貌無し騎士は日本を守りたい!   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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10.簒奪の情景

「うわぁぁぁん!ドミネーターさぁぁぁん!」

「ぐぉぉぉ!?(うるせぇぇぇ!?)」

 

人形が去ってから一日後、俺が部屋の隅でボーッとしていると、収容施設のドアが開きそこから半泣きのアセビが出てきた。

様々な液体で顔をぐちゃぐちゃにしており、明らかに年頃の女がしていい顔ではない。芸人でもここまでやれるのは中々いないだろう。才能あるぞコイツ。

 

「大変なんです!妹ちゃんの肩に……たっ、たとぅーがあったんですよ!」

「ぐおっ!(知らねぇよ!)」

 

いや、本当に関係無いじゃん俺。

そもそもなんでこんな怪物に妹の素行不良の相談しに来るんだよ。

友達いないのかコイツ。

 

「しっ、しかも!そのたとぅー、物凄いカッコ悪いんですよ!?具体的には、騎士の横顔みたいな模様で……あれ?」

「ぐぉ?」

 

アセビは俺の顔を二度見し、その後に五度見ぐらいした。

そしてなぜかワナワナと肩を震わせている。

 

「妹に何をしたんですかぁぁぁっ!」

「ぐぉぉぉ!?」

 

泣きながら掴み掛かってくるアセビを抑えつける。

どうしたんだよこいつ!?様するに、妹の刺青が俺に似てるから八つ当たりしてんのか?理不尽すぎるだろ!

 

「……何してるんだ。お前ら。」

「ぐおっ!(山吹ィ!)」

 

もはや恒例の流れの如く、山吹が呆れた顔でドアから入ってきた。

さすが山吹だ!いっつもタイミング良いな!

 

「今……日本は、かなり大変な事になってる。」

 

徹夜でもしたのか、目の下に濃い隈が出来た山吹が床に座り込みながらそう言った。

……そうだよな。幾つも国が消えてるんだから、世界情勢とかもぐちゃぐちゃになっている事だろう。

日本は資源の大半を輸入に頼っている筈だから、国内の惨状は易々と想像できる。

 

「……ドミネーター。お前の取り込んだ他のドミネーターの核は、アルジェリアとイランの物だ。それは良いな?」

「……ぐおっ。(……そうだ。)」

 

……俺が、滅ぼした国だ。

きっと、何千万人も死んだんだろう。

 

「そして、お前は知らないと思うが、アルジェリアとイランは化石燃料……石油などの資源が非常に豊富な国土なんだ。対して日本からはほとんど石油が発掘されない。これも良いな?」

 

な、なんだ?話が見えないぞ。

消えてしまった国の資源を惜しんだって、何もーー

 

「……今、日本中から石油が吹き出してるんだ。」

「ぐお?(え?)」

「……俺も信じられない。だが事実だ。」

 

それって、要するにーー

 

「ドミネーターが核を喰らうと、喰らわれた国の資源や物質などが喰らった側の国に移譲される。と見て間違い無いだろう。……さながら『制圧地帯の強化』とでも言うべきかもしれない。」

 

山吹は『外はこの話題で持ちきりだ』と言った後、大きく溜め息を着く。

そして俯きながら、更に続ける。

 

「……お前の事を、“護国豊穣の神“なんて崇めてる連中も少なくないよ。国民も、『ノンシェイプ・ナイトの情報を公開しろ。我々には知る権利がある』って騒いでる。」

 

ーー狂ってる、と思った。

俺は既に二国を消してる災禍の化身みたいな存在なんだぞ。

自分達の国が護られてるとは言え、そんな存在を神とするなんてイカれている。

 

「皮肉なことに、隕石が降る前よりも経済的な面で日本と世界はかなり豊かになった。……しかも、この未曾有の危機を前にして人類はかつて無い程に団結している。国際紛争もほとんど無くなったそうだ。アメリカなんかは、自国のドミネーターとの共存を方針として打ち出した。」

 

下を向く山吹の表情を伺い知る事は出来なかったが、少なくともその声からは葛藤に似た感情が滲んでいた。

 

「……今、ドミネーターは四分の三まで数を減らしたそうだ。残ったのは比較的に“防衛思考“の者が多いようで、争いは以前より穏やかになるだろうな。」

 

その言葉に、俺は少しだけ安心した。

流石に昨日までのペースで侵略に来られるとキツイ物がある。

黒龍の時は負けてもおかしくなかったし。気が気ではない。

 

「……ドミネーターさん。」

 

ずっと黙っていたアセビが、静かにそう言った。

俺が振り向くと、いつに無く真剣な表情をしている。

 

「あなたが、どんな気持ちで戦ってくれているのかは、分かりません、けど。」

 

言葉を選んでいるのか、途切れ途切れにアセビが声を紡ぐ。

青い瞳が、不安定に揺れていた。

 

「ーー私達を助けてくれて、ありがとうございますね。」

 

少し迷った後、にへらと笑いながら恥ずかしそうな顔で言われた。

 

「……ぐ、お。」

 

ーー酷く自分勝手で、抜本的には何も解決していないのだろうが。

……俺はその言葉に、少しだけ救われた。

 

 


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