春の穏やかな日に、私の王太子の即位式が執り行われた。
この国は春はそうそう雨はなく、命芽吹くこの季節に慶事が行われるのが通例だ。
城下町はお祭り騒ぎ。アルキード国の初の王女の王太子殿下が誕生するのだから、珍しいものが好きな国民にとってはかっこうの話題のネタか。
この世界娯楽が少ないんだよ、もっと楽しい事増やすか。
とは言え、私の事で国民に活気が出るのは良いことだ。
バルコニーに立つべく支度をしている部屋にまで熱気が伝わってくるのが何より嬉しい。
私はこの国が好きだ、ちょくちょくソアラを連れてお忍びをしているほどに。
無論影の護衛がついているのは知っている。だって予め父様にお忍びすること伝えないといけないだろう。
将来国を背負うのならば国民自身を知らねばなりませんとか言ったらちょろりと父様は許可してくれたし、された私が不安になった。この父様少し人が良すぎやしないか?だからあの戦闘バカみたいな不審な輩をホイホイと城内に招き入れたのだろうかと何となく分かってしまった気がする。
これはあれか、私が守ればいいだけの話か。二人にはそのままいい人のままでいてほしい、ならば私が・・だって口の周りを頬張ったクッキーのカスでいっぱいにした可愛い天使には無理だろう。
「お姉様~これ美味しいですよ!シャクシャクしていて中にはちみつたっぷりのクッキーなんて初めて食べました!!」
「お!嬉しいこと言ってくれるねお嬢ちゃん、これおまけだ持ってきな。」
「ありがとうございます、作ってる方も素敵です!」
うん、素敵なのはお前の方だよ私の天使。
今や屋台の親父さんと私の思いは一緒のはずだ、こんなに可愛い天使の為ならば何でもしてやる!私と目が合った親父さんが私に向かってソアラに気が付かれないように私に向かって親指を突き立てていい笑顔を向けてくれ、私も珍しく笑顔で返した。
分かっているじゃないか親父さん!
以来そのクッキー屋は私たち姉妹の贔屓だが、城下には様々な店があって市場はいつも賑やかだ。
この国を守りたい、ソアラが、父様が笑っているように。
そしてこの日を迎えたか。
「これより我が第一王女・ルイ―シャ・アルメデスを我が後継ぎとすべく、今日この日に王太子立体の儀を執り行う!」
玉座を設置したバルコニーの一角から堂々とした演説を行う父様の姿を見ていると胸が震える思いがする。
威風堂々として王のあるべき姿が目の前にある。この父様の姿を目に焼き付けよう、そしてこの幸せの邪魔になるものを打ち砕く力をつけねば。
私も演説を打つか。
粛々と式は進み父様の手によって私の頭に王太子用のコロナを頭に戴いた。
重いな、きっとこの国への責任が重く感じさせるのか。
さて、仕事の時間だ。
コロナを頭に乗せた私がバルコニー出ると大歓声の嵐だ。父様よくこの群衆に向かって・・柄にもなく緊張していると、精霊たちに鼻摘ままれた!
「・・はにを!」
「な~に固くしてるんですか~柄でもない。」
「いつもの偉そうな態度はどこに行ってしまったのですか。貴女はいつも通り偉そう言っていればいいんですよ。」
「そうそう、しおらしくしようだなんてメラやイオラやヒャドの雨が降るから止めてよね~。」
・・・随分好き勝手言ってくれる。こいつらこそ暴虐の限りを尽くす悪鬼だろ。
だが意図は直ぐに分かる。いつも通りの態度で足の緊張をほぐそうと、へたっぴなりに頑張っていてくれているのが。
目の前の時計塔の一番上の窓からちらちらとホイミスライムやいたずらモグラ・キャットフライなどの小モンスター達がいて、屋根の上にガルーダがとまっている。
人間に紛れるのは無理だから来てはいけないといった私の友人たちもいるならば、下手な姿が見せられるか!
いや~驚いた、まさか度々クッキー買いに来た子がこの国の第一王女様で次代の王様だなんてな。子供にしては大人びている子に見えたが、あの子いんやあの王女様なら立派な王様になってくれる気がする。
俺達街の者達にきちんと挨拶をしてくれる心優しいお方なんだ。おんや、演説か?立派な王になる宣言でもってえ~~~!そこまで言っちまっていいのか!!不味くねえか王女様!
「皆の者!私が今アルキード王グローリ陛下より次代の王として指名を受けたルイ―シャ・アルメデスである。
今日は私の立体の即位の儀の為に集まってくれて感謝をする。
私はこのアルキード国を愛している。市場から、街角から笑いが絶えることがないこの城下町が、この国の台所を支えてくれる逞しい商人たちが行きかう港町が、毎日美味なるものを作り続けてくれる農村部一つ一つを私は愛おしく思う!
私はこの場にて誓う!その愛おしい者達が飢えることのないアルキード国を作ることを。
こんな小娘に何ができると思うだろうが、天候に恵まれず凶作に見舞われた年であっても
誰一人餓死するものが出ない豊かな国づくりを私は描いている!
それは私一人ではなせるはずもなく、貴族・神官・国民皆の力を貸してほしい。
私と共に!誰一人飢えることなく貧しさに泣かなくてもいい国づくりを手伝ってほしい。
一人の力は限られていても、この素晴らしいアルキード国が一丸となれば可能であると私は信じている!」
その演説は様々に衝撃を与えた。
貴族・神官達は日頃から忌むべきことしているバケモノ王女が何をきれいごとを言っているのだと苦々しく思う。そこまでの大壮言語を並べ立てて国民の支持を得たいのか。
貴族・神官は苦々しく思い、国民たちは夢物語をいう王太子に困惑をするがまだ続きがあった。
「この国には手つかずの荒野がある。そこは土地が痩せすぎていてモンスターも住んでいない。湖から水を引き、土地の滋養を上げる研究もすでに済んでいる。あとはあの地を耕し穀倉地帯を増やしていき大規模な農場も隣接させていく。森にもリンゴ・オレンジなど果実の結ぶ木を植樹を行う。
魚の生態もあらかた研究は終わっているので養殖、つまり人間の手で魚を育てて食料の安定化を図っていく!だからといって漁師たちの仕事を奪うつもりはない。沿岸でしか取れない高級魚もいるだろう。そして貝の養殖を試してほしい。これは後日必ず説明をする。
」
食料の安定化の道筋を作り、経済は港町を発展させて貿易の強化を図っていく。
この国自体に売るものは今はないが、交易拠点にしてしまえばいい。
カールの物品をリンガイアに届けるには陸路より海路の方がずっといい。
速度があり頑丈な船を早急に作り、他国に売りつつ巨大な船がきちんと寄港できる深度の深い港の再開発。
その二つには人手がいる、つまりは雇用が生まれるという事だ。
今まで王家は財を貯めていた。万が一この国に不幸が訪れた時に民達を救うために。
だが一度として不幸は訪れるずに財はたまっていく一方なのでこの際使って国を富ませてしまおうと父王と宰相と大臣たち一同でこの日の為に練り上げた秘策だ。
ルイ―シャが国民たちのハートを鷲掴みする為に大人一同が頑張ったのだ!
案の定神童が王太子になったのだと国民たちは熱狂をもってルイ―シャの即位の儀は成功をした。
「私も・・お姉様の晴れ姿見たかった。」
なんで自分は肝心なところで風邪なんて引いてしまったのだろう。父様と一緒にお祝いをしたかったのに。
「ソアラ様・・その・・姉姫様とは・・」
・・侍女たちは直ぐに姉様の事を悪く言おうとする。モンスター達や精霊達と仲良くできるお姉様の凄さが分からないんだなんて可哀そうに。
部屋の扉が叩かれて、返事しないうちに開いて入ってきたのはお姉様!
雪のように真っ白な王太子の衣装に重厚で赤いマントを羽織って、頭上には素敵なコロナが載っている。
「ソアラ、今日から私は王太子だ。公的な場では殿下と呼ぶように。他の者は呼ぶまで下がれ。」
威厳あるお姉様の言葉でみんな出て行った。
「ふぅ~疲れるものだな、肩が凝る。」
皆行ったらいつものお姉様だ。悪いと思ってもお姉様の可愛さに笑いが止まらない。
「ソアラ、ゆっくりと風邪を治せ。ソアラが気になって指揮を放り出そうかと思ったぞ。」
「それはまずいのではありませんかお姉様?」
「だからしなかっただろう、頑張った私に褒美をくれないか姫君。」
ふえ!お姉様・・そのお顔は反則です!
お姉様のお顔は父様に似て凛々しくて、そこらの男の人よりもかっこいいのです!
そんな顔を目の前に近づかれたら・・チュ
ふぁ!お姉様の頬に口付けしちゃった!
「儂にも是非してくれソアラよ!!」
「姉妹のイチャコラ時間を邪魔するとは!!」」
「親子のイチャコラ時間にすればよいじゃろう!」
「貴方加減しないからソアラが潰れるは!」
「なんじゃと!くっ!儂一人を除け者にしてくれるな〜〜!!」
一国の王があのざまでいいのか?あのバルコニーでの王はどこ行った?
まったく、だから私が面倒ごとを潰しにきたわけなのだが。
王太子としての最初の仕事は各国への顔見せ兼ねた親善大使などの可愛いものではまったくなく、隣国ベンガーナにソアラ王女への婚約願いの親書の返事。
誰が可愛い私の天使渡すか馬鹿が。
次回クルドマッカ王とファイツ