激しい戦いの末、一度はラグナロクを道連れに異空間へと転移したアルマス。何とか帰還するもそこでは既にアルマスを欠いた形での世界が形成されていた。自分という存在に自信を無くしながらも平和になった人々の様子を見て葛藤しながらアルマスは新たな世界へと馴染んでいく。これはそんなアルマスが帰還してからちょうど一年後の物語

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(今回はエロ要素)ないです


ロストラグナロク後日談

 

 

 

 かつて世界から平和が消え去り、人間がイミテーションと呼ばれ新人類を名乗る化け物達に支配されていた時代があった。そこでは人間に自由はなく、ただ化け物の労働資源としての価値のみが与えられる。人々は苦しみ嘆き絶望したが、それがその世界の新しいルールだった。

 そんな世界でたった一人、反旗を翻す少女がいた。

 名をアルマス。

 一体の妖精を連れ、世界に秩序を取り戻すために道を指し示した最初の一人だった。

 

 少女の光は、はじめは小さく弱いものだった。少女自身も弱く、また脆い存在であったがその想いの力だけは並外れていた。

 やがて少女は長い旅を通して成長し、いくつもの試練に見舞われたが、結果として多くの仲間に恵まれる。多くの人との繋がりは彼女の想いをさらに強固な物にし、ついには神と呼ばれた者達、及びそれらの上位の存在とも戦い勝利するに至った。

 だが最後の戦いはそれまでのものとは一線を画し、その激しさは空間を歪ませるほどであった。アルマスはその最後の戦いで仲間達を残し、世界から姿を消してしまった。

 

 それから数ヶ月、あるいは数年経った頃だろうか、もう生存が絶望的かと思われていたアルマスが突如として帰還したのだ。詳しいことは彼女にしか分からないことだったが、仲間達は手放しで喜びアルマスを讃えた。

 そうして再び世界に平和と秩序が取り戻され、人々は安寧の日々を送ることが出来るようになった。

 

 

 

 

 

 

 

 ───と、以上がユグドラシル大戦のあらすじだ。ここまでで分からないことはあるか?」

 

 

 小麦色の髪を後ろで括った白衣を着た少女は、深緑の板に描かれたいくつかの図形を指し示していた細い棒を畳みながら、少し気だるげに問いかける。机に座している子供達の多くはこれまでの授業と同じように黙って聞いているだけだったが、ただその中の一人だけは何かを疑問に思ったようでそっと手を上げた。

 

 

「ん、君。なんだい?」

 

「先生、その、アルマスはなんでそんな世界の中一人だけ希望を保ち続けることが出来たんでしょうか? 僕だったらきっと諦めて.......みんなと同じように絶望していたと思います」

 

 

 その質問に対し同級生達は「あはは、ダセー」「俺でも多分希望になれたぜ!」などと彼を小馬鹿にする。しかし黒板を背にした金髪の少女、もといその教室の担任は、臆病で、だが野次を覚悟してでも質問した勇敢な少年の言うことを真剣に聞いていた。少女は少し唸ったあとゆっくりと答えた。

 

 

「そう、だな.......うむ。はっきり言って分からん」

 

「先生!」

 

「いや、な、実は私は絶望していた側なんだよ。君たちがこうして平和に授業を受けられるようになったのもつい最近のことだ。それまで私は世界に絶望していた.......そのことにすら気が付かないまま過ごしていたんだ。だから初めてアルマスを見た時は正直.......イラついたよ。当時は自分達にとって平和だと思っていた世界を破壊しようとしていたんだからな」

 

 

 いつになく真面目な声色で告げる先生の姿に、先程まで御伽話を聞いている時のごとく話半分に聞いていた生徒達も全員固唾を飲んで話を聞き始める。先生の話し方は、とても作り話をしているような雰囲気ではなかったからだ。

 

 彼女の名はパラケルスス。かつてのケイオスリオン国の研究員として非合法な薬品の開発に勤しんでいたキル姫の1人だ。大戦終結前は騒動の中心である大穴にはいなかったものの各地での復興支援に務め、その働きが評価され現在では次世代教育を任される一人となっている。

 

 

「アルマスは決して諦めなかった。どれだけ敵が強大であっても、どんなに絶望的な状況にあっても決して.......だから、なんだろうな。本来霊装支配の呪縛から逃れることの出来ないキル姫達にも希望が伝播していって.......その光は小さかったがみんなの思いを繋げていき、それはやがて世界を包み込むほど大きな光になったんだ。ま、本人からすれば諦めが悪いだけ、くらいにしか思ってないだろうがな」

 

 

 軽い嘲笑を交えながら彼の眼差しに答える。今後は前時代のような極端な統治を避けるため、次世代を担う子供達の教育はちゃんとしなければいけない。ハルモニア、ケイオスリオン、トレイセーマ、それにティルヘルムの4国は手を取り合い大きな教育施設を設け、身分に関係なく教育を受けられる設備を整えた。特に同じ過ちを繰り返さないため、歴史と道徳は力を入れている。

 

 子供達は普段こそふざけたりしていたが、パラケルススの指導の賜物だろう、彼女が真面目な話をしている時は真剣に話を聞く習慣がついていた。気付けばもう質問者の彼を笑う者はいない。皆、各自なりに思いを巡らせているのだ。そして一人興味を示した生徒が質問をする。

 

 

「先生、じゃあアルマスは今、何をしているの? 平和になったからもう戦う必要はないんだよね?」

 

 

 パラケルススは一瞬何を言っているのか分からないといった風できょとんとした顔を見せたが、直ぐに納得を示し、その質問に返答した。

 

 

「ああ、そうか。まだ教えてなかったな。まあ色々あったんだが、アルマスは今─────

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「あははっ、これで終わりだよっ! 『双炎の激情』ッ!!!」

 

 

 大きな音が森中に響き渡り、木々に止まっていた鳥たちが一斉に羽ばたいた。鳥達の目には突如として森の一部が消えたように映ったことだろう。赤と青の入り交じった髪色をしている少女が剣を振りかぶって繰り出した技の後には、炭素の煙と衝撃で抉られた地面の跡だけが残っている。

 

 

「ちょっと、はしゃぎすぎよモラベガ!」

 

「ふふんっ! 今日はアルマスが49体で私達が51体だから、私達の勝ちだね!」

 

 

 モラベガと呼ばれた少女はその少し大人びた見た目とは裏腹に、まるで初めてかけっこで勝った子供のように純粋な笑顔をもう1人の少女に向ける。もう1人の少女アルマスは青く光った長い剣と背中から生やした羽をどこかへとしまい、モラベガの近くへと降り立った。

 

 

「はぁー。こんな絶・派手に技使っちゃったらまたギルに怒られるじゃない!」

 

「うぅ.......ごめんなさいアルマス。やっとアルマスに勝てるって思ったら嬉しくなっちゃって.......」

 

「ま、まあ私より多く異族を狩ったって点は褒めてあげるけど.......だからって次からはもっと周りに気を付けないとダメよ」

 

「.......はぁ、アルマスがそれを言うんですね」

 

「なっ、ティニ!?」

 

 

 傍らから現れアルマスに呆れ顔を向ける妖精はティターニアという。ティターニアは元々アルマス達と同じような背丈をしていたが、かつて戦いでアルマスが危機に陥った際にその身を犠牲にして力を授けて縮んでしまい、今では手の平に乗る程度のサイズになってしまっている。

 一番長くアルマスを近くで見守ってきた一人で、アルマスが失踪している期間最も心配していた人物でもある。

 

 

「妖精結合であなたの考えは伝わってくるんですからね。口ではそれらしいことを言ってますけど、さっきモラベガの技を見た時『絶・爽快ね!』なんて考えてましたよね」

 

「ティニ! それ言っちゃダメなやつ」

 

 

 アルマスはティターニアを咎めようとしたが、それよりも早くモラベガが近付いてくる。先程までのしょんぼりとした顔はどこへやら、ぱーっと明るい笑顔を向けてアルマスに飛びついた。

 

 

「ちょ、待ってモラベガ!」

 

「あははっ、やっぱりアルマスは私達と繋がってるんだよ! 嬉しいっ!」

 

「もう.......しょうがないわね」

 

 

 優しく撫でられたモラベガはさらに幸せそうな顔をして、より強くアルマスを抱きしめる。その顔を見て、誰が彼女の壮絶な過去を想像できるだろうか。アルマスはモラベガが楽しそうにしているのを見て優しく微笑み、モラベガが満足するまで頭を撫で続けた。

 

 

「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。あんまり遅くなっちゃうとみんなに心配かけちゃうから」

 

「はーい! じゃあどっちが早く帰れるか競走だね!」

 

「いや、競走はさすがに疲れたから遠慮させてもらうわ。それに.......」

 

 

 アルマスは言葉を濁しながらモラベガをチラッと見た後に、すぐに目を逸らした。その頬はほんのりと赤く染まっている。

 

 

「??? 変なアルマスですね。アルマスに遊んでもらえないのは残念でしょうけど、行きましょうかモラベガ」

 

「うんっ、残念だけどアルマスにはまた後でいっぱい遊んでもらうから大丈夫! ねー、アルマス?」

 

 

 同意を求める声にアルマスは返事を返さない。その代わりにより一層顔を赤らめるだけだった。

 

 

「そうなんですか? まあ明日も仕事がありますから程々にしてくださいね」

 

「はーい!」

 

 

 モラベガの元気の良い声とともに一行は帰路につく。ティルヘルムより少し離れた森から家に帰るための。

 

 アルマスが異空間から帰還して数ヶ月。世界は秩序を取り戻し、皆新しい生活に慣れ始めていた。復興に力を貸す者、霊装支配の恩恵を活かしそれを職とする者、次世代の教育に携わる者、色々な形で世界に関わっている。

 戦いは終わった───かのように思われていたが実はそうではない。人類同士の争いが無くなった反動か、また異族が各地で出現するようになったのだ。各国は異族対策局を設け戦闘力の高いキル姫を配置し、一日あたり30〜100体の異族を狩ることを目標として日々活動している。

 アルマスとモラベガはティルヘルム国における異族討伐隊であり、こうして強大な力を民のために奮っていた。

 地方の村にも被害が出ないように国境付近まで見回りをして、それを外交官であるギルガメシュに報告するまでがアルマス達の日課となっていた。今日はモラベガを先に家に帰らせ、アルマスとティターニアはいつものようにギルガメシュの元を訪れていた。

 

 

「.......以上が今日の報告になります」

 

 

 日も落ちてきてそろそろ明かりが必要になるような時間帯、木製建築の大きな建物の中にある一室でティターニアからの報告が行われる。今日一日の異族討伐数、異変、被害状況を的確に伝達するためだ。報告を受けたギルガメシュはティターニアから渡された資料に目を通し終わると眼鏡を外し、改めてティターニアの顔を見て礼を言った。

 

 

「了解しました。いやー、いつも悪いですねティターニアさん」

 

「いえ、ギルガメシュ外交官殿に比べたら私の仕事なんて全然.......」

 

「ちょっと! なんでティニばっかり褒められてるのよ。実際に異族を討伐したのは私達なのに!」

 

 

 ここ数日間に及び二人の会話があまりに静かなもので我慢できなくなったのか、思わずアルマスが口を挟む。こうして声を発すればギルガメシュが張り合ってきて、少なくとも今のつまらない状況を打破できるということを無意識に理解していたからだろう。

 

 

「ああ、そうだな。アルマスもお疲れ様。いつもありがとう」

 

 

 だが、ギルガメシュから帰ってきた言葉はアルマスの予想に反し、素直にアルマスの要求を受け入れ、謝礼を言うものだった。

 

 

「.......なんか、あなた変わったわね」

 

「そうかな?」

 

「ええ。昔ならなんていうか、私がこういうこと言ったら『アルマスはどうせティターニアさんに迷惑かけてたんだろ』とか言ってそうなのに」

 

「ははは、昔だったらそうかもしれないけど、今はもうあの時とは違うからね。アルマスが頑張ってることなんか、本当は昔から知ってたんだ。ちょっと素直になれただけだよ」

 

 

 机越しにアルマスと話すギルガメシュはにこやかな表情をする。その表情は昔ほどの純粋さは感じられなかったが、それでもどこかギルらしさを感じさせるものだった。

 

 

「そうなの? そう言われると少し照れくさいわね.......」

 

「ま、それはそれとして報告書にある『モラベガが及ぼした森林地域の損害割合について』なんだけど.......」

 

 

 ギルガメシュは再び眼鏡をかけ、ティターニアからの報告書を見ながらアルマスに指摘する。その顔は外交官として真剣に役割をこなそうとする者の表情だった。

 

 

「あ、ああ、それね! まあ私からなんとか言っておくから今日の所は見逃してくれないかしら?」

 

「はあ.......まあアルマスが言って聞かせるならそれでいいけど。次はないようにしてくれよ。街の人達から責められるのは俺なんだからな?」

 

「分かった、分かったわよ。あなたも色々と大変そうね」

 

「はは......まあね。でも中々やりがいもあって楽しいよ。それに俺は.......昔何も出来なかったから、今みんなの役に立ててることが嬉しいんだ。こうやってみんなが笑顔で暮らせるなら、俺にできることならなんでもやるつもりだ」

 

 

 ギルガメシュは腰を上げ窓から外を見る。そこからはすっかり日は沈んでいるというのに明かりをつけ、祭りで賑わっている人々の姿が見える。その街の様子からはほんの数年前まで世界が争っていたことなど微塵も想像できない。ギルガメシュがわざわざ都市部から少し離れたこの屋敷に本部を構えているのは、この光景を見るためでもあった。

 

 

「ふーん、そう。でもひとつ間違ってるわよ」

 

「え? 何か変なことでも言ったかな?」

 

「あなたが何も出来なかったことなんてないわ。確かに危なっかしいことも多かったけど、その度に私はあなたに勇気付けられた.......だからギルはなにも自分を責めることなんてないわ」

 

「アルマス.......」

 

 

 驚いた顔をしてアルマスに向き直ったのも束の間、すぐに窓の方に振り返り少しの間を置いて言った。

 

 

「ありがとう.......さ、祭りの主役をいつまでもこんなとこに留めてたらまた皆に怒られちまう。早く行ってこいよ、アルマス」

 

「.......ええ、あなたも無理しないようにね、ギル」

 

 

 

 ギルガメシュは窓を向いたまま手を振り、扉が閉まる音が聞こえてもしばらくの間振り返ることは無かった。じっと見ているとアルマスが建物から出て行き街の方へ向かっていった。途中でモラベガと合流したのか、一人だけ飛び跳ねながらこちらに手を振っているのが遠目ながらに分かる。

 

 

「さて、俺ももうひと仕事して今日は呑むぞー!」

 

「私にも何か手伝えることがあれば手伝いますよ」

 

「わっ、ティターニアさん!?」

 

「一人酒なんて寂しいこと言わないで、たまにはお話聞かせてください」

 

 

 誰もいなくなったはずの室内に、とても小さな妖精がいた。笑顔を返してくれる妖精は本来アルマスの隣にいるべき存在だ。戸惑い様々な思考がギルの脳内を巡る。結局一瞬間を置いて口から出た言葉は二人がお互いに信用していることが分かるようなものだった。

 

 

「.......マシュマロ三袋で足りそうか?」

 

「ふふっ、三十袋でお願いします」

 

 

 はは、それは大変そうだ。そう言って机に戻り作業を再開する。大きな建物の中で唯一明かりの点いた部屋には、積まれた書類にサインをしていくギルガメシュとティターニアの姿だけがあった。

 

 

 

 ♢♢♢

 

 

 

「あっ、たこ焼きだ! あっちには焼きそば! ねぇねぇアルマス、全部食べたいよ!」

 

「だーめ! 帰ってからご飯用意してあるんだから我慢しなさい」

 

「えー、でも食べたいよぉ」

 

 

 街の祭りに溶け込んだアルマスとモラベガ。アルマスは街の中心部に近付くにつれ増えていく屋台に興奮を隠せないモラベガをなんとか宥めようとするが、静止する度に本当に悲しそうな顔をするものなので段々と申し訳ないことをしている気分になる。このままではばつが悪いので夕食に支障がでない程度の解決策を提示することにした。

 

 

「はあ、絶・しょうがないわね.......二つまでなら食べていいわよ」

 

「やったー! うーん、二つ。ふたつかあ.......どれにしようかな。たい焼き? フライドポテトも食べたいし、りんご飴、チョコバナナ、やきそば.......うあー、全然選べないよー!」

 

「まあ二つとは言ったけど一人二つまでだからね。私も食べるから全部で四種類まで食べられることになるわね」

 

「ほんとに? やったー! 楽しみだなぁー。ねぇアルマスは何食べるの?」

 

 

 モラベガにとって祭りというものはかつて父と母に連れて行ってもらった時以来だった。祭りといっても当時はこうして騒ぎ立てること自体が難しい情勢だったこともあり格式ばったものであったため、このようなきらびやかな催しは初体験といっていい代物だ。

 こういった祭りについては取り込んだ人格の記憶により存在自体はしっていたものの、油で揚げたばかりのじゃがいもにこれでもかというほど塩をかける屋台の前を通った時に漂う食欲をそそる香り、甘い蜜が満遍なく塗りたくられ店頭に綺麗に並ぶりんごの魅惑的な色、さらには大きな音を立てながら目の前で焼きそばを豪快に作っていく様を実際に目にすると、興奮を抑えることは不可能だった。

 何より大好きな人と一緒にそれらを体験出来る嬉しさは何にも変え難いほどモラベガの胸を締め付けていた。

 

 

「私はそうね、りんご飴と.......パウンドケーキはどこかに売ってないのかしら? まあさすがにないわよね」

 

「そうだよー、お祭りにパウンドケーキがないってことくらい、私達でも知ってるよ!」

 

「ふふっ、ところがこのお祭りにはあるんですよね」

 

「ッ...!? なんであなたこんな所に!?」

 

 

 二人の会話に割って入ってきたのは、かつてアルマスと共に世界を救った人物の一人で、現在はここティルヘルム王国の女王であるティルフィングだった。アルマスが帰還した際に出会った姿も本来のティルフィングの姿に戻りかけていたが、今ではその時よりもオリジナルに近くなっていた。いつもならこの時間帯はまだ業務に追われている時間であるため会うことはないと思っていたこともあり、幽霊にでも出会ったような顔を向けていた。

 

 

「このお祭りはアルマスの帰還を称えるという名目で開かれてますからね。主役の方の好物ということでこのお祭りの名物にもなってますよ」

 

「あっほんとだー! よく見るとあそこにもパウンドケーキ屋さんがある!」

 

 

 そう言って街の中心地の方を指さすモラベガ。これまでの道のりで見かけなかったのは街の外れの方だったからだろう。中心に近くなるほどパウンドケーキが置いてある屋台は増えるというのがティルフィングによる話だ。

 

 

「なかなか気が利いてていいお祭りね! 後で絶実食よ!.......ところであなた、女王の仕事の方は大丈夫なの?」

 

「いえ、本当は山ほどあるんですけど今日はアルマスが帰ってきて初のお祭りですから。城を抜け出して文字通り飛んできちゃいました」

 

 

 てへっと背中に生えた白色の羽をはたつかせる。その透き通るような羽での生活に慣れてしまった為か、背丈が戻りかけている現在でもその羽による空中浮遊を主な移動に使っていた。

 

 

「モラベガ、私はティルフィングと話があるからお祭り.......回ってきていいわよ」

 

「えー、アルマスと一緒がいいよ」

 

「そんなこと言わな───」

 

 

 アルマスとはこの祭りの本来の目的及びその段取りに加え積もる話もあったためティルフィングと一旦祭りを抜けることをモラベガに伝える。しかし振り返った時に見えたモラベガの表情はとても寂しそうで、

 

 

「.......そうね、分かったわ。ねえ、ティルフィング悪いんだけど.......」

 

 

 アルマスにモラベガと共にいることを決心させた。

 

 アルマスが失踪している間多くのことがあった。王となり皆を先導する者、新たな職や生きがいを見つけ今までとは違う生き方を始める者、戦いの復興を支援する者.......アルマスの失踪直後はその誰もが大穴で彼女の帰りを待っていた。しかし一週間、一ヶ月、半年、数年と時を重ねるに連れ大穴でアルマスの帰りを待つ人は減っていった。

 いよいよアルマスが異空間から帰って来た時にはすっかり大人びたギルガメシュに、ディスラプターズのレーヴァテイン、現ティルヘルム女王のティルフィングと相棒とも言える妖精ティターニア、そしてバイブスであるマスターと、真っ先に抱き着いてきたモラベガだけだった。

 その面々すらもティターニアとモラベガを除き、現在では各自の役割があり日々業務をこなしており、アルマスと日常的に会うことは難しくなっていた。

 しかしモラベガとティターニアだけは新しい世界に慣れないアルマスを近くで支え続けた。二人以外の人たちもアルマスを見かければ謝礼を述べる者や食料や甘味などを渡す者もおり、中にはわざわざ自分からアルマスの元へ訪れる人もいたが、世界はアルマスを抜いた状態で新たな形を成していたため簡単に慣れることは出来なかった。

 心が折れかけていたアルマスをモラベガやティターニアは根気強く励まし、多くの頑張りあって異族討伐局を運営していくことができるようになった。

 そういうこともあってアルマスにとって元々特別な存在であるティターニアに加え、モラベガもかけがえのない存在となり、お互いに支え合って生きている。

 つまり今のアルマスの中での優先事項はモラベガと一緒に祭りを満喫することであったため、ティルフィングとの会合を断ったのだ。

 

 

「ああなるほど。いえ、こちらこそ突然お邪魔して申し訳ありませんでした! 30分後に中央広場に来ていただければ、他のことはやっておきますので」

 

「ごめんなさい、ありがとう」

 

「いいんですよ。英雄なんですから、もっと堂々と構えていてください! それでは」

 

 

 再度翼を羽ばたかせ、広場へ向かう。空を舞うティルフィングの姿を見た街の人々は興奮し、女王の来訪に喜び歓声を上げていた。途中ティルフィングが振り向いて手を振ってきたのでこちらも振り返す。すると街の人々も同じように女王に向けて手を振っていた。きっと街の人々の要望に応えるのも兼ねていたのだろう。

 

 

「.......さて、じゃあいこっか」

 

「うん。でもティルフィングさんと行かなくて本当に良かったの?」

 

「ええ、いいのよ。私にとってあなたとお祭りを回ることより大切にしたいことなんて無いわ」

 

「アルマスぅ〜。大好きっ!!!」

 

 

 その言葉が余程嬉しかったのだろう。モラベガは人目を気にせずアルマスに全身で抱きついた。

 

 

「えへへー。やっぱり私達の思いはひとつなんだね」

 

「ちょ、ちょっと離れなさいって。周りの人が見てるから! ほらあんまり騒ぐと───」

 

 

 二人のやり取りが街の住民の目に入る。しばらく続けているうちに住民のひとりが声を上げた。

 

 

「おい、あれもしかして英雄じゃないか?」

「え、嘘だろ!? 本物じゃねえか!」

「何? 本物のアルマスがいるの?」

「アルマス、英雄が帰ってきたぞー!!!」

 

 

 一粒の小石を池に投げ入れた時の如く、その一声が始まりとなってアルマスがいるという情報が爆発的に広がり、多くの人がアルマスの元へ集まってくる。

 

 

「あーもう、やっぱりこうなった。モラベガ、逃げるわよ!」

 

「うん、そ、そうだねっ。これじゃあお祭りどころじゃないや」

 

 

 二人とも翼を展開し空へと浮かび上がる。日々異族を狩るために複雑な地形を猛スピードで駆け巡る彼女らにとって街の人を撒くことなど造作もないことだった。

 飛んでいると街の賑やかさがより鮮明に分かる。もうとっくに日も沈んでいるというのに街の明かりはより一層輝き、人々を照らしている。一昔前ならば考えられない光景は危機感が欠けた、と言えばそれまでだが逆に言えばそれだけ平和になったということだろう。その景色はアルマスの心にも温かな光をくべた。

 しばらく飛んでいるうちに街の郊外に辿り着く。

 

 

「あの辺りで一度着陸するわよ」

 

「了解だよアルマス!」

 

 

 その中でも特に人気のない路地を見つけ、周りに迷惑がかからないよう静かに着地する。祭りで人が出払っているためか半径300メートル以内に人の気配はなく、アルマス達は翼をしまい警戒体制を解いてその場にしゃがみ込んだ。

 

 

「はあ、結局食べれずじまいだったわね。なんとなくこうなる気がしてたけど.......」

 

「うぅ〜、アルマスと色々食べて回りたかったよぅ〜」

 

「.......まあお祭りなんてまた来年もあるんだからその時に食べればいいでしょ。ううん来年だけじゃない。再来年もその次の年も、これから先ずっと一緒なんだからいくらでも機会はあるわ。だからそんなに落ち込まないで」

 

「アルマス.......うん、そうだねっ! これからはずっと一緒だもんねアルマス!」

 

「ふふっ、やっぱりモラベガには落ち込んだ顔より笑った顔の方が似合ってるわ」

 

 

 祭りで賑わう街の中心部とは対照的に、明かりも少なく屋台もない郊外の路地裏で二人は笑い合う。本当に望むものは今目の前にあるということを双方十分に理解していたからだ。

 かつての戦いの日々を思い出し、目の前の相手が儚げな存在であるということ、しかし今はいつでも手の届くところにいること、それが幸せなことであるということを誰もいない二人だけの空間で確かめ合った。

 

 

 ♢♢♢

 

 

「ごめんなさい、少し遅れたわ!」

 

 

 街の中心部、スピーチ台の舞台裏。息を切らしながらアルマスはティルフィングの元へ予定よりも15分遅れで駆けつけた。

 

 

「お疲れ様です、アルマス。街の方達を撒くのはさぞ大変だったでしょう」

 

「え、ええ、まあ。ていうかなんで街の人が群がってきたの知ってるの!?」

 

「ふふ、だってアルマスですから。遅かれ早かれ街の人に見つかるだろうなって思ってました」

 

「っ!.......はぁ〜、やっぱりあなたにはかなわないわね」

 

 

 額に手を当て諦めの表情をティルフィングに向けるアルマス。それを見てティルフィングは変わらないアルマスの様子に微笑んでいた。

 

 

「さて、到着して早々悪いのですが、ぼちぼち壇上に上がってもらってもいいですか? 場を繋いでくれているギルもそろそろ限界が来そうなので」

 

「えっ、なんでギルがいるの!?」

 

「何故かいつものお屋敷でお仕事をしていたので私が連れてきました。せっかくの記念日にいつでもできる仕事をしているなんて勿体ないですから」

 

 

 こうして話している最中もゆらめかせている半透明な羽により、どうやってギルが連れてこられたのかが容易に想像できる。

 よく見るとその場にティターニアもおり、一瞥すると両手を上げて首を振っていた。

 

 

「.......結局みんな勢揃いじゃない。私だけ悩んで馬鹿みたい」

 

「あら、私達がいたら迷惑ですかアルマス?」

 

「迷惑なわけないじゃない、ティニ。振り向けば皆がいる、こんなに安心できることなんてないわ」

 

 

 そう言ってアルマスは周りを見渡す。かつて共に、あるいは敵として戦ったキル姫達、壇上に立っているギルガメシュ、ティルフィング、ティターニア、モラベガ、それだけではない。ティルヘルムに留まらず他の三国に所属しているなどの理由で、今来ていない人の中にも自分を想ってくれる人が大勢いることをアルマスは直感で理解した。

 何も変わらない。かつて戦っていた頃と同じように先頭を自分が走り、皆がそれに着いてきてくれる。

 振り向けば一人では無いことが分かる。ずっと一人ではなかったのだ。

 それと同時に、それでもずっと隣を走ってくれていたティターニアとモラベガに対し思いが込み上げてきた。二人がいたからこそ今でも元気に笑顔を作れる。

 

 

「こんなことに今更気が付くなんてね.......ありがとうティニ、モラベガ、皆! じゃあ行ってくるわ」

 

「待ってアルマス!」

 

 

 壇上に上がるため階段に一足かけた所でモラベガが後ろから抱き着いてきた。いつものような勢いは無い、優しい抱擁だった。

 

 

「アルマスはひとりじゃない。私達がずっと一緒にいるよ」

 

 

 アルマスは子供のように甘えるモラベガの方へ振り返り、抱きしめながら頭を撫でる。

 

 

「ええ、分かってるわ。ありがとう」

 

「.......行ってらっしゃい、アルマス」

 

 

 再度強く抱きしめ、ゆっくりとアルマスを送り出す。

 モラベガはこれまでのアルマスは自信を失っていて、たまたま自分が一番近くにいるから見てくれているのではないかという不安に駆られていた。そしてそんな状況を良くないと思いながらも大好きな人と一緒にいられるため、わざわざ自分からその状況を打開することはなかった。

 しかしアルマスに抱き返され撫でられた時、それは間違いだったと気付いた。

 弱みにつけ込む必要などない。ただ一緒にいたいと願えばアルマスはその望みを叶えてくれる。今のアルマスを見れば言わずともそれが伝わってきた。

 

 

「大好きだよ、アルマス!」

 

「んむっ!?」

 

 

 罪悪感や愛おしさ、溢れる感情の全てがモラベガをつき動かし、アルマスの唇を奪う。

 周りの人々は驚いていたが、当人達には関係ない。

 

 

「私もよ、モラベガ」

 

 

 アルマスは一瞬驚きはしたもののそれに応えるよう目を瞑り、より深いキスをする。自分の身を犠牲にしてでも長い呪縛からモラベガを解放したアルマス。そのアルマスが失踪してから帰ってくるまでただ待ち続け、帰還後も一年間支え続けたモラベガ。

 二人の絆はもはや他者が測れるレベルを超えていた。

 長いキスの後、アルマスは再度階段へ足をかける。

 

 

「それじゃあ今度こそ行ってくるわ!」

 

「うん、頑張ってアルマス!」

 

 

 モラベガはじめ、多くの声援を受けいよいよ壇上へと登る。まず初めに民衆から野次を飛ばされるギルガメシュと目が合った。お互いに街の住民に聞かれない大きさで軽口を叩き合いながら、ギルガメシュはアルマスへとマイクを渡す。アルマスの登場に場は騒然とし、数分間止むことのない拍手が巻き起こった。ひとしきり続いた後、今度は静まり返り、世界を救った英雄が一言目に何を言うのか、人々は固唾を飲んで見守る。

 

 そんな期待を感じ取りながらも、しかしアルマスはいつもと変わらない様子で話し始めた。

 

 

「えー、スピーチをしろなんて言われたけど生憎と私はそういう話は苦手だから、ここでは私がかつて何と戦っていたかについて話そうと思う。その前にひとつ、皆の認識を改める必要があるわ。みんなは私を英雄だとか言ってはやし立てるけれど、実際はそんなものじゃない。ただ自分が正しいと思ったことを信じて、それを実行しただけなの。それがたまたま世界を救ったみたいな形になっちゃったけど、要は普段から皆がしていることと何も変わらないわ。つまりこの話に誰が偉くて誰が愚かなんてことはなくて、ただ世界が変わるまで日々を耐え忍んでいた人、応援してくれた人、あるいは敵として私の前に立ち塞がった人達でさえ、皆が自分の正義を信じて戦った私の仲間だと思ってる。

 だから初めの言葉はやっぱりこれしかないのよ───

 

 ───この剣先に続け!!!」

 

 

 

 

 ───────ロストラグナロク後日談完]




アルマスとモラベガの絡みはまた別枠で書く予定です。
アルマス×モラベガなのか、モラベガ×アルマスなのかそれが問題だ、と思った方はよろしければ高評価、ブックマーク、お気に入り登録の方もお願いします。

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