流転する胎児
みなしごもそうでない子供も分け隔てなく、クリスは音楽や物語を語って曇った幼子の笑顔を増やしていた。
物静かそうな顔に似合わず子どもが寄っていっても嫌そうな顔一つせずに相手しているのを、共に旅を始めた当初は意外に思ったものだ。
偽善ではないかと問いかければ、迷いも動揺もなくそうかもねとあっさりとした返答が返ってきて、こちらの方が虚をつかれた。
振り返った赤色は透明な色をして笑っていた。
私は、かつて私がされたかったことやされて嬉しかったことをやっているに過ぎないのさ、と。
「されたかったこと?」
「孤児だったからね」
(二人で諸国漫遊してた頃のパーシヴァルとの会話。)
霜凍りて音無と成る
冬が歩いてくる。周囲の景色を振りまいた冷気で白と青に染めて、霜に凍る地面をさりさりと音を立てて忍び寄ってくる。
死が歩いてくる。人の形をした死が、倒れ伏す赤髪の男を背に、こちらへと。見下ろす蘇芳色の縁取りは炯々とみどりに染まって、目玉さえ凍りついたように銀のヴェールで覆われていた。
「私はそれほど御大層な身分でもないし、他人に講釈垂れるほど上等な人間でもない。
ああ、でも心が狭いともたまに言われるんだよ……こういった時に。
と、いうわけで。──何も感じず惨めに死ね。我が王を害したその罪、その不敬。万死に値する」
青が、息も音もなにもかもを飲み込んでいく。
ダイヤモンドダストすら舞う中で凍てついた双眸を向ける彼女を、誰かが氷妃と畏怖を込めて呼んだのだった。
(パーさん不意打ちで攻撃されて激おこ、家臣になるのを腹くくったクリス)
竜殺しと不死殺し
「すごい剣よね」
「お前の十字架には負けるさ」
カクテルグラスを手にした竜殺しの英雄は、素顔を覆い隠し身体を覆うベイルアーマーは脱ぎ捨て、シンプルな装いで騎空艇のバーカウンターに座っていた。くるりと回したグラスの中で、琥珀色の液体と丸い氷が波間を描く。
武装を解いているのにも関わらず、愛剣だけは肌身離さず持ち歩く彼を、彼がこの騎空艇に合流した当時は呆れた目で見る者も居たが、クリスティアナは相変わらずだと苦笑一つに留め、苦言を呈することは無かった。
立場は違えど、気持ちはよくわかったのだ。使い慣れた武器とは、もはや切り離せない体の一部のようなものだ。クリスティアナにとって両脚、そして技を使うために履いている出血針が仕込まれたブーツがそれに当たる。身体から離せば落ち着かないし、それを誰かと共にいる時に許すということは、それだけで何よりもの信頼の証になるだろう。殺伐とした世界に身を置いてきた者同士、そこには確かに通ずるものがあった。特にジークフリートが国を出る羽目になった背景には、フェードラッヘの執政官・イザベラの謀略があったことも考えれば、一時的とて剣を手放すなど以ての外だろう。
「邪竜ファフニールを斬り、その血を浴びた魔剣か。……持ってみても?」
「構わんよ。……ただし、持てるなら、な」
ふ、と緩んだジークフリートの表情は、酒気を飲み干してもさして代わり映えしない。面白がるような挑発的な声音に一瞬ちらりと赤い瞳を向けたものの、すぐさまその視線は大剣に落とされた。
壁に立てかけられた、身の丈を優に超すであろう大剣。漆黒と紅色を塗り固めたようなその柄に、華奢な指が添えられる。
一拍置いて、ぐっ、とクリスティアナの花貌に険が走る。眉間に寄せられた皺が、その大剣の重量を物語っていた。
使い手としてその重量が如何ほどか知っていただけに、暖かく見守っていたジークフリートは、大剣の切っ先が床からゆっくりと時間を掛けて離れていくのを見て目を見張った。両足を踏ん張って、無理をして持ち上げているわけではない。その証拠に、剣先に震えはまったくない。軽く前後に足を開いて、自然な構えを取る女は魔力での身体強化など使わずに、その細腕で持ち上げてみせたのだ。
どうして驚かずにいられるだろう。しかも、男のドワーフでなんとか持ち上がるかどうか、という重量の剣を、片腕で持ち上げたというのだからなおのこと驚きだ。
流石に船室内なので大きく取り回したりなどはしなかったが、ふむ、と何やら上下に僅かに振ってみたり握り方を変えているクリスティアナに頬杖を付いたまま、大きく目を見開いて珍しく固まるジークフリート。その視線に気づいて、クリスティアナはうっそりと目を細めて、艶然とした勝ち気な微笑みを浮かべた。
「私が何なのか、知らなかったわけじゃないだろ?」
原作ザップが瞬間的とはいえトン級の飛来物を紐で食い止めたり、ハマーが飛来するモンスタートラック打ち返せるのを考えると牙狩りたちなら筋力的にも色々限界突破していそう。
ジクフリさんとはお互い色々察し合っている。ダメージとともに再生するところとか怪我の治りが異常に早いところとか。命を削って生きてる人たち。ある意味互いに遠慮も容赦が無くて、クリスの万能ぶりを見込んで、ジクフリさんの色々な暗躍に貸し出される(貸し出しと言う名の半ば強制拉致)
ジクフリさんは時々騎空団から離れたり合流したりするけど、母国へのきな臭さを察知したら一人で行ったりクリスを引っ張って来たり、察したクリスがお目付役としてついて行ったり派遣されたりする。多くを語らなくても察して動くし説明不足に文句言わずに予想立てて確認してくるので口下手には楽な相手。周囲がむしろ心配する。
買い出し班になったクリスとジークさんが迷子を保護して(あるいは子ども系の団員)、抱っこして買い出しをしていたら店員に親子に間違われるも、否定する必要もないとほっといて騎空艇に戻ったらすごい大騒ぎになるとか。マイペース×合理主義はほっとくと爆弾。どっちも切れ者なのに日常だとネジがずれている。並んでると頼もしいけど日常ターンで爆弾投下してくるので混ぜるな危険。
カリオストロとの会話でうっかり人体実験を受けたことがあることをほのめかす失言をしてしまい、一瞬にして和やかなムードが修羅場と化すのも見たい。
後日談でジクフリさんと並べて、両者の人外に足を突っ込みかけてる回復力への危惧(回復力の代わりにごりごり寿命をすり減らしてる説)を漏らすカリオストロとか見たいです先生……(言うだけ言う)