※オリキャラとキャラのCPなんてお断りじゃいという人は後書きへ目次で移動もしくはブラウザバック推奨。
※本編ではまだふわふわしている轟くんですが、こちらの轟くんはガッツリ恋心を自覚している時空ですのであしからず。
時間軸的にはおそらく期末試験前あたり。
俺の友人は、いつだって余裕に満ちている。
けれど、ただ余裕に満ちているのではなくて、表情を取り繕うことが得意なだけだと気づいてから、ふとした時に見つける“無理”の欠片を拾い上げるようになった。人当たりの良い貌の下で、無理はしていないかと、ひそかに目を配ることが多くなった。視野狭窄に陥っていたことを指摘してくれた恩を、ひとつひとつ返すように。
だからだろうか。
斜め前、窓際の列の3番目。少し前かがみでノートに板書を書き込む緑谷の前の席に座る、シャツとカーディガン越しにも身体の厚みの無さが良く分かるひょろりとした背中を眺める。
中間服に衣替えしても、周りが長袖シャツの裾をまくりあげたりしている中、星合はブレザーを脱いだだけだった。個性が個性だから寒がりではないはずなのに、グレーのカーディガンを羽織っている姿は少し目立つ。
午後の思わず眠たくなりそうな陽気と一緒に教室内に吹き込むやわらかな風が、カーテンと一緒に肩口で切り揃えられた黒髪を揺らす光景に、思わず目を細めた。
体育祭、俺との対戦で髪を焦がした星合は、背中まであった髪をばっさりと肩につかない程度にまで切り落として登校してきた。急に印象が変わりすぎて目を瞠っていた俺は、その後の麗日の発言で、星合が髪を切らざるを得ない理由を作ったのが自分だと知らされて愕然とした。
本人は全く気にしていないそぶりだったが、気にしていないからといって俺の罪悪感が消えるわけもなく。その日の授業中、ろくに集中も出来ず、悩みに悩んで姉さんに責任の取り方をメールで尋ねた俺は、半ば強引に普段行きもしないショッピングモールまで星合を引きずっていった。
そこで詫びの品として星合が選んだのが、白い花のバレッタだった。
それを、台に並べられた色とりどりのアクセサリーの中から吸い寄せられるようにして見つけ、手のひらに乗せた時の星合の表情を、鮮明におぼえている。
さざめく長い睫毛にふちどられた真っ赤な瞳をとろかせて、つぼみがほころんで花開くように、白い頬をさくら色に上気させてやわらかく微笑む姿が、これ以上なく焼き付いている。
場所が場所で無ければ、ああ、と溜息さえ漏れてしまいそうだった。
きれいだと、素直にそう思えた。
表情を取り繕う事が多かったから、かえって色鮮やかなその表情に目を奪われたのだろう。
俺はようやく、こいつの本質を垣間見れたのだと思った。
あの時すでに、俺はすっかりとこいつに魅了されていたのだと、思う。
少しだけ伸びた、波打つ黒髪を纏める白い花のバレッタ。それを身に付けているのを見るたびに、胸のあたりがむず痒いような、落ち着かない気分になる。
それでも自然と口角が上がってしまうのはやめられなくて、表情を元に戻そうと顔を触ったり口元を手で覆ったりして、緑谷たちや星合本人に不思議がられている。ついでに言えば、あの日から姉さんには妙にニヤニヤ顔をされることが多くなった。
「轟、最近表情がやわらかくなったね。良い顔になった」
「そうか」
休み時間や授業中、放課後の帰り道。いろんな場面で、雰囲気がやわらかくなった、前よりとっつきやすくなったと周囲に言われることが多くなった。
良い傾向だね、と自分の事のように晴れやかに笑うのを見下ろしながら、そうっと目を伏せた。口元がほんの少し緩む。伏せた三日月の視界の中で、艶めく黒を彩る花がちらついた。
ならそれはおまえのお陰だと、面と向かって言える日は、きっとそう遠くない。
この話、轟はもう一度あの表情が見たくて、大人になって自由になるお金が増えたとたん、店で似合いそうだと思ったものをついつい理由もないのに色々買ってくるようになるという後日談があります。千晶はちょっと困りながらも、プレゼントされるのは慣れているし、純粋に嬉しいしで強く言えずについつい受け取ってしまったりする。