まし、念のため検査入院となった。重・軽傷者11名も入院の必要がないレベルが多く、腕の損傷がひどいイズクと、頭を打ったモモ、B組の泡瀬くん、ガスの中心地にいた鉄哲くんが入院となった。そして行方不明が1名、爆豪。無傷は私含めて14名。
プロヒーローはピクシーボブが頭を強く打たれて重体。ナイチンゲールの宝具で後遺症は残らないだろうが、こちらも意識が戻らなかったため入院。そしてラグドールが大量の血痕を残して行方不明。
一方敵は3名の現行犯逮捕。殆どを取り逃がす結果となった。
最悪の結果で、林間合宿は幕を閉じた。
「……世間は大騒ぎだぞ、マスター」
「……予想はしてたけど、頭が痛いね……」
宝具とスキルの連発で、久々に大量の魔力を消費してふらつく私に、先生方や友人たちは病院を勧めてくれたのだが、人間の医療でどうにかなる不調ではないので、工房化した自宅に戻る方が魔力回復が早いと判断したカルナに連れられ、一人自宅に戻った。口数の少ないカルナに変わり、マーリンが少し残って口八丁で先生方に当たり障りのない説明をしてくれたとのことなので多分大丈夫だと思っていたのだが、自宅で色んなサーヴァントに魔力回復が早まるように添い寝されながら、死んだように眠っていた私が翌日の昼過ぎに目を覚ますと、クラスメイトたちから大量のメッセージが来ていた。未読の件数の数字を見てげっそりした。
リビングで寛いでいた巌窟王に淹れてもらったコーヒーを啜りながら、チャンネルを変えようとほぼ全部が雄英の失態関連なのを見てぐったりと呻いた。こっちのメディアや民衆の傾向は最早病気だ。敵の思うツボに悉くはまり込んでいるのに気付かない。
大半が自分の体調を気遣ったり、いくらメッセージを送っても返事のない私への心配の言葉だったりするメッセージに返信を返していると、エプロンをつけたエミヤがテーブルにトレイを置いた。
「わ、美味しそう」
「食べられそうかね?」
「うん! ありがとう、頂きます」
さっきから良い匂いがすると思っていたら、皿に乗せられていたのはとろとろのチーズがたっぷりと一緒に挟まれたハムに絡み、目玉焼きがほかほかと湯気を立てるクロックマダムだった。隣に添えられたトマトとキュウリのピクルスが彩りを与えている。スープは野菜を刻んでことこと煮込んだミネストローネ。味付けの感じからして、これはエミヤではなくロビンが作ったのだろう。エミヤのはトマト缶や隠し味を使ったこっくりとした奥深い味わいだが、ロビンは材料が少なくても出来る透明に近いスープで、野菜のうまみを感じるさっぱりとした味わいなのだ。特異点で野営をした時、焚火で作ってくれた懐かしのスープの味に、私の頬も緩む。
「体調はどうだ、マスター」
「皆のお陰で、結構魔力は回復したと思う。久々の宝具連発だったから、きっと身体が驚いたんだろうね」
「君が縮んでから、あれほど宝具を使う機会も無かったからある意味当然か……ともあれ、回復が進んでいるのならなによりだ。英霊の事は教師陣から緘口令が敷かれたお陰でメディアは君の功績に気付いていないが、雄英の生徒と云うだけでマスコミが寄ってくるような状況だ。外出はおすすめできない。……今日ばかりは家でゆっくり休んでもバチは当たらないと思うがね」
「……そうだね。そうするよ」
この後、塚内さんに呼び出されて政府から英霊使用許可が下り、正式にヴィラン連合捕縛作戦に協力。とはいっても流石に無理をして2日後だし、一応ヒーロー資格はないし政府も学生の身分で表舞台に出したら色々不味いので、前線には出ず本部でセコムで周囲を固めながらハサンズを送り込んだり、玉藻に念のため待機してもらったり程度。しかし緑谷が入院している病院にA組でお見舞いに行ったところに居合わせていないので、ヤオモモが発信機を取り付けたこと、それを辿って緑谷たちが救出にこっそり来ていることをつゆ知らないので、爆豪をかっさらって行った緑谷達にはぁ!? ってなる。とりあえずオルマイVSオールフォーワン戦でマーリンの『英雄作成』他サーヴァントたちのバフマシマシで戦うオルマイとデバフ掛けられまくるOFAが見たいだけの人生だった……。
回復宝具なら玉藻を登場させても良かったんですが、個人的に二人を登場させたかったのと、玉藻を出すと全力で話が別の方向に転がるので自重。