「さっきから言っているだろう、私のものになれ。」
どこぞの悪役よろしくルイーシャは捕らえてボロボロのボラーホーンの説得をしている。
「罪だのなんだなの面倒ごとは全部自分がするから、お前は良い子ではいと言えば良いだけなんだぞ。」
手当てした腹部を優しい手つきで蕩けるような笑みを溢すルイーシャの妖艶さにボラホーンぞくりとし、思わず頷きかけたがやめにした。
自分に付き従うモンスターは存外多い。自分だけ助けられるのは、ましてや人間などに助けられるのは矜恃が許さない。
人への思いと武人としての思いが、ルイーシャの申し出を断らせている。
「成る程、お前の仲間の為か。」
申し出を突っぱねても諦める様子は微塵もないルイーシャに、さっさと自分を諦めさせようと本心からの断りを入れたのだが。
「ならそいつらも暮らせる住処があればいいのだな。」
何かおかしな返しをされたか?
「造作もない事だ。北海の海底神殿に知り合いがいる。そこはリンガイアの最北端の崖っ淵の洞窟から繋がっていて侵入禁止の柵があって、冒険者も立ち入り禁止だ。」
「・・何故だ?」
「なに、神殿にグラコスがいるせいだ。」
「・・なに?」
「グラコスだよ、お前は知らないのか?」
「グラコスだと!!」
「・・なんだうるさいやつだな。騒がなアホウ。」
ボラホーンは本気で驚いた。
グラコスといえば五メートルはあろうかという半魚人で海魔神と恐れられ、その能力は自分と似たようなブレスを使うが、氷の息の威力の方が桁違いに高い。
なぜ知っているかといえば、一度遭遇して命からがら逃げたことがあるからだ!
二度と会いたくないと思っていた悪夢のような者と知り合いだというルイーシャに、驚くなという方が無理だろう。
「どうやって知り合った?」
「立ち入り禁止の柵無視して進んだら会ったぞ。」
いくなと言われれば余計行きたくなる。
寝てるところを起こされたと怒ったあいつと戦った。身体能力強化で足を強化してマッハの速さにして突っ込んで、そのまま炎神の加護を両手に発動して腕も強化して腹部を気絶するまで連打。
海魔神と呼ばれるあいつも気絶するまでやられている訳はなく、向こうも両手でこちらを殴ろうとしたが全部闘気の鎧でガード。
全身を闘気で纏い、その闘気も上乗せしての連打に五十あたりで気絶したな。
この娘の様な姿をした者は正真正銘の化け物だった。
「分かった、お前に従おう。」
どう逆立ちしても自分では勝てない。
それに、海魔神のいる海底神殿に手を出す人間はおらんだろう。
その周辺と海底神殿に住まわせてもらおう。
ボラホーンは完全に心を折られてルイーシャの軍門に降り、ボラホーンの件で、二度とは人間に逆らわせないのを条件に、リンガイアとオーザム両王からの許しを経てボラホーンを伴い帰国して早々に騒ぎとなったのだった。
「げはげはげはげは〜、お前もルイーシャに敗れたか!
なに、あれは実力人外・口の悪さは天下一品だがお前達を悪いようにはせんぞ。
かまわんから好きなだけいろ。」
海底神殿に辿り着いたボラホーンとボラホーンに率いて来た者達が見たのは、やたらと友好的な海魔神であった。
彼もまた、ルイーシャの人外の化け物っぷりを遺憾なく発揮され伸された一人であったはが、神級モンスター同様にルイーシャを愛でている一人と化していたのだった。
ボラホーン編終了