※未来IF
死んだらひとつだけ、たったひとつだけ、叶えたいことがある。
とある昼下がり、とあるヴィランを追うための作戦会議のため、複数事務所の看板ヒーローが一堂に会した顔合わせの意味が強い作戦会議を終え、ヒーロースーツから普通の私服に着替えた緑谷出久と星合千晶は会議があった建物から少し離れた場所にあるカフェに来ていた。
雄英を卒業してから数年。未だ決着のつかない敵連合との戦いを在学中から繰り広げていたお陰か、普通の卒業生より経験値の多かった元A組の面々は、早くも事務所でそれなりの地位を確立する者、在学中に縁が出来た事務所のサイドキックとして華々しく活躍する者、あるいは独立して個人事務所を経営している者、それぞれがそれぞれのペースで前進していた。
在学中からの活躍から、「黄金世代」と世間から呼ばれている元A・B組の中でも、抜きんでて立身出世していたのが千晶だった。卒業後、どこの事務所に就くこともなく、ふらりと旅行にでも出るような気軽さで、誰に知らせるでもなく海外に渡った彼女に、すわ失踪かとクラスメイト達は焦ったものだ。しばらくして、向こうでのコネクションを作って帰ってきた時には女性陣に飛びつかれて、もみくちゃに潰されていた。
現在ヒーロー”ネレイド”は事務所もサイドキックも持たず、フリーのヒーローとして活動している。7ヵ国語を話せるマルチリンガルとその年齢に見合わない判断力と多彩な能力を買われ、塚内やオールマイト、グラントリノ経由で警察や国家からの依頼を受けて、要人の警護や災害時の向こうのヒーローとの調整役として海外出張することが多く、日本に居る時間はほんのわずか。今回こうして日本に長めに留まっているのは、今追っている敵が監視の目を掻い潜って日本に潜伏していることを掴んだからだ。
オールマイトの愛弟子と被後見人、尊敬する人物を同じくする友人でもある二人はひとしきり近況報告に花を咲かせていたが、ふと千晶が世間話でもするような軽い口調で、「話は変わるけど、前から考えてることがあって」と呟いた。
「考えてること?」
何の話かときょとりと丸い目を瞬かせながら、それでも居住まいを正して聴こうとする緑谷の態度に、うん、と好ましげに、満足げに頷いた千晶はアイスコーヒーをマドラーでかき混ぜる手を止め、目を伏せて微苦笑を唇に乗せた。睫毛の向こうからちらりちらりと蘇芳が覗く。
何人かには話してあることなんだけれど。
そう前置きする涼やかな声の静かさに、ひやりとしたものが突然背筋を撫でた。必要以上にもったいぶることを、滅多に彼女はしないのに。
それ以上彼女に言わせてはならないと、何かしらの剣呑さを直感的に感じ取った緑谷は、それでもその声に籠められた真剣さに話を無理に遮ることも出来ず、ガンガンと頭の中で鳴る警鐘に表情をわずかに強張らせた。
「もし、何かの拍子でこっちで死んでしまったら」
嫌な予感は的中した。────想像よりももっと悪い方向へ。
ひゅ、と喉が空気を捉え損ねて間抜けな音を鳴らす。
「焼いた骨は、ダイヤに変えてほしい」
氷を飲み干し、水と冷気と遊び、氷に埋もれて眠る。生きとし生けるもの、あらゆる生命の時間をたちまちのうちに停めてしまう、氷の死神。
しばしばそのように謳われるエスメラルダ流に属する者は、実は戦争孤児やストリートチルドレン、身寄りのない者がほとんどだ。なぜなら、彼らは牙狩りが慈善活動と称して子供たちに手を差し伸べる際、健康診断で行う血液検査の結果、エスメラルダを付与されるにふさわしい血液を持つと判断され、牙狩りになることを選ぶという形で見出されているからだ。
だから、そのほとんどが帰る家を、還る場所を持たない。
────激闘の末、惨たらしく冷たい身体になったあとの、墓さえも。
牙狩りに老衰という穏やかな死はありえない。運よく支部や本部でのデスクワーク勤務やお偉いの座についたとしても、血気盛んなブラッドブリードに襲撃されて死ぬ、というのは無い話ではない。特にルーマニア支部などは、吸血鬼伝説のメッカであることもあってか、腕試し感覚で転化したての吸血鬼に襲われることは日常茶飯事だ。牙狩り的には、襲撃頻度で言えばヘルサレムズ・ロットの次に危険地帯かもしれない。
そんな裏稼業だ、遺体の一部でも回収してもらえれば御の字、回収不可能と判断してやむを得ず、仲間の遺体を置き去りに離脱せねばならない事態など、数えるのもばからしいほどゴロゴロと転がっている。
それほどの凄惨な世界だ。戦友の死を丁重に弔うことすらままならない絶望的な世界と知りながら、牙狩りは生死の狭間で足掻いている。たった一歩でも、自らの献身が、人類が仇敵に牙を剥くための礎になればと、程度の差こそあれ、みっともなく生き足掻いて。
そんな彼らも、こんな形で死ねたら本望だという、淡い夢は見る。
叶わないと知りながら、それでも。
エスメラルダ流派の人間が、遺骨をうつくしいダイヤに変え始めたのは、一体いつからだったのか。おそらく正確に事を知っているのは師だけだと、千晶は思っている。
牙狩りは、死後どのように処理を望むかは個々人の裁量に委ねられている。国籍も人種も、下手をすれば種族も問わない巨大組織だ。信仰する宗教や個々人の価値観がぶっ飛んだ方向にバラエティ豊かなのだから、死後の扱いをマニュアル化すること自体が難しい。そもそも、一定期間で遺書の更新を義務付けているような奇特な組織であるからして。
牙狩り所属員の共同墓所は世界各地にあるものの、流派によってはそこへ遺骨や遺品を埋めず、人種や宗教に依らない、流派独自の葬儀方法に則ることも多い。エスメラルダ式血凍道の「遺骨が残っており、本人が希望する場合、ダイヤモンドに変えて遺された世代に役立てる」という流儀もその一つだった。
もとは同胞を悼むためのただの儀式だった。しかし、遺骨をダイヤに変えたものを使用した装飾品が、血法発動の術式を組むための伝導性を上げると発覚してからは、積極的に戦うための道具にも利用されることとなった。……生前に、ダイヤになる前の当人が許可を出せば、だが。さすがに勝手に遺骨たるダイヤを、死後も吸血鬼との戦いに駆り出すほどの不道徳さはエスメラルダには無かった。
当然千晶も、そのダイヤを所持していた。そう、クラウスとスティーブンがオーダーメイドで作ってくれた、あの出血針入りの指輪に付けられているダイヤだ。
生前から世話になっていた姉弟子たちから、あなたの手許に残るなら、あなたの助けになるなら嬉しいわと、死の悲愴さなどかけらも見せない、晴れやかな笑顔で乞われたのを、今でも鮮明に憶えている。
遺灰や遺骨に含まれる炭素によって、無色透明からサファイヤに近い濃い青色まで、出来上がるまでどんな色になるかは全く分からないメモリー・ダイヤモンドが二人分、あの指輪に使われている。
千晶……クリスティアナも、死後はダイヤモンド加工を施してもらうことに賛成だった。遺骨をダイヤに、というとネガティブに捉えがちだが、エスメラルダ流派内ではむしろ自分自身が自在に操っていた氷に近い姿に成ることも相まって、希望者は多い。スティーブンは、下手にダイヤとして自分の証を遺すと、特にクリスとクラウスが自分の死を無駄に引きずりそうだから、もし僕が死んだら遺灰をすべてバルセロナの海に撒いてくれと、酔っ払った果てにぼそぼそと事あるごとにこぼしていたが。
その時の義兄の表情を思いだして懐かしんでいた千晶は、顔を上げた先に見えた弟分のような友人が表情を悲愴に染めて口の端を強張らせているのを見て、苦笑した。
「……オールマイトに話した時と、おんなじ顔してる」
「えっ」
突如出てきた師匠の名に、緑谷は驚きに肩を跳ねさせる。蒼褪めた顔が驚愕に変わるのを見てとって、後見人には真っ先に話さないといけないでしょう? と千晶は言った。
完全にワン・フォー・オールを緑谷へ譲渡し、神野の悪夢と云われる近代ヒーロー史の大いなる転換点となった戦いで、宿敵オール・フォー・ワンに残り火全てを使い切ったオールマイトは既に前線を退いて久しい。とはいえ、ナンバーワンヒーローを長年背負ってきたその根っからのヒーロー気質、そして敵連合のリーダー、死柄木との複雑に絡まった因縁ゆえに、完全に隠居したわけではなく、後方支援と雄英高校での後進育成に現在も喜々として励んでいる。
ねぇイズク。大人びて艶やかさを増した、麗しの女性はただただ穏やかに笑いかけた。
「悲しい話に聞こえるかもしれないけど、私にとってはそう悲しいことでもないの。ずっと、それが望みだった。一切日の差さない土の中で眠るより、誰かの生を、静かに傍らで見てみたいって。この指輪も、そうやって師匠たちから受け継いできた他のひとの歴史だ」
自分の身体の組織が、末端から凍りついていくのを聞きながら眠るように死ねたら、と思うこともあった。けれどそれは牙狩りの宿命上叶わないことで、こちらの世界に来ても、きっとそんな結末は望めない。誰かの嘆きを聞きながら、戦場か薬品の匂いのする病院で死ぬのだろうと。だから、その後の始末で、ダイヤに変わるというもう一つの死後願望で満足することにしたのだ。
自分という存在を、確固たるものとして後世に遺すことは、良いことも悪いこともあるだろう。遺された者たちへ、死んだという事実を受け入れる手助けとなるか、妨げになるか。或いは、死者への無用な執着を生むかもしれない。けれど、千晶はあまり心配していなかった。
「君に話したのは、オールマイト以外にも私の気持ちを知ってもらいたかったからだよ」
「……え?」
「ヒーローは命懸け。まして、敵連合との戦いもまだ残っている。どんな結末になっても、早いにしろ遅いにしろ人は死ぬ。家族のいない私は、こうして親しい人たちに後を託すしかない」
だから伝えておきたかったと彼女は笑う。故国・スペインは多民族が混じる国家、キリスト教信者が多いため伝統的に土葬が多いが、近年は火葬も増えてきている。だが、千晶が望むのはそういった慣例からかなり外れた流儀だ。火葬の後、遺骨の一部を鉱石に変えてほしいなど、生前に伝えておかなければまず思いつくまい。
そう話す千晶の表情に、意外なことに見た者を哀しくさせるような悲愴さは無かった。それを見て、緑谷は友人がいずれ来る最期と真正面から向き合っているのだと理解した。悲哀でも苦悩でも諦念でもなく、生命の定めそのものをそういうものだと飲み込んで。
緑谷にも、形こそ違えど似たような想いがあった。師から受け継いだ、聖火の如き大いなる個性。無個性だった自分をヒーローにしてくれた力を、自分が力尽きるまでに自分やこれまでのワン・フォー・オールの継承者たちの意志を継いでくれる誰かへ譲渡したいという想いが。
だからこそ、緑谷はその想いを託されたことを嬉しく、それでいて少しだけ淋しく思った。
「分かった」
しっかりと
「ちなみに、ダイヤに変えた後はどうするの?」
「ああ……正直言ってその後のことはあまりこだわりが無くて……本当は兄妹や弟子に譲り渡すものだけど、そういう相手もいないしね。そうだな、渡してもいいと思えて、相手も受け取ってくれる人が出来なければバルセロナの海にでも沈めてくれないか? 指輪も、ダイヤも、残りの骨も」
「物騒! というかそれでいいの!?」
「別に死体遺棄じゃなくて、散骨に近いから物騒では無いと思うけれど……うん。それが良いんだ」
ギョッとした緑谷に、千晶は穏やかに微笑みを浮かべて窓の外に視線を向けた。午後の穏やかな日差しを受けて、空はやわらかな青色をしている。故郷とはまた違った空の蒼だ。
「氷に近い姿に変わって、残りの骨も水に、それも故郷の海に還れるなら、私にとってはこれ以上ない弔いだよ」
それに良い友人たちに恵まれた。そんな彼らに送ってもらえるなんて、これ以上何を望めというのだ。……あぁ、義兄たちに会えないまま死ぬことだけは、心残りになるかもしれないが。
それはその時だろう、とドライな思考回路の千晶は脳の隅にさっさとその思考を放り投げた。たらればのことを考え込みすぎるのは、精神衛生上よろしくない。
「ちなみにこの話、オールマイトと僕以外は誰かにしたの?」
「日本じゃオールマイトとイズクだけ。後は海外の知り合いばっかりかな」
「あれ、轟くんや麗日さんはいいの?」
「あの二人は……なんか、内容的に罪悪感を感じて……」
「ああ……うん……轟くんとか止めてきそう……(でも話さなかったらそれはそれで後で怒りそうな気がする……)」
▼ダイヤモンドは青い化け物
エスメラルダの死の作法についての話。未来IFな上に捏造設定乱舞でした。
Twitterで見かけた遺骨をダイヤモンドに変える技術が、物凄く夢が詰まっているなと思い立ったのが元ネタです。
未来IFは色々ネタを考えてました。ヒーローにならず大学で個性使って治療できるドクターになろうと医学部進学するルートとか。
以下はヒーローだった場合の詳しい設定。思い付きを書きなぐったものそのままを載せているので事務所所属設定など話の内容との誤差があります。
▼ネレイド(秘書嬢)
基本副業は乗り気じゃない。事務所は副業に比重が少ない所を選ぶ。マスコミや記者の取材は特に逃げる。なので雑誌で珍しく特集組まれるとファンがたかってとんでもないことになるのがお約束。彼氏にしたい・嫁にしたい・踏まれたいヒーローランキング上位に毎年絶対いる。彼氏にしたいランキングに入ってるのは笑うところ。
容姿につられたミーハーなファンも多いが、助けられてファンになり応援しているガチ勢のが圧倒的に多い。実は女性人気のほうが高い。
社交の場には出るのはスポンサーとの付き合いのためであり仕事だとHL時代から割り切ってるので苦ではない。
CM出るとしたら見た目と世間イメージ的にハイクラス向けの高級ブランドが多い。コーヒーとかお酒とか化粧品とかの嗜好品と指輪とスーツと靴。大概商品イメージの似た路線のヤオモモと撮影現場で出くわす。
そして副業で得た金銭のほとんどは孤児院や教会、基金に寄付している。納税対策とか口さがなく言う評論家が必ず湧くが、そもそも株式とかの投資や資金運用にべらぼうに強い辣腕持ちなのであんまり関係ない。大体副業と株式で得た金はチャリティやら災害系寄付に回してる。雄英時代に作った人脈が広く、経営科出身で税理士や弁護士、ヒーローコーディネーターなどのスペシャリストの友人が多いので週刊誌が難癖つけるほころびがない。人脈もすごいがバックが警視庁重役だったり元平和の象徴だったり現No.1ヒーローだったりと色々と豪華&強いので敵に回してはいけない人。
体育祭のインターバルで水と氷のパフォーマンスをするのが恒例になってしまい、その影響で夏場の港湾都市のイベントや水族館なんかで納涼パフォーマンスをするのが夏の風物詩。ギャングオルカとのコラボも多い。一日密着系ドキュメンタリー番組(プロ○ェッショナル的な)でプライベートでスケートしてるのを見たスケート関係者により、嬢と組んでるスポンサー味方につけてチャリティーアイスショーのシークレットゲストになったり。絶対プロスケーターと打ち解けてスケーターのタンブラーとかにお邪魔する。あとなんか氷のパフォーマンスに感銘を受けて作ったらしい映画(ア○雪)が日本に上陸した際はスペゲスとして舞台挨拶とか監督との対談で絶対に呼ばれる。
同期の中でも出世株だが、7ヶ国語のマルチリンガルと年に見合わない判断力を買われて海外出向するベテランヒーローの通訳やら、海外での大災害発生時に救援を送るときの連絡調整役に抜擢されることが多い。なのでほとんど世界を飛び回って日本にいない事の方が多く、十分資金も経験も人気も実力も独立していいレベルなのにサイドキックのままでいる。どこの事務所に行ったかって?それはご想像にお任せ。
公式ツイッターもブログもタンブラーもなく、メディア露出も低いので私生活が謎な人。でもちょいちょいショートやウラビティを始めとした同期のSNSで登場するため、表舞台への露出が低い割には若い層に人気。ただし同期のうっかりの煽りを受けるのももっぱらネレイドなので、ファンからは「ドンマイの人」の印象の強いセロファンと合わせて苦労人認定されている。でも男より男前で、炎上の煽りを何度食らおうとも交流が途切れない辺り懐が広い。ヒーロー科?それなら全員抱いたぜ…感のあるスパダリ。おっぱいのついたイケメン。
知能犯の敵に情報を与えないためにSNSはしないが、仕事や出張、個人的な旅行でよく海外に行くので、馴染みの出版社から旅行記を出版してみないかと打診されるのもいい。ガイドブックには載らない穴場や豆知識が載ってて、スクラップブックみたいな中身の旅行エッセイ。
たまに同期のA組B組、同時期にヒーローになった他校の子たちもゲスト出演している。デクのやたらぎっしり詰まった書きなぐったみたいな筆跡の分析メモや、梅雨ちゃんの可愛いイラスト、路地裏の漫才雑談。
路地裏+お茶子とのバルセロナ訪問や、出張先のドイツで落ち合った嬢+切+爆の三人で酒盛りも見たい。
外見は20代、中身は三十路なので常に余裕があり、肌の露出は低いのにそこはかとなく色気だだ漏れの大人の女性になった。モテるがさほど親しく無い人間のアプローチは面倒なだけなので上手いこと躱してフラグを折っている。逆に親しい人間からのアプローチは全く気づかないのはスターフェイズの血。
ミッドナイトには未だに可愛がられ、20歳になりたてのときに居酒屋に連れ込んで、限界を知るのと経験積ませる為に一度潰そうと画策したミッドナイトとプレマイが逆に潰された事件は未だに一部始終を見ていた相澤を戦慄させている。こいつまさかの酒豪。似たような事件がA組同窓会でも起きた時、男性陣が(隙が無さ過ぎて嫁に行き遅れねぇか心配だわ)と(あっでも学生時代からずっと片思いしてる奴が居るから大丈夫か)と某T氏をチラ見する人や某メンタリストヒーローS氏を思い浮かべる人が出る中、約数名は潰し返されてテーブルで死んでいる姿があったそうな。
本人はさっぱり家庭を持つ気がなく、クラスメイトが幸せになってくれることだけを願っているので誰が一番に結婚式の招待状を送ってくるかが最近の楽しみ。