「ありったけの気力・体力・精神力ぶつけていけ!あとはいつも通りだ!!
陸に上がってきた
正直海にはクラーゴンの十体とか、陸にガメゴン五体と何の虐めだよとハルバルトだって泣きたい。
それを率いているのが尋常じゃない凍てつく息で騎士団たちを氷漬けにしているトドマンとかってあり得ねぇ。
あれ見たうちのおひぃ様はトドマンだとか言ってたが、様子見ているとトドマンの上位グレートオーラスではないかと推察が付く。
どこで手に入れたんだが鋼鉄の錨とかぶん回しているしやばいことこの上ない奴を生け捕るとかってほんとにあのおひぃ様の頭のねじはぶっ飛んでやがる。
きっと生まれる時に王妃様のお腹の中に、常識というネジは全部置いてきたな違いない。
「逃げるってありかな〜。」
「団長殿、冗談でも表で言わないでください。士気が駄々下がりしますよ。」
頭を掻きながら怠惰に言い放つハルバルドのぼやきを副団長のミシュランが咎めたてる。
無論ぼやきが本気でないと分かっているが、それでも部下達の前でのケジメは大事だ。
「へいへい、わ~ったよ。ミシュランちゃんばお利口ですね。」
「また、ちゃん呼ばわりですか。」
「いいじゃんか。減るもんじゃなし。」
ミシュランの髪は柔らかい金の色をして伸ばしており、顔立ちも優男よりも女の子に近いのでハルバルドはからかってちゃん呼ばわりしていたが、いつしか普通に呼ぶようになっている。
それほど身近になり有能な副団長がいるんだ。なんとかなんだろう。
「イカもカメもカニも取り放題してやるから、さっさと勝ってこいよおひぃ様。」
魔法騎士団は通常スリーマンセルで動く。
一人が回復系、一人が防御・攻撃上げ系と攻撃呪文担当でもう一人が剣と攻撃魔法を併せ持った攻撃メイン。
今回はラリホー系が出来るものをメインに押し出し、攻撃メインをスカラで防御上げをして盾役にし、ラリホーを確実に敵に決まるようにする作戦でいく。
クラーゴン甘い息だので味方全員グースカは困る、船揺らしで海近くの民家が壊れれば自分達の評価が下がるもの御免だ。
ガメゴンもマホカンタを張られたら厄介だ。自分達の強みを潰されないうちにとハルバルドはクラーゴンはリンガイアの騎士達をぶつけて足止めをし、さっさとガメゴン攻略を進めて眠ったところに目玉に剣を刺し貫き、ハルバルド自らの渾身のメラゾーマを流し込み頭を潰した。
硬いだのなんだの言っても、所詮は魔族のように心臓二つある者はいない常識内の生物で脳みそ無くなれば死ぬ。
ガメゴンは集団で動いて攪乱をさせて上手くいったが、クラーゴンはマジで勘弁してほしい!
何なのあの巨体!本体海にいるくせに触手だけで騎士団ひねりつぶしてなまじな魔法なんて通用しやがらねえでやんの!
イカだから十本足で、そこから繰り出されるばくれつけんを避けるので精いっぱいでラリホーが効く有効範囲に入れさせてもらえねえ。
「美味しく食ってやるから往生しろや!ミシュラン、周辺の騎士団に触手対策させて、火炎系・閃光系・爆裂系得意な奴らにありったけの魔法力でクラーゴンの目玉潰す様に指示出してこい!」
その間なら自分が持たせる!
ハルバルドの伝令が伝わるには少々時間がかかり、指示内容通りの展開をするにはさらに時間がかかる。
それでも周辺に被害が出ないようにクラーゴンを引き付けておく自信がハルバルトにはある。
トベルーラでクラーゴンの真上の超上空に付き、魔法力をいったん切って自身を落下させる。
通常ならば加速度でブラックアウトするだろうがそこはバケモノ神童。
闘気を薄く身にまとわせてシールドを付けた状態での落下に、体は衝撃を受けずに浮遊感だけが感じられる。
これもルイ―シャのお達しで、魔法騎士団全員が薄闘気纏と呼ばれているものをマスターしている。
確かに衝撃は来ないが物凄い落下速度はルーラの比ではなく、常人ならば恐怖で矢張り失神している。
だが何度も言うが彼はバケモノ神童、そんな常識はお空の彼方に飛んで行って久しい。
「ヒャッハー!潰れろ!!」
怖れはなく落下を加速させるためにつま先から落ちた状態をぎりぎりまで維持し、クラーゴンの頭まで後百メートルというところで蹴りの態勢に入り、そのまま勢いを殺すことなくクラーゴンの頭に強烈なキックをかました。
そこまではまだ辛うじて常識の範囲と言えようが、二っとハルバルドの口角が吊り上がった。
「メラゾーマ!!たっぷりと喰らいやがれ!」
なんと足からのメラゾーマ。そんな常識外の魔法攻撃法は矢張りバケモノ神童ハルバルト・デニングにしか出来ない。
「手で出せるなら足からも出せんだろう。」
手にも足にも指と平があんだから同じだろう、獣なんて四本足でも不自由してねぇしとか分かるんだか分らんような理屈で使い続けている。
彼もルイ―シャの事は言えない。常識のネジなぞはなからない立派に人外のものだ。
途轍もない衝撃で頭に穴をあけられ、そこからメラゾーマを喰らったクラーゴンも無事では済まなかったが、一体ずつがボス並の強さを誇るクラ-ゴンは体を傾がせながらも頭上に突き刺さった人間を触手出ひねり殺そうとしたが、そんな行動はお見通しのハルバルドは意地の悪い笑みをまた浮かべてクラーゴンの攻撃を闘気の塊で弾き、五メートル先のクライアンに当てた。
陸を攻撃しようと構えていたクラーゴンは突然の触手攻撃に戸惑い、直ぐに怒りに変わり当てたクラーゴンにばくれつけんをお見舞いし、それが周囲にも当たりなんと同士討ちの状態となった。
ハルバルトの指示通りの展開をしたリンガイア・オーザムの騎士団と、ミシュラン率いる魔法騎士団が目にしたのはお互いに潰しあい、死骸となって海に漂っていくクラーゴンの姿だった。
「いんや悪りい。指示の意味なくなったわ。」
同士討ちの高みの見物と洒落こもうぜと言い始めるハルバルドの呑気な声は、海上海中で死闘を繰り広げているクラーゴン同士の激突音でかき消された。
残ったクラーゴンは団長がやるだろう。こちらは陸に残っているかもしれないマリンスライムやバケガニナドを徹底的に駆除する。
王太子はよくモンスターを連れて来ては飼っているが、あれは人を襲ったことのない者達ありなので許可をされている。
今回のように明確に攻めて来たものは殲滅しろと言われている。
いや、王太子の命がなくともそうする。
人に刃向かったモンスター達に、生き残る場を与えてやる程人間はお人好しではない。
「さて、おひぃ様の方はどうなったかね~。」
クラーゴンの数が数体になった時、弱ったところを見計らって目玉に手を突っ込み爆裂上級呪文をぶち込み返り血をしこたま浴びながらも暢気にキセルを取り出し、倒したクラーゴンの上に座り込みふかし始めたハルバルドの姿は異様で、リンガイア・オーザムの味方の騎士から畏怖の目で見られ始めたがどこ吹く風で、ルイ―シャの帰りをのんびりと待つことにした。
どうせ勝つのはおひぃ様だ。
いったん終了