貌無し騎士は日本を守りたい! 作:幕霧 映(マクギリス・バエル)
あるめりあ、アルメリア。
がらんどうの空洞を反響するみたいに、頭がその言葉で満たされる。
……俺の、名前。
護国の怪物『ノンシェイプ・ナイト』じゃなく。
力を持たない一人の人間としての『自分』の名前。
「……どうだ?」
不安そうな顔で男が何かを言っているけど、よく耳に入ってこなかった。
……ただ、自分という"人間"はここに居ても良いのだと。
国を守れる力なんて無くても、……ドミネーターじゃなくても。
『お前はもう戦わなくて良いんだ』って言われた気がして。
……おれ、はーー
「っ、おい!? 気に入らないんなら別ので良いから! 泣くな!」
「が、ぅっ、ぅあ……!」
ーー泣いてしまうぐらい、安心した。
涙を流す俺を心配してくる男に対して、何度も首を横に振る。気に入らない筈なんて無い。それじゃなきゃ、アルメリアじゃなきゃ嫌だ。
自分のずっと望んでいた物が、やっと分かった。
力なんて欲しくはない。
……誰かから、一人の人間として
「がぁっ……!」
「ぉお……っ!?」
嬉しくて、男の腕に抱きつく。
自分の胴より太いであろうそれに顔を
「俺の事は……まぁ、タイサって呼んでくれ」
そう名乗りつつ、男……タイサは、煙草に火を着けた。
そして『やれやれだ』とでも言いたげに煙を吐く。
「……けほっ」
「すまん
すぐ、揉み消してくれた。
◆
「その子の名前、決まったの?」
「……まぁな」
それからしばらくして、クッキーの入った籠を持った金髪の女が家に来た。手当てして貰った時に居た人だ。
タイサを見ると、その女を指差しながら『カーラだ。お前を助けてくれた』と言った。
笑顔で手を振ってきたので、ぺこりと頭を下げる。
「……がぅ(……ありがとう)」
「全然いいのよ! 全部あいつらが悪いんだから! こんなかわいい子をいじめるなんて信じられないわ!」
相変わらず言葉は分からないが、カーラの友好的な様子に安心する。きっと、良い人なのだろう。
頬っぺたをむにむにされて、なんだか変な気分だった。
どことなく、テンションが高い時のアセビに近い感じがする。
「で、この子の名前は?」
「……ぁあ」
「なんで言わないの? 焦れったい男は嫌われるわよー!」
「あぁ……言うから。少し待ってくれ」
そしてなぜか、さっきからタイサが居心地悪そうにしている。
二人の会話は言語的な意味で蚊帳の外だから、どうしてなのかは分からないけど。
タイサは少し深呼吸した後、決心したように口を開いた。
「……こいつの名前は、アルメリアだ」
「……え?」
「がぅっ?」
会話に『アルメリア』という単語が混じっていた気がして、タイサの顔を見る。しかし目を合わせてくれない。
カーラを見返しても、深刻な顔のまま硬直している。
「ちょっと、アルメリアって……」
しばし沈黙の後、ぼそぼそと消え入りそうな声でカーラが何かを言った。
「アルメリアって、あなたの……」
「言うな!」
「がぅぁっ!?」
机を叩きながら、勢いよくタイサは立ち上がる。机上に置かれたコップが揺れ、アルコールが撒き散らされた。
それに驚いてビクッとしていたら、『……頭を冷やしてくる』と言ってタイサが外に出ていってしまった。
こ、こいつ、タイサに何言ったんだ……!?
「……そんな、どうして……」
哀れむような目で、カーラは俺を見る。
「えぇと、アルメリア、ちゃん?」
「ぐぉっ?」
アルメリアとだけ聞き取れて、カーラの目を見る。
「……タイサね、ああ見えて本当はとっても弱い人なのよ」
優しい声で、語りかけてくる。
「……だから、あなたは。居なくならないであげてね?」
懇願するように、蚊が泣くみたいな声でカーラは何かを言った。
穏やかだが、それでいて悲しい目をしている。
俺がとりあえず頷くと、パッと笑顔になった。
「……よかったわ。じゃあ、こんな話は終わりにして一緒にパイでも焼きましょうか!」
「ぐ、ぐおっ?」
手を引かれ、キッチンの方に連れていかれる。
カーラはにこにこしながら棚の中を漁っていた。
……え、勝手に使って良いの?
不安になって中を覗くと、酒瓶と燻製肉しか入ってなかった。
タイサ……どんだけ不健康な食生活してんだよ……?
「酷い食料庫ね。それにまたお酒ばっかり飲んで……これからは、あなたが止めてあげるのよ? 」
酒瓶を指差してバツ印を作るカーラを見て『タイサに酒を飲ませるな』と言われていると分かった。
胸をどんと叩いて元気よく返事する。
「がうっ!(任せろ!)」
「……あぁ! やっぱり可愛いわっ!」
「ぅがっ!?」
がばっと抱き付かれながら、頬をむにむにされる。
……自分で言うのもあれだけど、なんか俺の頬っぺた餅みたいに伸びるな。
触ってて気持ち良いのかもしれない。
コピー元のアセビもこんな感じなんだろうか。
「さっきは怒鳴って悪かった……って。ずいぶん仲良くなったな」
ドアが開き、冷たい外気と共にタイサが部屋へ戻ってきた。
そしてどかっと机の前に座り、迷わず酒瓶へ手を伸ばそうとーー
「がぅっ!(駄目!)」
「なん、だと……!?」
「そもそも、あなた二年前に肝臓悪くしてるでしょ」
俺とカーラに阻止され、タイサは恨めしそうに唸りながら、酒から手を引っ込めた。
「この子のためにもお酒は辞めなさい! 良いわね?」
「……カーラ。人間は、水を飲まなきゃ死ぬよな」
「当たり前じゃない」
「そして、俺はアル中だ」
「当たり前じゃない」
「つまりそういう事だ」
「いやいやいや」
まるで論破したかの如く、ドヤ顔で酒を飲もうとするタイサを
二人でもう一度止める。
「がぅ……!」
「アルメリア……俺にとって酒は水で煙草は酸素なんだ! 辞めたら死ぬぞ! 肝臓なんて知ったことじゃない!」
「がぁっ!(そんな人間は医学的に存在しねぇよ!)」
「ぬぅ……」
まずい……俺の中のタイサへのイメージがどんどん下がっていく。
今のところ、アルコール中毒でニコチン中毒で肝臓が悪いおじさんだぞ。
……あれ、もしかしてこいつ、ただの駄目人間なんじゃ。
それに呆れる以前に、普通に心配だった。
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『失墜せし黒龍』編
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『天使の聖骸布』編
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『アザレア』編
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