鬼を滅する者の蒼い航路   作:オーマジオウ良い奴説

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これから

 重桜、それはヤオヨロズノカミガミを信仰しレッドアクシズという組織に所属する一つの国家であり、ここはその重桜の大陸だ。

 

 無論佐之助にそんな場所の情報や名前など聞き覚えはない。ただただ困惑することしか出来ない佐之助だったが確かにわかることがひとつだけあった、それはここが日本ではないということである。日本でない以上鬼はいない、そうなれば今まで積み上げてきた修行の意味は無駄となる。

 

「そん、な……嘘だろ?」

 

 突き付けられた現実にぼそりとそう呟く、が佐之助は飛びかかる勢いで高雄の肩を強くしがみつくように掴み日本に戻る方法は無いのかと聞いてみる。けれど高雄は無情にも無いと告げ首を横に振った。

 

「お主の話はあまり信じられる話ではないが、この大陸で日本のことを知っている者は拙者達KAN-SENだけだ。一般人が知っているはずはない」

 

 高雄はそう言うと気の毒だが元の場所に帰るのは諦めた方がいいと佐之助にいい放ち続けて

 

「今からこの重桜を納めるKAN-SEN、長門様の所へ連れていきお主の処遇を決める。その刀は大事に持っておくといい」

 

 せめてもの慈悲とでも言うように最後にそう言って高雄は佐之助に背を向けて歩き出し、佐之助はただ黙って高雄の後ろを歩いた。

 

 無理もないだろう。家族の敵を取るため数年間も血反吐を吐く思いで修行し、いざ鬼殺隊に入れると思った途端気づいたら日本とは全く別の場所にいてそこには鬼など存在しないなどと言われたのだから。佐之助にとってそれはいままで積み上げてきた物を叩き壊されたようなものだ。

 

 佐之助は光の無い瞳で空を見上げながら

 

「俺は、何のために修行したんだろうな……」

 

 そう、小さく呟いた。

 

 

#

 

 

 重桜の大陸の中央からやや右に位置する巨大な城にて、佐之助は高雄に連れられやって来た。そこにはさまざまなKAN-SEN達が居て一般の人間ならば目を見開き見回すだろうが佐之助はうつむいたままでこれと言って反応を示さなかった。それほどまでに精神的な傷は大きく深いのだろう。

 

 しばらくして高雄の足音が止まった。着いたのか?と佐之助は俯いていた顔を前に向けると、そこには赤と黒を基調とした着物を羽織り、狐耳と九つの尻尾を生やした女性が高雄と対峙するように立っていた。

 

 その時佐之助は彼女を本能的に察知した、この人かなり強い、と。実は高雄と出会った時も佐之助は高雄も同様に本能的で強いと察知していたがこの狐の女性は高雄よりも強いと佐之助は確信した。

 

「赤城、ちょうどいいところに来たな。少し用がある」

 

「珍しいわね、あなたが私に用なんて。まぁおおよそ後ろに居るその子供のことでしょ?見たところ刀を持っているようだけど」

 

 高雄は狐の女性、赤城に佐之助ことを説明した。すると赤城は少し考え込む様子を見せてからそうね、と呟き佐之助に近づくとその腰に据えた刀に目をやり

 

「あなた、戦えるの?」

 

 そう問いかけ高雄はおいと声をかけて止めに入ろうと赤城の肩に手を置こうと伸ばす、がその前に佐之助が口を開き高雄は伸びかけた手を止めた。

 

「鬼共と戦うために血反吐を吐き出す思いで数年間修行を積んだ、けど手を貸すことは出来ない」

 

「そう、ならひとつだけ教えておくわ。その鬼とやらが何かは分からないけど今この世界で武力は一番の武器よ。何をするにしても、何を守るにしても、ね。覚えておきなさい」

 

 戦う理由が無いと言う佐之助に赤城はこの世界で何をするにも武力は必要だと告げる。佐之助はそんなことを言う彼女がどこか儚げに見えた。

 

「……そうか」

 

 赤城は横をそのまま通りすぎると高雄に長門様ならお部屋にいるわ、と伝えそのまま長い廊下を歩き去っていった。

 

 去り行く赤城を目で追っていた高雄はハッとして申し訳なさそうにすまないと謝るが佐之助は別に構わないと言って歩みを再開した。

 

 しばらくして内庭が見える廊下を通り抜け門のような大きさの戸の前にやってくる。高雄は小声で佐之助に失礼のないようにしゃんとしておけと言って長門様失礼しますと挨拶をし戸を開けた。

 

 中は薄暗く、奥に二つほどの灯籠が置かれており内装は見えないこともない。よくみると灯籠の置かれたさらに奥に強い光が見え、そこには御簾の掛けられた部屋が。御簾で隠れていてはっきりと見えないが中に幼い少女のような影うっすらと見える。佐之助は年端もいかない女の子がこの大陸を納める姫かと考えながらとりあえず高雄の言った通りに失礼のないよう心がけ高雄と共に部屋の中へと入っていく。高雄が歩みを止め膝間付くと佐之助もそれに合わせ膝間付き、竹のカーテンで身を隠し影だけしか見えない少女、長門は幼さはあれど威厳のある声で

 

「なにようじゃ、高雄」

 

 高雄はその言葉には本日は日本から参ったと言う少年を連れて参りましたと佐之助の事を話した。長門はふむと一呼吸置くと少年よ、それは本当か?と佐之助を問いただす。佐之助は日本から来ましたと一言だけ長門に言い、そして感じ取った。佐之助の本能が叫ぶ、この少女は道中であった赤城や今隣に居る高雄とは比べ物にならない程に強いと。そして納得した、何故年端もいかぬ少女がここまで慕われているのかを。

 

 長門は今度は問いかけるように少年よ、お主はかの戦……いや戦争を経験したか?と佐之助に言う。佐之助は首をかしげて戦争?とその質問を疑問に思いながらいいえと答える。佐之助の答えにそうか、と少し黙ると

 

「お主の居た時代は大正か?」

 

「そう、ですけど、それがなにか?」

 

 佐之助の言葉に再び黙り込む長門はその腰を上げを御簾開け始める。高雄は長門様!?と驚いたように声を上げ佐之助は今度は何が始まるんだ?と内心少しイラついていた。

 

 御簾を開け出てきたのは影で見た通り一人の幼い少女。その容姿は幼いとは言え美しく、まるで大和撫子のようで、髪は黒く長く狐耳が生え、顔は幼くも整っていて、勿論背は低く、服装は巫女のような物を身に纏っている。だが彼女から発せられる強大な力のせいか今幼い子供と捉えることは佐之助には到底出来なかった。感覚にして言えば己の師である鱗滝を前にしている、と言ったところだろう。

 

 とそんな佐之助と高雄をよそに長門は軽い足取りで佐之助の目と鼻の先まで来ると覗き込むようにその顔を見つめた。その顔は幼さはあれどそこらの女性など比べ物にならないほどに美しい、そのためじっと見られる佐之助は少し照れたように顔を赤らめた。

 

 しばらく見つめた後長門は佐之助から離れやはりか、と小さく呟いた。よく聞こえなかった佐之助はなにか?と聞いてみるも長門はなんでもないと答え高雄の方へと向き

 

「部屋は空いているところを使え、佐之助は客人としてもてなせ。余は暫く眠りにつく」

 

 高雄は長門の言葉に御意と返事を返し佐之助についてこいと言って部屋を抜け続くように佐之助も部屋を抜けていった。

 

 

 

「龍之介よ、運命とは……残酷じゃのう」

 

 長門は一人となった部屋でそう悲しげに呟いた。

 

 

 

#

 

 

 重桜の城、その空き部屋にて佐之助は用意された粗茶を啜りながら高雄と雑談をしていた。この雑談は暗い表情をし俯くと言う体制を何時間もする佐之助に耐えかねた高雄が気を利かせたものによる会話である。とはいっても話している内容はこの世界の常識や事情、そして今起こっている二つの組織による人同士の対立などなどこの世界に住むに至っての情報くらいで個人的な話は出来ていないなのだが。

 

「セイレーンにレッドアクシズやアズールレーン、どれもこれも信じらんねぇなぁ……まぁ現実に起こってんだから信じるしかねぇんだが」

 

「仕方あるまい、とは言っても佐之助殿のような人物が現れた前例はないゆえ、拙者も実は少しまだ困惑しているのだ。正直な話あまり信じきれていないのだ、すまない」

 

 話を聞いた佐之助が粗茶を啜りそう言うと高雄も実は自分も困惑していて信じきれてもいないと複雑な表情で苦言を漏らした。そしてそう言えばと高雄は立ち上がるとその格好じゃ目立つだろう、少し待っていてくれと言って部屋を出ていった。

 

 出ていく高雄を尻目にそんなこの格好目立つか?とぼやくもそう言えばここに来たとき通行人に奇怪なものでも見るような眼差しを向けられたのを思いだし、佐之助は1人納得した。

 

 部屋で一人となった佐之助は頭の中を一度整理しようと思い軽く高雄から説明されたこの世界での情報を思い出す。まず一にこの世界では現在人同士の戦争が起こっている。二つ、その戦争の引き金を引いたのはセイレーンという異形の仕業であり、簡単に言ってしまえば佐之助の元居た世界でいう鬼である。セイレーンは人を食ったりしないようだが人と敵対しているのは間違いない。三つ、分裂の起こった原因はここ重桜と鉄血がセイレーンの力を利用しようとしていることで起こったこと。

 

 佐之助は考えを纏めているうちにふと気づいた。確かに両者には両者のやり方があり分裂するというのは分からなくもない、だがセイレーンと言う強大で共通の敵を前にして何故人間同士で争いが起こるのだろうか。高雄から聞かされたときは疑問に思わなかったがこうして考えてみると不思議だ、と佐之助は思った。

 

 とは言っても現状自分になにか出来ることなどないので無駄に考えるのはやめ蓄積した疲労を吐き出すようにため息をする。けれど高雄が戻ってくるまで暇だなと思った佐之助はじっとしていても仕方ないと掛けていた日輪刀を鞘に納めたまま素振りを始めるのであった。

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