貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
作者は例年通りクリボッチでしたよ!ははは!良かったら読んでください!(ヤケクソ)
「■■■! ■■■■■!?」
騒がしい声で目を覚ます。
薄目を開けると、金髪碧眼の白人らしき顔の女性が俺へ呼び掛けていた。その上には漂白された天井がある。やけにふかふかな地面を不思議に思いまさぐると、どうやら自分はベットに寝かされているのだと分かった。腕が、包帯によって固定されている。
そしてはっとするように、先程の記憶を思い出す。
ーーーそうだ、おれは、なぐられて、けられて。こわいかおで、おもいきり、たたかれて。
「がぁあぁぁっ!」
「■■■■!」
怖い、怖い怖い怖い!
殺される恐怖が、人に裏切られる絶望が。心の底から涙の形で沸き出してくる。
感情が抑えきれない。この体に引っ張られているのか、心が痛みにも恐怖にも弱くなっているのだろうか。前までは腕をもがれたって平気だったのに。
今は他人の機嫌を損ねるのがただ怖い。それによって振るわれる暴力は、もっと怖い。
「■■■■■■■……」
がちゃりとドアが開き、そこからのっそりと一人の男が入ってきた。
ノンシェイプナイト状態の俺と同じか、それ以上の身長。軽く二メートルはある。
毛むくじゃらの山賊みたいな顔で、眉を微塵も動かさずに俺のベットへ近付いてきた。
そして、丸太のような腕を俺に伸ばしてくる。
「がぅぅ……」
殴られる、と思ってベッドの端へ逃げた。
山賊みたいな男は震える俺を見て、一瞬フリーズしたあとに顔をしかめる。
き、機嫌を損ねたか……?
「■■■■……」
山賊の男は、肩に掛けていたバッグの中から何枚かのプレートを取り出して見せてくる。
それぞれには、こう書かれていた。
【你好】
【hello】
【こんにちは】
【안녕하세요】
俺はポカンとする。
男の顔を見返すと、プレートを差し出した姿勢のままじっと俺を見ていた。
……選べ、って事か?
「……がぁっ」
恐る恐る、古びた【こんにちは】のプレートを指差す。
男は、目を見開いた。
「……日本人か、お前」
「ぐおっ!?」
男の口から出てきたのは、流暢な日本語だった。
『日本人か』という質問は微妙な所だが、嬉しくなって首を縦にぶんぶん振る。
「があっ!、がぁあ!」
「口が聞けないのか? この大陸に……この
男の問いに答えあぐねて、首をかしげる。
れぎおん……? なんの事だ……? そもそもここはどこなんだ?
「……ここがどこかも、分からないのか?」
こくんと、頷く。
「なら、教えてやる……」
胸ポケットからしなしなの煙草を取り出しながら、男は口を開いた。
「ここはアメリカ大陸だ。『
◆
男が言うには、ここはドミネーターによって変貌したアメリカ大陸であり、俺がいるのはノースカロライナ州……レギオンオブ・カロライナ。らしい。
大陸は民族ごとに分断され、全部で13の
そして全州に一体ずつ、ドミネーターが存在しているとも。
ここはそんな中のカロライナにある村の一つ。
だがそんな村々でさえドミネーターの眷族によって、全て支配されている。
あと俺の体についてだが、右腕が折れていた。
内蔵も傷付いているらしく安静にしていろと言われた。頭も痛い。全身痣だらけだ。
俺をボコボコにした二人は日本語を話せる男に引きずられて、泣きながら『ゴメンナサイ』と謝ってきた。俺と同じぐらいボコボコにされていた。
少し申し訳なく感じた、
「……悪いな。アイツらは自分たちと違う人種を見た事が無いんだ。お前さんの黒髪を見て怪物だと思ったらしい。しかも裸で血まみれだっただろう」
怪物……間違っちゃいないな。今はただの人間だけど。
でも確かに裸で血だらけの少女が笑顔で近付いてきたら怖い。端から見れば妖怪にしか見えない。仕方ない部分もあるかもしれない。
それに、ここにいる人はみんな白人らしき容姿をしている。
俺がアセビと同じ青目……ハーフ的な要素を持つとはいえ、ベースは日本人だ。ここの人達から見れば完全なる異端なんだろう。
「……お前は、アイツらを許せるか?」
熊みたいな顔を少し不安そうにしながら、男は問いかけてくる。
……怖いし、痛かったけど。謝ってくれたからあまり怒りは沸いてこない。
それに俺は、あいつらより遥かに多くの罪無き人間を殺した最悪な
誰かに多少傷付けられたとして、糾弾する権利など無い。
「がぁっ!」
「……そうか。優しいんだな。お前は」
男は、俺の頭に手を伸ばしてくる。
だが触れる寸前で、躊躇うように止まった。
不思議に思って顔を見返すと、恥ずかしそうに『いや、良いんだ』と言った。
……この動き、さっきもしてたな。今現在の俺の姿からして、こいつのやりたい事は分かる。
「ぐおっ」
「っ……!?」
男の手を取り、自分の頭に乗せた。
目線で『撫でさせてやろう』と得意気に伝えると、ふっと笑われる。なんでだ。
わしゃわしゃと髪を掻き分けられるのが気持ち良くて、無意識に目が細まるのがわかった。
「……」
「がぅぅ……」
なでなで
「くぅぅ……」
「……」
わしわし
「……!」
「くぁぁぁ……!」
ーーーやばい、落ちそう。どこにかは分からないけど。
記憶にある限り初めて誰かに撫でられたが、これはまずい。とろとろになりそう。
体が少女になっている事も影響しているのか。本能的に誰かの好意的行動を心地よく感じるようになっているのかもしれない。
そして今やっと気が付いたが、俺は服を着ていた。体表の血も全て拭き取られている。
不思議に思って体を見ていると、男が言った。
「お前が寝ている間に、服を着せて全身の血を拭いておいた」
「があっ!?」
……え、こいつが拭いたの?
嘘だろ……こんなツラしてロリコンなのか。
自分の体を抱き締めながら、軽蔑する目線をぶつける。
「がぅぅ……!(最低だ……!)」
「……いや、違うからな。俺はここに連れてきただけで、拭いたのは別の奴だ。体もほとんど見てない。だからそんな目で見るな」
弁明するように男は自分の無罪を訴えてくる。
でも見た事に変わりは……ってあれ。なんで恥ずかしがってるんだ俺。体が女になっただけで心は男だろ。
もっと言えば人間でさえないだろ。なんか急に馬鹿らしくなってきた。
「……がぅ(……和解しよう)」
「あ、ああ……?」
困惑する男と握手しながら、俺はため息を吐いた。
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『失墜せし黒龍』編
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『天使の聖骸布』編
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『アザレア』編
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現在の日本