夜、真夜中と言ってもいい時間。
大人はまだ仕事をしていてもおかしくはない時間、そう-普通の大人-ならば。
一人の侍女が主に夜食を持って執務室を訪れる。
仕事に空腹は敵だという、この執務室の主の意向通りに指定された時間によって。
ワゴンの上にはさしたる量は乗っていない。
二つの白パンと、トウモロコシのポタージュのみといういささか質素なものだが、これも所望した主の意向。
自分の夜食にかける金があったら、もっとましなことに使え。
庶民の普通の夕食よりも良い物であることには間違いない。
それ以上の気遣いは無用だと、普通ならばなんと心優しく高潔な主だと誇れるのだが。
この部屋の主に食事を運ぶのは何よりも恐ろしい。それもこんな時間帯にだ。
城に入ってまだ二月しかいない侍女は、先輩の侍女に半ば押し付けられてこの役目を背負わされた。
いわば貧乏くじだ。
ぐずぐずしていれば、何らかのお咎めが来るかもしれない。
意を決してノックをすれば、入室許可の声が内より聞こえた。
入った部屋の中は赤い絨毯が敷きつめられ、執務用の机とその上に置いてある膨大な書類を、蝋燭では説明がつかない明かりが照らし出している。
この光景だけでも恐ろしくなる。
ろうそくの明かりは一定の明るさではあるが、そもそもこの部屋にはその蝋燭自体がないではないか!
「入口に置いて、下がっていい。」
「・・あ‥中に・・」
「聞こえなかったか、二度同じことを言わせるな。」
「っ!かしこまりました、失礼を致しますルイ―シャ王女殿下。」
「ご苦労。」
退室をして扉を閉じて初めて詰めていた息を吐きだす。
あの部屋の異常な明かりといい、-六歳-とは思えない冷え冷えとした声といい、あれはまるで・・まるで・・
行ったな、また新顔に夜食当番を押し付けたな古株どもめ。
「あ~あ~主様がまだほんの少し可愛げがあったころは、我さきと争って持ってきてくれたお夜食が、今や罰ゲーム並みの扱いとは嘆かわし~。」
「同情をするふりして人をからかうなカーバンクル。」
こいつ見た目可愛いモフモフ系のくせして中身と口は辛辣でブラックユーモア詰め込んだ、不思議のアリスに出てくるようなチャシャ猫みたいなやつだよ。
今だって私に同情するふりしてこの状況をからかってくる。
「それでも夜食を持ってきてくれるだけましだろ。」
「そうですね~、仮にも主様は次代の王様だ。
命令違反で首が飛ぶのは誰だっていやでしょう?」
つまるところ、わが身可愛さで怖さを押し殺してるわけだ。
「・・まったく・・今日はお前じゃなくて-リオ-にするぞ。
「え~!リオは昨日主様と寝たじゃないですか~。」
こんなに愛らしい自分を差し置いて、いつまでもちびのガリガリの青白いリオと寝るだなんて主様趣味悪すぎ。
「あいつはお前のように口悪くないぞ。」
「当たり前しょう?僕は主様が-お友達になってほしい-っていうから迷宮から出てわざわざ来ているのに対して、あいつは主様が拾ったやつでしょう?」
命の恩人を無下にする神獣モンスターなぞ存在しないだろう。
カーバンクルは本気で心外だという顔をしているが、どこまで本心なのやら。
まぁ、確かにカーバンクルとリオは違う。
片やホルキス大陸の最南端のアルゴ岬の真下から入る難易度Sクラスの迷宮のラスボス張っていたカーバンクルと、迷宮の覇権争いで負けて落ち延びていたところをアルキード領内で保護したリオとでは格が違うか。
いや・・そもそもそんな神獣モンスターと普通に居る私がおかしいのか。
もう一つ言えば、あの侍女が怯えるほどの明かりがともされているこの部屋自体もおかしいか。
この部屋の明かりは光の精霊たちが瞬い明かりをともしてくれている。
しかも頼んだわけでもないのに自主的に。
「お前達、そんなに明かりつけてくれなくていいんだぞ?蝋燭がある。」
「あんな無粋な光もどきと一緒にしないでもらいたい。」
「我らは好き好んで其方といるのだ気にするな。」
「主様~、こいつら好きでやってるんだから放っておきなよ。」
・・・・私の周りにはこんなのばかりだ、生まれた時から。
生まれて三日は何事かと呆然としたが、四日目には落ち着きを取り戻して周りの観察にいそしんだ。
驚いていたところで状況は好転しない、生きているなら頭を動かせ。
その決意をあざ笑うような奴が来た。
「へぇ~~!こんなおちびさんか、今回の実験人形は。」
のちに出会うカーバンクルをルイ―シャはチェシャ猫と評するが、この時訪れたモノをルイ―シャはいかれ帽子屋だと直感が告げた。
優しいようでいて、赤の女王の一言があればだれの首でも刎ねて、お可哀そうにと残虐に笑うろくでもない屑だと。
「そうそう、僕はそんな感じだよ~。今回のお人形さんはなかなか賢いね。」
何も言っていないのに思考を読まれた!
仮定しよう、ここはそういうことが可能な魔法の類がある世界だと。
そう考えれば、能力を使える奴が使っても何ら不思議ではない。
人間だとて、得手不得手がある、それに魔法の類が付随しただけの話だ。
「賢い分可愛げがない、-前回の奴-はなんでどうしても面白かったのに。」
どうやらこのいけ好かない奴の出鼻をくじけたようだ、ざまみろ。
「・・・ほんと、可愛くない。」
なら殺すか?
こいつに出来ることといえばそんな事くらいだ。
生きながら皮をはごうにも、いたぶろうにも、この体ではあっという間に死んでしまう。
死んで終わりが関の山。
「・・・・君前世では相当ろくでもない人生送ってきたでしょう。」
幸福な奴らの反応と全く違うのですぐ分かる。
「まあいいや、僕の役目は君をいたぶることじゃない。それは-僕の役目-じゃない。」
こいつの他にも屑いること発覚。
「ほんとうに可愛くないな、パンパカパーン―――――。」
何だいきなり。
「おめでとう、君はこの世界に転生を果たしました。」
そんなのもう知ってる。
「それに際して転生特典を付与しま~す。」
1つ、君が聞く言葉は種族問わずに-日本語-に聞こえます。
1つ、君が目にする文章は全て-日本語-に見えます。
1つ、君には特別能力が付与されます。
上二つは自分が慣れ親しんだ日本語なのはありがたいと思った、その時には。
まさか人間以外のモンスターだの、精霊だの、魔族だのの言葉が分かるとは思わなかった!
加えて言うならば超ハイレベルの古文書も日本語に自動ほんにゃくこんにゃくになるだなんて!
ドラ●もん並みのチートだろ!!と後年叫び出したかったが、ドッコイその上いくチートが待ってたよ。
全部の魔法は使えません。
つまり今普及している魔法は使えない、その代わりに古代呪文上げちゃいますってなんだそれ?
使ったら完全に周りから浮くじゃないか!しかも死滅級の魔法しか渡さないっていじめだろ!
能力中身聞いた私の心はその時死んだ。
【全移動】
一度行った場所に、思い浮かべるだけで瞬時に移動する
契約した相手も同じ能力を有することが出来る
結界無効
【全回復】
任意の相手、もしくは自分に対しての全回復が一日に五回出来る
・体力・魔力・状態異常全般に対応
【身体能力強化】
一定時間、強化したい身体能力を向上、任意でできる
複数の箇所の身体能力向上を同時に上げることが可能
身体の伸び縮みも可能であり、契約した相手の身体にも可能である
【無限収納】
空間に収納が可能
無機物のアイテムから有機物まで可能
【式神】
任意の物を想像した物体に変化をさせて手足・耳目の如く使うことが可能
使用者の力量次第で意思を持ち、命令を遂行することが可能であり、通信可能
【炎神・氷神の加護】
炎神の加護・マグマクラスの炎系の使用が可能
氷神の加護・絶対零度の氷系攻撃が可能
武器への付与及び身体への付与可能
【能力創造】
自身の望みの能力を一つだけ作れる
ただし神を殺す・死者を無制限に蘇らせる・他者の精神及び心を乗っ取ることは不可
・・・ないはこれ
ナイフや剣で戦っている人に対して、ミサイルぶちこむようなもんでしょ!
特に最後のあれ何⁉バグチートもいいとこだ!!
あんなの使うかボケ!!頭沸いてんのか馬鹿が!
「君は使うよ、いつか使う日が来る。」
ぶっ壊れチートを使うか阿呆といった私に、そいつは少しだけ可哀そうな奴にかけるような声で言ってから突然消えた。
どんなやつかわからない、だってそいつは体中に黒い靄で覆われていたから。
不審人物で屑で、ほかにも屑がいる世界かここは。
つくづく自分は運が悪いと思う。
あんな能力使うか!はい、使いました。
言語能力一発目、精霊可愛いから早速ご挨拶。
本読みたいからこれも速攻で。
城の中庭にある煌めく庭石を収納。
そんな可愛らしいことで済まされたのは三歳までだ。
ソアラ生まれて自分の世界が死神世界確定してからぶっ壊れチートを磨くことにしたよこん畜生!
あの屑野郎の予言当たっちまったよ。
そもそもここがどんな世界かあの屑知っているのだろうか。知っているんだろうな、そういう口ぶりだった。
仕方がないので三歳の半年後に城を出た。
出たといっても家出じゃない。身体能力強化を半年で習得をして、全回復と全移動は頭に置見浮かべるだけでいいと実験済み。
外に出て自分に使えそうな人材、アイテム探しに出て行った。
身体能力強化のおかげでダッシュで町の外に出た。
街中で幼児一人は怪しまれるだろう。
え?城門どうしたかって?
身体能力強化で足の力上げて塀を乗り越えて出ただけだ。
「ここは、なかなか豊かな森だな。」
街を少しれば平原はなく、すぐ側が森だった。
小鳥のさえずりの多さが森の豊かな証。
これだけの鳥を養えているのだから。
あまり奥には行かないでおこう、モンスターに出会ったら不味い-今-はまだ。
台所から失敬してきたパンを食べてミルクを飲んでそのまま全移動で城の自室に戻った。
これで明日はあの森からスタートできる。
こうして少しずつ範囲を短時間で広げつつ、午前は王太子殿下になるべくための勉学をして、-散歩-の後の昼寝後に騎士団長の訓練を受ける。
今は平和でも、王足らんとするものは己のみを守り抜かなければならない。
いつ戦場の最前線に立つことになってもいいように。
この世界は子供といえど、立場が付いたものには甘くないか。
だがそれでいい、知識・強さを私に寄越せ!!
貪欲なる王女殿下の二つ名は直ぐに城内で有名になった。
学者たちに、騎士団長に喰らいつくように習うルイ―シャには似合いの二つ名だ。
子供らしからぬ
そう囁き始められてもこの頃で、精霊たちの一件もすぐに知れ渡り、モンスター達をどこからか拾ってきては手元に置いて飼い慣らすルイ―シャは畏怖よりも恐れの対象になっていったのは当然であった。
全てが人間の範疇を逸脱しているのだから。
恐れは同年代の子にも伝わり、いつしか自分に友と呼べる者がいなくなった。
拾ったモンスター達は自分を敬ってくれるが、対等な話は出来ない。
ペットにそれを求めるのは酷だ。
知識あるモンスターはいないかと、大神官たち秘蔵の古文書盗み見ては遠征をした。
この頃にはガルーダ拾って縮めて飼って、出掛ける時にもそこそこの大きさにしているのでばれずに大陸中の迷宮に突撃制覇をしては話し相手をゲットした。
誠心誠意頼めば伝わるもんだ、報酬付きだけど。
どうも私の血は、彼らの力を引き上げるらしい。
血くらいで強くなってくれれば万々歳だ、そのうち魔王が攻めてくるんだから味方の強化は必須だ。
その程度の認識でルイ―シャは血を与えたが、与えられたモンスター達には計算違いが起こった。
神獣モンスター達としては、最上級クラスの迷宮を制覇したルイ―シャに面白みを感じて退屈しのぎだと考え、いつか飽きればこの子供から離れるだろうと軽い気持ちで話し相手になってやったが、血を飲んだ瞬間からルイ―シャに溺れたのだ。
惑溺といってもいい。
その血は極上の甘露であり、身の内から湧き出る力は己が思考を蕩けさせる様な酩酊を覚えさせる。
何よりもルイ―シャの痴態が自分達を溺れさせた。
ルイ―シャは血を飲まれるとき強い快楽をその身に感じ、理性が抗おうとも心と体が負けて屈服をする。
幼児の体なぞどうでもいい。あの誇り高く力強いルイ―シャの瞳がぐしゃぐしゃに歪み無様が。何よりもあの香しい香りが、自分達をルイ―シャに縛り付けた。
最早ルイ―シャなしではいられない程に。
そうしてモンスター達が増え精霊たちもルイ―シャに好意を振りまいていくのと比例するように大抵の人間はルイ―シャに恐れをなして去っていった。
驚くべきは全ての人間が去っていったわけではないことだ。
主人公の人間関係書きたい
迷宮設定や、主人公の能力は筆者オリジナルです。