やはり、花の少女は悩みを抱えている   作:クログロ

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両作品を知らない方に分かりやすいように
心掛けております。
俺ガイルはアニメ、原作、ゲームコンプ。
FLOWERSは秋までクリアしています。


またも、平塚静は新たな風を送り込む

 少女、白羽は、整った綺麗な動作でお辞儀した。

 肩から後ろに流していた黒髪が、一房流れ落ちるのを眺める。

 

「部長の雪ノ下雪乃です。どうぞ、そちらに掛けて、白羽さん」

「は、はい」

 

 促されるまま、雪ノ下の斜め向かいの椅子に座る白羽。未だ緊張は解けておらず、膝の上で合わせている手が震えているのが見て取れた。ちなみに平塚先生は、頑張れ、と白羽に一言告げ、俺の隣で足を組んで座っている。

 

 白羽蘇芳。

 その少女を俺は知っていた。

 普通科二年A組に在籍し図書委員を務める少女。

 これだけなら各クラスに一人は必ずいる存在だが、何より目を惹くのはその容姿だ。

 俺がこの奉仕部に初めて連れて来られた際、雪ノ下の(一見)美しい佇まいに(遺憾ながら)目を奪われたが、白羽はまた別種の美しさがある。腰まである濡れ羽色の髪。物憂げな瞳。たおやかな動作。触れたら壊れてしまいそうな儚さと、背筋が痺れるような強烈な存在感という、相反する二側面の調和が彼女にはあった。

 事実、図書室で本を読みながら受付にいる彼女から目を離せなくなる人間が、俺を含め多々いたように思う。誰かが白羽を指して『図書室の妖精』なんて口にしていたのを聞いたことがある。

 何故俺が図書室にいたかって? 教室に居場所が無いからだよ言わせんな恥ずかしい。

 

 それにしても、絵になる、とはこういうことか。雪ノ下と白羽。系統は違うが、容姿は黒髪ロングで孤高の美少女と似通っているこの二人が向かい合って座っている様は、まさしく高名な一枚の絵画のようで近寄り難いものがある。

 

 そんな風に見とれていると、

 

「私達に貴方の気持ちの悪い劣情を向けないでもらえるかしら。自己紹介くらいしたらどうなの?」

 

 冷ややかな視線とともに、雪ノ下に睨まれた。

 キモい・気持ち悪いより、『の』を付けることで、精神的ダメージがデカいように感じるのは俺だけですか。

 

「いや向けてないし。つか『私達』って。相変わらず自意識高過ぎだろ。自信過剰も良いとこだ」

「本当の事だもの。わざわざ卑下する必要もないでしょう」

「謙虚って言葉を知らないのかよ」

「貴方でいう自傷癖のこと?」

「絶対違うし、そんな悲しい癖持ってねーよ」

 

 ふふん、と微笑みながらさも当然のことのように言ってのける雪ノ下。実際、初見時に見とれてしまった以上、これ以上突っ込むと薮蛇になりかねない。

 

「……二年F組、比企谷八幡だ」

 

 俺が名乗ると、それまで俺、雪ノ下、助けを求めるように平塚先生をきょろきょろ見ていた白羽が、目を丸くして視点を止めた。

 

「比企谷、さん…………。貴方が…………?」

 

 その視線には、何らかの感情が込められていたが、どんな感情かまでは量れない。

 面識は、無いはずだ。ぼっちは人と話す機会がほぼ無いため思い出すのに苦労しなくて良い。

 

「あー…………、俺の名前が何か?」

「あ、い、いえ! その…………」

 

 白羽が慌ててふるふると手と首を振り、再び助けを求めるように平塚先生を見た。どうも彼女からはシンパシーを感じる。先程から話し始めにどもる辺り、コミュニケーション能力に難ありと見た。ソースは俺。知らない人に話しかけられると九割どもる。残りの一割は「ふぇぁい」とか変な声が出る。

 平塚先生はそんな彼女の様子に一息つき、

 

「彼女に、君の書いた例のレポートを見せたからな。それで君の名を知っているのだよ」

 

 と、言ってのけた。

 いやちょっと待て。プライバシー何処いった。

 そんな思いを乗せてうろん気な目を先生に向ける。

 

「い、いえ! 平塚先生は悪くありません! 平塚先生の机の上に置かれていたレポートを、私が勝手に読んでしまって…………」

「いいや、君の悩みを聞いた時、君に見せようと考えていたものだ。気にする必要はない、別に構わないさ」

「それ、平塚先生が言うのおかしくないですか?」

 

 いや、まあ良いけどね? 少し気恥ずかしいが、何も間違ったことは書いていない、はずだ。知り合いでもない赤の他人にあのレポートを読まれるとか…………。うん、ちょっと今すぐ自室の布団に潜って「あー!」と叫びたいくらいで。

 

「ひ、比企谷さん、本当に、ごめんなさい…………」

「いやまあ、別にいい。あと、さん付けじゃなくて良いぞ、同級生だろ」

「は、はい。比企谷、くん」

「お、おう」

 

 顔を真っ赤にして、上目遣いでこちらを見る白羽。

 おかしい。普段なら上目遣い系女子など、今までの経験上確実に裏があるため即時警戒するところだ。それなのに何故か今回、俺の中の危険信号を知らせるアラームが一向に鳴らない。プロのボッチは同じ過ちを繰り返さないが、彼女からは何の悪意も感じないのだ。マジで何かの妖精なんじゃないの? 

 

「平塚先生。例のレポート、とは、彼がここに入部することになった時のものですか?」

「そうだ。そういえば雪ノ下には見せていなかったな。君も読むかね? なかなかに頭が痛くなるぞ」

 

 おい、だからプライバシーおい。

 

「お断りします。どんな精神汚染があるかわかりませんので」

「ねえ、もっと俺を傷つけないお断りできなかった? 無意味に人を傷つけるの止めてくんない?」

「ひ、と…………?」

「そこから疑問かよ」

 

 俺のジトッとした視線を受け、こてん、と首を傾げる雪ノ下。可愛いけど腹立つわぁ。

 もういいとばかりに俺がため息をつくと、満足したのか「さて」と雪ノ下が白羽に向き直る。

 

「では白羽さん、そろそろどういった依頼か聞かせてもらえるかしら?」

「…………、えっ?」

 

 雪ノ下に問われた白羽は、しかし意外そうにきょとんと首を傾げた。

 

「えっ、ではないわ。ここは奉仕部。貴女が抱える悩みを解決するため、その手助けをするためにあるの。何か依頼があってここにきたのでしょう?」

 

 改めてこの部活の説明をする雪ノ下。

 というか、めっちゃ親切な説明だな。俺の時は「貴方の人格を矯正してあげる。感謝なさい」とか言われたのに。あまりにも聞きなれない高圧的な言い方で、帰ってから風呂場の鏡の前で真似してみたわ。なかなかのクオリティだったと自負している。

 

「え、えっと、あの…………」

 

 それはともかく、改めて説明を受けた白羽は、何の事かわからないというように目をパチパチとしばたかせている。

 

「もしかして、何も聞いてないのか?」

「は、はい。平塚先生には、ただ付いてくるように言われてここに来たので……。その、ここに来た時にも依頼人と言われ、正直、何のことかもよく…………」

 

 何それデジャブ。

 俺の時も何の説明もなく連れて来られて、強制入部の強制奉仕を命じられた。

 どういうことか、と視線に込め平塚先生を見ると、

 

「なに、君の時と同じだよ」

 

 何を当たり前のことを、とばかりに肩を竦め、

 

 

「雪ノ下、追加の依頼だ。白羽蘇芳の孤独を解決してほしい」

 

 

 平然と言い放った。

 

 ……いや、依頼人アンタかよ。

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