貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
「……知っていたさ。こうなる事は」
南スーダン。荒れ果てた荒野の中心で、魔王は立ち尽くしていた。
その体は痩せさばらえており、彼を慕う国民は最早一人も居ない。
全員が既に死んでいた。……否、『元に戻った』と言うべきか。
「もっと、力が要る……ドミネーターの核を喰らわねば、国民を維持できない……」
地に槍を突き立て、魔王は座り込む。
彼の持つ力ーーいや、槍の力は『概念の破壊』。
それにより彼は国民の"命"を破壊した。
"命"を持つ限り、餓えや恐怖からは逃れられないからである。
『最果ての魔王』は、命が消え失せ抜け殻となった肉体を眷族に変え、偽りの生を与えていたに過ぎない。
それさえ、力の枯渇により不可能になったが。
……南スーダンの人口は、一千万人。
彼は、その全員に自らの加護を与えていたのだ。
負担は尋常ではない。なにせ国一つ分の命を維持するのだから。
そのような神の如き所業、一個のドミネーターに過ぎぬ魔王では到底不可能だった。
「私は、必ず君たちを……」
横たえる子供の頬を撫でながら、うわ言のように魔王は呟く。
先日まで生きているように見えた南スーダンの民は、全て死体。
動いて、笑って、幸せで、感情がある、死体。
……今はただ腐りゆくだけの、魔王にとって大切な大切な家族。
それは、今の自分では絶対に取り戻せない存在。
そう。現在の、"八つしかドミネーターの核を喰らっていない"自分では、到底救えない存在。
「……ノンシェイプ・ナイト」
魔王はぼそりと、とある制圧者の名前を呟いた。
それは、言葉を解する稀有なドミネーターの名。
自分が唯一、おおよそ全ての能力を把握している、ドミネーター。
「……すまない。友よ」
ーー誰も殺したくはない。
ーー誰も失いたくはない。
ーー誰も悲しませたくはない。
……だが。
「私は、君を……!」
ーー彼なら、狩れる。
魔王はそう確信していた。
ノンシェイプ・ナイトと自分の能力は極めて相性が良いのだ。
正面からなら恐らく完封、悪くても腕の一本や二本で済む。と。
「ーー全ての力を以て、君を殺す」
ノンシェイプ・ナイトは強力だ。
あの核を喰らえば、きっと国民を救える。
そして日本は滅びて一億人以上が、死ぬ。
十の他人を殺し一の家族を生かす。魔王はそれを選んだ。
……時間が、無い。
死体が腐れば、加護を与えたところでまともな思考能力は持てないのだ。
そうなってしまえば、魔王の家族は本当の意味で『ただの死体』に成り果ててしまうのだ。
「……騎士と魔王の決闘、といこうかな」
魔王が虚空へ槍を薙げば、そこの空間が『裂けた。』
空間の狭間、その中に魔王は消えた。