人外に愛されすぎる者   作:ドゥナシオン

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動き出すかどうか


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綺麗なドレスを纏った貴族の奥方様と子女達が夫や父、あるいは恋人や婚約者にエスコートされながら続々とアルキード城内のダンスホールに入場をする。

煌めくシャンデリアの下には豪奢で色とりどりの食事が用意をされ、楽団の美しい音色が入場てくる者たちを優しく出迎える。

 

誰もが明るい顔をしている。この国は今賢王の下で最盛期を迎えている。

騎士団・魔法団の他に魔法騎士団なる物を設立した事によりモンスターによる脅威は全く感じられず、他国で頻発しているモンスターによる騒動もその内自然と落ち着くだろう。

ならばいつも通りの暮らしを送っていればいいのだ。

 

「つまるところ平和ボケか。」

 

笑いさざめき浮かれる人々を二階のバルコニーの手すりに頬杖をついているルイ―シャは、冷めた様子で見下ろし毒を放つ。

 

暢気なものだ。水面下では魔王ハドラーが動こうとしている為にモンスター達が邪気の被害を被って暴れてしまい、その内に本格的な軍団を組織して魔王の名乗りを上げて攻めてこよう。

更に頭の痛い話はハドラーよりも水面下で動いているであろう大魔王の存在だ。

今頃はハドラーの動きを見ながら、地上の戦力を測ろうと悪魔の目玉で観察中か。

ハドラーが勝てばハドラーを殺すか飼い殺しにしてそのままそっくりと地上を手に入れて魔の六芒星を使って地上を滅ぼすか、負けた時には地上の戦力と活躍した者達がピックアップ出来て地上振興の準備が進めやすい。

要するに魔界の神にとってはハドラーなぞは地上を試すための試金石。勝っても負けても己が懐が全く痛まない便利な小石だ。

水面に投げた波紋の行方を見届けていればいいだけの効率のいい、実に合理主義的で敵ながら見事な軍略だ。

 

「ここにいたのですかお姉様。」

 

つらつらと考え事をしていたら可愛い妹が迎えに来てくれた。

藤紫のドレスがなんとも愛らしい。袖口や裾の端に白いレースが取り付けられているのも、黒髪に黒い瞳のソアラによく似合っている。

「可愛いお姫様、私めに最初に踊っていただける栄誉をお与えください。」

「まぁ!お姉様ったら私をからかって・・知りません。」

「本当にきれいだぞソアラ、私と踊ると言ってくれ。」

 

三つ下の妹はまだまだ自分よりも背は低く、頭二つ分の差がある。

だが背はまだ低いが私よりも女性らしい体に発達はしている。

私は一般的な女性よりも長身なせいか、胸の発育は薄く聞こえよく言えばスレンダーで、肩も丸みはなくごつごつとしている。

要するに男に近い体形だ。王太子の服は全部動きやすい軍服仕様にしているから別段気にしないが。

たいしてソアラは顔の全パーツは愛らしい美少女仕様で、頬も肩も胸も何もかもがふっくらとしており、人類代表で女性とは何かと問われればそれはソアラの事だと言えるほど柔らかくて美しい。そして男どもから見れば美味しそうだろう。

 

ソアラは箱入り娘で育ててきたせいか、純粋無垢で中身は原作のダイを慎ましい女の子にしたような存在だ。

疑う事を知らず、出会った者達に愛情を注ぐ女神さまに育ってしまったのだよ!

不味い!こんな慈愛のお姫様見た日には、あの戦いで心荒んでいるであろう馬鹿男が見たら独占しようとしてお持ち帰りしようとするのが目に浮かぶ!!

ソアラもソアラで相手の境遇を知った日には同情をして献身的に癒してあげようとする場面しか浮かばない。

 

危機感がない訳ではない。

ソアラも第二王女とは言え王族の責務の事はきちんと教育を受けている。

だがしかしだ!跡取り娘であった原作であれだけの事をやらかした-ソアラ-を見ていると不安になる。

あっちのソアラは間違いなく今私がいる立ち位置に居て、帝王学学んでいたはずなのにやらかしたのだ。

はっきりと言えば-王太子・ソアラ-を私は軽蔑しかしていない。

博愛は結構なことだ、誰にでも平等たろうとする心構えも素晴らしいが、結局は己の中の個人・バランに対する愛に狂い、自分を育ててくれた者達に背を向けた愚か者だ。

ああなってしまっては大変困る。

 

「いいかソアラ、私達王族は国に養ってもらっている身だ。」

「国・・アルキード国にですか?」

「そうだ、着るもの食べるもの住む場所もキレイな衣装も宝石も全部彼らが稼いだお金を少しづつ貰い、国を守り富ませる事に使う中で私達にも使わせてもらっている。」

 

五歳の頃から英才教育というものをソアラに始めた。

税金はおいおい教わるだろうから難しい事は省いて自分達王家の立ち位置と役割を。

養ってもらっているの半面彼らの代表として他の国と付き合い、アルキード国を富ませていき有事の際には真っ先に騎士団と共に戦うのだと。

「戦いはすべて私がする。お前は愛で国民を支えろ。どのような者であっても同様に、住まう者は種族が違おうとも同じアルキード国民として愛しぬけ。」

人間であれモンスターであれ魔族・半魔・精霊であっても愛し抜けと教えてきた。

この国に不利益をもたらすものはすべて私が消し去る。国民であろうとも獅子身中の虫なぞは踏みつぶす。

その反対の愛で国民を守るようにと。

 

自分の為ではなく、子を思う母のような慈しみの心をソアラに育てさせて今のところは成功をしているようだ。

先日ソアラ付きの護衛モンスターのシルバーデビルを騎士団に入りたての貴族の子息共が囲んで言葉でなぶりものにしていたのを凛とした態度で諫めたそうだ。

シルバーデビルの容姿のままではやはり場内が落ち着かないと言うので、お忍びで行ったベンガーナデパートで丁度変身の腕輪をオークションで売っていたので競り落してシルに付けてやった。

夜は私が選んだ騎士達がソアラを護衛をするから休むようにと小屋を与えているのでそこでは腕輪は外していいと言っている。

シルも他の奴の例に漏れず、時折私の血を与えて強化している。いざという時ソアラを守り切れるために。

だがこいつは他の奴とは違う。私の血をいつも申し訳なさそうな顔をして飲んでいる。

大好きなソアラの姉の血を貰うのが申し訳ないと言っていた。

シルは自分に益をもたらす私よりも、モンスターの中でもひときわ厳つい自分の本当の姿を知っていても常に優しくしてくれるソアラに対して心から忠誠を誓っている。

だからこそいい、そんなシルだからこそソアラの専属護衛を任せている。

近頃は人間の言葉をまねようと必死に努力をし、片言ながら話せるという努力の結果を叩きだした。

 

「お姉様、シルが、ソアラ様って・・」

 

余程嬉しかったのか、シルが名を呼んでくれたと嬉し泣きをしながら執務中の私の部屋に突撃を掛けて来た。

以来ソアラは何処に行くにもシル・シルと呼んで寵愛一方ならないようだ。

それは第二王女の護衛騎士の席が空かないことを意味しており、騎士団のひよっこどもは面白くないと言葉の暴力で潰そうとしたところをソアラに見つかったのだとか。ざま見ろだ、使えない馬鹿いらない。騒ぎを起こしら者達は即刻頸解雇。慈悲深くやり直しだののしち面倒くさい事はしない、騎士になりたい奴は引く手数多いる。

それに量より質が欲しい、量ならば他の国にしてもらう。

 

餌に食いついている獲物を仕留めるのが狩りの基本だ。

 

そう、ルイ―シャにとっては魔王ハドラーもその軍団も獲物でしかない。

本命はその上、大魔王バーンなのだから、あれを相手に手こずるなどと言う無様な事はしていられない。

アバンが強くならないようならこちらは軍団を強化しておくか。百獣軍団の戦力を。

 

ルイ―シャだけが全容を把握している人外だけで構成をしている百獣軍団は、普段はアルゴ岬の南端の場所にあるルイ―シャ直轄領に住んでいる。

 

ガーゴイル・プテラノドン等の飛行モンスター軍はアイスコンドルとヒクイドリが両隊長をしており、地上軍もデビルホーンやリリパットの群れ、フレイムドックなどのバリエーション豊富になっている。

いざとなったら撃って出てアバンの援護位してやるか。




そろそろ動かそう。

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