ライブラ秘書嬢の異世界渡航   作:一星

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(FGO→MHAだった場合の√においてありえたかもしれない話。指輪を使って英霊召喚だけでなくイリヤのように英霊を纏うことが出来た場合)
(書きたいとこだけ書いたので途中で終わります)


夢幻召喚

 

 

 教師陣からのオーダーは「本気でやれ」だ。恐らく鋭い先生方の何人かは調整中の『夢幻召喚(インストール)』をご所望なのだろう。英霊召喚は目立ちすぎる。なにしろ、個性で人手を増やせ、しかも全員(作家とか例外はいるが)戦闘や一芸に秀でた達人ばかりである。悪用を考えられたらキリがない。それなら、まだ英霊の概念を纏う方がリスクが低い。

 覚悟は当に決まっている。

 私は目を閉じて、控えていてくれた彼女に、肉体を委ねた。

 

 

「さぁ、久しぶりの戦闘だ! 派手に行こうじゃないか」

 

 

 雰囲気が一変する。緩やかに波打つ黒髪が鮮やかなマゼンダへ花開くように色を変え、瞳は血の赤から(ソラ)のような蒼氷色へ。額から斜めに横切る大きな縫い傷が穏やかな花貌を野生的に彩る。薄い霧が晴れる頃、胸元がざっくりと開いた紅のサーコートを纏った麗人がそこに居た。その出で立ちは普段の彼女のヒーロースーツと酷似していた。ただ一つ違うとすれば……手慣れた動作で腰のホルスターから引き抜き、くるりくるりと手の中で回してから同時に両手で照準を淀みなく合わせてみせる技量、その手に握られたクラシカルな鈍い金色の二挺拳銃が異彩を放つ。星合千晶の名残を残しながら、それでも別人の気配を漂わせる目の前の友人に、轟は目を見開く。

 

「な……んだ、その姿は……」

「何、アンタがとっときの左を使ったんだ、ならこっちも全力でお相手するってのが筋ってもんさ! そういうことだよ、お前さん。

 ああ、勘違いはしないでおくれよ? ちょいとこのスタイルは燃費が悪くてねぇ。最近調整がついたところさ────出し惜しんでた訳じゃないが、何事にも使い所ってもんがあるだろう? 提督(マスター)はこの戦いに意義を見出した。アタシを纏ったってのはそういうことさ、光栄に思いな」

 

 朗々とした張りのある声は千晶のものなのに別物に聞こえるのは、普段の彼女とかけ離れた口調と喋り方だからだろう。冷静沈着、穏やかな気風の千晶が豪快で男勝りな言葉遣いをしているのだ。見た目も大きく変化しているのも相まって、余計に別人にしか見えない。まるで──別人が彼女の身体を借りて喋っているような異物感。頭のなかで翻訳する過程で彼女の喋る日本語は少し丁寧になっているらしく、英語ならもう少し口調は荒いといつだったか千晶が言っていたが、それでも彼女のもつ本来の雰囲気とそぐわない。

 スカーレットを纏う麗人は青い眼を僅かに伏せ、ココではないどこかを見つめるような遠い目でぼやいた。

 

「……ああ、ちょいと喋りすぎたね。悪いね提督。さあ小僧、怖気づいてビビってんじゃないだろうね?」

「……その風体については後で聞く。……やることは変わらねえ、倒す、それだけだ」

「アッハハ! いいじゃないか、かかってきな──満足させておくれよ?」

 

 片眉を跳ね上げ、片目を眇めてスカーフェイスが挑発的に歪む。と同時に腕を伸ばして定めていた照準を外し、銃口を上に向けるように肘を曲げ顔の横に拳銃を掲げた瞬間、その後ろの空間から波紋が生まれ、黒に金の縁取りがなされた大砲──カルバリン砲の銃身(バレル)が現れる。銃口だけのそれは巨大にして無機質。非現実的な光景のはずなのに、無慈悲に命を奪う機構の物々しさを放っている。

 

「流石にアタシの船はココでは召喚出来ないけどねぇ、弾を込める砲台さえあればいいのさ」

 

 観客の誰かが叫んだ。武器の持ち込みは不可だろうと。闘志を駆り立てるような熱気をにわかに帯びていた場に水を差す発言だと気づかないまま、心のまま沸き起こった義憤を吠え立てる。何故止めないのかと、その場から動く気配のないセメントスやミッドナイト、放送席の相澤やマイクに異議を唱えるが、彼らが対応する前にあぁ? とぐるり首を巡らせた千晶(ドレイク)が胡乱げな顔つきでその観客を大観衆の中から迷うことなく見上げた。間接的にマスターを侮辱したにも等しい男に、嵐の王として酷薄に光る青の眼光を飛ばしながら。

 

「野暮なこと言うねえ、アンタの目は節穴かい? 観てただろう、この子は武器なんざ一つも持ち込んじゃいない。それを見逃すようなタマじゃないよ、ここのセンセイたちは。アタシはこの子のチカラのほんの一部分に過ぎないのさ。銃も砲台もアタシを解除すれば夢幻と消える。そもそも──この銃口しか無い砲台をどうやって持ち込むってんだい?」

「ぐっ……」

「ええ、彼女は武器一つ持ち込んでいません。身につけていたのは個性発動のために必要な最低限の品のみ──それも武器ではない道具です。あの銃も個性で作成したもの。故にルール違反ではありません」

 

 ミッドナイトの援護射撃に二の口が告げない観客に、呆れ返ってため息を鼻に抜けさせたドレイクはまぁいいさ、と大仰に肩をすくめた。興味を失くした表情で顔を轟へと戻す頃には獰猛な笑みをその顔に浮かべながら。

 

「安心しな、情けなんざ持ち合わせちゃいないが──アタシだって加減は弁えてるさ。この子がアタシを選んでくれた理由も。そういうわけで本気で働かせてもらうけど、殺し合いはご法度なんだろう? 死なない程度に威力は抑えるさ───そら、避けれるもんなら避けてみな、当たったら砕けるよ!」

「!!」

 

 銃口が燐光を放つ。集まった粒子が収束し、紫や金の魔力光が幾条ものビームとして轟へと真っ直ぐに放たれた。速いがビームゆえに直線的に進むビーム。慣れれば射線の着弾点を予測することは容易い。轟の動きを先読みして放たれる乱舞、氷の一斉射撃よりも避ける難易度は低いそれを、轟はジグザグに避けながら少しずつドレイクとの距離を詰めていく。遠距離砲撃なら、銃口そばにいるドレイクに肉薄すれば反撃し難くなると考えながら。

 

「撃て撃て撃てぇえ!」

「(冷静に対応すりゃ避けれなくはねえ……が、避けるので精一杯だ。狙いが荒いように見えて、実際最短の逃げ道は防がれて反撃させてくれる余地もねえ。砲弾じゃなくビームなら弾切れを待つだけ無駄だ、チャージゼロの連射は厄介だ。あの砲撃とまともにやりあってたらこっちの体力だけ削られてジリ貧は確実。懐に潜り込んで砲撃の邪魔さえ入らなけりゃ、氷結か炎での攻撃が届く)」

「そら、弾薬追加だよ!」

 

 凌ぐので精一杯な己に歯噛みしながらも、じわじわと前進していく轟にドレイクは獰猛に笑う。

 最初の砲撃から彼我の距離が半分に到達すると、砲撃に加えてドレイクが操る二丁拳銃の銃口が火を噴いた。絶え間なくリロードされ連射される乱射が正確に轟の足場近くを抉っていく。避けきれなかった魔力で出来た銃弾が数発轟の足をかすめ、貫通した。

 

「ぐっ!」

 

 やられてばかりでたまるか、と轟が苦し紛れに放った炎の渦はビームで相殺されながらも、その執念の一端がドレイクに届いた。サーコートの裾が炎に舐められ、焦げ跡を残し裾がほつれる。飛び退りながらそれを確認したドレイクは目を丸くした後、呵々大笑した。

 

「いいねえいいねえ、流石はこの子が認めた男! 奥の手使ってでも向き合おうとした人間! 折れない気概、大いに結構! そんなら出し惜しみはナシだ、派手に使い切ろうじゃないか! ────野郎ども、時間だよ!」

 

 ドレイクは上機嫌にそう笑うと、天に片方の銃口を突き上げ、どこか此処ではない遠くへ呼びかけるように、腹の底から吠え立てた。拡声器など必要ないほどにコロシアム全体に轟く咆哮。その痩身から放たれた覇気と大音声がビリビリと空気を震わせ、聞く者の一切を震え上がらせる。世界一周を成し遂げた偉大なる大海賊、イギリスを大英帝国に押し上げた太陽を落とした女、すべての海を繋げてみせた星の開拓者が、嵐の夜と亡霊の群れを引き連れて嗤う。

 砲台の後ろに顕現するは無数の霧で構成された亡霊の帆船。ガレオン船に備えられた砲台が一斉に轟へ照準を合わせる。

 

「嵐の王、亡霊の群れ! ──ワイルドハントの始まりだ!」

 

 ──宝具・限定解放。『黄金鹿と嵐の夜(ゴールデン・ワイルドハント)』。

 


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