人外に愛されすぎる者   作:ドゥナシオン

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鼻っ柱は叩き折る




カールの騎士団はその日壊滅の憂き目にあった。

全員が足腰たたず、地にひれ伏すという屈辱を味わい地べたに這いずりながら歯噛みする羽目になった。

 

「勝ってくれよアバン!」

「俺たちの仇とってくれロカ!!」

 

ハドラー大戦が始まったかというとそうではない。カール騎士団を壊滅させたのはアルキード国騎士団、それも幼年の騎士団員という年若い者達で編成をされている者達という、ようは若輩と侮った相手に屈辱を味合わされたのだ。

しかもそれを率いているのも幼年騎士団と一つ上でしかない騎士。

だがただの騎士ではない。ルイ―シャの親衛隊の一人のマクシミリアン・ギルガルト。

 

強すぎる

 

周りが倒れていく中で善戦をしているアバンとロカの背中には冷や汗がびっしりとかかれている。

相手は皆自分達と同い年程の十五・六の者達ばかり。

 

「ちっくしょう・・アバン、なんか作戦あっか?」

「申し訳ありませんがロカ、今のところ持ちこたえるしか方法が見いだせません。」

 

これが模擬戦であって助かった。

国同士の本気の戦をしていればもっと上位の者達がおり、出てこられればカール騎士団どころか国そのものが本気で落とされる。

 

魔法師団を出したとしても、向こうには魔法の天才児・麒麟児の名をほしいままにしているハルバルド・デニングの指導の下に精鋭化をしているという魔法騎士団という訳の分からない部門が控えている。

ここ半年で名が聞こえてくるアルキード国の魔法騎士団。

 

魔法使いと剣士は分けられているものであり、両方使うと言っても距離によって接近戦ならば剣を、距離が取れれば魔法を使うスタイルだが魔法騎士団は違うという。

 

ここ数か月で増えたモンスター討伐に彼らが出てきて見せたスタイルは今までの戦いのスタイルの常識を覆した。

 

剣で斬りつけ傷口に攻撃魔法をそのまま打ち込むように体内に流し込む。

それはメラ・ヒャド・ギラと初級魔法であるが、その分コスパが低く早撃ちが可能であり、なにより傷口から流し込まれれば体内はひとたまりもなく大概のモンスター達はそれで一撃で仕留められる。

 

噂では洞窟で大量発生をしたヘルビーストを中心としたサイおとこ・タップデビル・スライムナイトの群れをその騎士団がたったの半日で殲滅をしたという話まである。

 

貴女は一体何を目指しているのですか

 

アバンは王族観覧席で自国の王と王太子の横で座っているルイ―シャを見上げる。

 

本物ではないとはいえ実践の場である闘技場でわずかとはいえ視線をそらせることは命取りになる。

 

「アバン!ボケっとするな、気合入れろよ!!」

 

案の定相棒のロカに叱責をくらったが、それでもアバンはルイ―シャを見ずにはいられなかった。

今平和なこの世界で何故これほどまでの武を擁しているのかが分からずに。

 

アルキード国の経済力はたかが知れている。

鎖国的といわれるほど今まで他国と貿易をせずに来たことで経済の発展は全くしていないからだ。

テランの方がまだ経済力があり、平和な世の今そういった意味合いで一番の国力を持っているのは何処かといわれれば交易で国を大きくしつつあるベンガーナであると言える。

 

だが戦の世ならば?間違いなくアルキードだ。

 

あの国には今、騎士団・魔法騎士団の他にきちんと魔法師団もあるからだ。

ハルバルドの指導は魔法師団にもいきわたっており、その上王太子の肝いりで魔法使いも格闘のイロハを叩きこまれているという。

パーティーばらけた時に、魔法使いだけではやられるという状況は情けない。

 

一人でも身を守れるようにしろというお達しが出て早一年。

地獄ともいわれる猛特訓の中、魔法師団を目指している魔法使いの卵たちも先輩を横目に、自分達も師団に入ったらやらされるのは目に見えているので自主的に鍛えている。

 

王太子に就任をして早一年半。ルイ―シャの目論見通り、アルキード国の武力は魔改造化が着々と進んでいる。

 

そして順調にいった結果、増えてきているモンスター達の討伐にとても役立っている。

だがルイ―シャの憂慮は増すばかり。

 

モンスター達の討伐がているという事はあれか、そろそろ小物魔王ハドラーが魔界から地上に這い出てきたわけか?

出て来て早々に軍団を結成して組織化できるわけがない。

 

原作みたくカールにフローラ姫攫うまでには時間がかかるはずだ。

それまではなるたけ自分の気配を押さえて、魔王軍を結成してから大々的に自分の邪気を振りまいて地上のモンスター達を従えようとするはずだ。

とち狂ったモンスター達は隠しきれなくて漏れ出たハドラーの邪悪思念が空気中に散って運悪く当たったという推測ではあるが、迷惑なことに変わりはない。

 

と、いう事はだ。あの男は今頃魔界でヴェルザー軍団を相手にしているわけで、魔界でドンパチしている頃か。

 

ヴェルザー封印した後に怒った側近と相打ちになってくれればソアラやらんで済むんだがな~。

 

原作ファンが知れば間違いなく殺意を持たれ、ダイが生まれなければバーン対策どうすんだ、次の竜の騎士を聖母竜マザーは産めないんだぞというあらゆる突っ込みを受けそうな事を気だるげに考えながら些か礼儀に掛ける頬杖を突きながら模擬戦を見るともなしに見ている。

 

あの男相変わらず弱いな。

 

王太子になった半月後にアバンに会って、お前は弱いとはっきりと言ってやったから奮起して強くなっていると思ってこの模擬戦を組んでもらったんだが当てが外れた。

ハドラーが本格的に動く前に自分の国の-結界-作りに勤しむか。

 

この国の破邪の洞窟にはもう何度も足を運んでいる。

無論違法じゃなくてカール王太子のルキウスに許可はとった。

 

二十五階のミナカトール・百階層の破邪を増幅させる破邪の秘宝はもう確認済み。

ぜ~んぶ同行させたハルバルドに覚えさせて、中の見取り図も作ってやったからカールが有効活用するかどうかはあとは知らん。

知らんがこの様子だとアバンには適用されていないようだ。

あそこは行って戦うだけで爆発的にレベル上がるがその様子が見られないという事はそういう事だ。

使うように進言してやるかな?面倒だがハドラー大戦後の為だし。

 

ついでにシルバーデビル気に行ったからお持ち帰りしてしつけて今ではソアラの護衛させている。

何の拍子で城にとち狂ったモンスターが侵入をしてきて偶々ソアラの目の前に現れたらと思うとぞっとする。

シルバーデビルは見た目とっても、とっっても凶悪だけどソアラの前では借りてきた猫ありワンころ化しているから辛うじて城の奴らに受け入れられている。

実力は用心棒として申し分なく、いざとなればソアラを空中に逃がせるという利点があって、今地べたに這いつくばろうとしているアバンよりも百倍使える。

 

破邪の研究もこの数か月で飛躍的に上がってアルキード国の全井戸の底に破邪の秘呪法の文様を刻んで地下水流で大地に破邪法を染み渡らせていけばいいだけだと進言も上がってきたし、これ終わったら親善パーティーお断りしてとっとと国に帰って実行する進言の会議の準備でもするか。

 

あ、アバンの奴袋叩きにあってロカと一緒に伸されたか。

うちの奴らには戦いの最中決闘だ一対一だなんて馬鹿馬鹿しい、勝つためにはなんでもしろ、複数でボコるのは基本中の基本だと教えるようにしたからな~。

 

親善模擬戦は、アルキード国の蹂躙によって幕を閉じた。

 

アバンとロカはこの数か月の特訓で強くなったと自負をしていただけに、一方的な殲滅の憂き目にプライドは悉く崩されたのであった。

 

 

 

 

その日の夕刻、カール騎士団は揃って破邪の洞窟での特訓申請嘆願書を手にして王太子の部屋に特攻をかけたとかなんとか。




現在 ルイ―シャ・16歳
   ソアラ・13歳
   アバン・ロカ・16歳

ハドラー大戦は準備期間もいれて三年の予定

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