あのくそったれなロードランから逃げ出した俺は、時折用心棒の真似事をしながらその辺をふらふらしていた。眠れなくても酒の味は忘れられなくてな。
それからどこぞの城で拾った死者の指輪で見た目を保ちながら地酒巡りをしていると、なんとも珍しい酒を出す場所があると言うじゃ無いか。その血でできた酒と言うのも味わってみたくてヤーナムと言う町にやってきた。
この辺はブリテンだったか? 田舎と比べるとアノールロンドを思い出すくらいの高層建築がそこここかしこに建っていやがる。最も、あっちは剥がれつつあるメッキと言った風情に対してどこを見ても陰惨な血の匂いが染みついている。血の酒なんぞ造っているんだ。それくらい普通か。
「失礼、御仁。少しお話でもよろしいかな?」
無愛想な宿屋にしばらく滞在し、観光がてら酒蔵を見ていると顔色の悪い野郎に話しかけられた。
「おう、構わんが。ついでにここのオススメでも奢ってくれるんならな」
俺のセリフに噴出した野郎はなんでも学者らしい。あの魔術師のあんちゃんを思い出すな。俺がローガンセンセイのとこまで案内しなかったらもしかして国に帰ったか。益体のない追憶を置いておいてそんな野郎と当たり障りのない旅の話をしているととんでもねぇ事を切り出してきた。
「あなたは普通の人間と同じように笑い、酒を嗜むようだ……だけど、だけどね。私にはあなたが干からびたミイラに見えるのだよ」
流石に焦ったね。だけど目の前の胡散臭い野郎は特段何かする様子もない。俺自身今の装備はその辺に溶け込む為にチェスターのクズからかっぱらってきたコートを着ているが、楔石で強化したこいつの装甲を抜いて拙いと思わせたのは野生の猪の突進くらいだ。仕事の最中銃で撃たれた事もあったがあれは短筒だったし、服の下の筋肉で止まるからそこまで焦らなかったか。
「面白いな。お前さんは俺がミイラに見えるらしい。仮にそうだとしてそんな動く死体みたいな奴と酒を飲んでいる。興味でも沸いたか?」
その言葉に野郎益々笑みを深くした。
「ええ、もしかしたら私の研究に関係あるかも、と。だが月の香りのする狩人や獣臭を薬品で誤魔化す教会の僧侶、星見が趣味の聖歌隊と比べてあなたは……そう、闇の匂いがする」
なんとも洒落た言い回しを好む野郎だ。それで興が乗った。
「そんな事言われたのは生まれて初めてだよ。気に入った。何が聞きたい?」
なんでもそいつはメンシスとか言う学会?に籍を置いている学者らしい。そこで人間を人為的に進化させる方法を探っているとかなんとか。進化と退化は表裏一体とかどっかで耳に挟んだけど俺は化石も良いとこなんだがな。
それで……ここヤーナムでは教会が広めた血の医療のせいで出没する狩人の中でも殺しても死なない奴(悪夢がどうたら)と違って、現に死んでる俺もなんらかの上位者の影響を受けてるのか? とかなんとか。受けてると言えば受けてるな。主にくそったれのグウィンの野郎が取りこぼした火事場泥棒のせいで。
やっぱソウルの結晶槍が使えるくらいの頭の良さが無いとダメだったかと今更後悔しても遅い。まあ半分くらいはなんとか理解が追い付いたから良しとしながらも、俺になんか進化のヒントが得られないかと話しかけたと言う事は分かった。
「分かった。まあ酒を奢ってもらったしこれをやろう」
と俺は人間性と竜のウロコを差し出した。多分こいつの言う進化ってのは神族関係とかの方が良いのかもしれないが、生憎あいつらになれる方法なんてものは知らないし知ろうとも思わなかった。ミイラはともかくドラゴンだったら見栄えもまだマシだろうと思ったんだ。
「おお、素晴らしい……! 息抜きに散歩に出たら思わぬ天啓でした。もしよろしければ我々の賓客として迎え入れたい。如何かな?」
せっかくの誘いだったし生半可な罠なら食い破る自信もあったからそいつの誘いに乗ることにした。
「そういや学者さんよ、あんたの名前を聞いてなかった。これから世話になりそうだし教えてくれないか?」
そこで学者さんはハッとしたあと恥ずかしそうに頭を掻いた後に続けた。
「ああ、すまない、私としたことが。私の名前はミコラーシュ。メンシスのミコラーシュだ」
啓蒙高めすぎて頭がパーンする寸前に鎮静剤キメながらフラフラしてたやべー奴に捕まった不死人。アーモンドはミコラーシュしか見えていない。
時系列はメンシスの悪夢に入る前のごく平和なヤーナム(白目)あいつ寄生虫持っていそうな素手の攻撃力なのにゴースの正式名が表記ゆれしてるとかどうなってるの……?