貌無し騎士は日本を守りたい!   作:幕霧 映(マクギリス・バエル)

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27.断てない鎖

あるめりあ、アルメリア。

がらんどうの空洞を反響するみたいに、頭がその言葉で満たされる。

……俺の、名前。

護国の怪物『ノンシェイプ・ナイト』じゃなく。

力を持たない一人の人間としての『自分』の名前。

 

「……どうだ?」

 

不安そうな顔で男が何かを言っているけど、よく耳に入ってこなかった。

……ただ、自分という"人間"はここに居ても良いのだと。

国を守れる力なんて無くても、……ドミネーターじゃなくても。

『お前はもう戦わなくて良いんだ』って言われた気がして。

……おれ、はーー

 

「っ、おい!? 気に入らないんなら別ので良いから! 泣くな!」

「が、ぅっ、ぅあ……!」

 

ーー泣いてしまうぐらい、安心した。

涙を流す俺を心配してくる男に対して、何度も首を横に振る。気に入らない筈なんて無い。それじゃなきゃ、アルメリアじゃなきゃ嫌だ。

自分のずっと望んでいた物が、やっと分かった。

力なんて欲しくはない。

……誰かから、一人の人間として名前(あい)を与えられたかったんだ。

 

「がぁっ……!」

「ぉお……っ!?」

 

嬉しくて、男の腕に抱きつく。

自分の胴より太いであろうそれに顔を(うず)めていると、言い表せない安心感があった。

 

「俺の事は……まぁ、タイサって呼んでくれ」

そう名乗りつつ、男……タイサは、煙草に火を着けた。

そして『やれやれだ』とでも言いたげに煙を吐く。

 

「……けほっ」

「すまん(けむ)かったか!?」

 

すぐ、揉み消してくれた。

 

 

「その子の名前、決まったの?」

「……まぁな」

 

それからしばらくして、クッキーの入った籠を持った金髪の女が家に来た。手当てして貰った時に居た人だ。

タイサを見ると、その女を指差しながら『カーラだ。お前を助けてくれた』と言った。

笑顔で手を振ってきたので、ぺこりと頭を下げる。

 

「……がぅ(……ありがとう)」

「全然いいのよ! 全部あいつらが悪いんだから! こんなかわいい子をいじめるなんて信じられないわ!」

 

相変わらず言葉は分からないが、カーラの友好的な様子に安心する。きっと、良い人なのだろう。

頬っぺたをむにむにされて、なんだか変な気分だった。

どことなく、テンションが高い時のアセビに近い感じがする。

 

「で、この子の名前は?」

「……ぁあ」

「なんで言わないの? 焦れったい男は嫌われるわよー!」

「あぁ……言うから。少し待ってくれ」

 

そしてなぜか、さっきからタイサが居心地悪そうにしている。

二人の会話は言語的な意味で蚊帳の外だから、どうしてなのかは分からないけど。

タイサは少し深呼吸した後、決心したように口を開いた。

 

「……こいつの名前は、アルメリアだ」

「……え?」

「がぅっ?」

 

会話に『アルメリア』という単語が混じっていた気がして、タイサの顔を見る。しかし目を合わせてくれない。

カーラを見返しても、深刻な顔のまま硬直している。

 

「ちょっと、アルメリアって……」

 

しばし沈黙の後、ぼそぼそと消え入りそうな声でカーラが何かを言った。

 

「アルメリアって、あなたの……」

「言うな!」

「がぅぁっ!?」

 

机を叩きながら、勢いよくタイサは立ち上がる。机上に置かれたコップが揺れ、アルコールが撒き散らされた。

それに驚いてビクッとしていたら、『……頭を冷やしてくる』と言ってタイサが外に出ていってしまった。

こ、こいつ、タイサに何言ったんだ……!?

 

「……そんな、どうして……」

 

哀れむような目で、カーラは俺を見る。

 

「えぇと、アルメリア、ちゃん?」

「ぐぉっ?」

 

アルメリアとだけ聞き取れて、カーラの目を見る。

 

「……タイサね、ああ見えて本当はとっても弱い人なのよ」

 

優しい声で、語りかけてくる。

 

「……だから、あなたは。居なくならないであげてね?」

 

懇願するように、蚊が泣くみたいな声でカーラは何かを言った。

穏やかだが、それでいて悲しい目をしている。

俺がとりあえず頷くと、パッと笑顔になった。

 

「……よかったわ。じゃあ、こんな話は終わりにして一緒にパイでも焼きましょうか!」

「ぐ、ぐおっ?」

 

手を引かれ、キッチンの方に連れていかれる。

カーラはにこにこしながら棚の中を漁っていた。

……え、勝手に使って良いの?

不安になって中を覗くと、酒瓶と燻製肉しか入ってなかった。

タイサ……どんだけ不健康な食生活してんだよ……?

 

「酷い食料庫ね。それにまたお酒ばっかり飲んで……これからは、あなたが止めてあげるのよ? 」

 

酒瓶を指差してバツ印を作るカーラを見て『タイサに酒を飲ませるな』と言われていると分かった。

胸をどんと叩いて元気よく返事する。

 

「がうっ!(任せろ!)」

「……あぁ! やっぱり可愛いわっ!」

「ぅがっ!?」

 

がばっと抱き付かれながら、頬をむにむにされる。

……自分で言うのもあれだけど、なんか俺の頬っぺた餅みたいに伸びるな。

触ってて気持ち良いのかもしれない。

コピー元のアセビもこんな感じなんだろうか。

 

「さっきは怒鳴って悪かった……って。ずいぶん仲良くなったな」

 

ドアが開き、冷たい外気と共にタイサが部屋へ戻ってきた。

そしてどかっと机の前に座り、迷わず酒瓶へ手を伸ばそうとーー

 

「がぅっ!(駄目!)」

「なん、だと……!?」

「そもそも、あなた二年前に肝臓悪くしてるでしょ」

 

俺とカーラに阻止され、タイサは恨めしそうに唸りながら、酒から手を引っ込めた。

 

「この子のためにもお酒は辞めなさい! 良いわね?」

「……カーラ。人間は、水を飲まなきゃ死ぬよな」

「当たり前じゃない」

「そして、俺はアル中だ」

「当たり前じゃない」

「つまりそういう事だ」

「いやいやいや」

 

まるで論破したかの如く、ドヤ顔で酒を飲もうとするタイサを

二人でもう一度止める。

 

「がぅ……!」

「アルメリア……俺にとって酒は水で煙草は酸素なんだ! 辞めたら死ぬぞ! 肝臓なんて知ったことじゃない!」

「がぁっ!(そんな人間は医学的に存在しねぇよ!)」

「ぬぅ……」

 

まずい……俺の中のタイサへのイメージがどんどん下がっていく。

今のところ、アルコール中毒でニコチン中毒で肝臓が悪いおじさんだぞ。

……あれ、もしかしてこいつ、ただの駄目人間なんじゃ。

それに呆れる以前に、普通に心配だった。

 

 

今後、スピンオフとして見たいエピソードありますか?

  • 『失墜せし黒龍』編
  • 『天使の聖骸布』編
  • 『アザレア』編
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