真夜中の執務室は静かだ。
音がするのは自分の呼吸音と動かしている羽ペンの音のみ。
自分からすればこんなに使いづらい筆記用具はないのだが、ペン先を-今ー試作品で作らせているのでもうしばらくの辛抱か。
羽ペンは直ぐに先端が摩耗して消耗しやすい。
だったら金属製のペンを作ってしまおうというのが元ネタだ。
この世界にいる鳥類はほぼほぼモンスターが主なので、筆記用具代金として考えれば安くはない。
まぁ他の贅沢品と比べれば微々たるものであり官僚たちの仕事道具類に含まれているので、程ほどの装飾品が付いていても奢侈税の対処から完全に外れてはいる。
だからといって、不便性がなくなるわけでもないので万年筆もどきの金属ペン先を鍛冶屋にを依頼した。
羽ペンの先の構造と同じものを作って、ゆくゆくは大量生産できるようにしろと。
文句山ほど出たな~、普段は剣だ・槍だ・盾防具一式から斧類・打撃系武器だの豪快なものが主な職場にいきなり繊細なもの作れとぶっこまれたら普通そうなるな。
いわば西洋ドレス作ってる店に、ある日突然着物作れと図面だけ渡されて偉そう言われたようなもんだろう。
しかし他に金属類をうまく加工できる伝手は私にとっては城のお抱え鍛冶屋しかないから仕方がない。
一週間前の鍛冶屋の親方の激怒っぷりがまた浮かんできたよ。
「王女だか何だか知らねえが!俺たちはこの国守る武器作ってんだ!子供のお遊びは他でしろ!!」
よくもまあ一国の王女相手にあそこまで啖呵切ったもんだと感心こそすれ腹は立たなかったな。
こいつ自分の雇い主が誰なのか忘れているのか?武器一つで国が守れるなんて何を甘い寝言言ってるんだか、はっはっは。
内心で苦笑しか生まれなかったぞ。
あの後を思い出そうとしたらノック音がした。
入室許可を出して招き入れて入ってきたのは
「お姉しゃま、まだ寝ないのですか?」
可愛い、可愛い私も妹ソアラではないか。
眠いせいかもう六歳だというのに私の事をお姉しゃま呼ばわりとは・・萌えるではないか!
なんだその愛らしい蕩ける声は!怪しからんぞその眠い目をこすっている天使な仕種わ!!
「ソアラ、ここに来なさい。」
「はい、お姉しゃま。」
不届き者がソアラに近づかないように、用心の為に膝に乗せておこう。
深夜の王城は、モンスターよりも危険な馬鹿人間がいるからな。
「主様の過保護が始まったぞ~。」
「本当は妹様を溺愛したいだけなのに。」
「なんだかんだと理由つけてバカみたい。」
「・・五月蠅いぞお前達!特にカーバンクル!!馬鹿とはなんだ馬鹿とは!」
「お姉しゃま?」
・・いかん、妹の前ではクールであらねば。
いつか来る未来で、原作のように国民を捨てる自分勝手な娘にしないように厳しくと。。
「お疲れなら、ソアラが肩もみします。」するのは明日からにしよう。
いかん、なぜ自分の妹はこんなに天使なんだ。
妹ももう六歳で、宮廷でも私の評判は知っているはずだ。
冷たい心しか持たない人外のバケモノ
騎士団相手に圧勝をして、政治の世界でも不備をした相手をとことん追い詰めるルイ―シャに付いたあだ名。
本来ならば口にしただけで王室不敬罪で捕まっても文句が言えない程の酷いものだが、
「私に言った程度で捕まえていたら働き手がいなくなって城全体が機能しなくなる。」
それ程までの人数がルイ―シャに恐れを抱いき、嫌悪をしているという事だが当人はどこ吹く風で己の道を邁進している。
「お姉しゃま~、ペン先なるものどうして作るのですか?羽ペン可愛いですよ。」
「確かに見た目の良さは羽ペンだろうな。」
「なら・・」
「しかし羽ペンは-どこも使っている-ものだ。
金属ペンが完成して大量に作れるようになったらいずれ商品化をさせる。」
「えっと~アルキード国内でですか?」
「そうだ、手始めはこの国の官僚達と大商人に無料配布をするところから始める。」
徹底的に自分が使って、最良のものが出来たら使い心地のアンケートと銘打って、使いやすさをアピールする。
彼らが使い勝手を知った頃に、王室ご用達の銘を打って城内に店舗を出させて売りに出す。
日本人の自分が使って良いものはきっと売れる。
何せメイドインジャパンの物は海外でも折り紙付きであり、そんなものをホイホイと使っていた私の感覚を信じよう。
とにかくこの国を富ませたい。
何をするにも金が要る。それこそ私に啖呵切った鍛冶屋の親父が作るものにだっていくらの材料費がかかっていると思っているんだか。
初期武器の銅の剣。鉄の剣だってタダで作れるわけではない。
鋼の剣ならばなおさらだが、将来見越して魔王ハドラー編前には全兵士には無理でも将官クラス・騎士クラスの兵達全員に支給するための資金がいる。
その為にも他国にはない物を作らないといけない。
「分かるかソアラ、国を運営するにはお金がいる。」
「はい、その為に・・お姉しゃまがんば・・」
眠ったか、まだ六歳にしかならない妹には難しい話だとは思うが
「戸口の前で盗み聞きをしないでいただけますか陛下。」
「・・父様じゃぞ・・」
「・・・・・・・お入りくださいませぬか父様?」
「うむ!」
・・一国の王が雑な扱い受けてるのに笑って入ってくるっていいのか?
わが父はマゾなのだろうかと少し切なくなる。
はてさて自分の-娘達-はなんと立派な子に成長をしているのだろう。
ルイ―シャは明日にでも王位を譲ってもいい位の天才児であり、ソアラもルイ―シャと比べては可哀そうだがそれでも姉の助けになりたいと懸命に努力をしている天使じゃぞ!
ルイ―シャにもう王の位譲るかとぽそりと呟いたら、聞きつけた宰相にえらい叱られた。
こやつもルイ―シャを折るくいう者の一人かと思えば
「あんなに可愛い子供にわざわざ苦労掛けるだなんて何考えてるんだこの馬鹿王!」
こやつ一国の王に向かって平然と暴言浴びせ攻撃しおって。
ルイ―シャはこの宰相を見誤っている。あれはこ奴を好々爺の心優しきものだとか思っているのだろうが、若いころのこいつのあだ名知ったら驚くじゃろう。
毒宰相
もう毒吐きとか毒舌とかをかっ飛ばしたそのものずばりの付いた名だ。
不備をすれば即刻解雇、規定外の休暇嘆願をしてきたものは冠婚葬祭以外は職務怠慢理由に給料半年減給。
敵対してきた者は一族郎党地獄の底まで追い回す執念深さで捕まれば首謀者は全て吐くまで拷問三昧の後に処刑をし、女子供は問答無用で娼館に売り飛ばし、男は死ぬまでか恩赦があるまで強制労働。
やるからには徹底的に口癖で、一度だけ政敵潰しをした結果付いた恐ろしい名だ。
宰相なる前に政敵からの政治的攻撃の冤罪を仕掛けてきた相手がいたので叩き潰したことがある。
家格はともに公爵家であり派閥力も拮抗していたのが、それを機にあれよあれよと凋落をして一つの名家は滅びさり、派閥も盟主を失い空中分解したところを狙いすませたように出てくる出てくる不正・脱税・汚職・不当人身売買から密輸の証拠の数々。
それ等を自分に提出してきたのは言わずと知れた現宰相。
国の膿のすべてではないにしろその功績をもって宰相に付けたのだが、実は政敵が冤罪を吹っかけてきた辺りからあいつの策略だと言われても自分は驚かない。
あいつならば自滅するような馬鹿が宰相に付くなんてありえないだろう位は言うだろう。
真実は最早あいつの胸の中にしかないが、その毒宰相ルイ―シャをいたく気に入ったのは幸運だ。
ルイ―シャは知らないだろう。精霊たちとましてモンスターとも言葉が交わせると周囲が知った時、ルイ―シャ自身に傷がつかないように-言葉の能力を精霊たちから授かった-とでっち上げ、ルイ―シャにいらぬ火の粉が降りかからないようにしてくれたのが毒宰相なのだと。
国民にはそのように発布をし、城内の者どもには
「ルイ―シャ様にはお守りする価値がある。」
アルキード始まって以来の天才児を王にするの国益のためだとか言ってたが、可愛いお気に入りの孫娘を助けたかっただけの爺だろうお前。
確かにルイ―シャには-次代の王-として守るだけの価値はある。
奢侈税をはじめとして、農業に革命を起こし・税金革命を起こし・今は貿易の事も視野に入れようとこんな夜中まで頑張っているのだから。
なんだ、父様はなにをにやにやしているんだ?
「・・・夕食に何かおかしなものを食しませんでしたか父様。」
「ほう、わしの事が心配ならば明日から夕餉を一緒に摂らぬか。」
う!そう言われると何も言えなくなる・・
近頃忙しくて夕飯ほっぽらしたせだ。
「明日は必ず参ります父様。」
ソアラを抱き上げて父のもとに行って返事をすれば、優しい手つきで頭をわしゃわしゃされた。
「主様きちんと大事にされてやんの。」
「面白くなさそうですねカーバンクル様。」
「うっさいよ。」
ソアラが来た辺りからカーバンクルは部屋の陰に隠れた。
自分はルイ―シャのようにソアラを可愛いと思ったことは一度としてなく、無遠慮に触れてこようとしたので二度と顔も見たくない。
自分に触れていいのはルイ―シャだけだ。
精霊たちはそんなカーバンクルに困った笑みを向けつつ、ルイ―シャに優しい笑みを向ける。
この城の大半の者達がルイ―シャの事を理解せず、しようともせずに忌み嫌っているのを知っているだけに、愛している家族からきちんと愛を返されている光景は素晴らしいものだ。
早く力だけがある神獣モンスター様にも大人になっていただき、そのことを理解してもらいたいものだ。
国の中枢関係書けたので、もっと広範囲を書いてみたい。