貌無し騎士は日本を守りたい!   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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改稿が、大方完了致しました。
待ってくれてた人が居たらありがとうございます。
以前との変更点としては、

・ 『天使の聖骸布』戦闘シーンの大幅強化
・不評だった10話以降の展開が完全に新しく
・ 新ドミネーターのエピソード追加
・一話から最新話まで、文体や描写の推敲
などとなります。
他に訂正した方が良い要素があれば、感想までお願いします。


1.終わりの光景

ーー太陽が堕ちてきた、とでも形容すべきだろうか。

 

天を焼き尽くし、ビル群を呑み込み、終いには大地さえ熔解させる。

さながら『星が星を喰っている』様な光景を、彼はただ見ている事しか出来なかった。

 

「……また、か」

 

ーー熱い、熱い、熱い

 

巨大な瓦礫がハウスダストみたくパラパラと舞い、人々の命を刈り取っていく。

彼もその例に漏れず、熱さを感じた次の瞬間、目の前に灰色のアスファルトが広がった。

 

ばちゃり、と。

 

命の弾ける音が近くで聞こえる。

 

彼の意識は、闇に包まれた。

 

■□■

 

世界、述べ一億人が犠牲となった同時多発隕石災害。

その日を境、世界各国に『ドミネーター』と呼ばれる怪物達が降り立った。

 

奴らは互いに殺しあい、その遺骸を喰らう。

そしてその“ドミネーター“は強化されるのだ

そして最後まで生き残った制圧者及び制圧地帯が、この星の覇権を握る、と。

 

アメリカのワシントンDCには、“空を覆う赤色の大樹“が。

中国の北京には、“液体状の炎“が。

イギリスのロンドンには、“災禍の星“が。

韓国のソウルには、“抉る幽霊“が

ロシアのモスクワには“荒ぶる剣神“が

 

……そして、日本にはーー

 

(どうしてこうなった……!?)

 

ーー何かの間違いで『ドミネーター』の仲間入りをしてしまったこの俺。“無貌の騎士“が、君臨している。

 

■Before

 

「ッ、ァ……?」

 

目を開くと、何故か若干狭くなった視界に光が流れ込んでくる。

上体を起こし辺りを見回すと、正に阿鼻叫喚という有り様で、人々の悲鳴と慟哭が崩れた文明の中で響き渡っていた。

……何が、起こったんだ?

 

「た、す、けて……っ!」

 

俺が頭を抱えていると、どこからか助けを求める声が聞こえた。

かなり切羽詰まっている声色だ。

……助けに行った方が、良いよな。

 

試しに手をグーパーしてみると、力はちゃんと入る。むしろ入りすぎるぐらい。

足に力を込めると、ちゃんと立ち上がれた。

目線がかなり高い気がするが、多分混乱してるだけだろう。

 

悲鳴の主は、意外とすぐに見つかった。

女の子が、倒壊したコンクリートの下敷きになっていたのだ。

顔から血の気が引くのを感じる。早く助けなければ。

俺はそこに駆け寄り、瓦礫に手を掛ける。

そしてーー

 

「ぐぉぉぉ!」

 

ーー彼女を安心させるために『大丈夫ですか!?』と言おうとしたら、獣みたいな呻き声が出た。

 

「きゃぁぁぁっ!?」

 

瓦礫の下にいる女の子が、俺を見て悲鳴をあげる。

まるでジャミラに苦戦していたらゼットンが来た。みたいな顔をしている。

とにかく絶望がより深くなったのは間違いない。

な、なんでだ!?俺ってそんなにグロメンなの!?

マジで傷付くんですけど!死にかけてるんだから、普通どんな奴が来ても喜ぶよね!?

 

「な、何ですか貴方!コスプレイヤーか何かですか!?」

「ぐおっ!(違うよ!)」

「日本語しゃべって下さいよぉぉぉ!」

 

現在進行形で瓦礫に潰されてるのに元気だなこの子。

と言うか、なんで喋れないんだ俺。

どれだけ頑張っても『ぐお!』とかしか出ない。

国語の成績は低かったが、言語能力はマトモだった筈だ。少なくともさっきまでは。

 

「た、助けてくれるんですか?」

 

瓦礫に手を掛けた俺を見てか、恐る恐る、という感じで少女は言った。

ああそうだ。早く助けなきゃ。

……と言っても、これ撤去できるのか……?

一人の人間の動かせるサイズじゃないだろ……

そう思いながらも、瓦礫を握る指に力を籠める。

 

「ぐおっ!?」

 

ーーすると、パキ、と音を立てて、握っていた場所が俺の指の形に抉れた。

まるで、千切られたみたいに。

なんだ……?ここだけ脆くなってたのか?

 

「あの、無理なんですよね!?できれば私のお墓は海の見える丘の上に……うわぁぁぁん!やっぱり死にたくないよぉぉぉ!」

 

死に対する恐怖で頭がおかしくなったのか、少女が叫び出す。

こ、こうなったらヤケクソだ!全力で押してみて駄目だったら大人しく他の人を連れてこよう!

そう決意し、俺は助走を付けて瓦礫に突進した。

 

「ひゃぁぁぁっ!?」

 

ーー瞬間、耳元で何かの砕け散る音が聞こえた。

何事かと思い後ろを見ると、そこには驚く先程の少女と、バラバラになった瓦礫の残骸が散乱している。

 

「……ぐぉ?(……へ?)」

 

俺のタックルで、コンクリートブロックが砕けた?

……いやいやいや!?どうなってんだよ!?

思わず頭を抱えていると、後ろから男の声が聞こえる。

 

「ちょっと君。そんな格好で何してるの?」

「ぐおお……?」

 

ーー振り向くと、自衛隊らしき迷彩柄の男が訝し気な目で俺を見ていた。

……あっ、そっか……そりゃ災害なんだから、救助とかに来るよね。

自衛隊ってほんとに有能だな。こんな早くに来てくれるなんて。

俺も助けてもらおう!

 

「ぐぉ、ぐおぉ、ぐおっ!(なんか、目が覚めたら喋れなくて困ってたんですよ!いやー!良かった!自衛隊さんが来てくれたなら安心ですよ!ほんと!)」

「とりあえず。手錠させてもらうよ。」

 

カチャリ、と。

手首に銀色のワッパが嵌められた。

へー、手錠、手錠ね……はいはい……

 

「ぐぉっ!?(ヘアッ!?)」

「お兄さん多分、クスリとかやってるよね?それにそんな……騎士みたいな格好、どう見てもヤバイ人だよ」

 

き、し……?あの、『騎士』か?

誰が、俺が?

 

「あ、あのっ!待ってください!その人は私を助けてくれたんです!変な格好ですけど、多分、きっと、恐らく、悪い人じゃないです!」

 

人生初めての手錠に俺が唖然としていると、先程の少女が自衛隊へ向かってそう叫んだ。

いや、『多分きっと恐らく』の三段活用って……そんなに自信無いの……?

 

「じゃあ、輸送車に行こうか」

「ぐぉ……(ハイ……)」

 

自衛隊の人に引っ張られ、俺は近くに停めてある車の方に歩いていく。

……はあ。どうなるんだろ俺……状況が全く分かんないし。

そもそも俺が騎士ってどう言う事だ?

輸送車のドアが開き、俺は車内に無理やり入れられた。

 

「あれ、先輩どうしたんですか……ってなんですかその人!?」

「ああ。なんか、不審者っぽい。手錠はしてあるから、お前が見張っといてくれ。」

「ちょっ、せんぱっ……ああもう!いっつもあの人面倒ごとばっかり押し付けるんだから……それに何の権限も無く手錠はマズイですよ!?」

 

俺を車に押し込んだ自衛官は、そそくさとどこかへ行ってしまった。

車内に残されたのは、俺ともう一人の自衛官のみ。

場を、静寂が支配した。

 

「……あのー。先輩がすいません。なんかしちゃったんですか? それにその服装?カッコいいですね!」

 

気まずさに耐えかねたのか、自衛官が振り向いて俺に話題を振ってきた。

黒髪青目の幼げな女性で、外国人とのハーフなのかもしれない。色白で結構可愛い。

……いや、それは良いとして。仮にも自衛官が不審者と世間話しようとすんなよ。

そもそも俺、なぜか今喋れないし。

……紙とかあれば、意思疏通はできるのかな……

 

「ぐお、ぐおぉ(紙と、ペンって無いですか?)」

 

俺は身ぶり手振りで、『紙』と『ペン』をジェスチャーしてみる。

 

「えっ……食パンと、ウィンナーですか?そう言えば今日お昼ご飯食べてないな……」

 

違う違う!なんで食い物と結び付けんだよ!

 

「ぐおぉぉ……」

「あ、すいません電話来たので後にして貰っても良いですか?」

 

女自衛官は、携帯を耳に当て、その向こう側にいる誰かと会話を始めてしまった。

あぁ……ほんとにどうしよう……

 

「……え?ドイツが消滅?怪物によって?あははは!え、ちょっと、冗談きついですよー!あははは…………え、マジですか?……なんですかドミネーターって。」

 

なんか前の方から凄い会話が聞こえてきている気がするが、今はそんな場合じゃない。

これから自分がどうなるかを考えなければ。

 

「現場に変な怪物みたいなの居なかったかって? 私の後ろに、騎士っぽい鎧着た変な人居ますけど……捕まえちゃいましたよ。……へ? それが、日本のドミネーターだって? うぇ、ちよっ、切らないでっ!」

 

ブツリ、と音を鳴らした携帯を座席に置き、女自衛官が、ギギギと効果音が付きそうなぐらいの速度でこちらに振り向いた。

物凄い形相で、冷や汗をダラダラかいている。

 

「ぐぉ?」

「あ、ぁ、あの。ぅあ、っ、えぇ、と、てててて、てじょー、はずしししししっ!」

「ぐぉぉ!?」

 

テンパり過ぎて、女自衛官は舌が回らなくなってしまった。

小刻みに振動しながら、『てててててっ』と言っている

ど、どうしたんだ!?怖いぞ!?

 

「ぐおっ!(深呼吸、深呼吸!)」

「ぇ、あっ、あ、ありがとう、ございます?」

 

肩に手を乗せてあげると、少し落ち着いたのか振動は止まった。

よ、良かった。人間が高速でバイブレーションする光景は、中々ショッキングなものがあったからな。

 

「あ、あの。私の事、殺すんですか?」

「ぐお!?(は!?)」

 

いやいやいやいや!殺すってなに!?俺、虫さえ潰さずに窓から逃がす派の人だよ!?

つか誰を殺すの!?この人を!?なんで!?

 

「ぐおおん!(殺さないからね!?)」

「あっ……殺さないんですね。なんとなく何言ってるか分かるようになってきました……」

 

ほっとしたのか、『はぁぁぁ……!』と溜め息をついて女自衛官はへにゃへにゃと座席からずり落ちた。

俺が大丈夫かと聞こうとすると、窓が外からドンドン叩かれる。

窓ガラスの向こうには、若い男がいた。

 

「無事か!?結城二士!」

 

何事かと思いながらも、俺は窓を開ける。

 

「ぐぉぉ!?(なんですか!?)」

「うわぁぁぁ!化物ぉぉぉ!」

「ぐぉっ!?(なんでさ!?)」

 

俺の顔を見た自衛隊員は、泡を吹いて倒れてしまう。

車の周りはかなりの数の自衛隊員が包囲しており、臨戦態勢、という感じだった。

 

「ぐぉぉ……(俺が何をしたって言うんだよ……)」

 

ーー誰か助けてくれ。いやマジで。


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